
受け継がれる家の第一走者としての新築
広く将来を捉え、自由自在に変化する住まい
次世代へリレーのバトンを渡す気持ちで
長く住み継がれる家をつくる
今回紹介する「鴨江の箱襞」のお施主さまとの出会いも、「ヤドカリプロジェクト」がきっかけだった。相談を受けた当初は、やはり空き家を購入してのリノベーションを希望されていたが、タイミングが重なり、新築で建てることになったのだという。
「空き家の改修で培った知見を、新築でも生かしたいと考えていました」と白坂さん。それは、「家は長く住み継がれるべき」という白坂さんの考えに共感する、お施主さまの大きな要望でもあったそうだ。
新築でもリノベーションでも、受け継がれていく家をつくることには変わらない。家はリレーのバトンのようなものだと白坂さんは語る。誰かからのバトンを受け取り、次につなげる第二走者、第三走者となるのが築古の空き家の改修であり、スタートを担うのが新築なのだ。こうして、将来を広い目で捉え、次世代のために可能性に満ちた家をつくるプロジェクトが始まった。
家の性能を長く維持できることはもちろん
改修しやすさも重視したプランニング
まずは選ばれなくては、この家もいずれ空き家になってしまうかもしれない。そこで、この「鴨江の箱襞」も間取りをどう変更しようか、どう改修しようかと次の世代がワクワクするくらいに使い方の可能性が広がる家を目指したとのこと。もちろん長期優良住宅の性能は備えたうえで、だ。
お施主さまの要望は、「ゆとりある駐車場」「家に面した道路に向かっては窓を極力少なくすること」「土間空間に4畳程度の書斎が欲しい」など。これらを叶えながら完成したのは、大・中・小と3つの片流れ屋根が並ぶフォルムの家だ。一番小さな屋根の下には土間玄関や書斎がある。また、中・大の屋根の下には個室やLDKを設けた。水回りは正方形にまとめて中の屋根の下あたり、家の中心に配置。その周りを個室やLDK、駐車スペースである庭で囲っている。
水回りの位置には、もともとは中庭をつくる計画だったという。中央に置くことで、個室やLDKなど他のエリアと適切な距離感が保てるようにしたかったとのこと。計画が進むうちコストの関係で中庭でなく水回りとなったが、かえってそれがよい方向へ働いたそうだ。
というのも、他のエリアで過ごす人と干渉せずに水回りを共有できる環境ができたおかげで、複数の利用主体による「シェア運用」を、なおさら考えやすい形式になったからだ。家族が暮らす家としてだけでなく、建物の用途そのものの可能性を広げることができたと白坂さんは話す。
もちろん、リノベーションのしやすさにおいても申し分ない。コンクリート基礎とブロック基礎を組み合わせ、拡張・分離がしやすいようにした。出入口を増やすことも容易く、まさに自由自在に家を変化させられる。
次に受け継いだ世代が、まるで宝を見つけたかのように興奮しながらプランを考える様子が目に浮かぶ。特徴的なフォルムのこの家は、長い時間をかけてこの町のシンボルのようになるのではないだろうか。
3連の片流れ屋根から豊かに光が。
ありのままを受け止める大らかな住まい
連続する片流れ屋根は、実は中庭が水回りに変更になったことから内部に光を届ける意図で計画されたもの。屋根それぞれの一番高い場所にハイサイドライトを設け、3か所から家の中へ光を落とすことを叶えた。窓は南側にあるおかげで光量も豊か。伸びる光と影の具合やその強さで時間や季節の移ろいが感じられるだけでなく、月が眺められるとお施主さまはお喜びだそう。
また最近ではゲリラ豪雨も多いことから、連続する屋根と屋根の間を太い樋として活用することにした。大雨が降っても一気に流れ落ちていくため、雨漏りの心配もない。
唯一無二の心地よさが感じられる理由はほかにもある。内部空間は仕上げすぎず、梁、柱、配管まで全てがありのままに見えている。するとどうだろう。住まう人の暮らしも、ありのままを受け止められる家になったのだ。生活そのものが愛おしくなる家、といえるかもしれない。
「片付けなければ写真が撮れないというような家にはしたくなかった」と白坂さん。構造材を表しにしたことにより木の温もりが存分に感じられる室内。しかし、木目ばかりでは単調な雰囲気になってしまう。
そこで、配管の金属などをアクセントとして生かし、さらに家の東西面のみ柱や梁に白い塗装を施した。無機質な素材が加わることで逆に居心地よく感じられるのが面白い。また、塗装によって片流れ屋根をつくる規則的な骨組みが認識しやすくなるという。窓から落ちる光や、梁や柱、素材の組み合わせから空間にリズムが生まれ、暮らしがますます楽しくなる。家に対する愛着もより強くなることだろう。
構造材を表しにした利点はもうひとつある。「改修時に気になるのはシロアリが発生していないか、木材が腐っていないかなどです。仕上げを施していると壁や天井を剥がすなどして確認しなくてはなりませんが、これならすぐにわかりますから」と話す。さらに配線、配管もルートをつくり、ラックや床の一角にビス留めしまとめたおかげで改修時はもちろん、日々のメンテナンスもしやすくなった。
この家に初めに住まうお施主さまを大切にしながら、自分が行く末を知ることができないだろう遠い未来まで受け入れ、無限の可能性をヒントのように散りばめておく。他の建築家と一線を画す、白坂さんの家づくりに対する姿勢。しかしその考え方は、空き家の問題がさらに大きくなりつつある現代で一番求められるものに違いない。
撮影者:大塚 敬太
基本データ
| 作品名 | 鴨江の箱襞(はこひだ) |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県浜松市 |
| 敷地面積 | 261.95㎡ |
| 延床面積 | 95.21㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供3人 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

