のびのび遊ぶ猫と人の心地よい関係
ペット共生住宅のスペシャリストがつくる家

2匹の猫が元気に遊ぶこの家を設計したのは、犬猫専門建築家の廣瀬慶二さん。モダンな印象の邸内には、ペット共生住宅を長年研究している廣瀬さんならではの工夫が盛りだくさん。ペットと暮らす家づくりを考えている人は、ぜひチェックしてほしい。

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ずっと元気でいてほしいから
専門家と共に「猫と暮らす家」をつくる

ファウナ・プラス・デザイン一級建築士事務所・代表の廣瀬慶二さんが設計した「猫と人が出会う、キャットウォークのある家|The Cat’s House OZ邸」(以下、OZ邸)は、2匹の元気な猫と暮らすOさま夫妻の住まいだ。

「犬猫専門建築家」として国内外で注目される廣瀬さんは、動物専門学校で教鞭も取るペット共生住宅の第一人者。Oさま夫妻は廣瀬さんの著書『へぐりさんちは猫の家』を読んで「いつか家を建てるなら廣瀬さんにお願いしたい」と考えており、今回の依頼に至ったという。

昨今、猫は交通事故や感染症などを避けるため、完全室内飼育をするのが主流になりつつある。けれどそれは同時に外界の刺激から切り離され、猫にとっては、家の中が世界の全てになることを意味する。

だとすれば、家をつくるときは猫が退屈しないで楽しく暮らせるようにしてあげたい。運動不足にならず本来の身体能力を発揮できる家にして、いつまでも元気に長生きしてほしい──。そう願うのが家族である飼い主の心情だ。

それだけではない。猫がストレスなく運動できる住まいは、不適切な場所での爪とぎや排泄(おしっこ)などの「問題行動」が起こりにくく、人間のストレスも減るというメリットもある。

これらのことを頭に置いて廣瀬さんがつくるペット共生住宅を見てみると、今までの思い込みがちょっと違っていたりして、目からボロボロうろこが落ちる。

例えば、猫が高い場所を歩くためのキャットウォーク。壁に突き出た棚を2~3個つくって「これでウチの猫も喜ぶ!」と満足していないだろうか? でも、おそらくそれだけでは猫は喜ばない。というか、そのキャットウォークを使ってくれない。

ではどうするか? 約20年もペット共生住宅の研究を重ねてきたら廣瀬さんなら、その答えを持ち合わせているのだ。
  • 小さな猫窓がちょこんとつくられた外観は、シンプルなのに人目を引く不思議な愛らしさがある。杉の外壁はドイツ・オスモ社製の木材保護塗料でペイント。温かみのあるホワイトで木のぬくもりを生かしつつ、すっきりとした造形でナチュラルモダンな印象に

    小さな猫窓がちょこんとつくられた外観は、シンプルなのに人目を引く不思議な愛らしさがある。杉の外壁はドイツ・オスモ社製の木材保護塗料でペイント。温かみのあるホワイトで木のぬくもりを生かしつつ、すっきりとした造形でナチュラルモダンな印象に

  • リビング・ダイニング。写真中央の吊り棚のある場所は、猫ダイニングと猫トイレ。洗練されたデザインで、モダンな空間にしっくり馴染む。内装は猫と暮らす際の利便性を考慮し、壁は猫がひっかきにくい極薄クロス、床は汚れがたまる溝が少ない幅広フローリングをセレクト

    リビング・ダイニング。写真中央の吊り棚のある場所は、猫ダイニングと猫トイレ。洗練されたデザインで、モダンな空間にしっくり馴染む。内装は猫と暮らす際の利便性を考慮し、壁は猫がひっかきにくい極薄クロス、床は汚れがたまる溝が少ない幅広フローリングをセレクト

  • 間接照明入りのキャットウォークや、猫柱(階段手前)、キャットツリー(写真右奥)など、猫の動線が盛りだくさん。階段の踊り場は床暖房入りで猫窓もあり、猫たちに人気。踊り場は立っている人の目線と同じくらいの高さにあり、くつろぐ猫と自然にふれあうことができる

