光と風が心地よく通る!
傾斜地を生かした「土間のある家」

ずっとマンション暮らしだったこともあり、憧れの一軒家を建てることを決意したⅯさんご夫婦。希望したのは、趣味の革細工や裁縫をするためのワークスペースと外につながる庭がある家である。購入した土地は、東側に位置する川に向って緩やかに傾斜する敷地。設計を担当した平山教博さんがトライしたのは、土地の利を生かし、光と風が心地よく通る家づくりだった。

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東西の隣棟感覚を広めに取ることで採光・通風を確保

懐かしい日本家屋を思わせる、三角の切妻屋根が印象的なM邸。施主である40代のご夫婦と、9歳になる息子さんが住まう新居である。生まれてからずっと共同住宅暮らしだったMさんが、長年の夢である一戸建てを建てることを決意したのは2017年のこと。設計を依頼したのは、Mさんの建築学校時代の同級生である建築家の平山教博さんだ。

平山さんが1軒目に建てた家を見て、そのテイストを気に入っていたというⅯさん。希望したのは<庭と土間のある家>だったという。この話を受けて「マンション住まいが長かったMさんだけに、外と室内のつながりや広がりを感じられる住まいを望んでいるのだろうと感じました」と平山さん。その要望を叶える形で完成したM邸は、柱に檜、床にタモ、建具や仕上材にラワンを用いた、シンプルで素朴ながらとても温かみのある仕上がりだ。「等身大の家にしたかった」という平山さんの意図により、建物の高さも少し抑えられているのだという。

それでは、Ⅿ邸の中をご紹介しよう。階段を上がり、玄関をくぐると、そこに広がるのはモルタル敷きの土間スペース。靴を脱いで上がるものの、外から地続きになることをイメージしてつくられた。ここはもともと革細工を趣味にしているご主人や、裁縫を趣味にしている奥様のワークスペースとして設けられたが、<もう1つのリビング>という意味もあるのだそう。「リビング以外にももう1つ、家族が集える場所をつくりたかったんです」と話す平山さん。その意図通り、家族が集まり、思い思いの時を過ごせる場所となっている。

ちなみにⅯ邸の面白いのは、寝室の床まで土間仕様というところだ。「本当は水回りの床も土間で統一したかったのですが、水などがこぼれてシミが出来るなどの問題もあるため、断念しました」。とほほ笑む平山さん。土間を取り入れる設計は多いが、寝室まで土間というのは珍しいだろう。そして、この土間の向こう、南側には庭が設けられており、大きな窓から緑を眺めることができる。さらに土間の奥には、畳の小上がりが。こちらもMさんの要望として挙がっていた、畳の和室を叶えたものだという。「この和室には、いい西日が入るんです」と平山さん。この光の入り具合は、平山さんの設計上のこだわりでもあるのだそう。「東西の隣棟間隔をしっかり確保することで、必要な光や風を取り込めるんです。そのために、通常より広く間隔を取りました」。

さらに「外観は庭に対して一階よりも二階を少し後ろに下げる設計にしています。これにより、一階の土間における穏やかな光の空間に対して、二階は程よい直射光を取り込み上下に抑揚のある空間のつながりがあるよう考えました」と話す平山さん。その光へのこだわりは建物の中だけにとどまらないのだ。
  • 素直なフォルムの切妻屋根が印象的な庭側の外観。人間の大きさに対して建物が大きくなりすぎないよう少し建物の高さを抑えた設計となっている

    素直なフォルムの切妻屋根が印象的な庭側の外観。人間の大きさに対して建物が大きくなりすぎないよう少し建物の高さを抑えた設計となっている

  • 外とつながるモルタル敷きの土間スペース。ご夫婦の趣味のワークスペースとして、家族が集まる第2のリビングとして、使い方はいろいろ

    外とつながるモルタル敷きの土間スペース。ご夫婦の趣味のワークスペースとして、家族が集まる第2のリビングとして、使い方はいろいろ

  • 土間の奥には畳の小上がりスペースも。庭を眺めながらごろごろと寛ぐことができる

    土間の奥には畳の小上がりスペースも。庭を眺めながらごろごろと寛ぐことができる

「老後は1階だけでも暮らせる!」将来も見据えた設計

1階にはこのほか、夫婦の寝室と水回りが配されており、収納部分にキッチンを設ければ基本的には1階だけでも生活できるようになっている。これは、子どもが独立した老後、2階に上がらなくても暮らせるよう考えてのことだそう。玄関横の階段を上がると、2階にはキッチンとLDK、そして子ども部屋が。ユニークなことに、子ども部屋の入口がキッチンの奥にあり、子どもは常にキッチンを通って部屋に行くようなつくりとなっている。本来はキッチンを通らない場所に入口を設けようとしたそうだが、子どもが独立した後、ここを家事室としても使えるようにするため、このようなつくりになったのだという。

そして、このリビングでとても印象的なのが、庭側に設けられた張り出し窓である。窓際には腰掛けることができる畳のベンチも設けられており、ここに座ると1階の庭を見下ろすことができる。日向ぼっこをしたり、読書をしたりもできる、ちょっとした寛ぎスペースだ。
この窓のほか、ダイニングスペースにも窓が設けられており、こちらは斜面方向に向いているため、開放的な景色を眺めることができる。「斜面の向こうには、川が流れているんです。この川から流れてくる風を軒が受けて、この窓から入るよう意図して設計しました。さらにこの風は西側の窓に抜けるよう考えています」。

光、風、景色。それぞれに細やかに配慮されたM邸に暮らし始めたⅯさんご一家。さっそくお子さんのお友達が遊びに来て、土間やリビングで賑やかに遊んでいるという。また、平山さんが意図した光の入り方や風の通りにも、大変満足していらっしゃるそう。ご夫婦は庭で草木を植えたり、自転車を洗ったり。新居での生活を楽しんでいるそうだ。
「とても大切に住んでくださっていると聞いて、嬉しかったですね」と平山さん。心地よい等身大の家で、これからも幸せな家族の歴史が刻まれていくことだろう。
  • 土間から玄関側を見たところ。外と土間が連続しているようイメージされている

    土間から玄関側を見たところ。外と土間が連続しているようイメージされている

  • 2階のLDKとキッチン。キッチンのドアの向こうには子ども部屋が配されており、お子さんはキッチンを通って部屋に入るユニークなつくり

    2階のLDKとキッチン。キッチンのドアの向こうには子ども部屋が配されており、お子さんはキッチンを通って部屋に入るユニークなつくり

  • 出窓の下は腰掛けられる畳敷きとなっており、見下ろすと庭の景色を楽しむことができるよう工夫されている

    出窓の下は腰掛けられる畳敷きとなっており、見下ろすと庭の景色を楽しむことができるよう工夫されている

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

  • 断面図

基本データ

施主
M邸
所在地
神奈川県横浜市戸塚区
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
184.73㎡
延床面積
90.26㎡
予 算
2000万円台