“当たって砕けろ”と人気建築家にチャレンジした結果、理想以上の家が予算内で。
夫婦ともにマンション育ちで、一戸建てライフに憧れがあったNさん夫妻。当初は主に建売住宅を検討していましたが、雑誌で見た建築家・松本直子さんの建てた家に釘付けに。予算的にためらいがあったものの、思い切って松本直子建築設計事務所の扉をたたきました。

穏やかな光と爽やかな風が入る家を、建物に囲まれた旗竿地で?
建物に囲まれた旗竿地に建築家の多羅尾直子さんがつくったのは、2階の書斎を中心とした明るく爽やかな住まい。在宅中はほとんど書斎で仕事をしている大学教授と、ガーデニングや家庭菜園が趣味というご両親が、心地よい光と風と共に快適な暮らしを楽しんでいる。

洋の家具もしっかり馴染む!上質で快適な”和”空間づくりとは
Mさんご家族は、30代の共働きご夫婦と小さなお子さん2人の4人家族。「四季や自然を感じられる、飾り気のない住まいを」という願いを受け、日本ならではの自然素材を用いた住宅建築を展開する建築家・加藤武志さんがつくりあげたのは、まさに「人、自然、家が一体となる安らぎの空間」だった。

『生活予想図』から生まれた!?自然素材の“行き止まりのない家
「内装から断熱材まで自然素材にこだわりたい」。小学生の息子さんを持つKさん夫妻の要望に応えて建築家の福田義房さんがつくったのは、地元・埼玉の木材など国産素材をふんだんに使った住まい。シンプルで、おおらか。住む人(や、猫)と共に変化する、家族のようなお家。

飼い主も5匹の猫も、楽しく健やかに。 猫が生き生き暮らす「猫的町並み」のある家
5匹の猫と暮らすKさまの家は北欧ヴィンテージ感のある素敵な住まいだが、実は、猫が喜ぶ「猫的町並み」が展開されているという。設計を担当した犬猫専門建築家の廣瀬慶二さんに、K邸から読み取れる「猫と暮らす家」のセオリーを教えてもらった。

快適と省エネを両立した高性能住宅のポイントは、”窓”にあり!
建築家に家を頼みたいと思っていたものの、断熱性など住宅性能面に不安を持っていたというAさん。高断熱・高気密の家を建ててくれる建築家を長年探していたなか、ようやく出会ったのが建築家の河辺近さんでした。

二世帯、つかず離れず快適に。ジグザグ曲がった大きな平屋
広大な敷地に建つK邸は大きな平屋の二世帯住宅。中庭をぐるりと囲む建物は曲がりくねった独特のラインを描き、民家とは思えないほど洗練されたアーティスティックなデザインが特徴だ。だが設計した清正 崇さんによると、この形は二世帯だからこそ頭に浮かんだものだそう。 “長く、心地よく暮らせる二世帯住宅”は、なぜこの形になったのだろう。

10坪のマンション、可動家具で大変身。秘密は「四次元設計術」
築38年、わずか36㎡のマンションをリノベーションし、自宅+仕事場+モデルルームとしてフル活用している、H2DO一級建築士事務所の代表・久保和樹(くぼ・かずき)さん。昼間は2人のスタッフと働く仕事場が、夜には妻と暮らす生活空間へ。さらに可動式の家具を動かすことで多彩なスペースが次々と生まれる、驚きの1室だ。

1つの造作でいくつもの役割 じっくり対話で叶えた優しい空間
戸建と比べ制約の多いマンションのリノベーション。自由度が低いということは、裏を返せば、建築家の腕が最も試される場であるということ。その眺望の良さに惹かれた施主のTさんが、築26年のマンションリノベを依頼したのは、竹味佑人建築設計室の竹味さん。大胆な発想と確かな力量で、家族がゆったりとした気持ちで過ごせる優しい空間に仕上げた極意に迫る。

