自邸でホテルのくつろぎを。
緑と水音に包まれるハイデザイン住宅

光と緑に包まれるS邸のLDKは、川のせせらぎも聞こえる爽快な吹抜け空間。設計を担当した森垣知晃さんは、デザイン性の高い店舗や住宅を多数手がける人気の建築家だ。ホテルライクな住空間や独創的な外観から、森垣さんの設計の魅力を探ってみよう。

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まるでホテルのラウンジのよう。
庭と一体化するガラス張りのLDK

兵庫県芦屋市の閑静な住宅街。rivet design officeの森垣知晃さんが設計したS邸は、とにかく外観が印象的な家だ。

道路から見ると建物は大胆な横長で、大きな屋根はアシンメトリーな切妻屋根。

インパクトのある屋根は軒も深く、柱で支えられた軒下は実に広々。堂々たる佇まいだが軒下スペースがぽっかり空いていることで軽やかさも感じられ、一見すると住宅とは思えないオリジナリティにあふれている

施主のSさまご夫妻は国内外の旅行が大好きな方々。自邸の建築でも旅先で自然に触れる気持ちよさや、ホテルの上質な居心地を求めていた。

そのリクエストに沿うように洗練された外観をもつS邸だが、邸内にはどんな空間が広がるのだろうか。

道路側から見るS邸はレッドシダーの外壁と縦格子で閉じられて、中の様子がわからない。好奇心をくすぐられ、大きな軒下に位置する玄関から邸内へ入ると、エントランスホールは意外にもコンパクト。ところが数メートル進むといきなり天井の高い大空間が現れ、そのギャップが新鮮な感動をもたらす。

現れた大空間は、天井の高い吹抜けのLDK。庭側は2フロア分の壁が全てガラス窓になっており、青空と緑の木々が迫るように広がって、とてつもない開放感。窓を開けると川のせせらぎまで聞こえてきて、心洗われる高原リゾートのようだ。

内装も洒落ている。壁は砂を混ぜた塗料で風合いのある質感に仕上げられ、床は通路部分が無垢のナラ材、メインスペースはタイル張り。

居場所となる部分は床暖房に適さない無垢材を避け、タイルを選んだとのことだが、「床がタイルだと“住宅っぽさ”が薄まるんです」と森垣さん。床素材の選定にも、デザイン性の高さに定評がある森垣さんらしい理由があった。

おかげでLDKはおおらかな吹抜けの高級感も相まって、ホテルのラウンジを彷彿とさせる空間に。心癒すせせらぎをBGMに、窓越しの自然を眺めながらのんびり過ごす──。Sさまご夫妻が望んでいた通り、旅先のホテルでくつろぐような時間を楽しめる住まいとなっった。
  • 西の道路から見るS邸。アシンメトリーな切妻屋根が印象的で、住宅とは思えない洗練された佇まい。レッドシダーの外壁の一部には縦格子も。ここには通風用の窓があり、夜になると明かりが漏れて、いちだんと美しい表情を見せる

    西の道路から見るS邸。アシンメトリーな切妻屋根が印象的で、住宅とは思えない洗練された佇まい。レッドシダーの外壁の一部には縦格子も。ここには通風用の窓があり、夜になると明かりが漏れて、いちだんと美しい表情を見せる

  • 玄関のある南側は屋根の軒を大胆に深く取り、駐車スペースとしている。外構は森垣さんがデザインしているが、植えられた木はSさまご夫妻が造園家とともに山で選んできたもの

    玄関のある南側は屋根の軒を大胆に深く取り、駐車スペースとしている。外構は森垣さんがデザインしているが、植えられた木はSさまご夫妻が造園家とともに山で選んできたもの

  • 軒下の玄関。軒天まであるガラスに挟まれた玄関ドアは外壁と同じ素材で、一見するとドアに見えないデザイン

    軒下の玄関。軒天まであるガラスに挟まれた玄関ドアは外壁と同じ素材で、一見するとドアに見えないデザイン

生活のあらゆるシーンで、
ホテルライクな心地よさを満喫

S邸がすごいのは、生活のあらゆるシーンで「ホテルで過ごすような」贅沢感を得られることだ。

ホームパーティーでゲストが訪れることも多いS邸。上方に青空が大きく広がるLDKは、夏はもくもくとした夏雲や蝉の声、冬は柔らかな陽光と薪ストーブの薪がはぜる軽快な音が、親しい人との憩いの時間を彩る。

LDKの奥に配された、洗面・バスルームや寝室もホテルのようだ。バスルームは寝室から直接行ける間取りで、LDKと同様に庭側が全面窓。庭側には人目がないため、屋外の自然を楽しみながら安心して入浴でき、リラックス効果は抜群。一角には、海外のホテルのようなシャワーブースもある。

こうしたホテルライクな空間デザインと、暮らしやすさが両立していることも森垣さんが手がける住宅の特徴だ。S邸では、来客時もゲストが奥の洗面まで行かずにすむよう、LDKの脇にトイレと手洗いを配置。キッチンはLDKの洗面・バスルーム側に配され、家事動線もよい。

2階には、ゲスト用のベッドルームやフリーに使えるアトリエも。吹抜けに面したアトリエにはグランドピアノがあり、1階のLDKからもその姿が見えて空間の素敵なアクセントになっている。

森垣さんはいう。「僕ら建築家に設計を依頼してくださる方の多くは、デザイン性も求めていらっしゃると思います。その思いに応えるためにも、自宅にいながらホテルや旅館でくつろぐような心地よさを生み出したいと考えています」

