
入会希望が殺到する快適空間。
地元愛も深まるスポーツクラブとは?
大人・子どもでエリアを分け、
快適に利用できる環境をつくる
どちらも気持ちよく運動できる施設はないのだろうか……。そんなモヤモヤを解消するスポーツクラブが、長野県小諸市にあった。設計を担当したのは東京に事務所を構えるMON architectsの水間寿明さんだ。
地元で40年近くの実績をもつこのスポーツクラブが移転新築することになったとき、設計をめぐり、水間さんともう1社でコンペが行われたという。結果、クライアントに選ばれたのは水間さん。斬新なアイデアとセンスのよい空間デザインで要望に寄り添ったプランが、クライアントに響いたのだ。
例えば、冒頭の「大人と子ども、どちらも快適に使える」といったテーマについても然り。水間さんはクライアントの要望をもとに、エントランスも利用スペースも大人・子どもの世代別で分け、空間デザインもがらりと変えた施設をプランニングした。
大人・子どもそれぞれのエントランスは、どちらも3階建ての建物の1階部分にある。大人専用エントランスは開放的な吹抜けで、高級感のあるモノトーン調。ここから2階へ上がると女性専用のスタジオや設備。3階には男性用の設備と、男女共用の広大なジムやスタジオが用意されている。いずれもシンプルで上質感があり、快適にトレーニングできる空間だ。
対して、子ども専用エントランスは明るくポップな空間デザイン。壁の一部には色とりどりのアルファベットがランダムに描かれ、子どもの好奇心を刺激する。実はこれ、同じ色の文字を組み合わせると「HAPPY」などの英単語が完成するというもので、デザイナーと水間さんが提案。「文字のボルダリング」と名付けられ、子どもたちを楽しませている。
ほか、壁には高さを示すラインを、床には距離を示すラインを描いてジャンプ遊びを楽しめるようにしたり、迫力ある映像を流す大画面プロジェクターを設けたりと、子どもを惹きつける仕掛けが盛りだくさん。「体力だけでなく、知力も伸ばす」というクライアントの方針に共鳴した水間さんが、その想いを見事に具現化した形だ。
もちろん、子ども専用エントランスの先には子どものための設備やスタジオなどを完備。大人も子どもも各々のスペースで、気兼ねなくトレーニングできる環境が整っている。
分けるだけじゃない。
空間のつながりと、地域の交流を生む工夫
では、世代間の交流はどうか。トレーニング中は大人と子どもが分かれていた方がお互いに快適だが、ほどよいつながりがあれば一体感が生まれるし、空間の広がりも感じられる。
この、「分ける・つなげる」の両立に向けて水間さんが活用したのが、同施設で唯一、大人と子どもが一緒に使う25mメインプールだ。
深いブルーのタイルを張ったメインプールは、一般的なプールのイメージとは一線を画す高級感あふれる空間。水間さんはこのメインプールを2フロア分の吹抜けにして、1階の中央に配置。1階も2階も、吹抜けのメインプールを挟んだ片方を大人ゾーン、もう片方を子どもゾーンとしてエリアを分けた。
だがその一方で、各ゾーンには吹抜けに面したギャラリーや飲食スペースがつくられており、メインプールで大人や子どもがスイミングを楽しむ様子を見学可能。メインプールからの視界でも、吹抜けを介して子どもゾーンのカラフルな色遣いが目に入り、シックな空間デザインの洒落たアクセントになっている。
デザインといえば、同施設のデザイン性の高さに一役買っているのがサイン(案内表示)だ。水間さんはデザイナーと組んで、洗練されたわかりやすいサインをつくってくれることでも人気の建築家。先述の「文字のボルダリング」はサインデザインのアワードで上位入賞したというから、その実力は推して知るべし、である。
絶景を眺めてリフレッシュする贅沢感。
空間の魅力で入会希望も殺到
その甲斐あって館内は至るところで心和む景色を満喫でき、中でも、大人ゾーンの浴場や男女共用ジムから一望する浅間山の全景は圧巻。地元のアイコン的に親しまれる雄大な景色を眺めながらリフレッシュするひとときは、郷土愛をいっそう深めるに違いない。
充実した設備・サービス、大人と子どもが心地よく過ごせる設計、通うのが楽しみになる洗練された空間デザイン、交流が生まれるくつろぎのスペースと贅沢な眺め──。移転オープン前から、新施設が有する魅力は大きな話題となり、内覧会にはクライアントの想定をはるかに上回る人々が来訪。あっという間に入会者が定員に達し、今も入会待ちの状態が続いている。
予想以上の反響をクライアントが喜んでくださったことはいうまでもないが、「今回は設計を通して、『地域のために貢献したい』というクライアントの想いをかなえる一助になれたのかな、と……。そのことが、僕自身、何よりもうれしく思っています」と水間さん。いずれにせよ水間さんの設計は、空間の魅力がスポーツクラブ選びの重要なファクターであることを実証したといえるだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | ブルーマリンスポーツクラブ |
|---|---|
| 所在地 | 長野県小諸市 |
| 敷地面積 | 11,873.35㎡ |
| 延床面積 | 4,296.09㎡ |
| 施主 | スポーツクラブ |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

