暮らし方はそのままに、思い出の母屋を一新
桜を望むテラスを備えた「風が通る家」

T邸が建つのは、埼玉県・所沢駅から徒歩圏内にある住宅地。古くからの農家の屋敷が多く、住民同士の交流や文化が色濃く残る土地だ。設計を担当したのは、mizmiz design・水野憲司さん。水野さんが家づくりにあたって大切にしたのは、長くこの土地で暮らしてきたTさんの「暮らしの物語」を丁寧に想像し、それを新しい家で再現することだった。

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暮らし方や生活動線を想像し
ストーリーを提案する

長く住んでいた母屋が老朽化してきたため、建て替えを決めたTさん。家づくりにあたって設計を依頼したのが、水野さんだった。水野さんに伝えられた要望は、「もともとの母屋にあったような、玄関脇の来客用スペース、趣味の農作業などができる縁側。そして、開放的で風通しが良く、暑さや寒さにも万全な住まい」だったという。

以前の住まいのライフスタイルは変えずに、新たな住まいを構えたい。そんなTさんの希望を聞いた水野さん。設計に入る前にまず行ったのが、Tさんの暮らしの物語を想像することだったという。家づくりをするときは必ず、家族の生活を思い浮かべながら空間のしつらえを考え、暮らしのストーリーを提案するという水野さん。
「いつも、お客様の物語に参加させていただいて家づくりをしていきたいと思っているんです。そのために、打合せの時に聞く音楽や好きな服、ブランドなどを聞かせていただきつつ、イメージを広げていく感じです」と話す。

打合せの中で水野さんが捉えたTさんの暮らしの物語には、Tさんの古くからの人付き合い、交流があったそう。「今はコロナ禍で減っているようですが、Tさんのお宅には来客が多く、人を招いたときの動線などをしっかり考えたプランが必要だと感じました」。

そこで水野さんが考えたのが、可動式の間仕切りを活用し、来客によって可変する空間をつくるというユニークなプランだった。
  • リビングとダイニングの間には可動間仕切りがあり、空間をフレキシブルに変えることができる。リビングの壁は高いところは白めにして光を入れ、低いレベルのところは落ち着いた色で変化を出した

    リビングとダイニングの間には可動間仕切りがあり、空間をフレキシブルに変えることができる。リビングの壁は高いところは白めにして光を入れ、低いレベルのところは落ち着いた色で変化を出した

  • 周囲の環境に溶け込む漆喰の外観。地域にはたくさんの漆喰づくりの家があり、この辺りの気候・風土にも合うのではと採用した

    周囲の環境に溶け込む漆喰の外観。地域にはたくさんの漆喰づくりの家があり、この辺りの気候・風土にも合うのではと採用した

  • 応接室には必要に応じて広げて使えるよう、折りたためるテーブルを設置

    応接室には必要に応じて広げて使えるよう、折りたためるテーブルを設置

南北に広い開放部を設け実現した
光と風が通る心地よい住まい

まず建物はTさんの年齢を考え、上がり下がりのない平屋にすることに。また、Tさんから「100年以上持つ家にしたい」という要望があったことから、複雑な構造は避け、屋根と建物の形も最大限シンプルに抑えることにした。大屋根を掛け軒を深くすることで、雨や夏場の日差しから住まいを守り、外壁の熱負荷を少なくするという細やかな工夫もされている。

南北に広い開口部を設けることで風通りが良くなるよう工夫されているT邸。桜の名称として知られる東川に面している敷地の北側にはテラスを設置。春には桜を見ながらくつろげる空間が出来上がった。「川は見えないのですが、川のせせらぎは聞こえます。ちょうど打合せをしたときが春だったので、桜を見ながら過ごせる、京都の川床みたいな場所を作れたら…と思い、テラスを設置することにしました」。と水野さん。このテラスはゲストルームとダイニングに面しており、さながらアウトドアリビングといった雰囲気だ。

そして、反対の南側、主寝室とリビングに面する場所には、光沢のあるタイル張りの濡れ縁を設置。タイルを用いたのは、差し込む日差しをタイル面の反射により内部空間が明るくなるようにという配慮からだという。

ちなみにこの濡れ縁の前には、雨垂れ石として薄いピンク色の天然石が敷き詰められている。「桜のシーズンになると、東川にたくさんの桜の花びらが浮かびます。この天然石はその花びらをイメージして選びました」とのこと。素材にもストーリーを持たせるところは、まさに水野さんならではといえるだろう。
  • 東川方面に設けられたテラス。春には川のせせらぎを聴きながら桜を眺めることができる

