どの部屋からも庭の緑が愉しめる
自然と共に過ごす、事務所兼自邸
庭に囲まれた5つの箱(棟)が
さらに中庭を囲む
「流行や便利さを追求せず、素朴でホッとするシンプルな家。そして緑に囲まれ、自然を非日常ではなく日常の中で感じられる家にしたいと思いました」と林さん。
この家を訪れるとまず目に入るのが、建物を取り囲むように植えられた樹木たち。
訪れる人を出迎えてくれるような樹々は、コナラやイロハモミジ、クロモジ、シロモジ、ドウダンツツジ、エゴノキ、ソヨゴ、アセビにヒメシャリンバイなど、足元の山野草も含めて樹種も豊富だ。
趣味の1つとして、よく山登りをするという林さん。庭に植えられた木々は、登山中によく見かける雑木の木々なのだという。「整えられた庭というよりも、自然の山の景色に囲まれた家を作りたかったんです」と林さんは語る。
実は山の樹木は、一般的な庭にそのまま植えても上手く育たないことがあるのだという。そのため林さんは、著名な造園家に庭づくりを依頼。根の深くまで水が届くよう地中に竹筒を埋め、水の通り道を作り、自然の山と同じ環境となるような土づくりを行っていったのだという。
「夏場は、埋まっている竹筒の底に水が届くよう、たっぷりと水やりをしなければなりません」と林さんが語るように、夏場の水やりには手間がかかる。現代の技術であれば、自動散水できる設備を入れることも可能なのだろうが、そこはあえて昔ながらの水やりを選んだのだという。
手間はかかれども、あえて自然を愛でることを愉しみ、丁寧な暮らしを享受するといったところだろうか。
そんな樹々に囲まれた林邸は、5つの大きな箱(棟)を少しずつずらしながら、中庭をぐるりと取り囲むような構造。家の中のどの部屋からも、庭の植栽の緑を愉しめるまさに自然に囲まれた家となった。
光あふれる明るい室内
大小さまざまな窓が光も景色も
道路から数段の階段を上った先、玄関左側が林さんの事務所スペースだ。南面の大きな窓からは、眼前の植栽の緑が見えるのはもちろん、家族の行き来や来客の様子もわかる。窓辺に打合せ用の大きな机があり、クライアント等とのミーティングに使われるほか、お子さんとお友達が宿題をすることもあるのだという。子供たちもきっと、気持ちの良い場所がわかっているのだろう。事務所スペース奥には林さんのデスクがあり、ふと顔を上げるとどの方向を見ても窓がある。集中して仕事をしたあとの、ホッと一息に植栽の緑が疲れを忘れさせてくれるに違いない。
玄関右側が自宅ゾーン。広場スペースと名付けられたL字型の空間は、リビングやキッチン、子供部屋へとつながる廊下でもあり、様々な使い方ができるユーティリティー空間。お子さんのお友達がお泊りの際は、ここで寝たこともあるのだとか。中庭とさらに天窓からも光が降り注ぎ、とても明るい居心地のよい場となっている。
林邸は、リビングとダイニングキッチンはあえてゾーンを分けている。庭にせり出すように箱(棟)を配置することで、角が数多くできる。その角にも窓をつけることで、景色の広がりや風の通り道を作り出した。
リビングもダイニングキッチンも垂木を現しにして木の力強さを感じさせてくれる。リビングは片流れで空間に高さからくる開放感も感じさせてくれるし、一方のキッチンは山型で、包まれる・守られるような安心感のある空間となっている。
いずれの空間も、様々な方向に窓があり、それぞれ違った植栽を眺めることができる。
まさに、ずっとここに居たくなる居心地の良さだ。
寝室は、外に出て中庭を通る
あえての不便さも楽しむ生活
林邸は、トイレや洗面・バスルームにも大きな窓がある。その窓の先にあるのが光庭。箱(棟)と箱(棟)の間のスペースに植栽を植えることで庭とし、光や風の通り道とするばかりか、緑も愉しめるという工夫だ。とかく閉鎖的になりがちな水回りが、こんなにも気持ちのよい空間となっていると、トイレやお風呂の時間が長くなってしまうのではないか?と心配になってしまうくらいだ。
中庭を取り囲むように、リビングやダイニングキッチンにつながるL字の広場、子供部屋が並んでいる林邸。最後の1辺は夫婦の寝室。しかし、この寝室へとつながる廊下がない。いわば、離れのようなつくりとなっている。そのため、寝室へ行くには、中庭を通る必要がある。そう、一度外に出て再び室内に入るのだ。
「外の空気を吸い『さあ寝るぞ』という気持ちの切り替えを促すような設えにしたいと思ったんです」と林さん。
このプランを思いついた当初は、廊下を作ることも考えたそうだが、奥様の「一旦、外に出るくらいいいじゃない」との言葉で、このプランが実現したのだという。
「たしかに、いちいち外に出るのは、面倒臭いことでもあります。でもその不便さも愉しんでいます。平面移動なので、階段を上って寝室に行くよりもずっと楽なんですよ」と林さん。
雨の日などはどうするのか?と思うが、実は、子供部屋の日差しのコントロールも兼ねた庇がせり出しているため、少しの雨であれば問題なく行き来ができるのだとか。さらに、事務所側から寝室に入れる扉もつくってあり大雨対策も抜かりない。
自宅と仕事場が一緒になった林さん。ややもすると、一日に一度も外に出ずに過ごしてしまうことになるかもしれない。そんな林さんにとって朝と夜に外に出ることで、気持ちを切り替えたり、暑さ寒さ、日差しや風といった自然を感じたりすることは、とても大切なことなのだろう。
現代の生活は、冷暖房しかり、照明しかり、テクノロジーの力で利便性を追求して成り立っている。それにより快適な生活を送れているということもあり、テクノロジー自体を否定するものではない。
そんな現代の生活にあって「太陽の光や風、植物といった自然の力を上手く利用する」「ちょっとした不便をあえて生活に取り入れてみる」といった生活は、気分が落ち着き、精神が癒され、心を豊かにしてくれる。それは、きっと我々日本人のDNAに刻み込まれているに違いない。
林さんがつくる家は、まさにそんな気持ちにさせてくれる家なのだ。我々日本人に、しっくりくる家を建てたいと思うのならば、まずは林邸を訪れ、自らそれを感じてみるのが近道なのだろう。
基本データ
| 作品名 | 緑豊かな中庭のある平屋の住まい(豊田市の平屋) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県豊田市 |
| 敷地面積 | 270.47㎡ |
| 延床面積 | 115.35㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | 自邸 |
撮影:トロロスタジオ 谷川ヒロシ
設計者情報
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