    間接照明入りのキャットウォークや、猫柱(階段手前)、キャットツリー(写真右奥)など、猫の動線が盛りだくさん。階段の踊り場は床暖房入りで猫窓もあり、猫たちに人気。踊り場は立っている人の目線と同じくらいの高さにあり、くつろぐ猫と自然にふれあうことができる

猫が猫らしく遊べる「猫的町並み」
猫がさまざまな姿を見せてくれる幸せ

廣瀬さんが「猫と暮らす家」を設計するとき、ベースにしている独自のセオリーが「猫的町並み」の構築だ。このセオリーについてはKLASIC掲載記事『飼い主も5匹の猫も、楽しく健やかに。猫が生き生き暮らす「猫的町並み」のある家』でご紹介しているのでここでは詳細を省くが、OZ邸の場合は「猫的町並み」としてどんな空間が広がっているかを見ていこう。

まず廣瀬さんは木造2階建ての1階にLDK、2階に洋室、その上に小屋裏という3つのレイヤー(層)を計画。一番上のレイヤーである小屋裏に、メインキャットウォークを設置した。

このメインキャットウォークは、いうなれば「猫的町並み」の大通り。構造の柱が猫の歩行の邪魔にならないよう、廣瀬さんは方杖(ほうづえ)と呼ばれる斜めの部材を用い、小屋裏にすっきりとした無柱の空間を創出。のびのび走り抜けられるメインキャットウォークを完成させた。

だが、廣瀬さんのプランはここで終わりではない。

「猫の動線で大切なのは、『この先に楽しい場所がある』と思えるようにつくること。例えば猫は外を見るのが好きなので、OZ邸のメインキャットウォークは両端に窓を設けてあります。また、メインキャットウォークから分岐して、ほかのエリアに行ける動線もつくっています」

その言葉通りOZ邸は1階、2階、小屋裏のそれぞれに、食事・トイレ・外を眺める・昼寝などの行動を行えるスポットがあり、そこへたどり着くためのキャットウォークも豊富に用意されている。加えて、リビング内階段、猫階段、猫柱、キャットツリーといった上下移動のルートも多数。しかも、いったん歩き始めたら楽しそうなスポットが次々現れるようにプランニングされていて、猫が邸内全体を行き来して遊べるよう、設計の力で誘導しているのがすごい。

長年の研究成果を生かした「猫的町並み」はOZ邸の猫たちに大好評で、キャットウォークを闊歩し、窓辺で外を眺め、猫柱をハイスピードで駆け上がる姿を見れば満足度の高さは明らか。単なる棚のようなキャットウォークではこうはいかないだろう。

さらにうれしいのは人と猫とのふれあいを生む細やかな工夫もあることで、リビング内階段の踊り場もその一例。この踊り場は外を見る猫窓付きで床暖房も入っており、猫たちも大のお気に入り。高さが人の目線くらいになっていることがポイントで、邸内を歩いていると、踊り場でくつろぐ猫が自然と視界に入ってくる。

OZ邸は、こんな風に人と猫がさりげなく接近できるスポットが盛りだくさん。日常の中で思いがけない猫の表情や動きに遭遇するチャンスがぐっと増え、猫との暮らしが何倍も、何十倍も楽しくなってしまうのだ。
  • 2階ホールから吹抜けを見る。猫のための動線は全て、窓などの「猫が行きたくなる場所」につながっている。壁沿いのキャットウォークは間接照明入りで空間に高級感をプラス。写真右の猫階段も猫が小屋裏に行くための動線だが、インテリアとして映えるようにデザインされている

    2階ホールから吹抜けを見る。猫のための動線は全て、窓などの「猫が行きたくなる場所」につながっている。壁沿いのキャットウォークは間接照明入りで空間に高級感をプラス。写真右の猫階段も猫が小屋裏に行くための動線だが、インテリアとして映えるようにデザインされている

