
出入り自由、誰もが使える通り土間。
美しい田園風景になじむ、切妻屋根の家
一面に広がる田園風景を最大限に生かす
家の配置とシンプルな切妻屋根
見渡す限りと形容できるほど、田んぼが伸びやかに広がる絶景を存分に楽しむことはもちろん、周りの風景にもなじむ家にしたいと考えた林田さん。まず南北に長い長方形の平屋を計画し、中には通り土間やLDKなどを配置した。LDKは西側の一面を大きく開口したおかげで、西側に広がる田んぼの風景をゆったりと楽しめる。
また、この棟の北端から西に向かってL字に突出するように寝室や水回りなどのプライベート空間を置いた。日中を過ごす空間と切り離して落ち着きを確保しただけでなく、北側には隣家の畑があることから、建物のボリュームで西側に開かれた庭への視線を遮った。加えて、夏はLDKに入る西日の日よけの役割も担っている。
大きな横長の棟は切妻屋根とした。シンプルで美しく、周囲の家ともよくなじんでいる。さらに外壁の色にもこだわり、ガルバリウム鋼板の中でも、年月を重ねた木材のようなニュアンスを感じられるグレーを選んだのだという。この「切妻と土間の家」が、建築家の家らしい洗練さをまといながら、昔からそこにあるかのような佇まいなのは、林田さんがなによりも調和を大事に考えていたからこそなのだろう。
昔ながらの土間を現代的に解釈。
パブリックスペースとしての通り土間
かつての農家住宅において、家の中での作業の場として、またコミュニケーションの場として重要な要素を担っていたのが土間だ。そこで、林田さんはこの自邸で土間を現代的に解釈し、提案することにしたのだという。
土間は切妻屋根部分の南側に位置し、通り土間である土間Bを中心にLDK空間の一部として土間A、また反対側に林田さんのワークスペースである書斎がある。ユニークなのは通り土間である土間Bを、自由に出入りして誰もが使える空間として開放しているのだ。
土間Bは壁面いっぱいに棚を設け、使い勝手の良い大きな机も置いた。普段テレワークをしている林田さんの事務所スタッフが模型をつくりに来たり、近所に住む受験生が勉強したり、林田さんのお子さまが友人と遊んだりと、さまざまな人がさまざまな用途で利用する。玄関や応接間も土間Bが兼ねており、この活用の幅広さが農家住宅においての土間と同じような役割を果たしていると林田さんは語る。
もちろん、家族の生活空間に必要以上に入りこまないような工夫もある。まず、書斎にバックヤードが設けられており、応接時のお茶出しなどは土間側でできる。また、トイレはプライベートなものとは別に、土間を使用する人が使えるものを土間Bに設置した。さらに、隣接する土間Aから始まるLDK空間との間には鍵がかかる引き戸を設け、不在時などでのセキュリティを確保している。
通り土間は東西両方のドアが開くため、風通しがよいのも魅力的だ。切妻屋根をそのまま表した天井は頂点が高く開放的なうえ、土間空間を延長するように通り土間を仕切る壁面が玄関や庭側の軒下まで伸び、自然と視線が外へと誘われる。外から来た子どもたちが庭に向かって土間を駆け抜けていくこともあるという。
家の中にこのような部分をつくった理由を「事務所のスタッフは自由に出入りするので、属性的にはパブリックな部分になるわけです。なら、誰でも来てもいい空間にしていいのではないかと思っただけなんですよね。来るといっても近所の限られた人たちだけですし」と話す。この気負いのなさからも、かつて農村地帯で盛んに行われていただろう気軽なコミュニケーションが感じられる。この空間は本当に、本来の使われ方を現代に持ってきた土間なのだ。
切妻屋根そのままの形を表現した天井。
木の温もりあふれる生活空間で絶景を享受
なんとこの天井、金具を使用していないのだ。切妻屋根のフォルムや木材の美しさをそのまま見せようと、一般的な梁や金具を使って固定する方法ではなく、両側からくる垂木を削り、組み合わせて固定する方法を採用した。垂木の本数が多い理由は、そのうえでがっちりとした構造を実現するために、屋根を強くする必要があったからだという。おかげで、整然と垂木が並んだ姿が壮観な、木の雰囲気が存分に感じられる天井ができた。
切妻屋根の下は先述の土間、LDK、奥さまの書斎や子ども部屋としてのフリースペースなどがある。土間Aを含むLDKはワンルーム空間で、土間Bとの間、また逆側にあるプライベートな居室の間は壁や引き戸で仕切った。そのうえで壁面の上部に空間をつくり、視線がぬけることで奥行きが感じられるように計画。天井の美しさを損なわず、そのうえ室内に広々とした印象を与えている。
LDKは田んぼに面する西側いっぱいに窓を計画した。テラスに続く窓は4枚のうち外側2枚を開けることができるが、桟が完全に隠れるように木枠をつくり、すっきりとした雰囲気。屋根がそのまま深い軒となり窓から入る日射を調節しているおかげで、一年を通して過ごしやすく、また西側にありながら夕日を眺めることができるのだという。ここも屋根の工夫が生きており、軒の先端に柱がないおかげで、邪魔するものなく景色が楽しめる。
さらには、東側にも窓を設けているため風も気持ちよく抜けるとのこと。一年中過ごしやすく、四季折々の風景を心行くまで享受できるLDKはこうしてできた。
家づくりでは、お施主さまがどんなことを大事にしているのかに重きを置いてプランニングするという林田さん。その姿勢が生む結果の素晴らしさは、景色を楽しみたい、今の時代に合わせた土間を取り入れたいという出発点からできたこの「切妻と土間の家」を見ればよくわかる。
基本データ
| 作品名 | 切妻と土間の家 |
|---|---|
| 所在地 | 熊本県熊本市 |
| 敷地面積 | 470.53㎡ |
| 延床面積 | 144.08㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 4000万円台 |
撮影:イクマ サトシ(TechniStaff)
設計者情報
この建築家が建てた家
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