    東川方面に設けられたテラス。春には川のせせらぎを聴きながら桜を眺めることができる

  • 濡れ縁。暑さ対策で軒を深くしている分部屋の中が暗くなるため、光沢のあるタイル張りを採用。反射した光を中に取り入れるよう工夫した。濡れ縁の前は家庭菜園などにも使えるよう余白を設けている

    濡れ縁。暑さ対策で軒を深くしている分部屋の中が暗くなるため、光沢のあるタイル張りを採用。反射した光を中に取り入れるよう工夫した。濡れ縁の前は家庭菜園などにも使えるよう余白を設けている

  • リビング。ダイニング上の方にも窓があるので、開放感あふれる明るい空間になっている

    リビング。ダイニング上の方にも窓があるので、開放感あふれる明るい空間になっている

可動式の間仕切りを活用し
スペースの可変を実現

ここで改めて、T邸の間取りを見てみよう。家の顔でもある玄関には、将来を考えてスロープと階段の両方を設置。ポーチの前には目隠しをかませ、しっかりと外からの視線を遮っている。

水野さんがデザインしたモダンなドアを開くと、そこには広々とした玄関スペースが。大きなシューズインクローゼットを備えているため、すっきりとした印象を保つことができる。

この玄関の横に設けられているのが、Tさんの要望にもあった応接室である。T邸には地域の人、仕事関係の人、友人知人などいろいろな来客が来訪するということで、来客者の親密度によって招き入れる空間を変えることが多いとのこと。家に招き入れない来客には、ここだけで対応することができるようになっているのだという。

ホールを介して右手には、同居している長女の寝室、親戚が泊まるゲストルームが続く。生活リズムが違うTさんご夫婦の主寝室と長女の寝室の距離を離すことで、プライバシーを確保しているそう。トイレもゲスト・長女用トイレとTさん夫婦用と2つ設けられており、お互いに程よい距離感を保てるようになっている。

そして、左手に設けられたのが、広々としたリビングダイニングと、Tさんご夫婦の主寝室である。リビングダイニングには可動式の間仕切りが設けられており、来客が来る時間や親密度によって、フレキシブルに開いたり、閉じたりすることができる。「来客があるときでも他の家族がお風呂やキッチンを使えるよう工夫しました」と話す水野さん。来客時の家族の過ごし方、生活動線まで考え尽くしたからこそ、生まれたプランといえるだろう。

その甲斐あって、最終的には希望通りの住まいが完成。Tさんも「想像以上に素敵で快適な住まいが完成し、この家での暮らしを毎日楽しんでいます。親戚や友人が訪れると必ず素敵な家ですね。と言われるので嬉しいです」と話してくれているという。

お客様のご要望に寄り添うことをモットーにしているという水野さん。最後に、「建築家に頼むのは敷居が高いと思うかもしれませんが、一緒に理想の住まいをつくり上げていけたらと思っています。暮らしの風景を一緒に描いていきたいですね」。と笑顔で話してくれた。
  • 和のフォルムながらデザイン性を出すため、現代的なステンレスの壁を用いて今風にした。ドアのデザインも水野さんの手によるもの

    和のフォルムながらデザイン性を出すため、現代的なステンレスの壁を用いて今風にした。ドアのデザインも水野さんの手によるもの

  • 大理石を用いたモダンな作りの玄関。扉付のシューズインクローゼット。玄関周りに靴を置く必要がなく、すっきりと見せられる

    大理石を用いたモダンな作りの玄関。扉付のシューズインクローゼット。玄関周りに靴を置く必要がなく、すっきりと見せられる

  • 食事時に来客が来たときは、リビングとダイニングを仕切ってプライベートを確保することもできる

    食事時に来客が来たときは、リビングとダイニングを仕切ってプライベートを確保することもできる

  • ホテルのゲストルームのようなTさんご夫婦のベッドルーム。姿見に庭の緑が映るよう工夫されている

    ホテルのゲストルームのようなTさんご夫婦のベッドルーム。姿見に庭の緑が映るよう工夫されている

撮影:JINGU Ooki

間取り図

  • 間取り図

基本データ

作品名
東新井の家
施主
T邸
所在地
埼玉県所沢市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
1116.06㎡
延床面積
147.75㎡
予 算
5000万円台