躍動感あるバタフライルーフが魅力。
アンティーク材を活かした唯一無二の住まい

T邸は今にも羽ばたきそうなバタフライルーフと、洗練された素材使いが印象的な大邸宅。アンティーク材をバランスよく取り入れた内装や、心豊かに暮らせる住空間からは、設計を担当した相澤康子さんの施主ファーストな設計姿勢が見えてくる。

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デザイン難度の高い大邸宅を、
躍動感のあるモダンな佇まいに

沼津市内の山側の高台に自邸を建てたTさまご一家は、ご夫妻と成人したお子さま2人の4人家族。仲のよいご家族だが全員が仕事をもつ大人とあって、1人ひとりが個室をもち、お互いの生活サイクルを尊重し合える住まいを望んでいた。

加えて、ご主人は大の車好きでお子さま2人は格闘技、ジェットスキーでプロ級の腕前をもつ方々。複数台の愛車とジェットスキーを置けるビルトインガレージや、トレーニングジムの計画も必要だった。

4つの個室に客間をプラスした5LDK、ビルトインガレージ、トレーニングジム……。200坪以上の広大な敷地にこれだけの空間を有する住宅をつくれば、建物は必然的に大きくなる。

だが大邸宅というのは、建築として美しくデザインするのが意外と難しい。特に外観は設計の仕方によって武骨な塊のようになってしまったり、妙な威圧感が出て周囲の景観から悪目立ちしたりする可能性があるのだ。

要望の空間を全て備えた大邸宅をどのようにデザインするか。ここで、設計を担当したアシヤアーキテクツの相澤康子さんの秀逸なアイデアとセンスが活きてくる。

T邸の敷地は東西にのびた長方形で、北には緑豊かな裏山がある。一方、南の隣地はT邸の敷地より一段低いうえ、建物もなく眺望が抜けている。そこで相澤さんは、全ての住空間が南に向いた横長の住宅をプランニング。屋根は中心から東西に向かってゆるやかに上がるバタフライルーフでデザインした。

躍動感のあるバタフライルーフの家を、より表情豊かにしているのが外装だ。東半分の外壁は黒いガルバリウム鋼板、西半分は白の左官仕上げ。テラスの囲いや軒裏にはレッドシダーなどの木材を用い、色合いや質感が異なる複数素材をパッチワークのように組み合わせている。

おかげで、T邸は堂々たる大邸宅だがのっぺりとした印象は皆無。バタフライルーフの屋根は今にも羽ばたきそうな軽やかさすらあり、全てにおいてバランスが取れたモダンな佇まいにTさまご一家も大満足。緑に包まれた地域の景観にも馴染み、人目を引く魅力的な住宅となっている。
  • 南の外観を東側から見る。黒いガルバリウム鋼板、左官仕上げの白壁、木材をバランスよく組み合わせた外装がモダンな雰囲気。屋根は中心から東西に向かってゆるやかに上がるバタフライルーフ。高台からおおらかに羽ばたきそうな、美しい躍動感が生まれている

    南の外観を東側から見る。黒いガルバリウム鋼板、左官仕上げの白壁、木材をバランスよく組み合わせた外装がモダンな雰囲気。屋根は中心から東西に向かってゆるやかに上がるバタフライルーフ。高台からおおらかに羽ばたきそうな、美しい躍動感が生まれている

  • 南の外観を西側の遠方から見る。T邸は3階建てで、ウッドフェンスに囲まれたところに1階があり、写真で見えているのは2階と3階。南の隣地には建物がなく、開放感たっぷり。西側(写真左)の部屋やテラスからは駿河湾も望める

    南の外観を西側の遠方から見る。T邸は3階建てで、ウッドフェンスに囲まれたところに1階があり、写真で見えているのは2階と3階。南の隣地には建物がなく、開放感たっぷり。西側(写真左)の部屋やテラスからは駿河湾も望める

