旗竿地、斜線規制…。土地のデメリットをみごとに解決!
開放的で明るい「スキップフロアの家」

東京の人気エリアに立つS邸。四方を家に囲まれた旗竿地でありながら、建物の中は驚くほど開放的で、室内には明るい光が降り注いでいます。地形、斜線規制といった土地の難点をデメリットと思わず、Sさんが思い描いた広がりのある空間を実現した山口健太郎さん。設計のカギは、空間と空間をゆるやかにつなぐ「スキップフロア」という発想にありました。

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部屋と部屋を緩やかにつなぐ
「スキップフロア」で開放感を演出

ホームページを介して山口さんと出会い、約1年間にわたり、山口さんと相談しながら土地を探していたSさん。ようやく見つけた土地は、四方を家に囲まれた旗竿地だった。接面道路もジャスト2m。車が入れられるかどうかも不安だったというSさん。しかし、相談を受けた山口さんはこんな印象を持ったという。
「斜線の制限など難しい面はありましたが、うまく利用すれば道路に面していないメリットを生かしてプライベートな感じの住宅ができる期待感がありました。この土地は、竿の道路に向けて真南に10m以上視線が通っているんです。これは都心では希少だと思いました」。
すでに山口さんとの信頼関係ができていたSさんも、この山口さんの意見に後押しされ、土地の購入を決心。こうして2016年の暮れから、山口さんとSさんの家づくりがスタートすることになる。

設計当初Sさんから山口さんに寄せられた希望は「駐車場1台分と、2部屋の個室+ゲストルーム。これらを確保しつつ、できるだけ開放的な家にしたい」というシンプルなものだった。ここで問題になったのが、斜線規制である。「この土地の場合、斜線の関係で南側に3階部分を集めないといけなかったのですが、僕は視線が開ける南側に庭(空間)をつくりたかったので、これは避けたかったんです」。

まず駐車スペースを確保し、四角い家をつくった場合、どうしても窮屈なLDKになってしまう。そこで山口さんが取ったのが、建物の高さを落として半地下をつくるという方法だ。この結果、半地下の個室とリビング、ダイニングの高さが少しずつずれた、スキップフロアに落ち着いたのだという。
「スキップフロアの一番の魅力は、空間を分断しないこと」だと話す山口さん。ゆるく空間と空間をつなぐスキップフロアは、どのフロアにいても、他のフロアにいる家族の気配を感じることができる。「お母さんがダイニングで家事をやっていても、他のフロアにいる子どもが何をしてるかがわかる。そんなところもスキップフロアの魅力だと思います」。

スキップフロアのプランは半地下があり、駐車場があり、その上にダイニング、リビングと半分ずつ上にあがってずれていくつくり。リビングとダイニングが別フロアになる。
「通常だと1つの空間になるものをあえて段差をつけているうえ、外壁面積が増えるスキップフロアはコストもやや高くなります。このプランをすぐに受け入れていただくのは難しいと思いました」。と話す山口さん。そして、このプランの良さをSさんに伝えるために、山口さんはある作戦を思いつく。
  • S邸の外観。駐車場の上に居住空間が張り出した変化のあるフォルムが特徴。南側は10ⅿほど視界が開けるため、こちらに向けて開口部を設けている

    S邸の外観。駐車場の上に居住空間が張り出した変化のあるフォルムが特徴。南側は10ⅿほど視界が開けるため、こちらに向けて開口部を設けている

  • 下は半地下の個室の窓、上はダイニングの窓。さらにその上に7畳ほどの広さがあるルーフバルコニーが配された

    下は半地下の個室の窓、上はダイニングの窓。さらにその上に7畳ほどの広さがあるルーフバルコニーが配された

  • リビングの窓からは植栽ごしに南の道路まで視界が広がっている。床材はカラマツ。壁はドイツ製のオガファーザーという紙のクロス。天井は髙いところで4.5mあり、開放感たっぷり

    リビングの窓からは植栽ごしに南の道路まで視界が広がっている。床材はカラマツ。壁はドイツ製のオガファーザーという紙のクロス。天井は髙いところで4.5mあり、開放感たっぷり

VRを使った立体イメージで
「スキップフロア」の魅力をプレゼン

「スキップフロアのメリットをわかりやすく伝えたい。そう考えた山口さんは、コストを最優先したオーソドックスな住宅案とスキップフロアの2案を作成することに。そのうえで、BIMというツールでS邸の3次元モデルを作成し、Sさんに体験してもらうことにした。
この3次元モデルは、VRを使って具体的に空間イメージを体験することができるという優れもの。これを見て、Sさんもスキップの良さを納得してくれたそう。「Sさんは30分ほどVRで部屋の中を見て回られ、最終的にスキップフロアプランを採用することを了承してくださいました」。とほほ笑む山口さん。作戦は成功だった。

こうして完成したS邸。中に足を踏み入れると、そこは四方を家に囲まれているとは思えない、明るく広々とした空間が広がっている。玄関から半階分上がったところにダイニング、さらに半階分上がたところにリビング、そしてまた半階分上がったところにライブラリースペースとルーフバルコニーが配されている。

家族が集うリビングは、真南に面するように敷地に対して斜めに切った形になっているのが特徴で、リビングの窓からは植栽ごしに南側の道路まで目線が抜ける。こうして、周囲を隣家に囲われた中で、視界の開けた部分を見つけ、ピンポイントで開口部を設けているのも山口さんの工夫なのである。そしてリビングからは、下のダイニングと上のライブラリーが見え、全体的に一体感があるため広く見えるのだという。そして、ライブラリーの隣には広々としたルーフバルコニーが。「ライブラリーからすぐルーフバルコニーに出られるので、子どもたちの格好の遊び場になっているそうです」と山口さん。

実際にこの家での生活をスタートしたSさんも、新しい住まいに大満足とのこと。「予想外にすごく明るく、周囲を家に囲まれていることを忘れてしまう」という感想を寄せてくださったという。土地のデメリットをものともせず、開放的な空間をつくりあげた山口さん。Sさんの山口さんへの信頼は、この家の完成でさらに深まったに違いない。
  • 個室、ダイニング、リビング、ライブラリーを半階ずつずらした「スキップフロア」が特徴的なS邸。手前のダイニングと、奥へ広がるリビングが緩やかにつながる。

    個室、ダイニング、リビング、ライブラリーを半階ずつずらした「スキップフロア」が特徴的なS邸。手前のダイニングと、奥へ広がるリビングが緩やかにつながる。

  • 半階ずつフロアが変わるスキップフロア。フロア同士が完全に分離されないため、空間が広く見える効果がある

    半階ずつフロアが変わるスキップフロア。フロア同士が完全に分離されないため、空間が広く見える効果がある

  • リビングの上に設けられた7畳ほどの広さのライブラリーは、将来子ども部屋かゲストルームとして使われる予定

    リビングの上に設けられた7畳ほどの広さのライブラリーは、将来子ども部屋かゲストルームとして使われる予定

撮影:アトリエあふろ(古川公元)

基本データ

施主
S邸
所在地
東京都目黒区
敷地面積
75.52㎡
延床面積
78.78㎡
予 算
2000万円台