薪ストーブの周りを部屋が囲む
家族がほどよくつながるスキップフロアの家

「薪ストーブのある暮らしがしたい」「地面に近い位置に書斎がほしい」という施主の要望を叶え、家族が程よい距離感で過ごせる家を作った荒谷省午建築研究所の荒谷さん。困難かと思われた2つの要望の両立を成立させたのは、家の中心に設置した薪ストーブをぐるりと取り囲むように、スキップフロアの部屋で取り囲むという、画期的アイデアでした。

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困難を克服し施主の要望を柔軟に叶えた
スキップフロアというアイデア

奈良市登美ヶ丘。大阪方面へのアクセスもよく、奈良屈指の高級住宅地として知られるこの地に、荒谷さんが手掛けたI邸が建っている。

この地への移住に際し、自邸の建築を荒谷さんに依頼したIさんの要望は「薪ストーブを設置したい」「地面と机の高さが近くなるような書斎がほしい」「広い庭がほしい」というものだったという。

当初は、1階のLDK横に薪ストーブを設置し、半地下の書斎を設置するというようなオーソドックスなプランを検討していたというが、思わぬ問題が発生した。
「建物のボリュームが大きくなり、予算的に厳しくなってしまったのです」と荒谷さん。

それでも簡単に諦めないのが荒谷さん。これまで、「土地や建築条件が厳しい」「施主さんの要望が難しい」という困難な課題に直面しても、それを乗り越えるアイデア力で「最適解」を導き出してきた。

そんな荒谷さんが、思いついたのが、家の中心に薪ストーブを据え、その周りを階段で取り囲み、部屋を配置するスキップフロアの家。これであれば、建物のボリュームが減った分予算内に収まるし、その分庭も広く取れる。また「地面に近い書斎」も半階分下ることで作ることができるのだ。

さらには、家全体が1つの空間となることで、家族が適度につながるほどよい距離感となる。視線が変化することで高さを感じたり、明るさや開放感も感じられる空間となる。また、冬場は薪ストーブの熱が家全体に行き渡り、夏は重力換気により、窓を開けることで家の中を風が抜けていくのだ。

ただ、このプランは良いことばかりではない。部屋を仕切る扉を設けないことで、プライバシーの問題や、LDKがそれぞれ数段の階段を上るということの不便さもあるのだ。

しかし、このプランにIさんご家族は「自分たちにはなかったアイデアで面白そう!」と気に入ってくれたのだという。

「このプランは、これまでのライフスタイルとは違った生活となることが前提でした。それを受け入れてくれるIさんご家族の懐の深さがあったからこそ実現できたのだと思っています」と荒谷さん。

施主の要望と真摯に向き合い、類まれなるアイデア力で、画期的なプランを提案した荒谷さん。それを「面白そう」と受け入れたIさん。両者の「柔軟性」が、困難な課題を解決させ、Iさんご家族にとって住みよい、ここにしかない家を生み出した。
  • 奈良の高級住宅地に佇むI邸。街へ圧迫感を与えないようセットバックして建築することで、2台目の駐車スペースも確保できた

    奈良の高級住宅地に佇むI邸。街へ圧迫感を与えないようセットバックして建築することで、2台目の駐車スペースも確保できた

  • オブジェのような美しさと存在感を放つ薪ストーブと階段。吹き抜けの高さと上から光が降りてくるため、開放感抜群

    オブジェのような美しさと存在感を放つ薪ストーブと階段。吹き抜けの高さと上から光が降りてくるため、開放感抜群

  • キッチン奥には、目隠しのできるパントリースペース。上部の窓から光が入り込みキッチンを明るくする。

    キッチン奥には、目隠しのできるパントリースペース。上部の窓から光が入り込みキッチンを明るくする。

家の中心に薪ストーブを置き
それを取り囲むように部屋を配置

こうして出来上がったI邸を見ていこう。玄関を入ると視線の先に薪ストーブが見える。天井へと真っ直ぐに伸びる煙突、その周りを取り囲むように上へと続く階段の存在感が大きい。まるで、ストーブと階段がオブジェのようにさえ感じてくる。

歩を進めるとそこはリビング。芝の敷き詰められた広々とした庭が広がり、大きな窓からは光が入り込み明るい。眼の前の庭にすぐ出られる縁側のようなスタイルも便利そうだ。

薪ストーブを回り込むように下っていくと、夫婦の寝室兼書斎スペース。半地下のような空間は、デスクの眼の前に庭の地面が迫っている。Iさんの要望を叶えた空間。明るく光が入り込み、庭で遊ぶ子どもたちの様子も見える。

一方、階段を登っていくと、右手にダイニング空間がある。ダイニングから数段上るとキッチンスペース。キッチンはパントリー側から階段へつながるルートもあり、回遊性をもたせた。