  • 1階エントランスホール。玄関を入ると正面に腰高の大きな窓。コンクリート打ち放しで仕上げたシックな空間だが、視線が抜けて裏山の緑も見え、空間の心地よい広がりを感じさせる

    1階エントランスホール。玄関を入ると正面に腰高の大きな窓。コンクリート打ち放しで仕上げたシックな空間だが、視線が抜けて裏山の緑も見え、空間の心地よい広がりを感じさせる

  • 変わったらシアタールームとして使うこともできるよう、配線計画がなされている

    変わったらシアタールームとして使うこともできるよう、配線計画がなされている

ただ広いだけじゃない。
暮らしを豊かにする「施主最適」な家づくり

多くの空間を有するT邸は、1階がRC造、2階・3階が木造の3階建て。1階はビルトインガレージと、玄関、客間、トレーニングジム。2階にはLDKと奥さま、上のお子さまそれぞれの個室。3階にはご主人と下のお子さまそれぞれの個室がある。

洗面・浴室は2階と3階の計2カ所。ほか、トレーニングジム用の洗面・シャワールームや、将来的に露天風呂を設置できるシャワー付きの半戸外スペースもある。テラスは2階、3階に2つずつあり計4つ。中でも2階のLDKに面したテラスは駿河湾も望める絶好のロケーションだ。

うれしいのは、家での時間を豊かにするこれら多くの空間が、使い勝手を熟考してレイアウトされている点だ。

例えばLDKのテラスでは、大人数のゲストを招いてバーベキューなどを楽しむことを想定。そのためキッチンとの動線を良好にし、リビング隣接の浴室へはテラスからも行けるように設計している。これは、汗ばむ季節に屋外で過ごしてさっぱりしたくなったら、すぐにシャワーがしたいとの要望に応えたものだ。

また、奥さまの個室は邸内の中央に配されたエレベーターと階段の近くに配置。奥さまは自分の部屋にいても、玄関から階段をのぼり、LDKや自分の部屋へ向かう家族の気配がそれとなくわかる。

さらに、トイレは計4カ所。多忙な大人4人の住まいでは、水まわりを使う待ち時間が小さなストレスになることもある。だがT邸は広さを活かし、リアルな生活の利便性も確保している。

T邸は大邸宅だが空間に無駄がない。贅沢なまでに広いのに、おそらくTさまご一家は「広すぎる」と感じないのではないだろうか。それはこの家がTさまご一家のライフスタイルにぴったりと符合しているからにほかならない。相澤さんは暮らしの充実度と快適性を高める「Tさま最適」な設計をしたといえるだろう。
  • 2階の階段まわり。RC造の1階天井はコンクリート梁が上に出る逆梁にし、2階の窓下の壁としてデザインに取り入れた。写真奥のLDKへの扉はイギリスのアンティーク建具。木板と鉄筋棒を組み合わせた階段も洗練されている。この写真の右手に行くとエレベーターホール

    2階の階段まわり。RC造の1階天井はコンクリート梁が上に出る逆梁にし、2階の窓下の壁としてデザインに取り入れた。写真奥のLDKへの扉はイギリスのアンティーク建具。木板と鉄筋棒を組み合わせた階段も洗練されている。この写真の右手に行くとエレベーターホール

  • 2階LDKを入口から見る。正面の窓越しにはテラスが広がり、抜群の開放感。写真奥、リビング収納の黒い扉は日本の蔵で使われていたもの。その先の縦格子は温水・冷水循環による空調パネル。LDKはこのパネルを2台設置。風や運転音がなく、広い空間でも快適な室温を保つ

    2階LDKを入口から見る。正面の窓越しにはテラスが広がり、抜群の開放感。写真奥、リビング収納の黒い扉は日本の蔵で使われていたもの。その先の縦格子は温水・冷水循環による空調パネル。LDKはこのパネルを2台設置。風や運転音がなく、広い空間でも快適な室温を保つ

  • 2階LDKのキッチン。カウンターの前面には、奥さまが集めた大小さまざまの流木を張っている。流木ならではの丸みや深みのある温もりが印象的で、LDKの顔ともいえるほど表情豊か。背後には裏山の緑が広がり、気持ちよく料理ができる

