斜めのリビングと広いテラスで居心地抜群。
熱環境も快適な自然素材の家

居心地のよさにこだわった間取りと、ホッと落ち着く自然素材の風合いが魅力のS邸。どこにいても「気持ちよさ」を感じる空間はどのようにできたのか、設計を担当した安藤建築設計室の安藤大輔さん・かおりさん夫妻に話を聞いた。

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子どもが存分に外遊びを楽しめる、
自然素材の家をつくりたい

鳥取県のほぼ中央に位置し、日本海に面した自然豊かな町・琴浦町。この地に家を建てたSさまは、ご夫妻とお子さま2人の4人家族。見て、触れて気持ちがいいものを選んで暮らす──。そんなライフスタイルのSさまが家づくりを託したのは、安藤大輔さん・かおりさんの建築家夫妻が運営する安藤建築設計室だった。

大輔さんはオフィスビル、教育・商業施設などのプロジェクトに多数携わってきた経歴をもち、建物の骨格や構造に関する知見が豊富。一方のかおりさんは、自然素材を使ったパッシブデザインの家が得意。2人がそれぞれの手腕を発揮して、住まい手目線の安心快適な住まいをつくってくれると評判だ。

S邸では土地探しから伴走し、Sさまは琴浦町内の新たな分譲地に家を建てることを決定。「木や自然を感じられる家が好き」「子どもにはたくさん外遊びをさせたい」。そう考えていたSさまのために2人がつくり上げたのは、漆喰や無垢材などの自然素材を贅沢に使った2階建ての家だった。

明るいベージュ色のそとん壁(自然素材の外壁材)や木製ルーバーなど、ナチュラルな素材感が引き立つ外観も魅力だが、邸内に入ると想像以上に居心地のよい空間が迎えてくれる。その秘密は、リビングに施されたちょっとした仕掛けにある。2人がどんなアイデアで居心地のよさを生んだのか、詳しくご紹介していこう。
  • 南の道路側からの外観。写真左が玄関、写真右にアウトドアテラスがある。外壁は鹿児島のシラス(堆積した火砕流)を原料としたそとん壁。防水、吸湿にすぐれた自然素材だ。庭はバクテリアを活性化させて土壌をよくするウッドチップを敷き詰めてある

    南の道路側からの外観。写真左が玄関、写真右にアウトドアテラスがある。外壁は鹿児島のシラス(堆積した火砕流)を原料としたそとん壁。防水、吸湿にすぐれた自然素材だ。庭はバクテリアを活性化させて土壌をよくするウッドチップを敷き詰めてある

  • 玄関まわりは木でつくった。木製の戸はあたりが柔らかく、開け閉めが気持ちいい。玄関ポーチは広めにとってあり、「よく使う外部空間をゆったりつくると住まいが豊かになると思います」と大輔さん

    玄関まわりは木でつくった。木製の戸はあたりが柔らかく、開け閉めが気持ちいい。玄関ポーチは広めにとってあり、「よく使う外部空間をゆったりつくると住まいが豊かになると思います」と大輔さん

  • アウトドアテラスはお子さまの格好の遊び場。リビングの大開口に面した部分はルーバーで囲い、プライバシーを確保。ルーバーの左側にも窓があるが道路に対して斜めになっており、木も植えられているため外部からの視線が通りにくい

    アウトドアテラスはお子さまの格好の遊び場。リビングの大開口に面した部分はルーバーで囲い、プライバシーを確保。ルーバーの左側にも窓があるが道路に対して斜めになっており、木も植えられているため外部からの視線が通りにくい

プライバシー確保、居心地、開放感。
家族の時間を充実させる「斜めのリビング」

S邸のLDKは、南の道路側の1階にある。天井と壁は漆喰、床は無節のスギの無垢材。自然な風合いの内装とセンスのよい家具がマッチする、洒落たカフェのような空間だ。

「面積的にはどちらかというとコンパクトなLDKです」と安藤建築設計室の2人はいうが、足を踏み入れたときの印象は「のびやか」。大きな窓越しに見えるのは、庭の緑や木製のアウトドアテラス。ほかにも視線が抜ける窓がいくつもあり、空間の広がりを感じられる。

