コンペで32案の中から選ばれた
グッドデザイン賞を獲得した賃貸併用住宅

高低差や高さ制限のある土地に、オーナー邸と4戸の賃貸住宅を建てるという困難な課題の建築コンペに応募した森山さん。32案の中から見事選ばれた森山さんのプランは、住みよさはもとより、デザイン性と収益性を見事に兼ね備えたものでした。

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パズルを解くように最適解を見つけ
32案の中からコンペを勝ち抜く

建築家と施主とをつなぐサイトに掲載されていた、とある案件のコンペ。計画地は都心の住宅密集地にあり、間口7m奥行き20mという東西に細長い斜面地。さらに法的制約により、4フロアしか計画のできない土地。そこに100㎡程度のオーナー住戸と50㎡の賃貸を4戸つくるという要件だった。もちろん、予算的な制約もあるうえで。

このコンペに応募した森山博之設計事務所の森山さんは、上階にオーナー住戸を配置し、4つの賃貸住宅は全てメゾネットとしたうえで、配置はもとより、窓やベランダの位置もそれぞれ変えたプランを提案した。

森山さんは、限られたスペースのなかに、住戸を配置していく作業を「まるで難解なパズルを解くようだった」と振り返る。

「このパズルさえ解けて、しっかりと要望を叶える間取りをご提案できれば、逆に選択肢は少なくなるので、採用されるという自信がありました」と森山さんは語る。実際、森山さんは過去に、土地形状と要望の難しさから、ハウスメーカーが諦めたような案件を幾度も成功に導いた経験があり、制約の多いプランニングも得意としていた。

実は、最終的に応募された32案の中には、このパズルを解けず、賃貸住戸の部屋数や広さといった要件を満たしていないプランも数多くあったのだという。

森山さんが解いたパズルは、まさに最適解だったのだ。実際、建物の間取りや外観など殆どの部分が、森山さんがコンペに提出したプランのまま建築に至ったという。
  • パンチングメタルのスクリーンが印象的なファサード。高級ブランドショップを感じさせる。

    パンチングメタルのスクリーンが印象的なファサード。高級ブランドショップを感じさせる。

  • 夜になりライトアップされると、陰影が美しく幻想的な雰囲気に。

    夜になりライトアップされると、陰影が美しく幻想的な雰囲気に。

賃貸住戸に防音室を提案
収益性向上と空室率低下を実現

この案件の難しさは、間取りをどのようにするかという点に留まらない。忘れてはいけないのが、この物件が賃貸併用住宅であるということ。単純な戸建住宅と違い、予算内で要望どおりの建物をつくればよいのではない。賃貸住戸がどの程度の家賃収入を生むかという、収益性を考えねばならないのだ。

そこで森山さんは1つの提案をした。それは、賃貸住戸に防音室を設けること。

森山さんは、過去に防音室を完備したマンションの設計に携わったことがあり、その物件が15年に渡って空室になったことがないということを知っていた。

「防音室は、楽器演奏をされる方のための部屋と思われがちですが、歌や演技をされる方や、夜勤が多く日中の喧騒を嫌う方など、意外とニーズは多いんです」と森山さん。

賃貸住戸に「防音室有り」という付加価値がつくことで、家賃を高く設定できるばかりか、空室となってしまう確率を下げることができる。さらに、防音室の希少性は、年月が経ったときにも、家賃の引き下げ競争に巻き込まれにくくなるのだ。

防音室を設置するためには、約1割ほどの建築費のコストアップとなってしまうが、オーナー様は森山さんの提案を即決で採用としたのだという。

住宅を手掛ける建築家は数多く存在する。しかし、賃貸住宅の経験や知見をもつ建築家は少ない。森山さんは、稀有な建築家の1人といえるだろう。

その根源には、森山さんの多彩なキャリアがある。森山さんは、これまでのキャリアの中で、戸建て住宅はもとより、マンションや事務所ビルなど、様々な建物に携わってきた。その中で培ってきた経験と知見が、今回の賃貸併用住宅に大いに生かされたのだ。
  • スクリーンは、ベランダとも接しておらず、程よく外と中を隔てている。

    スクリーンは、ベランダとも接しておらず、程よく外と中を隔てている。

  • 上を見上げた様子。吹き抜けのような開放感をもたらし、木もすくすく成長。

    上を見上げた様子。吹き抜けのような開放感をもたらし、木もすくすく成長。

パンチメタルのスクリーンが印象的
グッドデザイン賞も受賞

困難な制約を見事に解決してみせたプランニング力と、賃貸住宅の収益面を考えた防音室の提案という2つの要素だけでも称賛に値する森山さんの仕事ぶりだが、その凄さはこれに留まらない。

デザイン性の高さでも、森山さんの力量には驚かされるのだ。

この家を初めて訪れた人は、これが住宅であることに気づかないだろう。高級ブランドが入るビルのようなイメージなのだ。

その印象をもたらしているのが、パンチングメタルのスクリーンが取り付けられたファサードだ。

森山さんは「中と外、隣近所との距離感をどう解決するかを、いつも考えています」と語る。

住宅密集地では避けられない、隣近所との視線の干渉。プライバシーを確保しようとすれば、窓を極力減らしたり、高い塀などで目隠しをすることになる。この問題に対し、森山さんは建物にパンチングメタルのスクリーンを取り付けることで、解決してみせた。

このスクリーンは、穴が空いているため、光や風を通す。しかし、中が丸見えとなることはなくしっかりと目隠しの役割を果たす絶妙な設計。しかもこのスクリーンは中に浮くような構造となっており、建物のボリュームを拡張しているかのように見えるが、建築法上の建物に含まれない仕様となっているのだ。

このスクリーンは、内と外をゆるやかに隔てプライバシーを確保することや、光を取り込むといった実用性をもつとともに、この建物のアイキャッチともいえるデザイン性を兼ね備えた。しかも、建物の面積に含まずに実現してみせたのだ。

ここでも森山さんは、難解なパズルを解いたといえるだろう。

「この建物ができて数年で、近所に白い建物が増えてきたんです」と森山さん。美しいデザインは、街にも影響を与えるのだ。

実はこの建物は、2016年度のグッドデザイン賞やARCHITECTURE MASTER PRIZEを受賞している。街が影響を受けるのも当然といえるのかもしれない。

自分の家がデザインの賞を受賞したなんて、なんて誇らしいことだろう。また、デザインによって家の付加価値も更に高まったことだろう。

森山さんは、どんな難しい条件をもクリアし、デザイン性の高い建物に仕上げてくれる建築家だ。森山さんに依頼をすれば、あなたの家もグッドデザイン賞の家となるかもしれない。
  • メゾネットとなっている賃貸住戸の一例。防音室は安全面にも配慮し閉じた空間とせず、防音性能を維持しながら、ガラスを採用することで視認性を確保した。

    メゾネットとなっている賃貸住戸の一例。防音室は安全面にも配慮し閉じた空間とせず、防音性能を維持しながら、ガラスを採用することで視認性を確保した。

  • 賃貸住戸のLDKはシンプルモダンテイスト。光が差し込み、明るく開放的な空間。

    賃貸住戸のLDKはシンプルモダンテイスト。光が差し込み、明るく開放的な空間。

  • オーナー住戸の洗面室にも光が降り注ぎ、清潔感のある癒しの空間。

    オーナー住戸の洗面室にも光が降り注ぎ、清潔感のある癒しの空間。

撮影:田岡伸樹

基本データ

作品名
有栖川 DUPLEX
所在地
東京都港区南麻布
敷地面積
148.32㎡
延床面積
318.5㎡
予 算
5000万円台