普段の提案をさらに探求し、実現した自邸
自分の居場所をそれぞれが見つける家

「美住のすまい」は、いのはな建築事務所の鈴木さん夫妻の自邸。普段お施主さまへの提案する事柄をさらに突き詰め、表現した家だ。コスト感にこだわり、メリットとデメリットを見極め適正な土地を選ぶことから、素材選びや間取りなどひとつひとつを吟味して、ライフスタイルに合った家をつくり上げた。

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理由があり価格が抑えられた土地を選び
建築家の技術で心地よい家をつくる

「美住のすまい」は、いのはな建築事務所の鈴木宏昌さん、尚子さんが自邸として計画した家だ。日ごろからふたりは主に宏昌さんが設計を、尚子さんが内装やインテリアを担い協働している。いのはな建築事務所のこだわりのひとつはコスト感。「日ごろからお施主さまにはコストを抑えてもここまでできる、を提案しています」といい、自邸でもその考えを大切にしたという。

選んだ敷地は、北と南が接道した、段差のある台形の土地。さらに南に接道している道というのがT字路の横棒の右側部分にあたり、ちょうど家の前が行き止まりになるため、旗竿地のような雰囲気もあった。

一方で、近くにはウォーキングするにもよさそうな緑道が伸びており、100m以内に公園もある。さらには交通の便もよいと、ポジティブなポイントもたくさんあった。また一般的にはデメリットと感じられる部分があるからこそ、その分価格が安いことも大きな魅力だったという。2人はここなら思い描くライフスタイルが実現できると判断、購入に至った。

完成したのは、シンプルな外観の2階建ての家。斜線制限がかかる部分もあったため軒を省いたことから、凹凸も少なくスタイリッシュな佇まいだ。「コストも考え、ベランダや屋上など我々の暮らしに必要ないものは思い切って取り除きました」と宏昌さん。樋や土台の水切りも可能な限り細くするなどフォルムの維持にこだわった。

自邸だからこそのチャレンジもある。家の機能は損なわずにシンプルさを高めていくことが大切、と2人。軒ゼロの建物のため検討を重ね、軒裏の換気には新たな技法もプラスアルファとして取り入れた。一年過ごし、効果も確認。今後の家づくりにも役立ちそうだ。
  • 北側から見た外観。出入りはこちら側からする。軒ゼロ、さらに樋や水切りも細くしたシンプルなフォルム

    北側から見た外観。出入りはこちら側からする。軒ゼロ、さらに樋や水切りも細くしたシンプルなフォルム

  • 敷地の半分程度が接道する南側。旗竿のようでデメリットにも感じられるが逆手に取り、大開口を実現

    敷地の半分程度が接道する南側。旗竿のようでデメリットにも感じられるが逆手に取り、大開口を実現

1部屋増やすより、ゆとりある広さを活用。
メリハリある空間に居場所を発見するLDK

「美住のすまい」は、1階に寝室や水回り、ウォークインクローゼットとプライベート空間が集まり、2階がLDKとロフトという団らんの場だ。2階はパーティーなどで人が集う場所としても機能している。

プランニングにあたり「狭さを感じさせず、ゆったり家族が暮らせる空間を確保」「暮らす人の年代やライフスタイル、状況に合わせ使い方や居場所を変化させられる柔軟性のある家」にしたいと考えた2人。実現するためには、最初からつくり込みすぎずにタイミングにその都度合わせていくのがよいと語る。

その理念は、建物のつくり方から間取りから、内装のデザインまで家づくりの全てで表現されている。例えば1階の寝室は、将来お2人のお子さまの子ども室になるよう2部屋に分けられるようあらかじめ整えた。そのとき、鈴木さん夫妻の寝室は2階のロフトに移動するつもりだという。もう1部屋計画することもできたが、それではひとつひとつの居室が狭くなってしまう。子ども室2部屋それぞれに広さがあれば、お子さまが独立し、家を出た後の活用も広がるのだ。

子ども室として使用する頃は、足腰も丈夫でロフトに上がるのも面倒ではないでしょうから、と2人。独立後はご夫妻それぞれの個室として使用することにすれば、長い期間で無駄なく広々暮らせ、まさに狙い通りだ。「その頃はロフトが億劫になるかもしれない年頃を迎えているので、収納として使えばいいですよね」と宏昌さん。

L字型をしている「美住のすまい」。2階は下部の横のラインに吹き抜けのリビング、縦の部分にキッチン・ダイニングとロフトが重なっている。人が集う場としても使用する2階。建具はなくともキッチンを奥まらせる配置で、リビングエリアから隠したいものは隠せる絶妙な見え具合になっているところがさすがだ。

主な生活の場であり、長い時間を過ごすLDK。キッチン・ダイニングから吹き抜けのリビング、そしてロフトへ、と天井高を全て変えて奥行き感を与えるとともに、さまざまなスペースがあるという感覚を得やすくした。また天井はリビングにシナ合板、その他はクロスを採用。高さと素材の切り替えで、大らかな中にメリハリがある空間ができた。

さまざまな居心地の居場所をつくるため、大きな役割を担っているのがラグやチェアといったインテリアたちだ。「大きなソファを置くのもよいですが、皆そこに集まるしかなくなってしまいます」と語る尚子さん。ラグでごろごろしたり、チェアを自分の好きな場所に持って行ったり、それだけで自分の居場所を自分で作ることができる。ロフトへの階段の踊り場や、ロフトも含め、自分で場所を選ぶことでコミュニケーションを交わしながらもストレスにならない距離が取れるのはありがたい。