  • 人が階段をのぼる途中で、キャットウォークを歩く猫とすれ違うことも。そんな偶然が起きる日常が楽しい

    人が階段をのぼる途中で、キャットウォークを歩く猫とすれ違うことも。そんな偶然が起きる日常が楽しい

  • 上下移動のルートも豊富。2階ホールの床にある猫穴からは、1階上部のキャットウォークにジャンプできる

    上下移動のルートも豊富。2階ホールの床にある猫穴からは、1階上部のキャットウォークにジャンプできる

ホテルライクなサウナも完備
ペットがいてもインテリアを楽しもう

ここでちょっと猫から離れ、Oさま夫妻のリクエストだったサウナ付きのパウダールーム(洗面室)をご紹介したい。

自宅で本格サウナを楽しみたいという要望を受け、廣瀬さんはホームサウナのある広々としたパウダールームを計画。バスルームを水風呂として使えるようにサウナとバスルームを隣接させ、一角には外気浴スペースも完備した。

空間のデザイン性も重視し、大理石風の床タイルや調湿効果があって意匠性も高い壁材など、高級感あふれる内装素材を採用。洗面台や収納は独自にデザインして生活感のないホテルライクな空間を演出し、本格的な「ととのう」体験を優雅に楽しめる環境をつくっている。

廣瀬さんが多くの施主に支持される理由は、まさにこれである。犬猫専門建築家といいつつ、廣瀬さんが手がけるペット共生住宅で最も大切にされているのは、「人が心地よいと感じる上質感」。その思いを具現化したスポットの1つが、OZ邸のリビング内にもある猫ダイニング・猫トイレだ。残念ながら市販の猫用トイレなどは、空間の雰囲気を損ねるデザインが少なくない。そこで廣瀬さんは猫の食事や排せつの場所をあらかじめプランに組み込み、インテリアとして成立する洗練されたデザインで造作してくれるのだ。

こうした配慮は猫のためのほかの構造物にも行き届き、OZ邸のキャットツリーや猫階段、猫柱は猫が喜ぶようにつくられている一方でデザインも美しく、モダンな空間と好相性。猫は大事な家族だけれど、せっかくの家づくりだからインテリアにもこだわりたい──。廣瀬さんは、そう考える猫好きさんの強い味方になってくれるに違いない。



撮影者:アトリエあふろ 糠澤 武敏
  • 小屋裏からは猫階段のほか、洋室の中にある階段状収納を使って2階に下りてくることも可能

    小屋裏からは猫階段のほか、洋室の中にある階段状収納を使って2階に下りてくることも可能

  • 2階ホールに面した窓のある洋室。この上にはメインキャットウォークが設けられた小屋裏があり、天井の一部は簀の子状。廣瀬さんいわく「猫は簀の子などの通気性の良い場所で寝るのが好き」とのことで、名付けて「猫寝天井」

    2階ホールに面した窓のある洋室。この上にはメインキャットウォークが設けられた小屋裏があり、天井の一部は簀の子状。廣瀬さんいわく「猫は簀の子などの通気性の良い場所で寝るのが好き」とのことで、名付けて「猫寝天井」

  • ホームサウナ(写真左)のある広々としたパウダールーム。洗濯機の周囲にはすっきりとしたデザインの収納を造作(写真中央奥)。タオルや買い置き洗剤をたっぷり収納できる上、脱衣かごも収まって生活感は皆無。ゆったりと優雅にサウナを楽しめる

    ホームサウナ(写真左)のある広々としたパウダールーム。洗濯機の周囲にはすっきりとしたデザインの収納を造作(写真中央奥)。タオルや買い置き洗剤をたっぷり収納できる上、脱衣かごも収まって生活感は皆無。ゆったりと優雅にサウナを楽しめる

間取り図

  • 1階 平面図

  • 2階 平面図

  • ロフト 平面図

  • 断面図

基本データ

作品名
猫と人が出会う、キャットウォークのある家|The Cat’s House OZ邸
施主
O邸
所在地
埼玉県鴻巣市
家族構成
夫婦+猫2匹
敷地面積
107.09㎡
延床面積
100.61㎡
予 算
4000万円台