とにかく明るいリビング!
選択と集中が良い家につながる模範解答

オープンでおおらかなご夫婦の、唯一といってよいご要望は、「明るく開放的なリビング、ダイニング」でした。建ててもらえるのかと心配していた予算額でも、結果は期待以上のものに。単に広いだけではなく、近所に住む親戚もついつい通ってしまいたくなるぐらい、気持ちのいい家になりました。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

優先順序を明確につけることで引き出したプロのアイデア

ハウスメーカーを回ってもなかなかピンとこないものの、「建築家に頼むと、とんでもない金額がかかるだろう」と二の足を踏んでいたというTさんご夫婦。知り合いづてで建築家を探して、聞くだけ聞いてみようと話をしたのが、加藤さんだった。

「予算がこれしかないんだけど、大丈夫かなというお話でした。当然、お金に見合ったものしかできないけれども、これ以下では受け付けないという金額は設けていませんよ、とお答えしました。この予算で可能な範囲で頼みたいということで始まりました」。

 優先順序をつけるべく、ご夫婦の話を聞いてた。すると、とにかくリビングを広く開放的にしてほしいという。「1階にリビングをお考えだったのですが、敷地の西側に工場の駐車場があって、24時間、人の出入りがあって、閉じた部分を作るほかない。2階に持っていけばもっと開放的にできるということで決めていただきました」と加藤さん。

 ご主人いわく「リビングが開放的だったら、それで十分。帰ってきて広いリビングがあって、子どもが走り回ってて。そこで酒を飲んで音楽を聞いていれば幸せだから」。加藤さんは、あらゆる面でリビングを広くできるか、を基準にした。構造は床の面積を広くとれる木造を選択。リビングをはさむようにテラスをつけて、心理的にも広がりを感じられるようにした。「こういう大きいテラスをつくった方が広く感じられるんです。コスト的にも、同じ予算で部屋をつくろうとしたら、テラスの広さの半分にもなりません」と加藤さん。もともと敷地の周囲は空が開けている。三方ガラス張りにしたリビングは、実際の広さの何倍も広く感じられるようになった。

 夏になると、南側のリビングの窓からは花火が見える。リビングとダイニングの間の段差は、花火鑑賞の特等席に。実は、この段差もリビングの空間を大きくとるための仕掛けだが、花火を見るときに椅子になったり、子どもが宿題をするときのテーブル代わりになったりと、多目的に使われている。


 予算のわりに広くつくることができたというリビング。もともと少し手狭な社宅住まいだったTさんご夫婦は、その広さに慣れず、引っ越し当初は広い部屋の隅の方でコンパクトに生活していたというほど。もちろん、すぐにもっと広く使えることに気付き、今では存分に活用しているという。 近くに住むTさんの父親が、昼寝をしにくることもしばしばだとか。

 理想の家を考え始めると、こんな部屋もほしい、こっちにはこんな設備を入れたいと、ついつい夢がふくらみすぎてしまう人も多い。しかしTさんご夫婦は自分たちにとって大切なことは一つだと心得ていた。だからこそ、加藤さんも割り切ってリビングに予算や面積を集中させることができた。「竣工後にも何度か遊びに行ったのですが、みんな集まってテレビを見たり、ご飯を食べたり、リビング以外にいるのをみたことがないですね。」
  •  リビングは三方がガラスだが、2階にあるので、通りを歩いている人から見られることはない。1階は完全に閉じてあり、外の様子が分からないため、建物の周囲を砂利敷きにし、音で気配が分かるようにした

     リビングは三方がガラスだが、2階にあるので、通りを歩いている人から見られることはない。1階は完全に閉じてあり、外の様子が分からないため、建物の周囲を砂利敷きにし、音で気配が分かるようにした

  •  左手のステージのようなところはダイニング。右側が中庭。子どもが小さい頃は、母親たちは室内で涼みながら、バルコニーに置いたプールをで遊ぶ子どもたちを見ていられるので、たいへん便利だったそう

     左手のステージのようなところはダイニング。右側が中庭。子どもが小さい頃は、母親たちは室内で涼みながら、バルコニーに置いたプールをで遊ぶ子どもたちを見ていられるので、たいへん便利だったそう

  •  ダイニングからの眺め。少し段差を上がるだけで、リビングとは全く違った印象に

     ダイニングからの眺め。少し段差を上がるだけで、リビングとは全く違った印象に

  •  西側を除くすべてがガラス張りのリビング。左手に見える段差は、花火大会の日には観覧席になる。段差の下につけたLEDは、夜になると1階と2階両方で足元を照らす常夜灯の代わりにも

     西側を除くすべてがガラス張りのリビング。左手に見える段差は、花火大会の日には観覧席になる。段差の下につけたLEDは、夜になると1階と2階両方で足元を照らす常夜灯の代わりにも

ホテルも目じゃない上質な中廊下と開放的なバス

明るく開放的な空間を好むTさんご夫婦。重視したのはリビング。しかし、もちろん他の場所で我慢を強いられるようなことはない。

 たとえば、一般には暗く陰気になりがちな中(なか)廊下。そんな場所にも外の光が入ってきて明るい。T邸の中廊下は1階。そこに光を導いているのは、2階にあるダイニングとリビングの段差の隙き間だ。リビングを大きくするための段差が、家全体としての住みやすさもきちんと考えられている。


 一日の終わりを締めくくるお風呂は、中庭に面した位置に置き、ガラス窓から外を眺めてゆっくりできるように。1週間、2週間単位の海外出張も少なくないというご主人は、「家があまりに快適なので、ホテルに泊まれなくなりました。お風呂は外も見えないし、早く家に帰りたいと思いますね」という。

 リビングの端まで行けば、お風呂のなかが覗けてしまうが、つけたブラインドも「家族だから、平気」と外してしまった。仲の良い家族ならではの、開放感たっぷりのバスタイムを楽しんでいるようだ。
【加藤 功さん コメント】

 鉄骨にしてしまうと、リビングの面積も予算も足りなくなってしまうため、木造にしています。初めは、木造でこれだけガラスを使っていると弱いのではないかと心配されていましたが、法定の基準の1.5倍の構造強度で、周りの家よりも強いぐらいですよとご説明したところ、安心して任せていただきました。
  • 【写真】1階の雨戸をすべてオープンにした状態。雨戸と寝室・子ども室の窓との間に奥行きがあり、閉めても半屋外のスペースとしても利用できる。花火をしたり、三輪車を置いたり、子どもが小さい頃には大活躍のスペースだった

    【写真】1階の雨戸をすべてオープンにした状態。雨戸と寝室・子ども室の窓との間に奥行きがあり、閉めても半屋外のスペースとしても利用できる。花火をしたり、三輪車を置いたり、子どもが小さい頃には大活躍のスペースだった

  •  【写真】雨戸を閉じると、1階の部屋は完全に外の視線を遮断できる。プライバシーを守りつつ、光もしっかりとりいれて

    【写真】雨戸を閉じると、1階の部屋は完全に外の視線を遮断できる。プライバシーを守りつつ、光もしっかりとりいれて

撮影:鳥村鋼一

基本データ

施主
T邸
所在地
愛知県
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
289.00㎡
延床面積
115.37㎡