手間暇惜しまず、じっくり寄り添い 施主の理想を実現した整骨院と自宅
柔道整復師・スポーツトレーナーをされている施主のTさん。出身地である古河市で、自宅兼整骨院を建てようと依頼をしたのは、茨城県結城市を中心に地域や風土に根ざした家づくりを行っている建築家、NIDO一級建築士事務所の飯野さんでした。

無限の可能性を秘めたシンプルな構造。 多様なスケール感が居心地いいカフェ
いつか自分のお店がやりたいというクライアントの夢を叶えるために建てられたカフェ。建築家の五十嵐理人さんは、カフェとしての使い勝手の良さ、居心地の良さを追求すると同時に、建物のこれからも考えた。壁や窓を全て取り払っても建物は残り、新しい使い方ができるというこの建物がどのように生まれたかを探る。

北向きでも明るく、快適省エネ生活。 雄大な景色を美しく楽しむ家
J邸は一般的なセオリーに反した「北向きリビング」の家。しかしLDKは年間を通して快適な室温を保ち、心地よい光に満ちている。しかも眺望は抜群で、インテリアは木目を上手に活かしたナチュラルな洗練空間。性能もデザインも大満足の住まいは、どのようにつくられたのだろうか?

明暗と空間にメリハリを 店舗のような落ち着きのある黒い家
奥様の実家の土地に親世帯・子世帯それぞれの家を同時に建てるという「究極の近居」を選んだYさんご家族。外観に統一感を持たせながらも、親世帯とは違った「自分達好みのテイスト」「自分達らしい生活」を実現した黒い家をつくったのは、空間づくりの匠空-KEN design officeの竹中さんでした。

洗練の中に温かなノスタルジー。 和の魅力を再発見する「現代和モダン」な家
和モダンと表現される家は多いが、山上聖司さんが設計したI邸は、よくある和モダンとは一線を画す本物志向の「現代和モダン」。確かな知見で日本建築の魅力をバランスよく取り入れたI邸は、真に上質な空間に住まう幸せを感じさせてくれる住宅だ。

地域に馴染み、人も猫も楽しい毎日。 郊外の新生活を満喫する店舗兼用住宅
住宅から商業施設まで幅広く手がける建築家の吉田裕一さんが設計したA邸は、焼き菓子店を備えた店舗兼用住宅。テレワークする人、郊外に家をもちたい人、猫と暮らす人、お店をつくりたい人……さまざまな人にぜひチェックして欲しい見どころ満載の住宅だ。

眺望を味わい尽くす、没入感ある大開口。 構造体を外へ出したシンプルかつ豊かな家
絶景に魅了され、崖の脇の土地を購入されたお施主さま。建築家の中野さんは安全を確保しながら景色を楽しめる家にしようと考えた。また、家具をたくさんお持ちで、魅力的に見せたいというご要望もあり、スキップフロアを採用した開放的な空間をつくり上げた。それを実現したのは「構造体のアウトソーシング」だ。

離れと母屋を中庭で繋ぐ贅沢な空間 「自然と人の豊かな共存」を叶える住まい
「子どもには豊かな住環境で育って欲しい」。建築家の鈴木雅也さんは、そんな想いから自身の家づくりをスタートさせた。自然と調和する開放的な住宅を目指して最終的に辿りついたのは、敷地の中庭を中心に据え、建物を2棟に分けるという独創的なプランである。大きな開口部からは中庭の植栽と、公園の桜の木を臨み、南北に風が抜ける……。そんな「仲井町の家」について、紹介しよう。

公園の緑を生かすカギはスキップフロア 家族一緒も1人でも自然を感じる快適生活
自然を感じられる環境を求め土地探しをしていた施主が見つけたのは、公園に隣接する分譲地。緑を感じながら居心地よく暮らせる家づくりを任せたのは、土地の持つ力を最大限利用し、快適な空間を生み出すパッシブデザインの匠、ア・シード建築設計の並木さんでした。




