
木材の温かみに溢れた3タイプの居室
非日常感が味わえる、五感で楽しむホテル
地域の木材を活用し、森林保存に役立てる
非日常感を味わう森に囲まれたホテル
森に囲まれたホテルを新築するにあたり、設計を担当したのはhoku archidesign株式会社の大類真光さんだ。「百年の森林構想」においては、木材の加工や流通も重要な要素のひとつ。大類さんは、村の材木を豊富に使って建物をつくることを提案した。それゆえ、このホテルの建物の外壁は全て地域の材木によるものだ。
「木材は腐りやすいと思われがちですが、そんなことはありません。経年による色の変化などはあるかもしれませんが、木そのものが傷んでいるわけではないのです。なので、削ればきれいになります」と語る。また、塗装をしたり軒を出したりと、保護のための配慮ももちろんしている。さらに、いざというときの張り替えなどのメンテナンスもしやすいよう、張り方などを工夫したという。もちろん、メンテナンス時に使用するのも村産材。森林を100年維持するのと同じように、長い目で見て建物を計画した。
ホテルの全体的なプランについて、自然豊かな場所であることを生かし、ゆったりと自然を感じられることに重きを置いた。さらに、この場所に来るためには橋を渡ってのアプローチが必要だという点にも注目。「非日常感を味わえる、少し特別な場所に行く」という感覚を演出したいと考えたそうだ。
これらを踏まえつつ人数や目的など様々な宿泊者の想定をし、最終的には大きな一つの建物でなく、広い敷地を生かした分棟を提案。・ラグジュアリー感あるA棟(3棟)・グループ旅行にも適するB棟(2棟)・単身者旅行者向けのC棟(1棟、5部屋)と、フロント業務などを担う共用棟を計画した。
さらに、それぞれの棟を結ぶ歩道の間には広葉樹を植樹したという。周辺の山々には杉などの針葉樹が多いとのこと。その中で表情の異なる広葉樹が広がる空間をつくり、周囲から少し引き離された特別感ある環境を表している。とはいえ、まだオープン間もないこのホテル。木々が育つまでにはまだ時間がかかるとのこと。木々の成長を見守るのも楽しそうだ。
自然の素材がもたらす空気感を味わう
全宿泊棟にヒノキ材の床を採用
床材はヒノキを使用した。固い素材のおかげで傷がつきにくく、不特定多数の人が訪れるホテルには適した素材なのだそうだ。もちろん香りもよく、木から感じられる温かみや感触など、五感をすべて働かせて味わいたいと思わせる室内をつくり上げた。
岡山県の中でも雪が降るほど寒い地域という西粟倉村だからこそ、断熱にも力を入れたという。もちろん、断熱材も自然の素材由来のセルロースファイバーを採用した。室内で、柱の太さと同じくするように充填断熱するのが一般的だが、大類さんはさらに50mmの外断熱をプラス。薪ストーブと合わせ、暖まりやすく冷めにくい環境が整った。
では、ひとつひとつ宿泊棟を見てみよう。
A棟は、玄関から入ったとたんに思わず歓声を上げてしまうほど、上質なワンルーム空間が広がる。床だけでなく天井にもヒノキを張るなど、先述の通り、3つの棟の中で一番ラグジュアリーな設えだ。
リビングの大きな開口はシームレスにテラスへと続く。テラスの前には川が流れ、正面に見えるのは日光に照らされた木々が美しい山の景色と、環境も抜群。外気浴も楽しめると至れり尽くせりで、ご夫婦やカップルが宿泊することも多いとのこと。
対してB棟はメゾネットタイプの2階建て。リビングは吹き抜けになっており、開放感は抜群。1階のLDKにはゆったりしたソファと大きなダイニングテーブルが置かれ、友達とワイワイ過ごす時間が楽しみになりそう。2階はベッドルーム。2階の窓からはA棟からも見える美しい山が眺められる。
A棟、B棟ともに、収容人数は8人までと変わらないが、旅の目的や同行者によって居心地の違う場所を選べるのは、お客さまにとってもありがたいだろう。
コミュニケーションが生まれる共用リビング
多種多様な快適さに応えられる空間づくり
リビングの真ん中に設置した薪ストーブを囲み、宿泊者同士で今日訪れた場所の感想を伝え合う人たちがいたり、カウンターに向かって1人で作業をする人がいたり。十分な広さがある共用リビングではそれぞれが思い思いに過ごすことができるのが魅力だ。
もちろん個室の居心地も最高。天井高も抑え、寝室として落ち着きある空間に仕上げた。「ほかのホテルじゃ絶対にないことなのですが、C棟に泊まったら、朝まで熟睡できたんです」と大類さん自身で驚いてしまったそうだ。
また、村の建物としての責任にも向き合った。断熱を強化し、薪ストーブを全ての宿泊棟に入れた理由はもう1つ、防災の観点からもあるという。いつか、このホテルが避難所として使われることがあるかもしれない。万が一停電になっても、断熱性能の高い建物と薪ストーブがあれば快適に過ごせる。また、イベント時はフードトラックなどが来て炊き出しを行うことができるスペースなど、さまざまな可能性をあらかじめ想定しておくことで宿泊者はもちろん村民も安心できるだろう。
「これからも不特定多数の人がいる場所での居心地も追求したい」と抱負を語ってくれた大類さん。気持ちのよさや求めている居心地は、人によっても、さらには気分や時間によっても違うと話す。そういう多様なニーズに対応できる場所を1つの建物の中にいろいろつくりたいと考えている。
しかし、大類さんはもうその目標を一度大きな形で実現したといえる。この「100年の森のホテルSHIORI」はまさに、異なる目的、異なる人数、求める居心地の異なる人たちが同じところに集ったとき、それぞれが自分に合った居場所で快適に過ごすことができるホテルだからだ。
写真:有限会社建築写真室
基本データ
| 作品名 | 100年の森のホテルSHIORI |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県英田郡西粟倉村 |
| 延床面積 | 共用棟:497.93㎡ 宿泊棟:A棟-79.49㎡ 3棟/B棟-77.17㎡ 2棟/C棟-144.91㎡ |
設計者情報
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