平屋の要望に対し、デッキ付き2階建を提案
ライフスタイルを変え、SNSでも話題の邸宅

広島市に誕生した邸宅。デッキから、眼下に広がる自然や山々を楽しむことができる。お施主様の当初要望は平屋。しかし現地調査でその眺望を活かすべきだと考えた建築家は、広いデッキを持つ2階建てを提案。結果、お施主様は大満足し、SNSでも大反響となった。この作品が生まれた背景と建築家の想いをご紹介しよう。

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お施主様が、本当に実現したいのは何か?
本心を理解し、最適プランを提案した事例

この作品を設計したのは、OOTT | 寺岡徹建築事務所の建築家、寺岡徹さん。
事務所は東京と広島にあり、全国でプロジェクトを手掛けている。

冒頭でご紹介した通り、最大の特徴は2階のリビングと連続するデッキ空間だ。日中は素晴らしい景色を常に楽しみながら過ごすことができ、夜は落ち着いた空間でゆったりとした時間を過ごすことができる。

しかし2階にリビングとデッキがある家は、プランとしては“見たこともない特異なもの”ではない。

もっとも注目すべきは、この作品が誕生した背景と、お施主様の満足度の高さだろう。

まずは簡単に、その背景をご紹介しよう。当初、お施主様は平屋で家を作りたいと考えていた。寺岡さんは丁寧にヒアリングを繰り返し、その理由が
・日中の家事移動を楽にしたい
・広い床面積のリビングでくつろぎたい
・眺望を楽しみたい
という点にあることを確信した。

確かに、建築予定の敷地は眺望が素晴らしい立地だった。山の端から麓の景色が見下ろせ、眼下に扇状地の自然を眺めることができる。

一方で寺岡さんは、平屋にするとその眺望が駐車場などで一部遮られることや、道路を通る人からの視線が気になること、十分な床面積や家事動線を持つことが難しいと感じていた。せっかくの眺望が限られ、視線を気にしてレースのカーテンを閉めていれば、日々の楽しみも半減する。

そこで考えたのが、2階建てにしてリビングに接する広いデッキを持つプランだ。

日中の家事動線を考え、そのすべてを2階に集約。1階は寝室や子供部屋とした。デッキはリビングとほぼフラットにつながるものとし、デッキに大屋根をかけることで天候に関係なく過ごせる、広い空間を確保した。リビングやデッキは2階にあるので、道路からの視線を気にすることなく、1日中その眺望を楽しむことができる。さらに平屋はコスト面で割高となる。2階建てはその点でも有利で、さらに廊下がないプランとすることで効率的なパッケージとした。

お施主様の当初要望とは異なるプランとなったが、寺岡さんはどのような想いでこの作品を誕生させたのだろう?

「私はすべてのプロジェクトで、お客様が発するキーワードの奥にある真の要望を汲み取り、それを実現するプランをご提案しています。今回の場合、最初に平屋のご要望がありました。しかしその真意は、何が何でも平屋が良いということではありませんでした。家事が楽になり、眺望を楽しみ、床面積を確保したい。その真意が理解できたので、このようなプランを提案しました」。

「ご要望のヒアリングをしていて、すぐに答えられることと、答えられないものがあります。その答えられないことの中に、真意を理解するヒントがあることも数多くあるのです。丁寧にヒアリングを繰り返し、それを一緒に言語化するように心がけています」と、寺岡さんはその意図を語ってくれた。

一方で、自分の考えを強引に押し通すようなことはないという。実際に、取材中の寺岡さんの物腰は柔らかく、丁寧にひとつひとつ説明してくれた。

このように自分が気づいていない本心まで理解し、提案をしてくれる建築家は、とても心強い存在ではなかろうか。
  • 外観(正面)。周囲は住宅街で一般的な家であるため、奇抜な外観ではなく周囲に溶け込むシンプルなものとした。視線カットと断熱効果を高めるため、前面道路側の窓は最小限に。玄関ドアはバイクを土間に入れるため大きなものを造作した

    外観(正面)。周囲は住宅街で一般的な家であるため、奇抜な外観ではなく周囲に溶け込むシンプルなものとした。視線カットと断熱効果を高めるため、前面道路側の窓は最小限に。玄関ドアはバイクを土間に入れるため大きなものを造作した

  • お施主様がもっとも気に入っているデッキからの景色。SNSでもっとも投稿されているアングルだ。右側のリビングとフラットにつながっている。眼下には田畑、遠くに山々を眺めることができる

    お施主様がもっとも気に入っているデッキからの景色。SNSでもっとも投稿されているアングルだ。右側のリビングとフラットにつながっている。眼下には田畑、遠くに山々を眺めることができる

