地域と共に自然と共に
日本の原風景を感じさせる家

自らが生まれ育ったまちで、ゆったりと暮らしたい。そんな施主の思いを実現したのは、日本人の心の原風景にあるような暮らしを現代の建築で叶える建築家、礒健介さん。自然体の暮らしを実現した、礒さんの家づくりに迫る。

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礒さんがつくり出す家に魅せられ
人から人への縁がつながる

緑豊かな山々、白砂青松の美しい海岸という自然環境に恵まれた福岡県古賀市。自らが生まれ育った地元で「自然と共にゆったりと暮らしたい」と思っていたNさんは、周囲には田畑が点在し、昔ながらの家が点在する場所に土地を購入、福岡の工務店に家づくりを依頼したという。

この工務店の営業担当として対応したのがTさん。実はTさんは礒さんと一緒に仕事をしていく中で、礒さんの設計や仕事ぶりに惚れ込み、自邸(「糸島の家」)の設計を礒さんに依頼された方。Nさんの実現したいことをヒアリングしていくうちに「それを実現できるのは礒さんしかいない」と思い、礒さんに「絶対に合うお客さんですよ」と話をもっていったのだという。

「Nさんとお話をしてみて、確かに好きなテイストや実現したいことが、私の価値観とマッチしていて、ぜひ一緒に家づくりさせてほしいと感じました」と礒さん。

礒さんのこれまでの建築の中には、施主から直接依頼をされる案件の他、過去に一緒に仕事をした工務店から「礒さんのテイストに合いそうなお客様」ということで紹介を受けることがしばしばあるという。

後に「柿生の家」を依頼することとなるYさんは、実はNさんのご友人。この「古賀の家」の写真や図面を見て、礒さんのつくる家にすっかり魅了されたという。自邸を作る際、東京の工務店に叶えたいテイストを伝えたところ、工務店から「そのテイストを叶えてくれる建築家」と紹介されたのが礒さんだったという奇跡の出会いを果たすのだ。

礒さんの家づくりを知る者は皆、どこか懐かしく、ゆったりとした時間が流れるような、日本人の心にしっくりくる家に魅了される。そして同じようなテイストを求める人には「それだったら礒さんに頼むのが良い」と思うのだ。礒さんの家は日本の原風景の家と言ってもいいだろう。
  • 外壁の杉板はNさん自らの手で塗った。右側のガラス戸が店舗スペース。壁の中央の木のスリットは、暗くなりがちな室内に光を導くほか、アイキャッチャーの役割も。

    外壁の杉板はNさん自らの手で塗った。右側のガラス戸が店舗スペース。壁の中央の木のスリットは、暗くなりがちな室内に光を導くほか、アイキャッチャーの役割も。

  • ダイニングキッチン部分は、あえて凹ませ軒下スペースを。日差しや雨を避けながら休憩したり、作物の仮置き場、洗濯物の干場としても活躍

    ダイニングキッチン部分は、あえて凹ませ軒下スペースを。日差しや雨を避けながら休憩したり、作物の仮置き場、洗濯物の干場としても活躍

  • 敷地左側を畑スペースに。物見台から畑の様子もわかる。ウッドデッキはNさん自らの手で作り上げたという。

    敷地左側を畑スペースに。物見台から畑の様子もわかる。ウッドデッキはNさん自らの手で作り上げたという。

周囲の町並みに馴染み
自然と共にのびやかに

N邸の土地は、付近に田畑が点在し、瓦屋根の日本家屋が立ち並ぶ地域にある。目の前の道路は、地元の氏神様への参道。その雰囲気を壊さず「地域に馴染む家」にしたいと思っていたNさん。それは礒さんの考えと一致していた。

古い町並みに、新築の家が建つとどうしても、周囲の家から浮いてしまいがち。しかし礒さんの建築は、不思議と周辺環境に溶け込み「ずっと前からそこに存在していた」かのような雰囲気をもつのだ。それは礒さんが建築において、家と自然が織りなす原風景をずっと大切にしてきたから。

N邸においては、奥行きある土地を活かし、あえて2階建てとせず、のびやかな平屋を提案。切妻屋根や杉板の塗り壁で日本家屋のテイストを持たせた。この杉板の塗り壁は、経年が進むにつれ風合いを増し、より周囲の環境に溶け込んでいくことだろう。

実はこの板塀はNさん自らDIYで塗ったのだという。自分の家の一部を自らの手でつくりあげることは、DIY好きなNさんにとっては、趣味と実用を兼ねた、とっておきの機会。きっと愛着もひとしおだろう。

そのほかのNさんの要望としては、畑や庭を楽しみたいということがあった。礒さんはそれに応え、敷地東側半分を畑のスペースとして確保。一方、隣家との間には芝を植えて、庭につながるダイニングキッチンは土間とした。こうすることで子供たちは裸足のままで室内と庭を自由に行き来したり、畑で採れた作物を土間に置いたり、軒下に設けたベンチに腰掛けてひと休みできる場も設けた。

この、のびやかな建物は、ここに住まう人々の暮らしものびやかにしたのだ。
  • 玄関から土間続きのダイニングキッチン。切妻屋根の天井からもたらされる高さが開放感を感じさせる。天井や梁、テーブルなどの木は色味を統一。温もりのある空間に仕上がった

    玄関から土間続きのダイニングキッチン。切妻屋根の天井からもたらされる高さが開放感を感じさせる。天井や梁、テーブルなどの木は色味を統一。温もりのある空間に仕上がった

