7年前、家族との山歩きの途中で偶然この土地と出会った。当時は自分たちの家を建てる計画などなく、漠然とここに大きなデッキがあると気持ちよいだろうなと思って見ていた。数年後、縁あってこの土地で自邸を建てることとなり、当時の想いそのままに大きなデッキをつくり、そこに生活を寄り添わせていくことを考えた。セットバックが厳しく高低差のある変形敷地に木を避けながら矩形で最も長くデッキを架けるため、また、森に対して最低限の干渉とするため、4本の柱のみ接地する独立基礎を採用した。ヤジロベエのようにバランスの取られたデッキは、半分をテラス、半分を内部化して居間とした。2階の床は「下地床」として、内外共にスリットの入ったデッキ材を用いた。仕上げとして絨毯を敷けば柔らかい床に、フローリングを敷けば硬い床に、手作業で簡単に取り外せば吹抜けにと生活に合わせ柔軟に変化していく。1階はサッシで十字に間仕切り、ふたつの個室、浴室洗面、玄関を同じ床面積とした。さらに1階のサッシは内外共に同じ寸法とし、同じ床面積と開口をもつ空間が合わせ鏡のように展開することで、床面積以上の広がりを感じさせる。また、自邸の設計を通して家族が集まって住むということも改めて考えた。せっかく人生の限れた時間を共有するのだから、家族の気配が日常としてあるような、そんな生活の記憶を残す家をつくりたい。この家に完全な個室はトイレのみである。1階のサッシと梁の間には隙間があり、上下階を隔てるのはデッキ材であるため、家中どこにいても家族の声は聞こえ、姿は見切れ、光を共有している。将来、家としての機能が必要とされなくなった時には、内部化されたデッキは再び外部化され、森に架かるデッキとして原初的な姿に戻るかもしれない。しかし、その際にも単なる展望台となるのではなく、確かにそこに人の生活があった痕跡が残っているだろう。森を受け入れながら大胆に住まう、そんな力強く柔軟な建築を目指した。
撮影:中山 保寛