  • リビング。障子を閉めると落ち着いた空間となる。テレビが設置されている壁面側が西向きとなるため、あえて壁を広めに取って断熱効果を確保。写真右側の奥から徐々に明るく、景色も楽しめるように計算されている

    リビング。障子を閉めると落ち着いた空間となる。テレビが設置されている壁面側が西向きとなるため、あえて壁を広めに取って断熱効果を確保。写真右側の奥から徐々に明るく、景色も楽しめるように計算されている

  • もっとも落ち着くダイニング。断熱のために窓を制限したこともあいまって、隣のリビング・デッキの明るさや眺望との対比を感じられる

    もっとも落ち着くダイニング。断熱のために窓を制限したこともあいまって、隣のリビング・デッキの明るさや眺望との対比を感じられる

  • 障子は既製品のサッシを隠す機能も持っている。どの作品でも照明まで一緒に設計しており、この作品でもダウンライトと最小限のペンダントライトで構成。この作品では民芸の作家作品を採用。ジャパンディを意識した

    障子は既製品のサッシを隠す機能も持っている。どの作品でも照明まで一緒に設計しており、この作品でもダウンライトと最小限のペンダントライトで構成。この作品では民芸の作家作品を採用。ジャパンディを意識した

  • リビングの障子とサッシを開いた状態。どちらも壁の中に隠れるように設計されている。全開放すると素晴らしい景色と開放感を得ることができる。床のフローリングとデッキの床はほぼフラット。床材の貼り方を同じにすることで、外と中の連続性と開放感を感じることができる

    リビングの障子とサッシを開いた状態。どちらも壁の中に隠れるように設計されている。全開放すると素晴らしい景色と開放感を得ることができる。床のフローリングとデッキの床はほぼフラット。床材の貼り方を同じにすることで、外と中の連続性と開放感を感じることができる

すべての土地には異なる特徴がある
土地の長所を最大に活かすプラン作り

前章でプランの概要をご紹介したが、そのプロセスはとても精緻に計算されたものだった。この敷地の眺望が素晴らしいのはもちろんだが、実は土地形状も少し変形していたのだ。近隣の住宅地は放射状となっており、隣家も少しずつ角度を変えて建っている。

そこで、この敷地でもっとも眺望を楽しむことができる窓の位置、リビングやデッキの位置を決めることから着手した。当然、少し角度がずれている隣家の窓位置も確認し、視線カットも計算している。

もっとも眺望を楽しめるデッキは最適な位置に配され、さらにそのすべてを大屋根が覆っている。これにより、たとえ雨の日でもリビングの延長として活用することが可能となった。

外観にも注目したい。デッキの大屋根を含む屋根は切妻屋根で、シンプルな外観だ。これは、周囲との調和を念頭に置いている。地方都市の住宅地で、周囲とあまりにも異なる外観では違和感が生じてしまう。そこで、機能的に作られた大屋根だが違和感がない外観とすることに注力した。

奥まった位置にあるキッチンにも工夫がある。リビングで過ごす子供の様子が常に確認できるよう、一部の壁を切り取った。これにより、キッチンで作業をしている時でも家族と同じ空間で過ごすことができ、さらには眺望を楽しむことが可能となった。

この他にも多くの工夫と計算された機能がある。ぜひ写真の説明をご参照いただきたい。

寺岡さんは、こうしたプラン作成で心がけていることがあるという。

「解決策や意匠の提案において、1つの解決策を提示するのではなく、複数の機能を兼ね備えたデザインを志向しています」。

どういうことか。

たとえばデッキの大屋根は雨を防ぐだけでなく、デッキ下の駐車場の屋根にもなる。これにより雨に濡れず家から車へ移動したいが、既製品のカーポートをつけたくないというお施主様の希望も叶えた。デッキは眺望を楽しむ場所だけでなく、玄関の庇としても機能する。こうした積み重ねで、シンプルで多機能な作品が誕生するのだ。

さらにこの作品は地元広島の木材を多用し、地元広島の工務店の技術を活用した。広島愛にあふれる作品だ。コロナ禍の時代を経験し、地方都市における戸建て住宅のニュースタンダードを考えたプロジェクトでもあった。

土地の特徴を最大限に活かし、周囲との調和や多機能の意匠を考え出す建築家の存在意義が、とても良く理解できる事例だろう。
  • リビングから見たダイニングとキッチン。廊下を廃し、階段を上がるとすぐにリビング・ダイニングに。手前の扉は脱衣所・浴室に通ずる。2階ですべての家事ができる、動線を短くするプランだ