  • こもるイメージのリビングからダイニングキッチンを見ると、視線の錯覚でより開放感が感じられる。室内に抑揚が生まれることで伸びやかさの中にリズムが生まれる。

    こもるイメージのリビングからダイニングキッチンを見ると、視線の錯覚でより開放感が感じられる。室内に抑揚が生まれることで伸びやかさの中にリズムが生まれる。

店舗にできる趣味室やロフトも
平屋なのに変化に富んだ家に

参道を進んでいくとN邸が見えてくる。通りに面してガラス戸のある小部屋があるが、ここは入口ではない。玄関は回り込んだ先の建物の中央付近にある。植栽の植えられた小径を進んでいくことで、訪れた人がワクワクした気分にする演出だ。また入口を入って左右に動線を振ることにもなるのだ。

では、先ほどのガラス戸は何なのだろう。実はそこは店舗の入口。この家を建てる際のリクエストとして、奥様の趣味である「糸紬や雑貨を置ける部屋がほしい」「将来的にはお店を開きたい」という要望があった。そこで礒さんは、参道に近く人目につきやすい位置にそのための部屋を設け、入口をガラス戸としたのだ。奥様の夢が叶い、今夏、生活雑貨を取り扱うセレクトショップをオープンさせるという。

では、邸内に入っていこう。土間状の通路を進んだ先に見えてくるのが、土間続きのダイニングキッチン。視線の先には、芝の敷かれた庭が広がる。ダイニングキッチンに入ると、とても開放的な空間であることに気づく。切妻屋根の傾斜をそのまま生かしているため、天井が高いのだ。天井に貼られた杉板、太い梁、テーブルや棚も色味が統一された木製のため、木に包まれた温もりを感じられるやわらかな空間になっている。その一方でキッチンは飾り気のない武骨なステンレス仕様で、厨房のような雰囲気をもつ。料亭のような雰囲気だ。

ダイニングキッチンの先には、小上がりになっているフローリングのリビング。ベンチのように腰掛けたりごろんと横になったりできる寛ぎの空間だ。この上部には屋根形状を活かした三角のロフトをつくり、収納として重宝しているという。

リビングを小上がりとして土間のダイニングと高さを変えたのは、視線の高さが変わることで空間に立体感をもたせること、閉じたリビングと開かれたダイニングキッチンというゾーニングを際立たせる工夫。室内に抑揚を生むのだ。

この小上がりリビングは、礒さんからの提案。「リクエストにはありませんでしたが、きっとこういうのが好きだろうなと思ったのです」と礒さん。価値観の近い2人の意識がピタッとはまった。

ダイニングキッチンやリビングの逆サイドは、和室や子供部屋、寝室が連なり、そして一番遠い部分に店舗用の趣味室がある。リビングやダイニングで子供たちが遊んでいても、お店のお客さんに影響のない距離が保たれている。

平屋建てとした礒さんだが、もう1つN邸に面白い提案をした。それはロフトの上部に設けた「物見台」。ロフトから外に出て屋上から外の様子を眺められるのだ。遠くの山並みや近くの田園風景、夜には星空も楽しめる。さらには、自らの畑の様子も上から一望でき、作物の状況を知ることにも役立っているという。

この家の仕上がりにNさんも「我が家を訪れる友人たちからは、いつも『素敵な家だ』と褒めていただき、とても嬉しい気持ちです」とコメントを寄せてくれた。

自分が生まれ育ったまちで、畑やDIYなどをしながら、ゆったりと暮らせる家。夢だった自分の店を開ける家。子供たちが自然体で伸びやかに暮らせる家。そして訪れた人が「素敵」と感じてくれる家。礒さんはこの家でNさん一家のいくつもの希望を叶えてみせた。

礒さんはこれからも、Nさん家族だけでなく、誰もがなつかしさを感じ心落ち着く暮らしを実現できる日本の原風景の家をつくり続けるだろう。
  • リビングは小上がり状に。ベンチのように腰掛けたり、ごろんと横になれるほっこり空間。上部には屋根形状を活かしたロフトを設け、収納や隠れ家として重宝しているという。

    リビングは小上がり状に。ベンチのように腰掛けたり、ごろんと横になれるほっこり空間。上部には屋根形状を活かしたロフトを設け、収納や隠れ家として重宝しているという。

  • 和室前のスペースも、大きな窓を開けることで外と中がシームレスにつながる。お子さんたちは裸足で室内を行ったり来たり、のびやかに暮らしている

    和室前のスペースも、大きな窓を開けることで外と中がシームレスにつながる。お子さんたちは裸足で室内を行ったり来たり、のびやかに暮らしている

  • 寝室側からリビングまで一直線に伸びる廊下。サイドからの光が入り込み明るい。

    寝室側からリビングまで一直線に伸びる廊下。サイドからの光が入り込み明るい。

  • 糸紬や雑貨が趣味という奥様の趣味室は店舗化を見据え他の部屋とテイストを変えた。もうすぐ夢であったセレクトショップがオープンする。

    糸紬や雑貨が趣味という奥様の趣味室は店舗化を見据え他の部屋とテイストを変えた。もうすぐ夢であったセレクトショップがオープンする。

  • N邸は、付近に田畑が広がり、昔ながらの瓦屋根の家が点在するまちに、ずっと前からそこにあったかのように佇む。

    N邸は、付近に田畑が広がり、昔ながらの瓦屋根の家が点在するまちに、ずっと前からそこにあったかのように佇む。

撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
古賀の家
施主
N邸
所在地
福岡県古賀市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
419.83㎡
延床面積
125.53㎡