
傾斜を生かし、ストレスなく暮らす。
広がる街並みや山々の絶景が楽しめる平屋
自然を可能な限り残し、負担をかけない造成で
8mの高低差がある傾斜地に家を建てる
高崎市の山手にある宅地分譲地の、頂上近くの土地を選ばれたKさま夫妻。見晴らしが良く、静かに暮らせそうな場所だがクリアしなくてはならない課題もあった。敷地内で高低差が8mもあるのだ。さらに、法令により土地の造成が可能なのは敷地の60%までという制限もあった。
「上のほうに家を建てると眺望はいいのですが、その分、造成や施工は難しくなりコストも上がります。それから、家を建てるためには造成は必要不可欠ですが、自然はできるだけ残したい気持ちもありました」と話すのは、このK邸を設計した松下佳介建築設計事務所の松下さんだ。眺望は確保しつつ土地に負担をかけない造成を検討し導き出したのは、斜面に交差するように、横長の建物を配置するプラン。建物の前半分は盛土をし、後ろ半分は掘り下げた。一番これが無理のないつくり方、と松下さんが言うとおり、最終的に造成は駐車場や階段部分まで含めて敷地全体の50%に収まり、規制を大幅に下回った。
また、K邸よりふもと側に立つ、屋根に太陽光発電パネルを設置している隣家にも配慮したという。建物が頂上方向の南に寄っているため、K邸が建ち、隣家の屋根に影が落ちれば発電に影響が及ぶ可能性があった。松下さんは一番影が長く伸びる冬至の日にどの程度の影響があるかをシミュレーションすべく日陰曲線図を作成。その結果を持って隣家の住人の方に丁寧に説明し、許可をいただいてからK邸を着工した。松下さんは「お施主さまはこの先ずっとご近所づきあいをされていくわけですから、しっかり解決しておくことが大切」と語る。
柔らかな日射が安定して入る北側の窓と
深呼吸したくなるバルコニーで絶景を満喫
LDKの大開口は北向きとなったが、北からの採光は一年を通して安定したやさしい光が入ってくるため、ダイニングは最高の居心地に。くつろぎ感が増すようリビングの床を30cm上げたことにより、ダイニングの開放的な印象がより強まった。「加えて視線の高さが変わるためメリハリがつき、LDK全体が広々とした過ごしやすい空間になりました」と松下さん。
ダイニングにあるのは片側をFIXとする引き違い窓だが、召合わせが開口部の中心にあるとせっかくの絶景を邪魔する存在となってしまう。そこで窓の大きさを左右で変え、動くほうの窓を細くして中心をずらした。
ダイニングの先にはバルコニーもある。床面とフラットにつながり、また大きな窓のおかげでダイニングと一続きのように感じられる。バルコニーでゆったりとしたひと時を過ごしたいと要望されたご夫妻のために、一般的なバルコニーよりも幅を広くしているので椅子やテーブルを出しても十分にゆとりがある。玄関からも直接アクセスでき、それによって室内空間との回遊性が生まれた。来客時などで便利に活用されているという。
バルコニーの低い手すりは隣家からの視線除けにもなり、室内から眺望を切り取る役目も果たす。下部の空いたところから足を投げ出して座れば、縁側のような雰囲気も堪能できる。手すりのほかにも、家のすぐ横にある人や車が往来するロータリーからの視線を遮るよう、ダイニングと隣接する書斎をバルコニーにせり出すように計画した。ご要望通りバルコニーでのひとときを楽しまれているご夫妻。「暖かくなったらバルコニーに出て思い切り深呼吸したり、ワインを飲んだり豊かな時間を過ごせるだろうと楽しみです。それに、木材をふんだんに使ったゆとりあるデザインが印象に残るようで、瀟洒な佇まいだと近所でも評判になっているんです」とお喜びだ。
リビングはLDKの中でも床が上がった南側に位置し、ダイニングとは異なる趣の設えだ。窓からは山の木々や頂上まで続く豊かな自然が見られ、見える景色もダイニングとは異なる魅力がある。
LDKに置いているものをはじめ、家具はほぼ東京のマンションから運び込んだというご夫妻。松下さんは、サイズはもちろん家具たちが持つ個性や存在感も把握し、しっくりと馴染むように室内の色や素材を検討した。シックなダイニングテーブルや、リビングの真っ赤なソファなどがまるでこの家のために選ばれたかのように見えるのはそのためだ。
長く住む家だからこそ
傾斜を意識しないで暮らせるように計画
まず、駐車場から玄関までの高低差をできる限り少なくした。玄関までのアプローチに現在ある6段の階段も将来はスロープにできるという。また、リビングとダイニングの間の30cmの段差は上り下りがしやすいように1段ステップが設けられている。
リビングとダイニングの境にある丸柱から壁面までは、必要になったとき手すりが設置できるように準備されているほか、ご夫妻のアイデアで玄関には沓脱用の小さなベンチも備えられた。
暮らしの動線を単純にするため、横長の建物を生かして玄関から反対側の一番奥にあるトイレまでを一直線で繋げ、そのラインの両側に居室を配置した。それだけではない。万が一車いすの生活になったときでも困らないよう、廊下の幅はゆったりと計画。もちろんこれらの工夫は今現在の暮らしやすさも大いに高めている。
Kさま夫妻も「ここに家が建つのだろうか」と思うほどの傾斜地だったというK邸の敷地。緻密な計算で傾斜を生かすことはもちろんのこと、暮らしやすさを追求し、家具のひとつひとつにまで心を配った松下さんのプランニングにより、豊かな時間を過ごせる家ができあがった。
もうひとつ驚くべき点は、これだけの傾斜地に建てられ、さらに耐震性能もしっかりしたこの家が木造であるということだ。「私自身が築100年以上の木造の民家に住んでいたこともあり、自然素材を使うことが単純に好きなんですね。今回は、施工会社さんにもいろいろ助けていただきましたし、Kさま夫妻にその点もご理解いただくことができました。家づくりはひとりではできない仕事だと思います」と謙虚に語る松下さん。しかし、朗らかな人柄が多くの人たちからの信頼を得ているからこそ、K邸がさらに素晴らしい家となったことは間違いないだろう。
基本データ
| 作品名 | GABLES HOUSE 高崎の家/傾斜地に建つ絶景平屋の家 |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県高崎市 |
| 敷地面積 | 611.49㎡ |
| 延床面積 | 89.07㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | K邸 |
撮影:早川記録(早川真介)
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

