東京・軽井沢の2拠点生活を満喫。
緑に包まれたアウトドアリビングのある別荘

軽井沢に別荘を建て、東京との2拠点生活を計画していたAさま一家。設計を担当した奥野公章さんは、環境を読み解き快適な住まいをプランニング。高原リゾートの非日常感と、テレワークをしながらの日常生活、2つのライフスタイルを包み込む家が完成した。

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敷地は南面が大きい好条件。
でも、LDKを南東に向けた理由とは?

国内屈指の高原リゾート・軽井沢の南原エリアは、清爽な自然に恵まれ話題のレストランなども多い人気の別荘地。生活がしやすく、都市部からの移住先としても注目を浴びている。

その南原に別荘を建てることにしたAさまは、東京に自邸をもつご夫妻とお子さま1人の3人家族。テレワークをしながら東京と軽井沢を行き来する二地域居住をイメージしていた。

軽井沢生活の拠点となる住まいにAさまが求めていたのは、「食事ができる広い屋根付きテラス」「景色を生かした設計」「野趣あふれる自然を残した庭」というもの。設計を担当した『奥野公章建築設計室』代表の奥野さんは、これらの要望を前提に計画地を訪れ、すぐにあることを思いついたという。

そのあることとは「LDKとテラスを斜めに配置すること」だ。

計画地は西に道路が走り、南と東には森林が広がる。かつ、敷地の形状は東西に伸びた長方形で南面が大きい。

南に大きく窓を取れそうなこの敷地、普通に考えたら南向きの広いLDKやテラスが可能な好条件に思える。しかし奥野さんは、LDKとテラスを南東向きにする、つまり南からちょっと斜めに振ることを真っ先に思いついたのだ。

なぜ、わざわざずらして南東向きにしようと考えたのか? 奥野さんによると、その理由は大きく2つあるという。

「1つは、南の土地が平坦で、先々、隣家が建つ可能性があったこと。もう1つは、南東の眺望のよさでした。南東から東にかけては土地が傾斜して下がっており、坂の上から森林を眺めるような景色を楽しめそうだったのです」

南に向けて居場所をつくると、先々、見える景色やプライバシーに懸念が生じるリスクがある。しかし、南東なら傾斜する森林なので家が建つ可能性は低く、さらには自然の木立を見下ろせて、「景色を生かした設計」という要望に沿うことができる──。

「別荘は、いかに隣の家が見えないようにするか、いかに東京と違う環境を感じられるかが大切だと思います」と奥野さん。

「野趣あふれる自然」という要望を踏まえ、高原リゾートにおけるベストな配置を即座に見抜くとは、別荘も数多く手がける奥野さんの頼もしさを感じるエピソードだ。
  • 上から見た『南原の家』。写真右下に向かう斜めの部分が、南東向きのLDKとテラス。この方向の隣地は土地が傾斜した森林で、将来的に家が建つ可能性が低く、かつ、坂の上から木立を見下ろすような景色を楽しめる

    上から見た『南原の家』。写真右下に向かう斜めの部分が、南東向きのLDKとテラス。この方向の隣地は土地が傾斜した森林で、将来的に家が建つ可能性が低く、かつ、坂の上から木立を見下ろすような景色を楽しめる

  • 西の道路から見た『南原の家』。上品なベージュの外壁や石張りのアクセントが周囲の森林に馴染む。写真中央奥のダークブラウンの扉が玄関ドア。その手前はガレージ

    西の道路から見た『南原の家』。上品なベージュの外壁や石張りのアクセントが周囲の森林に馴染む。写真中央奥のダークブラウンの扉が玄関ドア。その手前はガレージ

  • 庭から見た『南原の家』。写真左側の壁で覆われた部分は1階がガレージ、2階がゲストルームになっている。この部分を少し張り出すことで、西の道路(写真左側)からの視線をカット。おかげで、邸内にいると道路を挟んだ西の隣家の存在を感じず、リゾート気分に浸ることができる

    庭から見た『南原の家』。写真左側の壁で覆われた部分は1階がガレージ、2階がゲストルームになっている。この部分を少し張り出すことで、西の道路(写真左側)からの視線をカット。おかげで、邸内にいると道路を挟んだ西の隣家の存在を感じず、リゾート気分に浸ることができる

  • 北の外観。写真中央のダークブラウンの部分が玄関。写真右に行くと道路がある。南の庭側は大胆に大きな窓を設けているが、こちらの北側は閉じた印象。メリハリのある窓計画で閉じるところは閉じ、高い断熱性能を確保している

    北の外観。写真中央のダークブラウンの部分が玄関。写真右に行くと道路がある。南の庭側は大胆に大きな窓を設けているが、こちらの北側は閉じた印象。メリハリのある窓計画で閉じるところは閉じ、高い断熱性能を確保している

アウトドアリビングとして大活躍。
LDKと一体化する、森林の中のテラス

奥野さんの設計は、環境のアドバンテージを最大限に生かした空間デザインが大きな魅力。『南原の家』でも、「野趣あふれる自然」というAさまの要望に応え、周囲のおおらかな自然を満喫できる空間をつくり上げている。

例えば、玄関ホールは吹抜けで、庭に向かった南面の上下にのびやかな大開口。玄関ドアを開けてホールに入ると、庭のシンボルツリーや南の森林、爽やかな空がいっせいに目に飛び込む。この瞬間、「軽井沢にいる」と実感でき、東京の家に帰宅したときとは全く違う気持ちの切り替えができるだろう。

