狭小・密集地でこの開放感! 静かな朝の光と緑があふれる家

30代のご夫婦と小さなお子様2人が住む家が建てられたのは、東京都内の約15坪の敷地。コンパクトな敷地ながら家族が憩う空間は明るい陽光と緑に包まれ、驚くほどの開放感にあふれています。都会の住宅密集地に自然を感じるのびやかな空間をつくり出した、建築家・伊藤悠さんの設計とは?

清々しい朝日と緑に包まれる、特別な家族の時間

ここは、下町の雰囲気も微かに残る東京都内の住宅密集地。住宅用の敷地はどれも細かく区切られ、今回ご紹介するS邸の敷地も、約15坪とコンパクトで隣家との距離も近い。

しかし敷地の東側には、春には桜も咲く自然豊かな公園がある。設計を依頼された建築家の伊藤悠さんがまず考えたことは、どれだけこの公園を魅力的に取り込むか、だった。

「S様ご一家は、ご夫婦と小さなお子様2人の4人家族。ご夫婦は共働きで、夜以外で家族全員が揃うのは朝食の時間だろうと思いました」

毎日家族が集う食事の場を、東から差し込む静かな朝の光と公園の緑で豊かにしたい──。伊藤さんは陽光の中での食事の風景をイメージし、S邸をプランニングしたのである。

伊藤さんのプランによって完成したS邸は、スペースを有効活用できる3階建て。1階は玄関と駐輪場、バスルームなどの水まわり。2階と3階は中央に吹抜けがあり、2階は家族が集まるLDK、3階は主寝室と子ども部屋。1階に設備関連をまとめ、2階~3階におおらかな暮らしの空間をつくった形だ。

伊藤さんは公園の景色を最大限に取り込むために、東の公園側の中央に、2階から3階まで連続した大きな窓を設置した。その窓際には、滑らかなデザインの白い階段が3階に向かって伸びている。

この階段の内側、つまり、窓から少し離れた場所につくられたのが「家族揃って食事の時間を過ごす」ダイニングだ。窓際は吹抜けになっているため、ダイニングの椅子に座ると、上下左右に大きく開いた窓から見る公園の緑と、心地よいオブジェのような階段が目に入る。

まばゆい朝日が入る時間帯は特に、白い階段の向こうに緑が揺らめき、特別な時間が流れる。爽快な自然とインテリアが調和する清々しい空間が、家族だんらんの舞台になったのだ。

住宅がひしめき合う東京の下町にもかかわらず、S邸には気持ちのよい穏やかな時間が流れている。そういえば、この敷地は約15坪。S邸の室内を彩るのびやかな自然を眺めれば眺めるほど、住まいの開放感は敷地の広さではなく、設計によってつくられるのだと実感する。
  • 公園から見る外観/ガーデニングが趣味の奥様のリクエストで屋上を設置。公園側から見ると印象的な左右対称の建物の上に屋上の囲い壁が飛び出しているように見える。ダークグレーの建物の上に帽子がちょこんと乗っているような不思議さがあり、愛着が湧く外観だ

    公園から見る外観/ガーデニングが趣味の奥様のリクエストで屋上を設置。公園側から見ると印象的な左右対称の建物の上に屋上の囲い壁が飛び出しているように見える。ダークグレーの建物の上に帽子がちょこんと乗っているような不思議さがあり、愛着が湧く外観だ

  • 道路から見る外観/外壁は波板のガルバリウム鋼板を横張りにした。道路からの外観はすっきりと洗練されている。上部に覗く屋上の囲いの木製壁が帽子のよう

    道路から見る外観/外壁は波板のガルバリウム鋼板を横張りにした。道路からの外観はすっきりと洗練されている。上部に覗く屋上の囲いの木製壁が帽子のよう

  • 2階 ダイニング~キッチン/2階から3階への階段まわりを吹抜けにし、公園に面した窓は2フロア連続の大開口に。写真左のかまくらのような壁の凹みは、構造の袖壁を活かしてデザインした。春になると公園に咲く桜を連想させる、淡いピンク色に塗られている。この凹みのあたりにダイニングテーブルを置くと、窓越しの豊かな緑を眺めながら食事やお茶の時間を楽しめる。写真奥の木製キッチンはオリジナル。カウンターをダイニング側までぐるりと伸ばし、パソコンスペースとして使えるようにしてある

