
10年ぶり二度目の家づくりは予算大幅減額
困難を克服し叶えた明るく開放的な住まい
「ha」 hosaka hironobu architect associate
思いがけぬ展開で二軒目の家づくり
迷わず選んだのは前回の建築家
差出人はMさん。保坂さんが以前勤めていた設計事務所時代のお客様だった。
文面には「もう1軒、家を設計していただくことは可能ですか?」と書かれていた。
「担当者変更により私が引き継がせていただいたお客様でした。一から設計プランを見直し、新たにご提案させていただいたこともあり、思い入れの深いお客様でした。その後私は独立の道を選んだのですが、約10年という月日を経て、わざわざ私のホームページを探してご連絡をいただいたようで、本当に驚きと喜びを感じました」と保坂さんは当時を振り返る。
Mさんが、二件目の家づくりを決意したきっかけは、双子のお子さんたちの進学だった。進学先の中学校は、中野区の自宅からは距離があり、毎日の通学は厳しい立地にあった。そのため当初は、数年間中野の家を賃貸に出し、Mさん家族は学校に近い場所で賃貸生活を送り、いずれ戻ってくるというライフプランを立てていたという。
中野の家を貸し出すにあたり不動産会社に相談をする過程で、担当者から意外な依頼があった。「売却するおつもりがないのは重々承知ですが、とりあえず売るとした場合の金額の設定をお願いできないいでしょうか?」と。
Mさんは売却するつもりは毛頭なく「こんな高値では誰も買わないだろう」という金額を設定したところ、数日後「買いたいという人が現れました!」との連絡が入ったのだという。
この予想もしていなかった事態にMさんの心境は大きく変化。「これならば、この家に戻ってくることをやめて売却し、通学に便利な土地で保坂さんに新たに家を設計してもらおう」と考えたのだという。
家は一生に一度の買い物と言われる。そんな中、偶然のめぐり合わせから二軒目の家づくりに臨むことになったMさん。選択肢は数多くあっただろう。しかしMさんの心に揺らぎはなかった。選んだのは、元の設計事務所ではなく、あの時担当してくれた保坂さんその人だった。10年の時を経ても依頼したいと思わせたのは、保坂さんが手がけた一軒目の家への高い満足度と、保坂さんの設計力・対応力への信頼の証といえるだろう。
理想のプランから一転、大幅減額
それでも諦めなかった建築家魂
今回Mさんは、土地探しの段階から保坂さんに相談。3~4カ月の間に5か所ほどの候補地を検討したものの、決定打となる土地に出会えずにいた。そんな中、現れたのが王子神谷駅至近の一画だった。
両隣にハウスメーカーの住宅が建設中で、その中央の細長い敷地。間口が狭く奥に長いという、一見すると制約の多そうな土地だった。しかし保坂さんはこの土地の可能性を感じていた。「ちょうど用途地域の境目で、南側は2階建て、こちらは3階建てが可能な土地。上部から光を上手く取り込むことで明るく開放感ある家にできると確信しました」と保坂さん。
実は保坂さんは、土地を持たない施主が建築家に家づくりを依頼するときには、Mさんのように先に建築家を選び、その建築家と一緒に土地を探すことを推奨している。
「多くの方が先に土地を購入してから『誰に頼もうか?』と考えはじめますが、私はその順序は逆だと考えています。建築家が施主と一緒に土地のポテンシャルを見極めることで、結果的に良い家づくりになるケースが多いです」と保坂さんは語る。
建築の専門知識を持たない施主の目には好条件に映る土地でも、思わぬ落とし穴が潜んでいることがある。逆に、変形地や高低差があるなど敬遠されがちな土地でも、建築の力で魅力的な住まいをくることは可能だ。プロの目線が土地の真価を見抜くカギとなるのだ。王子神谷でのM邸のプランニングが始まると、Mさんから保坂さんに詳細な要望書が渡された。そこには「明るく開放的で、修理修繕費が少ない終の住処」というコンセプトと、広いリビング、テレビとの適切な距離、スケルトン階段、洗濯物が干せるテラスといった、各部分の具体的なリクエストが記載されていた。そして何度も登場したのが「中野の家のイメージを引き継ぐ」という表現。それは、中野の家への深い愛着を物語るものに他な
らない。
これらの要望を汲み取りながら、Mさん家族と共にプランを練り上げていった保坂さん。まとまった基本設計は、明るさと楽しさに満ち、家族の夢が詰まったものとなった。
しかし、この喜びもつかの間、Mさんご家族も保坂さんもどん底の気分を味わうこととなる。理由は予算の大幅な削減。それは家づくりそのものが危ぶまれるほどの減額要請だった。
「私自身も大きなショックでしたが、何より辛い思いをされたのはMさんご家族だったと思います。せっかく気に入っていただいていたプランを、できるだけ近い形で実現させてあげたい。その一心でした」と保坂さんは語る。
