アイデアの宝庫「建築家の自邸」特集

空間設計のプロフェッショナルである建築家が、自身と家族のために設計・デザインした自邸を特集しました。
建築家が自ら追求した「デザイン」「居心地の良さ」「利便性」などをカタチにした住宅とはどのようなものなのか。
見てるだけでもたくさんのヒントが得られる実例の数々をじっくりご覧になっていただき、
ぜひみなさまの住まいづくりの参考にしてください。

自分の「好き」を形にした 建築士の自邸兼アトリエ

愛媛県松山市 / 福角の家

松山市の中心部から北へ数km離れた福角町の一角に「福角の家」はある。このエリアは市街化調整区域にあたり、住宅の建設が抑えられているため、比較的静かな環境が整っている。親が所有していた畑を造成して「福角の家」を建てたのは、建築家の岸絹子さん。岸さんの自邸であり、アトリエであり、そしてモデルルーム的な側面も併せ持つという。

「この家を建てる前は、私がかつて設計した家の方にお願いして、家の中を見せていただいたりしていました。お客さんにも自分が建てた家を見てもらった方が分かりやすいので。でも、みなさん喜んで協力してくれたのですが、いちいち部屋を片付けてもらったりしていたので心苦しい部分もありました。そこで自分の家を建てようと思ったわけです。職業柄、いつかは自分の家が欲しいという気持ちがありましたし、自分が本当に好きなモノ、好きな空間っていうのを見てもらいたいという思いもありましたので」と、岸さんは話す。

出入り自由、誰もが使える通り土間。 美しい田園風景になじむ、切妻屋根の家

熊本県熊本市 / 切妻と土間の家

林田直樹建築デザイン事務所の林田直樹さんが自邸を建てるために選んだのは、穏やかな農村地帯の一角だ。目の前になにもない開けた場所を探していたところ、出会ったのが、西側から北側にかけての2方向を田んぼに囲まれたこの土地だった。

見渡す限りと形容できるほど、田んぼが伸びやかに広がる絶景を存分に楽しむことはもちろん、周りの風景にもなじむ家にしたいと考えた林田さん。まず南北に長い長方形の平屋を計画し、中には通り土間やLDKなどを配置した。LDKは西側の一面を大きく開口したおかげで、西側に広がる田んぼの風景をゆったりと楽しめる。

どの部屋からも庭の緑が愉しめる 自然と共に過ごす、事務所兼自邸

愛知県豊田市 / 緑豊かな中庭のある平屋の住まい(豊田市の平屋)

愛知県豊田市。世界のトヨタの本拠地として知られるこの街にその家はある。太陽の光や風の流れといった自然環境を巧みに取り入れ、気持ちの良い住まいを創ってきた建築家、m+h建築設計スタジオの林 誠さんの事務所兼自邸だ。この家は、林さんの家づくりを知ってもらうためのモデルルームでもある。では、林さんはどのようなコンセプトで、この家を計画したのだろう。

「流行や便利さを追求せず、素朴でホッとするシンプルな家。そして緑に囲まれ、自然を非日常ではなく日常の中で感じられる家にしたいと思いました」と林さん。

新しいのに昔からあったような佇まい ずっとここでのんびりしていたくなる家

三重県四日市市 / おばたの家

松尾さんが足かけ2年で出会ったこの土地は、付近には国道が走り交通の便もよく、大型ショッピングセンターも近くにある住宅地。とはいえ、家の周囲は細い路地となっており、車通りも少なく静かに暮らせる絶好の住環境だ。唯一のウイークポイントといえば、300㎡を超える広さがありながらも、土地の形状が南北に細長いということだった。

「一般的な住宅メーカーでは、ゾーニングに苦労すると思います」と松尾さん。

しかし松尾さんは、驚くようなアイデアで見事にゾーニングを解決してみせた。その手法とは、住まいの前に、離れとしてアトリエを設けること。

細長い敷地を道路側から順に、車数台が停められる駐車スペース、松尾さんの仕事場となるアトリエ、広々としたウッドデッキを備えた庭、そして母屋という配置とした。

来訪者に「この家を売ってくれ」と言わしめた ドラマに出てきそうな上質空間

愛媛県松山市 / Attractive House

四国最大の人口を有する松山は、実は建築家にとって「不毛の地」といえるのだという。その理由の1つは、愛媛をはじめとした四国全体にもいえることだが、建築家の数が他の地域に比べて少ないということ。そのせいもあってか、家づくりはハウスメーカーや地場のビルダー・工務店に依頼することが当たり前で、一般の人が自邸の設計を建築家に依頼するということはごく稀なのだという。そのため立ち並ぶ家々は立派であっても、デザイン性に乏しくどこか画一的だ。

そのような状況にある松山市の住宅街に、ひときわ異彩を放つ黒い建物がある。この家の前を初めて通りかかった人は思わず立ち止まり「これは一般の人が暮らす家なの?」と思うことだろう。実はこの住宅、Archi estの鶴田さんがつくった自邸「AttractiveHouse」だ。

設計の力で、変形敷地をメリットに。 リビング感覚で憩えるウッドデッキのある家

岐阜県瑞穂市 / 自邸

古川さんの自邸が立つ敷地は、道路からの間口が約2.5mと狭い。対して、奥行きはなんと約50mもあり、奥に向かって徐々に広がる極端に細長い三角形だ。

変形敷地であることからなかなか買い手がつかなかったこの土地を、古川さんは「逆に面白いかも」と購入し、自邸を建てることに。お子さんがまだ小さかった15年ほど前の話だ。

まず古川さんが決めたのは、敷地の奥の広い部分に建物を建てること。敷地の細長さを逆手に取って長いアプローチや庭を設け、自然を間近に感じるのびやかな家をつくろうと考えた。

家の価値は広さや部屋数ではない 中庭が生み出した、自然とつながる家

大阪府吹田市 / U邸

橋野さんが自邸を建てるのに最も重視したのが「自然を感じながら人間らしい暮らしができる家」ということ。

橋野さんはそれを実現するための1つとして約4.5帖の中庭を設けることとした。通常の発想であれば、土地に対してどれだけ床面積を広くできるか、部屋数を増やせるかということになりがちだが、橋野さんはあえて部屋数を犠牲にしても、中庭を設けた。
「抜け感・解放感を大事にしたかったんです。来ていただいた人からも、『広く感じる』と言っていただけています」と橋野さん。

外観からはこの家に中庭があるようには思えないが、それがとてもよい役割を果たしている。

建築家×建築大工の夫妻が建てた 大人の2人暮らしにちょうどいい家

東京都板橋区 / 徳丸の家

緑あふれる広大な公園に程近い、東京都内の住宅街。ここに、3110ARCHITECTS一級建築士事務所の代表・齋藤文子さんの自邸兼アトリエ『徳丸の家』が立つ。

齋藤さんは、建築大工のご主人と2人暮らし。建築家×建築大工という建築のプロの夫妻は、どんな家を建てたのだろうか?

齋藤さんがこれまでに設計してきた住宅は、いわゆる豪邸から狭小住宅まで幅広い。しかし全てに共通しているのが、住まう人の生活を細やかにイメージした暮らしやすさと、肩の凝らないナチュラルモダンなデザインだ。