近隣と調和し、土地の魅力を最大限に活かす あえて平屋とした、田園風景を満喫できる家
広大な田園が目の前に広がる愛知県岡崎市の集落に、ある邸宅が誕生した。この作品が持つ主な特徴は2点。眼前のすばらしい眺望を活かし、土地を有効に使い切っていること。そして近隣と調和し、共存できるプランとしたことだ。派手なデザインではないが、様々な視点で深く考え尽くされた、この作品をご紹介しよう。

全室海見え、サウナも薪ストーブも完備 要望をすべて叶え、趣味を楽しめる邸宅
愛媛県松山市に、まるでリゾート地にある別荘のような邸宅が誕生した。堀江湾が目前にあり、全室から海を望むことができる。冬は薪ストーブ、年間を通じてサウナ・水風呂・外気浴を楽しむことが可能だ。お施主様夫婦それぞれが、趣味を楽しめる部屋も用意された。毎日の生活を満喫できる、この作品をご紹介しよう。

完成後の暮らしが楽しみになる。 ミニマルな設計で叶えたゆとりある家
ビルをリノベしたようなラフな雰囲気の家を希望されていたお施主さま。予算の都合もありRC造ではなく木造で家を建てることになった。建築家の藤本さんはお施主さまのライフスタイルや趣味に合わせてメリハリを効かせたコストダウンを提案。趣味のDIYも存分に楽しめる、明るく気持ちのよい空間ができた。

東京・軽井沢の2拠点生活を満喫。緑に包まれたアウトドアリビングのある別荘
軽井沢に別荘を建て、東京との2拠点生活を計画していたAさま一家。設計を担当した奥野公章さんは、環境を読み解き快適な住まいをプランニング。高原リゾートの非日常感と、テレワークをしながらの日常生活、2つのライフスタイルを包み込む家が完成した。

土間縁側で内と外がゆるやかに繋がる 夫婦の時間も家族の集まりも心地よい家
昭和初期に建てられた農家建築を取り壊し、夫婦2人の住まいを建てることを計画したMさん。依頼を受けたアトリエウィの宇佐美さんが提案したのは、以前の家の面影が感じられるフォルムを持ち、昔の暮らしぶりを、現代にマッチした形で再現できるような、土間縁側をもつ家だった。

お施主様ご夫妻の暮らしに寄り添う、「ふたり」と「それぞれ」の寛ぎがある家
真鶴町に長くお住いで、気風や風土を知り尽くしているI様ご夫妻から、2人で暮らす家をつくりたいとご相談を受けた一級建築士の徳家明美さん、統さん。真鶴半島の美しい景色を活かしながら、ご夫妻の今とこれからのライフスタイルに合わせた家づくりには、どのような物語があったのかを追う。

リノベvs新築!悩み抜いた結論が、住んでからの毎日を変えた
これから、どこでどう生きていくのか。住まいを定めるということは人生を考えることにもつながります。家を買った経験がある長谷川さんご夫婦にとっても、終の住処を考えることは、悩みや迷いと無縁ではありませんでした。

壁を取り払いスケルトンに 中古住宅のリノベの一つの解
東京の都心近くで事務所兼自宅を持ちたいと考えていた、Lods一級建築士事務所の幸地俊一さん。予算に合った物件がなかなか見つからない中、出会ったのが築32年の鉄骨造4階建ての住宅でした。

洗練の中に温かなノスタルジー。 和の魅力を再発見する「現代和モダン」な家
和モダンと表現される家は多いが、山上聖司さんが設計したI邸は、よくある和モダンとは一線を画す本物志向の「現代和モダン」。確かな知見で日本建築の魅力をバランスよく取り入れたI邸は、真に上質な空間に住まう幸せを感じさせてくれる住宅だ。