当初の設計コンセプトを踏襲しながら大幅なコストダウンを図るという相反する難題。保坂さんは設計を一から見直すとともに、建材や設備の選定を検討。こうした努力の積み重ねにより、ついに予算内に収まる新たなプランが誕生。気に入っていた元のプランの柱となる部分は守られ、Mさんご家族は大いに喜んだという。
困難を克服し叶えた家族の夢
明るさと開放感に満ちた終の棲家
中野の家を思い起こさせるその佇まいは、白い箱を2つ重ねたようなシンプルで洗練された外観。道路に面した部分には窓を設けず、玄関も奥まった部分に設けるなどプライバシーに配慮した。バルコニーの開口と3階の窓の大きさを統一するといった、細かな部分にまで保坂さんの美学が貫かれている。
扉を開け邸内に入ると目に飛び込んでくるのが、1階とは思えないほど明るく清涼感のある玄関。南側に設けられた窓と階段上から降り注ぐ光が、白い壁に反射し、空間を柔らかく照らしている。両隣を住宅に囲まれ、道路側にも窓がないにも関わらず、こんなにも光に満ちた1階空間を創り出した。「こんなところからも光が」と驚かせる保坂さんの設計力の真骨頂がここにある。
このほか、1階には洗面やバスルームといった水回りやMさんご夫婦の寝室が配置され、静かにプライベート時間を過ごせる構成となった。
階段を上り2階へ上がると、閉じられた印象の外観からは想像もつかない光景が広がる。思わず「おおー」と声をあげてしまいそうなほど明るく開放的な空間のLDKが広がるのだ。約22畳という実寸以上の広がりを感じるのは、吹き抜けがもたらす縦方向の伸びやかさと、ピクチャーウインドウが生み出す視線の抜けによるものだろう。ピクチャーウインドウの先には、青空が広がり、「大空がつかまえられそう」なくらいだ。Mさんが切望した「明るく開放的な空間」が、ここに実現した。
「このピクチャーウインドウは、当初は特注の予定でした。予算調整のため止む無く既製品に変更しましたが、外にシャッターを設けることで、網入りの防火ガラスではなく、クリアなガラスの仕様を可能としました」と保坂さんは説明する。
LDKの道路側には、テラスと収納スペースが配置されている。テラスは、洗濯物を干したり観葉植物を育てる場としての実用性と、道路側から適度な距離をとるためのバッファゾーンとしても機能する。プライバシーを守りながらも陽の光が入るよう、大きな開口と吹き抜けとした。
「収納スペースは、構造の耐力壁部分を有効活用しました。リビングのすぐ近くに収納を設けることで、日常の雑多なものをすぐに片付けられ、常にすっきりとした空間を維持できます」と保坂さん。
一方奥まった部分にあるのがキッチン。2列型のレイアウトはコストを抑えつつデザインの統一を図るため、既製品と造作部材をハイブリッドさせた。
スケルトン階段を上った先の3階は、双子のお子さんの個室フロア。視線の先には、四角く切り取られた壁の向こうに、さらに四角いフレームが重なって見える構成が印象的だ。開口の連続が生み出すリズムが、空間に豊かな表情を与えている。
「吹き抜け上部の四角いフレームは構造的な役割を担うと同時に、この住まいのデザインアイデンティティでもあります。外壁の四角い開口、室内の様々な四角い開口—それらの連なりが生み出すハーモニーを、気に入っていただけました」と保坂さん。
大幅な予算削減という制約下では、どうしても機能面ばかりに意識が向きがちになる。しかし保坂さんは、限られた予算の中でもデザイン性の豊かさを追求することを諦めなかった。機能美とデザイン性を両立させた、保坂さんの力量には驚かされる。
完成後の暮らしについてMさんからは「保坂さんのおかげで本当に毎日すっきりと気持ち
よく過ごさせていただいております!」との喜びの声が寄せられた。
一度は実現が危ぶまれた10年越し二度目の家づくり。Mさんの理想の終の棲家が生まれた。これは保坂さんの卓越した設計能力、そして施主への深い思いやり。そしてに諦めずにやり抜く強い意志。保坂さんの建築家としての真価が、不可能とも思える困難を克服し、理想の実現に導いたのだ。
建築家の手による家づくりを検討しているあなた。土地を取得する前に保坂さんに相談することが、理想の家づくりの第一歩となることだろう。
基本データ
| 作品名 | 大空をつかまえる家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都 北区 |
| 敷地面積 | 57.39㎡ |
| 延床面積 | 95.22㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
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