敷地20坪で、中庭&屋上庭園付きの二世帯
ガラスの吹抜けが美しいコートハウス
半地下で高さの制限を回避
欲しいものを全て入れた3層+4層の住宅
この家は武志さんの実家を建て替えた住宅で、近所に住んでいた谷山さん夫妻とお子さんは、建て替えを機に実家のお母さんとの同居をスタート。新居は谷山建築設計室の事務所を備えた「事務所併用」の「二世帯住宅」として計画された。
新居に盛り込まれた要素はほかにもある。コートハウスなどの都市型住宅を多数手がけ、自身も緑のある暮らしが好きだという2人は、自邸にも中庭と屋上庭園を取り入れることに。駐車場も入れたい要素の1つで、二世帯の形式についても、玄関や水まわりをそれぞれ設ける完全分離を望んでいた。
こうなるとかなりのスペースを必要としそうな家づくりだが、その予想をあっさり裏切る驚きの事実が敷地面積だ。なんと計画地は約20坪で、いわゆる狭小の部類に入る広さだったのだ。
本当に、20坪でこれらの希望をかなえられるのか……?
難度の高いお題に対し、2人がまず考えたのはフロアの数。「建て替え前の実家は3階建てでしたが、今回盛り込みたい要素だとフロアが3層では足りず、4層必要だと考えました」と振り返る。しかし、家づくりには何かと規制がつきもの。今回も地域の建築規制で建物の高さは最大10mと決まっていて、地上4階建ては厳しい状況だった。
そこで思いついたのが、「半地下を設けて全体の高さを抑える」というプランだ。けれど敷地全体に半地下をつくると駐車場を取りにくくなるので、建物の奥半分だけを「半地下の事務所+住居3フロア」の計4層に。手前は地下を掘らずに道路と地続きの駐車場を確保して、「駐車場+住居2フロア」の計3層とする。
こうして半地下の分だけずれた奥の建物と手前の建物をつなげると、各フロアは段差があるスキップフロアになるため、その段差をなじませるように、中間に中庭を配置。屋上庭園は手前の建物の屋上に造園して奥の建物の最上階から出られるルーフバルコニーとし、先述の通り事務所は半地下のフロアに設け、世帯ごとに独立した玄関をつくるための外階段も計画する──。
この空間構成は断面図を見ていただくとわかりやすいのだが、気づけばこれで、「中庭・屋上庭園・建築事務所・駐車場・完全分離の二世帯住宅」をコンプリート。立体的な豊かさで空間を自在に操るプランはさすがとしかいいようがない。
これぞ、中庭マジック
「床面積は減るのに開放感は増す」
この外階段、いわば単なる通路だが、たいていの人はこの場所に来たら感動するに違いない。それくらい、ここから見る「根津の家」は美しい。
というのも、1階への外階段は青空に向かった吹抜けの中庭につくられており、その中庭を囲む住空間はガラス張り。半地下から3階まで4層のフロアの多彩な空間をガラス越しに一望でき、あたかもドールハウスのよう。ガラスが木製の窓枠で区切られたデザインもレトロな大正ロマン建築の雰囲気を醸し、ノスタルジックな美しさをしばし堪能したくなる。
この中庭、失礼ながら住宅にしておくのがもったいないほどの建築美が見どころなのだが、谷山さん夫妻によると、意匠性以外にもさまざまな役割を果たしているという。
例えば、スキップフロアの中間に配されていて、先述の通り段差の違和感を和らげているのも中庭の役割の1つ。自然光を邸内の広範囲に届けるという採光の役割も担っている。規制対策でも重要な存在になっており、中庭があることで床面積が減るため、定められた建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)を越えずにすんでいるとのこと。さらに、中庭のコンクリート壁は隣地への延焼を防ぐ防火壁になるので、周辺を防火仕様の素材にする必要がなくなり、木製窓枠やガラスを多用する美しいデザインが可能になったという。
もちろん、外とつながる開放感を得られることも中庭のとても大きなメリットで、「住んでみてつくづく感じるのが上下の抜け感の効果です。横だけでなく上下にも景色が広がると、開放感がいちだんと増すんです」と谷山さん夫妻。
実際、2階子世帯のリビングはコンパクトだが目の前が中庭で、狭さはちっとも感じない。それどころか、青空や屋上庭園、中庭の緑といった上下の景色も視界に入り、テラスにいるような居心地を味わえる。
中庭を設けると床面積は減るのに、感覚的な開放感が飛躍的にアップする──。「根津の家」は、そんな「中庭マジック」を見事に具現化した住宅といえるだろう。
毎朝、中庭に響く「いってきます」
心豊かな暮らしをかなえる家
親世帯は寝室の仕切りに壁を使わず太めの縦格子を入れているのもその一例。しっかりゾーニングしているが、中庭やその先のダイニングも見通せるので閉塞感は皆無だ。また子世帯は、玄関ホール周辺に天井までの壁面収納をつくってスペースを有効活用。ただし、玄関土間の真正面だけは収納の高さをグッと抑えてスリット窓も設置。視線の抜けを確保して家に入ったときの圧迫感をなくすなど、広さを感じさせるテクニックは枚挙にいとまがない。
このように多くの魅力を備えた「根津の家」だが、一番のすごさは、日常をかけがえのないものにする豊かさを建築によって生み出していることではないかと思う。
例えば、屋上庭園は空、景色、緑を楽しめる最高に気持ちの良いスポットで、お子さんが小さい頃は家庭用プールを出して水遊びを楽しんだりもしたとのこと。ときには友達親子を招いて一緒に遊び、幼少期の記憶を明るく彩る特別な空間になった。
同様に、各フロアを一望できるガラスの吹抜けの中庭が生活動線にあることも、この家に住まう人が得られる豊かさの1つだろう。普段は思い思いに過ごしていても、ここへ来れば家族みんながひとつ屋根の下で暮らしているのだと実感でき、温かな安心感に包まれる。
そんなことを感じているのかどうかはわからないが、谷山さん夫妻のお子さんは毎朝中庭の外階段を下りるとき、両親がいる2階の自宅や半地下の事務所、1階のおばあちゃんの部屋をガラスの吹抜けから見まわして、それぞれに「いってきます!」と声をかけながら学校へ向かうという。その光景を想像すると、こちらまで幸せな気持ちになってしまうのだ。
撮影者:川辺明伸
間取り図
基本データ
| 作品名 | 根津の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都文京区 |
| 敷地面積 | 71.07㎡ |
| 延床面積 | 144.64㎡ |
| 家族構成 | 母+夫婦+子ども1人 |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
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