そして、のびやかな印象に一役を買っているのがリビングの配置の仕方。リビングは建物の軸から30度振り、斜めに配されているのだ。

リビングが斜めだと居場所と居場所が正対せずに少しずれながら連続し、圧迫感は皆無。四角い部屋の中で、部屋の角から斜めに見たほうが空間を広く感じるように、それぞれの居場所からの視界が広い。その分、LDK内にいる家族が視界に入りやすくなり、コミュニケーションも円滑に。先ほど「カフェのよう」と書いたが、居場所がランダムで距離感がほどよいところも、ホッと落ち着けるカフェを彷彿とさせる。

2人がリビングを斜めに配したきっかけは、プライバシーの確保だったという。リビングの大開口を道路に対して斜めにすることで、邸内を見えにくくしたのである。その発想を広げて開放感や居心地のよさもかなえた手腕には、「こんな手があったか!」と膝を打ちたくなってしまう。

「子どもに外遊びをさせたい」という要望は、LDKとひと続きのアウトドアテラスで応えている。ここは屋根付きで、雨天でも外遊びを楽しめる半戸外空間。S邸ではお子さまの友達が「あーそーぼ」とテラス側から声をかけてくる、ほほえましい光景が繰り広げられている。

「こうしたスペースがあると、どこかに出かけなくても特別な時間を過ごせて暮らしが豊かになると思います」と大輔さん。かおりさんも、「竣工後に伺ったときも、お子さまは友達とテラスで遊んでいて、一向に部屋の中に入ってこないんです。部屋の中と外の間の空間をとっても上手に使ってくれてるなあと、なんだかうれしくなりました」と笑顔で話す。

プライバシーを守りつつ、屋外の開放感も味わえる。1人で好きなことをしていても、いつも家族がそばにいる──。そんな居場所が豊富なS邸では、家族の楽しい時間がたくさん綴られていくに違いない。
  • LDK入口からの眺め。漆喰や無垢材の風合いが空間の魅力を高めている。画像右側のリビングは建物の軸から30度振って配置され、アウトドアテラスへの窓も斜め。各方位に窓があって見通しがよく、広く感じられる。天井の一部は構造材を見せる現し仕上げとし、豊かな表情をプラス

    LDK入口からの眺め。漆喰や無垢材の風合いが空間の魅力を高めている。画像右側のリビングは建物の軸から30度振って配置され、アウトドアテラスへの窓も斜め。各方位に窓があって見通しがよく、広く感じられる。天井の一部は構造材を見せる現し仕上げとし、豊かな表情をプラス

  • LDK。手前のダイニングにいると、正面から少しずれた場所にソファが置かれたリビングやアウトドアテラスがあり、一体感と独立感のバランスが絶妙。空間を広く感じる効果もある。テラスへの掃き出し窓とソファ背後の窓は道路に対して斜めに配置。外部から邸内の様子が見えにくい

    LDK。手前のダイニングにいると、正面から少しずれた場所にソファが置かれたリビングやアウトドアテラスがあり、一体感と独立感のバランスが絶妙。空間を広く感じる効果もある。テラスへの掃き出し窓とソファ背後の窓は道路に対して斜めに配置。外部から邸内の様子が見えにくい

  • アウトドアテラス側からダイニング、キッチンを見る。手前の薪ストーブは煙突まわりが小さな吹抜けになっている。ストーブの暖気が吹抜けから2階に上がり、階段を介して1階に戻るように設計してあり、冬も家中がぽかぽかに

    アウトドアテラス側からダイニング、キッチンを見る。手前の薪ストーブは煙突まわりが小さな吹抜けになっている。ストーブの暖気が吹抜けから2階に上がり、階段を介して1階に戻るように設計してあり、冬も家中がぽかぽかに

  • お子さまたちお気に入りのアウトドアテラス。LDKとの一体感が高い半戸外空間で、爽やかな外気に触れてのびのびと遊べる。ルーバーがあるが道路に向かってひらけている部分もあり、お子さまの友達が遊びに来るとここから声をかけてくるそう