また「今はこの写真を撮影したときとはまた違う雰囲気になっているんですよ」と尚子さんが話す通り、気分に合わせて大きく変化を持たせることができるのも魅力だ。造作家具も極力少なくシンプルに、おおらかに、ただしメリハリをつけて計画したからこそ、シーンに合わせることもできるし、ライフスタイルの変化という大きなうねりにも合わせることができる。

本当に暮らしやすい家というのは、こういう住まいのことをいうのではないだろうか。
  • 玄関。1階の天井を下げ階段の段数を少なく、蹴上を緩やかに。リビングの大開口からの光が静かに落ちてくる

    玄関。1階の天井を下げ階段の段数を少なく、蹴上を緩やかに。リビングの大開口からの光が静かに落ちてくる

  • 1階。ウォークインクローゼットは透け感のあるカーテンで仕切った。アーチとともに柔らかな印象を与える

    1階。ウォークインクローゼットは透け感のあるカーテンで仕切った。アーチとともに柔らかな印象を与える

  • 1階寝室は、将来2部屋に分けることができる。将来、車いすが必要になった場合などに備えて1階のどこかは掃き出し窓にしたかったと2人。庭のフェンスは宏昌さんがDIYした。1階は全体的に同じフロアタイルを敷き、設えの雰囲気アップとコストダウンを同時に実現

    1階寝室は、将来2部屋に分けることができる。将来、車いすが必要になった場合などに備えて1階のどこかは掃き出し窓にしたかったと2人。庭のフェンスは宏昌さんがDIYした。1階は全体的に同じフロアタイルを敷き、設えの雰囲気アップとコストダウンを同時に実現

  • 2階リビングはロフトまでの吹き抜けで天井が高く、開放的。シナ合板の天井に合わせ、グレーやグリーンをプラスし温もりに満ちたインテリアとした。明るいメープルのフローリングは幅が広めのものを採用し、空間のおおらかさを引き立てている

    2階リビングはロフトまでの吹き抜けで天井が高く、開放的。シナ合板の天井に合わせ、グレーやグリーンをプラスし温もりに満ちたインテリアとした。明るいメープルのフローリングは幅が広めのものを採用し、空間のおおらかさを引き立てている

  • ダイニングからリビングを見る。天井高や素材の違い、袖壁のおかげで建具がなくとも空間の切り替わりが明確に。画像右のマグネットボードやルーター置き場はデザイン性と実用性を確保。リビングからの死角となる袖壁裏に配置し生活感があふれがちなスペースが目立たないようにした

    ダイニングからリビングを見る。天井高や素材の違い、袖壁のおかげで建具がなくとも空間の切り替わりが明確に。画像右のマグネットボードやルーター置き場はデザイン性と実用性を確保。リビングからの死角となる袖壁裏に配置し生活感があふれがちなスペースが目立たないようにした

コストを抑えてもここまでできる。
家をトータルコーディネートし調和をプラス

いのはな建築事務所の家づくりでは、コストを抑えながら極力シンプルに計画しているのに、温もりを感じるセンス良い空間に仕上がっている点に感銘を受ける。この家ももちろんそうだ。

「美住のすまい」では、明るくさわやかな印象の室内にしたかったと2人。2階はリビングエリアのシナ合板やメープルの透け感のある木目や白とグレーを基調にし、家具やラグなどでポイント色を足していった。アクセントになっているのは色だけではない。植物のグリーンや家具のファブリックの色合いのみならず、鉢やチェアそのものが存在感とともに場の雰囲気を豊かにしている。

家をトータルで考えることの大切さが実感できるのは、ダイニングキッチンも同様だ。キッチンは既製品ながら造作のようにしっくり馴染んでいるのは、周りとの調和をきちんと計算して選定したからこそ。

キッチン収納やテーブルの面材はリビングの造作棚と合わせたライトグレーを基調に、ワークトップやハンドル、ダイニングのランプシェードなどはマットな光沢感のあるステンレスやアルミのシルバーでアクセントとすることで、洗練されたスタイリッシュな見せ方ができている。

「自邸ですので、ぜひ見学にもいらしていただきたいですね」と宏昌さん。今回は外構の植栽やフェンス、窓際のシェードの取り付けなど、DIYも積極的に行った。実際にやってみたことで、改めてメンテナンスや万が一の対応などにも向き合い、お施主さまに合わせてより自信をもって提案できるようになったと感じている。家の機能を損なわないのは大前提として、そのうえでこれだけまっすぐに、正直にコストと向き合ってくれる建築家はなかなかいない。


撮影:澤﨑 信孝
  • 2階リビング。窓には上下に開閉自在なハニカムシェードを設置。細かいプリーツがペンダントライトとリンク

    2階リビング。窓には上下に開閉自在なハニカムシェードを設置。細かいプリーツがペンダントライトとリンク

  • リビングには籠り感が得られる場所も。ラグに寝そべったりチェアを好きな場所に移動できたりするのも魅力

    リビングには籠り感が得られる場所も。ラグに寝そべったりチェアを好きな場所に移動できたりするのも魅力

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F、ロフト間取り図

  • 断面図

基本データ

作品名
美住のすまい
所在地
東京都東村山市
家族構成
夫婦+子ども2人
敷地面積
103.02㎡
延床面積
72.86㎡+ロフト13.25㎡
予 算
3000万円台