建築家の設計力を活かした「宿泊施設」「商業施設」「オフィス」「飲食店」「集合住宅」特集

KLASICでは、住宅だけでなく建築家が手掛けた「宿泊施設」や「商業施設」、「オフィス」「飲食店」「集合住宅」など、様々な事例を掲載しています。
今回、それらの事業空間(施設)をまとめて、特集にしました。

建築にかけられる予算的な条件のほか、投資に対する利回りやターゲット設定、地域とのかかわり方など、住宅とは全く異なる条件や要望に応えながら、空間づくりをしていくストーリーをぜひ、お楽しみください。

入会希望が殺到する快適空間。 地元愛も深まるスポーツクラブとは?

長野県小諸市 / ブルーマリンスポーツクラブ

大人・子どもそれぞれのエントランスは、どちらも3階建ての建物の1階部分にある。大人専用エントランスは開放的な吹抜けで、高級感のあるモノトーン調。ここから2階へ上がると女性専用のスタジオや設備。3階には男性用の設備と、男女共用の広大なジムやスタジオが用意されている。いずれもシンプルで上質感があり、快適にトレーニングできる空間だ。

対して、子ども専用エントランスは明るくポップな空間デザイン。壁の一部には色とりどりのアルファベットがランダムに描かれ、子どもの好奇心を刺激する。実はこれ、同じ色の文字を組み合わせると「HAPPY」などの英単語が完成するというもので、デザイナーと水間さんが提案。「文字のボルダリング」と名付けられ、子どもたちを楽しませている。

豊かな緑、心地よい木漏れ日。公園のような環境で働く快適オフィス

山梨県甲府市 / HOUSE-NET(事業用建物)

本社社屋の設計にあたって望んでいたのは、自社の提案力を表現できるような建築をつくること。斬新で魅力あふれるオフィスをモデルルーム的に見てもらうことで、訪れた顧客にプロデュース力をアピールしたいとの狙いがあった。

難度が高いこのオーダーに応えたのは、東京に事務所を構える奥野公章建築設計室の奥野公章さん。プランニングで奥野さんが意識したのは、「テレワークが増えている昨今、会社に来ることに価値を感じてもらえる空間をどうつくるか」だったという。

「会社に来れば、こんなにいい環境で仕事ができる。そう感じていただけるような空間にするために、着目したのが観葉植物です。でも、ただ植物を置いただけではHOUSE-NETさまの素晴らしい提案力の訴求には物足りません。そこで『オフィスに緑を置く』という従来のあり方をパラダイムシフトさせ、『緑の中に働く場がある』という発想でプランニングすることにしました」

モダンな佇まいと洗練の空間が人々を魅了。 地域に開かれた総合福祉施設

東京都杉並区(用途:特別養護老人ホーム) / リバービレッジ杉並

クライアントである運営事業者は、「施設の高齢者も地域の一員」との考えから、この施設を地域とつながる開かれた場にしたいとの要望をもっていた。同時に、住まいとしての豊かさや快適性も重視しており、角倉さんは店舗や住宅設計の経験を活かしてこれらの要望に応ようと考えた。

完成した施設は3階建てで、1階はデイサービスをベースとした小規模多機能型の居宅事業用施設、カフェ、地域交流スペース、オフィス、厨房など。2~3階にショートステイ用の居室と特別養護老人ホームの居室が入っている。

集合住宅の収益性を確保するため 意匠により周辺物件と差別化を図る

神奈川県相模原市 / 東林間のアパート [CASA FORESTA]

 集合住宅をプランニングするにあたり、いくつかの課題をクリアする必要があった。まずはオーナー(祖父)がすでにリタイアしていたので、事業としての融資可能額は決まっていたということ。その限られた予算のなかで、事業収支が継続的にプラスを見込めるものを求められた。駅近だったが、東京都心部から1時間程度の郊外ゆえ、相場から期待できる賃料は大きくはない。部屋数を増やすためにも、敷地に対してフルボリュームの建物を建てることがプランニングのベースとなった。また、RCだと融資可能額や収支が合わないため、フィージビリティの観点から木造2階建てという条件が加わった。

 「周辺には意匠的な工夫がなされている物件が少なかったので、長期的に差別化が見込めるように、デザインに注力することも求められました。バルコニーを使って魅力的な建築物にしたいという考えは、意匠設計者としてぼんやりと頭の中にありました。ただ、具体的な姿は見えていなかったですね」と、小林さんはプランニング当初のことを振り返る。