一生の中で家にいる時間は長い。旅に出ずとも心身ともにリフレッシュできる住まいをつくってくれる森垣さんは、人生を充実させる心強いパートナーといえるだろう。
  • 外観とは対照的に、玄関ホールはコンパクトな造り。さらに進むと大空間のLDKが現れ、ゲストを驚かせる

    外観とは対照的に、玄関ホールはコンパクトな造り。さらに進むと大空間のLDKが現れ、ゲストを驚かせる

  • 天井の高い吹抜けのLDKは抜群の開放感。2フロア分の壁いっぱいに窓を設けてあり、空も大きく視界に入る。窓越しの庭の先には自然の木々。姿は見えないが少し下がったところに川も流れ、みずみずしい緑と川のせせらぎに包まれて高原リゾート気分を味わえる

    天井の高い吹抜けのLDKは抜群の開放感。2フロア分の壁いっぱいに窓を設けてあり、空も大きく視界に入る。窓越しの庭の先には自然の木々。姿は見えないが少し下がったところに川も流れ、みずみずしい緑と川のせせらぎに包まれて高原リゾート気分を味わえる

  • 吹抜けのLDK。フリーに使える2階のアトリエにはSさまが趣味で弾くグランドピアノが置かれている。吹抜けに面した2階の手すりはアイアンフェンス。見通しがよいため1階にいてものびやかな開放感があり、ホテルのラウンジのような贅沢な居心地を楽しめる

    吹抜けのLDK。フリーに使える2階のアトリエにはSさまが趣味で弾くグランドピアノが置かれている。吹抜けに面した2階の手すりはアイアンフェンス。見通しがよいため1階にいてものびやかな開放感があり、ホテルのラウンジのような贅沢な居心地を楽しめる

土地や環境の魅力に磨きをかける、
固定概念に縛られない設計スタイル

S邸にはさまざまな魅力があるが、その多くは、森垣さんが土地の特性や周辺環境を的確に見極めたことが土台になっている。

約420坪もあるS邸の敷地は森を整地した土地で、周囲には自然の木々が豊富にある。そして、邸内にせせらぎを届ける川は敷地を4mほど下がったところを流れている。

Sさまご夫妻は、緑と水音に包まれる暮らしを望んでいた。そこで森垣さんは川側に庭を設け、建物も川側を大きく開口することに。

しかし敷地は南北に伸びた形状で、川があるのは東側。川に沿って横長につくられたS邸は、東西の面は大きいが南北の面が小さい。つまり、LDKの開放的な全面窓は「東向き」で、S邸の南面の開口は玄関しかないのだ。

この造りは南の採光を重視する一般常識とは異なる。それでも森垣さんは東の自然をふんだんに取り込むために、東面を大きくした。だからこそS邸は、緑と水音に恵まれた心地よい住まいになったのだ。

空も大きく取り込む2フロア分の窓でLDKの採光は十分だし、庭側の軒を深く取っているので直射も和らいでいる。配慮が行き届いた設計のおかげで、南に窓がなくても快適性に何の問題もなく、この土地ならではの自然を満喫できる理想的な住まいといえる。

建築において、バランス・調和を最も大切にしているという森垣さん。「人に個性があるように、建築も立地や予算、施主さまの思いなどの要素で多様に変化し、要素のベストバランスを模索すると唯一無二の建築ができあがると思います」と話す。

森垣さんが手がける住宅に住んでみると、たとえセオリーに反していても、快適で豊かな住み心地を得られることを実感するだろう。

固定概念に縛られず、土地や環境の長所を引き出し、暮らしやすさやデザインに磨きをかける。そんな森垣さんの設計力とセンスをもってすれば、想像をはるかに超える素敵な家を建てられるはずだ。
  • 東の庭側は外壁も窓サッシも黒が基調。屋根は厚みを感じさせないように先端を斜めにカット。現代アートの美術館のような佇まいとなった。建物は、東を流れる川と並行する横長のデザイン。横長の敷地に横長の建物を置くことで、土地の広さと建物のバランスを取っている

    東の庭側は外壁も窓サッシも黒が基調。屋根は厚みを感じさせないように先端を斜めにカット。現代アートの美術館のような佇まいとなった。建物は、東を流れる川と並行する横長のデザイン。横長の敷地に横長の建物を置くことで、土地の広さと建物のバランスを取っている

  • バスルーム。正面の壁は室内から外に向かって斜めに広げ、窓幅を大きくした。おかげで景色を存分に楽しめる

    バスルーム。正面の壁は室内から外に向かって斜めに広げ、窓幅を大きくした。おかげで景色を存分に楽しめる

  • 寝室も、庭側を大きく開口。奥に見えるのは洗面・バスルーム。寝室から直接バスルームに行ける海外のホテルのような間取りだ。写真右の壁の裏には大容量のウォークインクローゼットもある

    寝室も、庭側を大きく開口。奥に見えるのは洗面・バスルーム。寝室から直接バスルームに行ける海外のホテルのような間取りだ。写真右の壁の裏には大容量のウォークインクローゼットもある

撮影:Nacasa & Partners Inc   Koji Fujii

基本データ

作品名
Shade
施主
S邸
所在地
兵庫県芦屋市
家族構成
夫婦+猫2匹
敷地面積
1409.7㎡
延床面積
194.42㎡
予 算
5000万円台