    お子さまたちお気に入りのアウトドアテラス。LDKとの一体感が高い半戸外空間で、爽やかな外気に触れてのびのびと遊べる。ルーバーがあるが道路に向かってひらけている部分もあり、お子さまの友達が遊びに来るとここから声をかけてくるそう

快適な熱環境とアイデア満載のキッチン。
温かな第3者目線で理想の住まいに

土地の風土に合った家づくりを心掛けているという安藤建築設計室。かおりさんは現在も大学院で温熱環境を研究しており、立地条件や施主が望む暮らしなど、さまざまな要素を加味して熱環境を整えてくれる。「高気密・高断熱も大切ですが、温熱感は設計者のセンスに委ねられてしまう部分だと思います。そこをとにかく丁寧にやるのがポリシーです」と語る。

S邸では薪ストーブを設置し、暖気が1階~2階を行き渡るように吹抜けや階段を計画。冬は薪ストーブ1台で家中がぽかぽかだ。また窓は各空間の対角線上に設け、風通しを良好に。夏もほぼ自然通風だけで過ごせるほど快適になった。

家事のしやすさへの配慮も厚く、薪ストーブの暖気が通る場所には室内干しスペースを設置。雨雪が多い山陰の冬でも洗濯物がパリッと乾く。またキッチンは奥さまの希望でオリジナルを製作。白タイルと木を使った素敵なデザインだが、自身も主婦であるかおりさんのアイデアがすごい。

例えば、「包丁は清潔な布巾の上に並べて収納したい」との要望を受け、引き出しの中に包丁専用の隠れた小引き出しを設置。子どもが引き出しを開けても包丁を触らないようにとの心遣いには、ちょっと感動してしまう。ほか、湿気をこもらせたくないとの要望に対しては、底板を外してステンレス棒を通した引き出しを発案。合理的で使い勝手のよい独自の発想が詰まっている。

こうしてエピソードを見ていくと、「通念を鵜呑みにせず、『この家・このご家族には本当にそれがいいのか』と、自問自答しながらプランニングしています」と語る2人の設計姿勢が見えてくる。それは、施主に寄り添いながらも第3者目線を失わず、「施主にとってベストな家」を新たな発想で追い求める誠実さと温かさ。

2人は、竣工後もずっと親交のある施主が多い。それは2人が全力投球で設計にあたり、その後も一定の距離感を保ちつつ、親身にサポートしていることのあかしでもある。理想の住まいを形にし、責任をもって見守り続ける安藤建築設計室との家づくりは、長きにわたる幸せと安心感をもたらしてくれるだろう。
  • オリジナルのキッチン。下の引き出しの一部は底板の代わりにステンレス棒を通してあり、湿気がこもらない

    オリジナルのキッチン。下の引き出しの一部は底板の代わりにステンレス棒を通してあり、湿気がこもらない

  • 「包丁は清潔な布巾に並べて収納したい」という奥さまの要望に応え、引き出しの中に包丁専用の小さな引き出しをつくった。手前の引き出しを引いても、包丁専用の引き出しは開かない。お子さまが開けてもうっかり包丁に触れることがなく、安心

    「包丁は清潔な布巾に並べて収納したい」という奥さまの要望に応え、引き出しの中に包丁専用の小さな引き出しをつくった。手前の引き出しを引いても、包丁専用の引き出しは開かない。お子さまが開けてもうっかり包丁に触れることがなく、安心

  • キッチン背後には使い勝手のよいカップボードも造作。LDKのインテリアにも馴染んでいる。かおりさんはアイデア満載のキッチン設計が得意だが、予算に応じてシステムキッチンをアレンジすることもあるそう。施主の希望とコストを考慮して、最適なプランを提案してくれる

    キッチン背後には使い勝手のよいカップボードも造作。LDKのインテリアにも馴染んでいる。かおりさんはアイデア満載のキッチン設計が得意だが、予算に応じてシステムキッチンをアレンジすることもあるそう。施主の希望とコストを考慮して、最適なプランを提案してくれる

撮影:岡田泰治

基本データ

作品名
赤碕の家
施主
S邸
所在地
鳥取県
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
311.61㎡
延床面積
100.94㎡
予 算
2000万円台