    2階 ダイニング~キッチン/2階から3階への階段まわりを吹抜けにし、公園に面した窓は2フロア連続の大開口に。写真左のかまくらのような壁の凹みは、構造の袖壁を活かしてデザインした。春になると公園に咲く桜を連想させる、淡いピンク色に塗られている。この凹みのあたりにダイニングテーブルを置くと、窓越しの豊かな緑を眺めながら食事やお茶の時間を楽しめる。写真奥の木製キッチンはオリジナル。カウンターをダイニング側までぐるりと伸ばし、パソコンスペースとして使えるようにしてある

機能に必要なものも、暮らしを彩るデザインに

伊藤さんがつくる住まいは、耐震・断熱といった機能や使い勝手に配慮しているのはもちろんだが、それだけでなく「空間の体験をより豊かにするような動線計画」を意識して設計しているという。ちょっとした喜びや楽しさ、ときには癒やしが、家中のそこかしこに詰め込まれているのだ。

この住宅でいえば、玄関から2階のLDKへの動線がそうだろう。1階の奥に配置された2階への階段をのぼりきると、突然、3階までの吹抜けと緑が広がる大きな窓が目に飛び込む。壁に挟まれた階段からいきなり開放的な空間に入ったときのシーンは劇的で、この住宅を訪れた人に強い印象を残す。

吹抜けの階段と窓越しの景色が一体となったダイニングも、豊かな体験ができる空間の1つだ。伊藤さんは階段にゆるやかなカーブをつけ、かつ、見通しのよいデザインにした。こうすることで3階の奥へ上がる動線と、大きな窓や吹抜けの開放感を両立。階段が窓際にあるため、ダイニングは外部から守られているような落ち着いた雰囲気に包まれている。

この階段は公園の緑を横目に、曲線の階段を行き来するドラマティックな動線が楽しく、お子様たちにとっては座って絵本を読んだりするスペースにもなっているそう。

ダイニングの壁にある大きな凹みも伊藤さんならではの発想が活きている。丸みを帯びた凹みはかまくらのようで、柔らかく守られている安心感もあるスペースだ。

ところが、「ここには耐震用の2つの袖壁があるんです」と伊藤さん。「でも、袖壁がむき出しになるといかにも構造壁のように見えてしまうので……」と、ダイニングの両脇に必要な2つの袖壁を軸に、かまくらを思わせる壁の凹みをデザインしたというのだ。

S様からは、「楽しんで住んでいます」との感想をいただくことができたという。つきつめれば、家は、寝食のベースとして機能すれば最低限の役割を果たす。しかし人生の中で長い時間を過ごす場所が「楽しい」なら、人生そのものまで豊かになるのはいうまでもない。S邸がそんな理想がかなう住まいになったのは、伊藤さんの「暮らし」への詩情と設計スキルがあればこそ、なのだろう。
  • 2階 ダイニング~リビング/階段の奥がリビング。ゆるやかなカーブを描く軽やかなデザインの階段は、景色を見ながら行き来する楽しさがある。階段まわりは吹抜けなので、2階と3階の一体感も高い。これだけ大きな窓があっても、1)適度な目隠しになる階段を窓際に配置 2)2階は窓を床まで開けず腰壁を設置 3)ダイニングをフロア奥に配置 という3つの工夫で、開放感を得ながらプライバシーも確保している

    2階 ダイニング~リビング/階段の奥がリビング。ゆるやかなカーブを描く軽やかなデザインの階段は、景色を見ながら行き来する楽しさがある。階段まわりは吹抜けなので、2階と3階の一体感も高い。これだけ大きな窓があっても、1)適度な目隠しになる階段を窓際に配置 2)2階は窓を床まで開けず腰壁を設置 3)ダイニングをフロア奥に配置 という3つの工夫で、開放感を得ながらプライバシーも確保している

  • 3階 階段まわり/ペンダントライトは伊藤さんが自作しており、天井の取り付け部分をすっきりさせている。写真中央奥は左からトイレ、収納、屋上への階段。トイレは淡い水色、階段は淡い黄色にし、表情豊かな空間に仕上げた

    3階 階段まわり/ペンダントライトは伊藤さんが自作しており、天井の取り付け部分をすっきりさせている。写真中央奥は左からトイレ、収納、屋上への階段。トイレは淡い水色、階段は淡い黄色にし、表情豊かな空間に仕上げた

  • 屋上/ガーデニングを楽しめる屋上は、囲いの壁も床も木製。公園の桜を見下ろせる位置にあり、春は花見の特等席になる

    屋上/ガーデニングを楽しめる屋上は、囲いの壁も床も木製。公園の桜を見下ろせる位置にあり、春は花見の特等席になる

お家のデータ

施主
S邸
所在地
東京都荒川区
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
50.52㎡
延床面積
97.24㎡

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