
敷地と丁寧に向き合い、海も木々も満喫。
非日常感と快適性が両立する別荘
大きく崖に張り出した2階で
急斜面の脇にありながら安全な家をつくる
ご依頼を受け、MORIYA AND PARTNERSの森屋隆洋さんが建てたのは外形が三角形で、テントのタープのようにも見える大きな屋根が特徴的な建物「SETOYAMA」だ。
洗練されたフォルムの建物は周辺の環境としっくり馴染み、SETOYAMAがある一角の景観はとても魅力的。おしゃれなカフェができたのかと勘違いされることもあるという。
SETOYAMAは道路と崖の間の細長い斜面地に立ち、崖の下には川が流れている。道路から見ると、まるでその崖に生い茂る豊かな木々に埋もれているかにも見えるが、近くに寄ると崖からは適度な距離が取られているのに気づく。また、平屋のように見えたが実は2階建てで、2階の居住スペースが、崖に向かって宙に浮くように三角形に張り出している。
「森や自然は非常に素晴らしいのですが、近づけすぎてしまうと人がいない期間に建物自身が自然に負けて、どんどん浸食されてしまうのではないかという懸念がありました」と森屋さん。そこで、自然のテリトリーと少し距離感をもって家をつくることにしたという。
森屋さんは、家づくりでは建物に合わせて土地を変えるのではなく、敷地に建物を合わせていくほうが自然だと考えている。この土地は少し掘ると火山による硬い岩盤層があるが、崖の斜面に家が近づけば近づくほど、安全確保のために基礎は岩盤層の下まで深く掘る必要が生じてくる。「1階部分を大きく崖から離したことで深い掘り下げが不要になって、土地には過度な負担をかけずに済み、同時に家の安全性も高められました」と話す。
特徴的な三角形のフォルムも家の安全性を高めている。安全面を考慮し1階はRC造だが、お施主様が木の質感を好まれたこともあり2階は木造とした。ただ、木造はどうしてもRC造に比べて接合部が弱くなってしまう。そこで、木造部分は三角形のパネルを組み合わせるようにフレームを構成した。三角形は四角よりも構造のブレが少なく、安定した建物になるのだ。
さらに、崖側に張り出した三角形の頂点部分は鉄製の柱を設けた。強度はしっかりと保ちつつ、外観の全体的なバランスを考慮し、1本の太い柱ではなく、一見すると目立ちにくい細い2本で支えている。遠くから見ると、まるで2階部分が浮いているように見えるのはそのためだ。
海や自然を魅力的に、ドラマチックに
非日常感にこだわった居住空間
海の見え方にもこだわり、プランニング前に仮の足場を組んで2階の高さを決めた。「低いと見えないですし、高くしすぎると街並みまで見えてしまいます。なるべく、木々と海だけ見えるような高さを探しました」と森屋さん。
玄関は南北に伸びる三角形の最北端に配置した。傾斜地に立つSETOYAMAは玄関を入ると2階のLDK、リビング脇の階段を下りれば1階だ。
この玄関からの視界がすごい。正面の南の大開口からは雄大な海の景色。しかも森屋さんは邸内を、北から南にかけて天井高も横幅も徐々に広がるように計画。高さを抑えた玄関から海に向かって一気に空間が広がり、海の景色をひときわ臨場感がある、印象的なものにしている。
海を望む南側は光が入りすぎないよう、庇を深く取った。ゆったりくつろぐのが別荘の醍醐味であり、細かい作業などはしないだろうと、敢えて室内空間は若干暗めに計画している。結果、暗いトンネルの中から明るい海が見えたときのような感動が得られ、海の景色がドラマチックなものになったという。
一番の魅力である海を存分に楽しめるよう、海側の窓の外にはテラスを配置した。またテラスの横には浴室を計画。2面がガラス張りの浴室は、露天風呂のような開放感を味わえる。さらに、この土地の魅力のひとつである温泉を引き込み、のんびりと疲れを癒すために最高の環境を整えた。
室内で享受できるのは海の景色だけではない。崖側に張り出した壁面のすぐ横には、自然そのままの、手付かずの木々が生い茂る。その景色を生かすべく、崖側の全面に窓を開口した。「安全を確保するのはもちろんのこと、海への眺望を確保しながら森の景色も楽しめるようにしました」と森屋さんは話す。
もともとのご要望だった海の景色に加え、高原のような自然も感じられるSETOYAMA。この土地、この敷地だからこそ実現した贅沢な空間は、まさに非日常を過ごす別荘としてふさわしいといえる。
別荘だからこそ優先したい部分と
快適性・機能性を両立させるプランニング
お施主様は、普段は人口の多い街で暮らしていらっしゃるという。喧騒を離れた別荘では、人の視線を気にせずに過ごせることが重要だと考えた森屋さん。崖の向こうには実は背の高いマンションがあるが、建物を覆うように屋根を深く下ろし、SETOYAMAとマンションの視線が交わらないようにしている。
崖の下を流れる川からは、ひんやりとした風が上がってくる。宙に浮くような構造を生かし、リビングの崖側の窓際には自然換気口を3つ確保。玄関扉も、網戸を内側に設け二重にした。防犯対策として網戸にも鍵をつけてあり、気兼ねなく玄関を開け放てる。自然換気口と玄関を開けると夏場も気持ちよく風が抜けるという。
お施主様の「庭仕事をしたい」というお望みに対しても、細やかな配慮で応えた森屋さん。玄関とは別に1階のテラスにも出入口があり、そこから2階へ直接上がれるようになっている。テラスから階段を上がってくると2階のトイレや浴室スペースの前に出るため、庭仕事の後はお風呂でさっぱり、といった流れがとてもスムーズに行える。
加えて、道路側の壁面とリビングダイニングの間には、玄関まで一直線にタイル張りの通路がある。通り土間のようにちょっとした汚れ物も置けるスペースになるのはもちろん、外部から繋がる空間とリビングダイニングとを緩やかに区切る役割を果たし、2階の使い勝手と過ごしやすさを格段に向上させた。
最後に、日常を過ごす自宅と別荘をつくるときでは、プランニングに違いは出るのか尋ねてみた。答えはYES。事実、求められることが違うという。別荘は自然の中に建てることが多く、一般的な住宅よりも非日常感を優先し、周りの環境とどう向き合うか、この敷地をどう生かすかに主眼が置かれる場合が多いのだそうだ。
しかし、SETOYAMAではどうだろう。最高の景観を手に入れながら、心地よい空間をつくり、家の機能も申し分ない。何かを優先させるというより、全てを優先させたというべきなのでは、とさえ感じてしまう。
お施主様についても、ご要望についても、さらには敷地についても、敬う気持ちを持って丁寧に向き合い、ひとつひとつ読み込んでいく。SETOYAMAは、森屋さんの家づくりに対する姿勢がそのままに表れた、森屋さんらしさに溢れる別荘なのではないだろうか。
基本データ
| 作品名 | SETOYAMA |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県伊東市 |
| 敷地面積 | 2060.94㎡ |
| 延床面積 | 101.33㎡ |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
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