築40年の木造アパートが大変身 ペットも飼い主も心安らぐ、癒しの動物病院

神奈川県川崎市 / 動物病院

「新規開業なので、顧客ゼロからのスタートだったのですが、この建物や中の様子を見て、通ってくださるようになった方も多くいらっしゃいます。建物が宣伝の役目を果たしてくれています」と語るのは、施主で当院の院長の唐木さん。
動物病院を新規開業するにあたり考えたことは、動物病院としての使い勝手は元より、見た目でも存在感のある建物にしたいということだったそう。
「大手建築会社に依頼すると、他の多くの動物病院と同じような型にはまったものになってしまうと感じ、個人の設計士さんにお願いしようと思ったんです」と話す唐木さんがいくつものWEBサイトや雑誌を見ていく中たどり着いたのが、当KLASICに掲載されていた水石さんの記事だったという。
「作品事例やお話の内容を見て、この人ならきっと格好良く仕上げてくれるだろうと思いました」
水石さんは、これまでも動物病院を数多く手がけ、動物病院のプランニングにおけるオリジナルの方法論を確立していたことも、依頼の決め手となった。

学生に大人気の集合住宅。 ひと目で住みたくなる魅力を探る

神奈川県平塚市

今回ご紹介するのは「木造2階建てアパート」と聞き、長方形の建物に玄関ドアが並び、外階段をトントン上がって部屋に入る……そんな集合住宅をイメージした。

ところが、ムービング・アーキ一級建築士事務所代表の李孝哲さんが設計した「木造2階建てアパート」を見て驚いた。外観は白でまとめたシンプルで洗練されたデザイン、エントランスはオートロック、通路は内廊下。おまけに、敷地内にはシンボルツリーが植えられた中庭まである。

この集合住宅のオーナーさまは、定年を機に初めて賃貸経営に臨むご夫婦だった。建築予定地は大規模な大学のキャンパスがある街で、ニーズがあるのは学生向けの賃貸住宅。だが、少子化の影響もあって昨今は空室物件も目立ち、競争は熾烈を極める。それゆえ、「長期にわたり競争力を保てる物件づくり」が望まれていた。

歴史を紡ぐリノベで地域を元気に。 南伊豆町子浦のサイクリスト宿『JU-ZA』

静岡県 / JU-ZA CYCLE YADO Minamiizu

2021年11月、静岡県の南伊豆町子浦に『JU-ZA CYCLE YADO Minamiizu』~以下『JU-ZA(じゅうざ)』~が誕生した。ここはCYCLE YADO(サイクル宿)の名の通り、サイクリストにフォーカスした休憩・宿泊施設だ。

『JU-ZA』誕生のプロジェクトは、現在『JU-ZA』を運営する株式会社プレジャー代表・木村仁彦さん、クリエイティブディレクターの真鍋聡子さんらによって推進された。

「仕事で知り合い意気投合した木村さんと、『一緒に何かやりたいね』と情報共有を重ねる中でいろいろなご縁や出会いがあり、生まれてきたのがこのプロジェクトでした」と話すのは、MON architectsの水間寿明さん。水間さんは建築家としてこのプロジェクトに参加し、建物の設計・デザインを担っている。

施主、大工、建築家の「共創」から生まれた 北アルプスを望むハーフビルドの“新築古民家”

長野県小川村 / 土間の家

クランク型の土間を中心に、台所、居間兼食堂、寝室2部屋、工房、水回りを配置。建物南側は主に店舗やゲストハウスの機能を持つパブリックスペース。洗面所やトイレ、浴室はゲストと共用だ。クライアントのプライベートな空間は北西角の寝室のみという、なんとも大らかなレイアウト。
「あまりプライバシーにこだわらないというか、ご夫婦の暮らしぶりを含めて、古き良き日本の生活を体験してほしいというのがクライアントの希望でした」と、坂さんは話す。

坂さんが設計するうえで、ひとつのルールがあるという。それはクライアントの希望に決して「NO」を言わないこと。
「お客さんに『できない』とは言いたくありません。もちろん、建築基準法などで物理的に不可能なことはできませんが、それ以外の要望はなるべく叶えたいんです。クライアントの思いを実現したいんです。また、自分には思いつかないような発想をクライアントからもらえることもありますしね」。