    リビングから見たダイニングとキッチン。廊下を廃し、階段を上がるとすぐにリビング・ダイニングに。手前の扉は脱衣所・浴室に通ずる。2階ですべての家事ができる、動線を短くするプランだ

  • キッチン。リビングにいる子供や家族の様子を調理中でも見られるよう、手前のシンクまわりの壁を取り除いた

    キッチン。リビングにいる子供や家族の様子を調理中でも見られるよう、手前のシンクまわりの壁を取り除いた

  • キッチンから見たリビング・ダイニング。シンク前の壁がないことで、障子を開けば外の景色を調理中に楽しむこともできる

    キッチンから見たリビング・ダイニング。シンク前の壁がないことで、障子を開けば外の景色を調理中に楽しむこともできる

  • 色使いは最小限に。木材の色と、グレーの壁色に絞ったことで、落ち着いた空間が誕生した。外の緑が映える効果もある

    色使いは最小限に。木材の色と、グレーの壁色に絞ったことで、落ち着いた空間が誕生した。外の緑が映える効果もある

  • 玄関ホール(土間)。右はベビーカーやキャンプ用品なども入る収納。土間にはお施主様のバイクを保管することもできる。天井は地元工務店の協力で、一般的には下地材で隠す構造梁を隙間なく組むことによりコスト削減と美しさを両立した

    玄関ホール(土間)。右はベビーカーやキャンプ用品なども入る収納。土間にはお施主様のバイクを保管することもできる。天井は地元工務店の協力で、一般的には下地材で隠す構造梁を隙間なく組むことによりコスト削減と美しさを両立した

想像以上の満足度で喜ぶお施主様
SNSの閲覧回数は200万回以上!

さいごに、お施主様の感想をご紹介しよう。

お施主様はSNSで日々の暮らしの様子とともに家の写真を公開しており、この家での暮らしに満足していることがうかがえる。

“ベランダは不要と思っていた人間の暮らしを変えた建築士さんはすごいな”

というポストは、本記事の執筆時点で200万回以上閲覧されている。

ポストされた多くはデッキからの眺望で、家族とくつろぐ写真も。この空間で有意義な時間を過ごしていることがよくわかる。

そもそも平屋を希望し、デッキは不要と考えていたお施主様。2階建てでデッキがあるプランを提案した際、お施主様はどのような反応だったのかを寺岡さんに聞いた。

「最初は理解していただけませんでした(笑)。しかしお施主様が本当に望む生活は平屋では実現できないと思い、その真意を丁寧に説明しました。眺望、床面積、金額、すべての面で最適なのがこのプランです。結果的にお施主様がこれほど満足していただき、私も心から嬉しく感じています」。

この作品は、お施主様の満足度を表すように数多くの受賞をしている。
“第26回 エネルギア住宅作品コンテスト”で審査員特別賞を受賞。
“第19回 ひろしま街づくりデザイン賞”で奨励賞(個人住宅部門)を受賞。
いずれも、考えつくされたこの作品のプランを評価したものだ。

自分たちが本当に望むもの見つけ、実現するベストプランを提案してくれる建築家に依頼することこそ、注文住宅で家を建てる価値ではないだろうか。そのような建築家をお探しの方は、いちどコンタクトしてみてはいかがだろう。
  • 玄関ホールには、コロナ禍に必須だった手洗い台を設置。横はスリッパなどが収納できるようになっており、このように家のいたるところに収納を作っているのが特徴だ。お施主様が想像するよりも荷物は多くなるので、寺岡さんはいつも多めに提案しているという

    玄関ホールには、コロナ禍に必須だった手洗い台を設置。横はスリッパなどが収納できるようになっており、このように家のいたるところに収納を作っているのが特徴だ。お施主様が想像するよりも荷物は多くなるので、寺岡さんはいつも多めに提案しているという

  • 収納を最大限に確保していることがわかる。わずかな隙間も収納に使い、デッドスペースはないという

    収納を最大限に確保していることがわかる。わずかな隙間も収納に使い、デッドスペースはないという

  • 階段はスケルトンで、まるで家具を立てかけているようなデザイン。梁と壁を際立たせる、遊び心あふれる意匠だ。僅かな隙間を活用した階段下収納も設置。左の子供部屋は将来的に2つに分けられるよう扉が計画され、電源の準備などがされている。

    階段はスケルトンで、まるで家具を立てかけているようなデザイン。梁と壁を際立たせる、遊び心あふれる意匠だ。僅かな隙間を活用した階段下収納も設置。左の子供部屋は将来的に2つに分けられるよう扉が計画され、電源の準備などがされている。

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
石内の家
所在地
広島県広島市
家族構成
夫婦+子ども1人
敷地面積
207.69㎡
延床面積
105.98㎡
予 算
2000万円台