    2階LDKのキッチン。カウンターの前面には、奥さまが集めた大小さまざまの流木を張っている。流木ならではの丸みや深みのある温もりが印象的で、LDKの顔ともいえるほど表情豊か。背後には裏山の緑が広がり、気持ちよく料理ができる

要望をかなえたい一心でつくり上げた、
アンティークの魅力が際立つ空間

内装デザインもご一家の好みや個性がしっかりと反映され、唯一無二の洒落た空間に仕上げられている。

Tさまご一家、特に奥さまはアンティークがとてもお好きで、内装には、奥さまが集めたヨーロッパのアンティーク建具や古民家の古材、流木などがふんだんに使われている。注目は流木を張ったキッチンカウンターや、アンティークの小窓を組み合わせた仕切り壁。心和む温もりとレトロなかわいらしさがあり、空間をぐっと豊かにしている。

だが、アンティーク材は経年でゆがみ、サイズも色合いも質感もバラバラなことが多い。T邸のようにきれいにデザインするのは至難の業だ。

Tさまもそのことは十分わかっていらして、希望の建具やデザインイメージなどを早い段階から具体的に提示してくださったという。おかげでスムーズに進められたと相澤さんはいうが、それでも、アンティーク材をこれだけ多用した設計・施工を快く受けてくれる建築家を探すのは容易ではないだろう。

そこがまさに、相澤さんが多くの施主に支持される理由だ。たとえ難度が高くても、施主の要望をかなえるために全力を尽くしてくれる建築家なのだ。

相澤さんはT邸の設計を「ご希望の素材が多岐にわたり、うまくまとめられるか当初は不安もありました」と振り返る。だが、ほかの内装は極力シンプルにするなどの工夫でデザインをまとめ上げ、ご希望のアイテムを全て取り入れる家づくりを成し遂げた。

「施主さまの『こうしたい』をどこまで形にできるか、常にチャレンジしたいと思っています」と話す相澤さん。プランニング中は、ご一家とともに何軒ものアンティークショップに足を運び親身に話を聞き続けた。

その甲斐あって、Tさまご一家は「理想の楽しい家づくりができて大満足です」と語っている。この言葉は相澤さんが要望をどこまでも尊重し、施主ファーストな設計姿勢を貫くことの証(あかし)だろう。
  • 3階にあるお子さまの個室。仕切り壁に使った小さな窓は全て、奥さまがご自身で買い集めた日本の古民家のもの。シンプルな空間にレトロな魅力を添えている。この仕切り壁の奥は大きなウォークインクローゼット。写真右にはパソコン作業などができるカウンターデスクもある

    3階にあるお子さまの個室。仕切り壁に使った小さな窓は全て、奥さまがご自身で買い集めた日本の古民家のもの。シンプルな空間にレトロな魅力を添えている。この仕切り壁の奥は大きなウォークインクローゼット。写真右にはパソコン作業などができるカウンターデスクもある

  • 3階にあるご主人の個室。正面の壁にはニッチ棚のあるベッドヘッドを設置。天井の木材は構造の梁。T邸のLDKや個室は梁を現しで仕上げ、木の質感を楽しめるようにしている。出入口の扉はイギリスのアンティーク建具

    3階にあるご主人の個室。正面の壁にはニッチ棚のあるベッドヘッドを設置。天井の木材は構造の梁。T邸のLDKや個室は梁を現しで仕上げ、木の質感を楽しめるようにしている。出入口の扉はイギリスのアンティーク建具

  • 3階に2つあるトイレのうちの1つ。解体された建物の木材を入手してきれいに削り、壁の仕上げに使用

    3階に2つあるトイレのうちの1つ。解体された建物の木材を入手してきれいに削り、壁の仕上げに使用

基本データ

施主
T邸
所在地
静岡県沼津市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
705.62㎡
延床面積
496.42㎡