さらに階段を登っていくと、大きなガラスの先に外の空間が。物干し場であり、光を室内に取り込むためのものであるが、「外の部屋」といった意味合いでもあるのだという。その後もぐるりと階段が続き、洗面所・お風呂場といった水回り、子供部屋1、子供部屋2が配置されている。

この家の出来栄えにIさんも「毎日家に帰るのが楽しみだ」「子どもたちも楽しく遊んでいる」とコメントを寄せてくれた。実際、この家にはよくお子さんたちの友達が集まり、楽しそうに遊んでいるのだという。子供たちがこの家に集まるのは、この家の人々が暖かく迎えてくれるからに他ならないが、この家そのものが、子供にとっても素敵で居心地が良い空間であるからに違いない。
  • 庭からの光が入り、明るいリビング。庭への出入りがしやすい、現代の縁側スタイル

    庭からの光が入り、明るいリビング。庭への出入りがしやすい、現代の縁側スタイル

  • 半地下に設けた寝室兼書斎。庭の地面と机の高さを近くしたいというIさんの要望に応え、荒谷さんはオリジナルの机を制作

    半地下に設けた寝室兼書斎。庭の地面と机の高さを近くしたいというIさんの要望に応え、荒谷さんはオリジナルの机を制作

  • キッチンは、ダイニング側、パントリー側両方から行き来できるよう回遊性をもたせた。キッチンで作業しながら、ダイニングはもとより、眼下にリビング、上部の子供部屋の様子も伺える絶妙な配置

    キッチンは、ダイニング側、パントリー側両方から行き来できるよう回遊性をもたせた。キッチンで作業しながら、ダイニングはもとより、眼下にリビング、上部の子供部屋の様子も伺える絶妙な配置

建築家に依頼をする敷居を低くしたい
引き渡し後も続く施主との関係

荒谷さんに設計を依頼したお施主さんは、その後も付き合いが続くケースも多く、オープンハウスなどにも協力的だという。その要因の1つには、荒谷さんの人当たりの良さや「敷居の低さ」があるのではないだろうか。

荒谷さんは自分自身を「私のスタイルはコレです!という強い主義・主張のある建築家ではない」と評す。むしろ、お客様の要望を汲み取る、土地や環境を読むことを大切にし、その課題に対して最適解を提案するといったスタイルなのだ。

「ホームページに掲載している作品も、あくまで解決の一例に過ぎません」と荒谷さん。施主それぞれ、要望も土地の条件も違うように、出来上がる家も全てオンリーワンなのだ。だからこそ「要望があったら、自分で『無理だろう』と諦めたりせず、何でも話してほしい」と荒谷さんは語る。

また、荒谷さんは設計にかかる工程や設計料の報酬料率の詳細をHPで公開している。ここまで詳しく掲載する建築家はそう多くはない。荒谷さんはその理由について「建築家に依頼をすることの敷居を低くしたいから」と語る。

建築家に設計を依頼したいと思う人は多くいることだろう。ただ「いくらかかるかわからない」「高いのではないか?」と敬遠してしまいがちだ。荒谷さんは費用感をオープンにすることで、その不安を払拭し「相談しよう」と思ってもらいたいのだという。

一生に一度の買い物となることの多い戸建住宅の購入。建売を買う、ハウスメーカーに依頼をするなど、選択肢は多い。

しかし、自分たちの要望や土地に向き合い、アイデアを練り、「デザイン」「住みよさ」「価格」のバランスのとれた家が実現するのは、建築家への依頼だろう。

そんな自分たちだけの究極の1点モノを叶える第一歩は、荒谷さんへ声をかけることなのかもしれない。
  • 物干し場として活躍するデッキスペースは、室内に光を取り込む役目も果たす「外の部屋」という位置づけ

    物干し場として活躍するデッキスペースは、室内に光を取り込む役目も果たす「外の部屋」という位置づけ

  • 洗面・風呂場といった水回りは、光を取り込めるよう扉を設けず、必要な時にカーテンで仕切る仕様。浴室天井もポリカーボネート製とすることで光を取り込む

    洗面・風呂場といった水回りは、光を取り込めるよう扉を設けず、必要な時にカーテンで仕切る仕様。浴室天井もポリカーボネート製とすることで光を取り込む

  • 奈良の高級住宅地に佇むI邸。街へ圧迫感を与えないようセットバックして建築することで、2台目の駐車スペースも確保できた

    奈良の高級住宅地に佇むI邸。街へ圧迫感を与えないようセットバックして建築することで、2台目の駐車スペースも確保できた

撮影:小川重雄

基本データ

作品名
登美ヶ丘の住宅
施主
I様
所在地
奈良県奈良市
家族構成
夫婦+子供2人
間取り
3LDK・スキップフロア・半地下
敷地面積
188.23㎡
延床面積
96.68㎡
予 算
3000万円台