玄関ホールの左手に位置するドアを開けると、先述の南東向きのLDK。その先には「食事ができる」という要望に沿ってつくられた、アウトドアリビングとして使える屋根付きテラス。LDKはテラスに出る窓のほか、庭に面した大きな連続窓もあり、2方向に緑が広がる開放的な空間だ。

LDKとテラスを斜め向きにレイアウトしたことも、開放感アップに一役を買っている。

テラス側の大開口、庭側の大開口、邸内から見るとこの2面が直角ではなく「への字」のような鈍角でつながり、景色の広がり方、緑に包まれている感じがすごいのだ。極端にいえば、ゆるやかな曲線で屋外に180度囲まれているような、そんなスケール感を体感できる。

加えて、屋根の構造を見せた現しの天井はLDKからテラスまでそのまま続き、抜群の一体感。木立に手が届きそうなテラスはもちろん、邸内でも森林のすがすがしい息吹を間近に感じ、高原リゾートならではの豊かな時間を過ごせる空間となっている。
  • 吹抜けの玄関ホール。森林の緑と空を縦長の窓で切り取り、高原リゾートののびやかな心地よさを表現

    吹抜けの玄関ホール。森林の緑と空を縦長の窓で切り取り、高原リゾートののびやかな心地よさを表現

  • LDKのダイニングからの眺め。南東向きのテラスに出る大開口(写真左)と、庭に面した大開口(写真右)が「への字」のように鈍角でつながり、屋外の緑が2方向におおらかに広がる。森林に180度囲まれているようで、野趣あふれる自然のスケール感を体感できる

    LDKのダイニングからの眺め。南東向きのテラスに出る大開口(写真左)と、庭に面した大開口(写真右)が「への字」のように鈍角でつながり、屋外の緑が2方向におおらかに広がる。森林に180度囲まれているようで、野趣あふれる自然のスケール感を体感できる

パッシブデザインで高い断熱性能を確保。
寒冷地でも通年快適な住まい

近年は、別荘といえども通年快適に暮らせる住宅を求める人が増えている。ましてや『南原の家』があるのは、寒冷地の軽井沢。夏は爽やかで過ごしやすいが、それでも日差しが強い日はあるし、冬場の平均気温は氷点下。高い断熱性能は不可欠だ。

ただ、断熱を最優先するなら窓は少ないほうがいいが、せっかくの高原リゾート、光や緑を感じる開放的な窓も欲しい。

どうしたものかと思ってしまうが、そこはパッシブデザインの住宅設計に長けた奥野さん。

『南原の家』では外張り断熱・充填断熱を併用し、窓は大胆に開けるところと閉じるところのメリハリをつけて計画。省エネで空調効果の高いパッシブ冷暖による全館空調も施し、開放的なLDKがあるにもかかわらず、G2グレード相当の断熱性能を確保した。また、パッシブデザインの本場であるドイツ製の外付けブラインドも設置してあり、夏場の西日対策もぬかりない。

テレワークの増加に伴い2拠点生活をする人が多くなった昨今、別荘は単なる「休日のための住まい」ではなくなっている。

だが、別荘の計画地があるのは手つかずの自然に囲まれたエリアも多く、設計では都市部の住宅と異なる知見が求められることも少なくない。

奥野さんの高級感のあるモダンな作風は多くの施主に支持され、建築として注目される美しい住まいの設計事例は枚挙にいとまがない。しかし実は、住宅性能に関するハイレベルな知識やスキルこそが奥野さんの真骨頂。

環境問題への意識が高まっている昨今、住宅の価値はデザインにとどまらず、サステナブルな性能の比重が大きくなっている。心を豊かにする意匠と環境にやさしい快適性を兼ね備えた奥野さんの設計は、これからますます支持されていくに違いない。
  • LDKのリビングからテラス(写真奥)を見る。構造を見せた現しの天井はテラスまで続き、内外の一体感を高めている。「LDKが途中から外になっている」といった感覚だ

    LDKのリビングからテラス(写真奥)を見る。構造を見せた現しの天井はテラスまで続き、内外の一体感を高めている。「LDKが途中から外になっている」といった感覚だ

  • テラス側からLDKを見る。入口のドア(写真中央奥)はガラスの向こうが揺らいで見えるステンドグラスでつくり、写真左に広がる屋外の自然と馴染ませた。写真奥の白壁にある2つの白いドアは水まわりと主寝室に続く。こちらは壁と馴染ませて空間全体のデザインを整えている

    テラス側からLDKを見る。入口のドア(写真中央奥)はガラスの向こうが揺らいで見えるステンドグラスでつくり、写真左に広がる屋外の自然と馴染ませた。写真奥の白壁にある2つの白いドアは水まわりと主寝室に続く。こちらは壁と馴染ませて空間全体のデザインを整えている

  • 屋根付きの広いテラスは、家族やゲストと一緒に食事ができるゆとりある広さ。木立に包まれたアウトドアリビングとして大活躍。軽井沢生活を存分に満喫できる

    屋根付きの広いテラスは、家族やゲストと一緒に食事ができるゆとりある広さ。木立に包まれたアウトドアリビングとして大活躍。軽井沢生活を存分に満喫できる

  • テラス夕景。照明は屋根に埋め込んだダウンライト。手つかずの森林の爽やかな息吹の中で、ゆったりと食事を楽しめる

    テラス夕景。照明は屋根に埋め込んだダウンライト。手つかずの森林の爽やかな息吹の中で、ゆったりと食事を楽しめる

撮影:中山 保寛

基本データ

作品名
南原の家
施主
A邸
所在地
長野県
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
683.91㎡
延床面積
206.41㎡
予 算
5000万円台