
「調和」と「融合」で実現
日本の住宅の新たなカタチ
長方形を45度折り曲げた形で叶えた
街との調和と眺望を実現
宮田さんは住宅を設計するにあたり、周辺環境と調和する建物であることを重視しているという。それは言い換えれば、新しく建てられる家が、違和感なく街に馴染むものであるということ。家は住む人だけのものではなく、その土地や住民、すなわち街に受け入れられるものであるべきという考えなのだ。そのため、クライアントの家を設計する際は、事前に必ず土地に足を運び、土地の形状、道路との関係性などをくまなく見て廻り、街と一体感をもたせるアイデアを練るのだという。この家の設計もまた然り。土地の有効活用の目的もあり、地下室を作る必要から下階はRC造としたが、2階は木造で杉板の黒壁とすることで街に溶け込む建物となった。
また、建物の形状でも周囲との調和を実現した。通常、建物の形はシンプルな方形とすることが多いが、この家は長方形を途中で45度折り曲げた形となっている。土地の形状が複雑だったわけではなく、真っ直ぐな建物にしてしまうと、緑道からの自然な流れを建物が遮る配置となってしまうからなのだという。この形はもう1つ大きな副産物をも生んだ。建物を折り曲げた分、南に隣接する団地の建物と正対することが避けられ、プライバシーの保護にも役立ったほか、隣地の公園の眺望がよくなるという効果ももたらしたのだ。
古くからの根源的な構造がモチーフ
家に包まれるかのようなリビング
地下に延びる階段を降りると、大空間の地下室にたどり着く。ここはジムを経営し、日々の鍛錬を欠かさない、宮田さんのご主人のトレーニングスペース兼大容量の倉庫。地上の庭につながるドライエリアからは、太陽光が入りこみ地下室ながらも明るく開放的なスペースとなっている。
階段を上り、2階の居住スペースへと進むと、コンクリートの無機質だった地下室から一転、ウッディーな和を感じさせる大空間が広がる。建物の構造が木造の軸組へと建物が変わったのだ。天井に目を向けると太い梁から放射状に並んだ垂木の連なりが美しい。開放感がありながらも、何かに包まれているような温かみも感じるのは、この構造の寄与が大きいのだという。
「大きな柱と梁、放射状の垂木で支えるという構造は、竪穴式住居やモンゴル遊牧民のテントであるゲルの構造をモチーフにしています。古くから長く使われているこの構造は、現代建築においても根源的な構造なのではないか。私達人間が自然と居心地の良さを感じる構造なのではないかと思ったのです」(宮田さん)
そう言われてみて気づいたが、このリビングは人間の胴体の中という感じもしてきた。梁から伸びる垂木は、背骨から伸びる肋骨とも言えなくはない。そこに包まれている安心感といったところだろうか。
家族が長い時間を過ごすリビングが、この家全体に包まれ守られる、安らぎの空間なのだ。
そして安らぎの空間にさらなる彩りを加えてくれるのが、大きな窓からの景色だ。障子を開け放つと隣地の公園の緑が借景となり、四季の移ろいを感じさせてくれるのだという。
「春には公園の桜がキレイです。窓を開けていると桜の花びらが入ってきたりしてそれもお気に入りです」(宮田さん)
夜になると、この家は外からも目を楽しませてくれる。閉じられた障子が、室内の灯りで柔らかく照らされ、行灯のような効果をもたらすのだという。
「室内の灯りで光る障子に木の影が映ることも、影絵のようでキレイだとご近所さんが教えてくれました」(宮田さん)
ソファーに座りテレビを見ていても、ダイニングテーブルでご飯を食べていても、キッチンで料理をしていても、ふと視線を移動させるだけで、美しい景色が目に入る。なんとも贅沢な空間だ。自然と家族がここに集まり、ここがこの家の中心となるのだ。
自宅の一部を賃貸住戸に
日本の住宅建築の新潮流となるか
「自宅の一部を賃貸にする方法は、海外では割と一般的です」(宮田さん)
この方式の、第一のメリットが、収益性だ。賃貸住戸からの家賃は、自宅部分のローンに充てたり副収入として活用できる。また、別途収益物件を取得するよりも価格や管理のコストを抑えられる。
また、可変性も大きな魅力だ。現在は知人が住まわれているとのことだが、例えば将来、親と同居ということになった場合、賃貸住戸が活用できる。もっと年月が過ぎ、子供が結婚しというようなことにもなるかもしれない。そうしたら、広さを必要とするメイン住戸には子どもたちが住み、自分達は賃貸住戸部分に住むという選択肢も可能なのだ。
「家の一部を賃貸に」ということを念頭においた設計は、特に土地に余裕がある場合の新築や、さほど広い部屋を必要としなくなった老夫婦の建替えなどにおいては、有効な選択肢の1つとなるだろう。家は何十年にも渡って使われ続けるもの。ただ、その年月の間には住まう人やライフスタイルも変わっていく。建てた当初のライフスタイルが続くとは限らないのだ。だとしたら、より多くの可能性・選択肢がある建物にしておくことが最も賢い住宅の建て方なのだと思う。家の一部を賃貸住宅にというものは、日本の住宅の新たなトレンドになる可能性を秘めていると感じた。
宮田さんはこの建物で、木造とコンクリート造を見事に融合させ、根源的な落ち着きの中に現代的な生活を実現した。さらには、「地域との融合」「機能と眺望との融合」「自宅、事務所、賃貸住宅の融合」をも叶えた。本来困難である、異なる要素の融合をさらりと実現してしまう宮田さんの手腕には驚かされるばかりだ。きっとこれからも、クライアントの様々な要望や課題を設計の力で上手く解決し、そこに住む家族や地域にマッチした建物を作り上げてくれに違いない。
基本データ
| 所在地 | 東京都三鷹市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 223.27㎡ |
| 延床面積 | 218.99㎡ |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
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