
設計の力で、変形敷地をメリットに。
リビング感覚で憩えるウッドデッキのある家
「細長い三角形」を生かした
絵本から抜け出たようなアプローチ
でも、変形敷地は本当に悪条件なのだろうか? 岐阜県瑞穂市の『シンデザインルーム』代表・古川真治さんの自邸を見ると、そんな疑問を抱かずにはいられない。
古川さんの自邸が立つ敷地は、道路からの間口が約2.5mと狭い。対して、奥行きはなんと約50mもあり、奥に向かって徐々に広がる極端に細長い三角形だ。
変形敷地であることからなかなか買い手がつかなかったこの土地を、古川さんは「逆に面白いかも」と購入し、自邸を建てることに。お子さんがまだ小さかった15年ほど前の話だ。
まず古川さんが決めたのは、敷地の奥の広い部分に建物を建てること。敷地の細長さを逆手に取って長いアプローチや庭を設け、自然を間近に感じるのびやかな家をつくろうと考えた。
果たして、古川さんの狙いは当たった。
道路から敷地へ入ると、美しいモミジがお出迎え。芝生の庭を兼ねたアプローチにはなだらかな丘がつくられ、歩を進めると緑の木々や木製ベンチ、水音を奏でるかわいい水場が次々と現れる。
一軒家レストランやリゾートホテルへ行ったとき、道路から建物までのアプローチが長いと、ゆったりとした贅沢な気分になるものだ。この家のアプローチはまさに、そんな空間体験を与えてくれる。
そしてアプローチの先には、レンガ調タイルをあしらった温かみのある家が立ち、ホッと心が和んで幸せな気持ちになっていく……。
このなんともいえない幸福感は、長いアプローチの先に緑に包まれた家が立つ、絵本から抜け出たような光景がもたらしてくれるもの。もし、敷地に入ってすぐに建物が立っていたら、こんな心持ちにはならないだろう。
ともすればデメリットになりかねない「細長い変形敷地」を、見事にメリットに変換した古川さんの手腕に脱帽だ。
「大きな屋根」と「つながり感」
家族が自然に集まるウッドデッキ
……といわれてもイメージしづらいかもしれないが、邸内に入ればよくわかる。LDKの庭側に位置するウッドデッキは約17畳。この家のリビング・ダイニングとほぼ同じという、驚きの広さだ。
加えて、邸内との仕切りは全面ガラス窓。床はリビング・ダイニングとフラットにつながり、家を覆う屋根は大きく深くウッドデッキまで伸びている。
つまり、ウッドデッキとリビング・ダイニングは「床がひと続き」で、「ひとつ屋根の下」にあるワンルーム空間。
庭は盛り土をして芝生の丘をつくってあるから、ウッドデッキと庭の段差もほとんどなく、邸内~ウッドデッキ~庭がシームレスにつながる。ウッドデッキを中心にリビングや庭を自由に行き来して過ごしたら、さぞかし気持ちいいだろう。
ウッドデッキにしっかり屋根がかかっていて、夏の直射や多少の雨風を避けられる点もポイントだ。ソファやテーブルを置けば庭の開放感とリビングのようなくつろぎを楽しめて、居心地は抜群。「ブランチやBBQ、読書からDIYまで、家族みんなでウッドデッキを使っています」と古川さん。
そしてここでも、細長い三角形という変形敷地が生きている。
何しろ、家が立っているのは道路から約50mもの奥行きがある敷地の奥。この距離と植栽のおかげで、邸内もウッドデッキも外部の視線を気にせずのびのびと過ごせる。
こうなると、もはや変形敷地が好条件に思えてくるが、もちろんこれは土地の個性を上手に生かした古川さんの設計があればこそ。
古川さんのような建築家がパートナーならあえて変形敷地を選んで、整形地では実現できない魅力をもった個性的な家をつくってみたい──。風が通るウッドデッキで庭の緑を眺めていると、そんな風にすら思うのだ。
光、風、緑を取り込む住宅デザイン
家族の幸せな時間を重ねる家づくり
「お話をじっくり伺い、施主さまと一緒につくり上げていく過程が好きです。施主さまの思いを反映した住まいが完成し、喜んでいただけることが何よりもうれしいですね」
将来を見据えた家づくりができるよう、設計の相談に来る方には自邸を見学してもらっているとのこと。相談者は、古川さんがつくる住宅の経年変化や、長期的な住まい方をリアルに知ることができる。
約15年を経た古川さんの自邸の歴史を振り返るときに外せないのが、お子さんたちが幼かった頃の話だ。
庭で収穫した野菜をウッドデッキの水場で洗って食べたり、拾った枝や落ち葉を使ってウッドデッキでお絵描きしたり……。
元気いっぱいの幼少期を過ごしたお子さんたちの居場所は、いつだって庭とウッドデッキだった。
庭の土がついたままの落ち葉を室内にもち込んだら叱られそうだが、半戸外のウッドデッキなら大丈夫。子どもにとって最高の居場所を与えてもらい、好奇心の赴くままにたっぷり遊んだ記憶はかけがえのない宝物だろう。
そんなお子さんも現在は大きくなり、5年ほど前には子ども室を増築した。「こもりきりになってほしくないので」と必要最低限のコンパクトな部屋としたが、大きな窓越しに広い庭が見えて開放感にあふれ、ここでも庭が暮らしに寄り添う。
取材中、古川さんの口から「家庭という言葉は、“家”と“庭”と書きますから」という台詞が出てきた。
たとえ庭を広く取れないとしても、物理的にも、住まい方的にも、家と外部空間(庭)をトータルでデザインする。それが、古川さんの住宅設計のスタイルだ。
この家の庭と、庭を楽しむウッドデッキは、お子さんが成長した今でも古川さん一家の憩いの場。何気ない日常をきらきらさせ、家族の思い出を刻む特別な空間になっている。
屋外の光、風、緑を暮らしに取り込み、住まう人の思いを丁寧に映し出す。そうやって古川さんがデザインする住宅は、何年経っても幸せな時間を紡いでくれるのだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 自邸 |
|---|---|
| 所在地 | 岐阜県瑞穂市 |
| 敷地面積 | 380.46㎡ |
| 延床面積 | 125.65㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | F邸 |
設計者情報
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