小さな要望から本音を引き出す!
家族を幸せにした家づくりとは?

 Oさんご夫婦の明確な要望は、ふとんを外に干したいという1点のみ。でも、きっと言葉になっていないだけだろうと、建築家の樋口さんは家の話を続けました。Oさんご家族にとって心地よい空間に欠かせないもの、それは「気配」でした。

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直感は正しい、第一印象を大切に考えたプラン

ご両親も茅ヶ崎に家を持っていて、工務店の社長や棟梁をよく知っていたOさんご夫婦。Oさんご夫婦も地元の茅ヶ崎に家を建てるにあたって、自然な流れで工務店に依頼をすることになった。工務店の棟梁はまっさらな広い土地にゼロから設計するには、建築家の手を借りたいと考え、長く仕事をしてきて互いに気心の知れた樋口さんに相談を持ちかけた。樋口さんの「別途、設計契約できるなら」との答えに、Oさんご夫婦との面会の席が設けられた。

「すごく爽やかなお二人でした」とOさんご夫婦の第一印象を語る樋口さん。「まずは一案、考えてみますので、もし気に入って頂けたら話を進めましょう。そんな話でご提案したところ、気に入っていただき、直ぐに依頼をいただきました。元々は工務店に依頼しようとしていた方が、設計は設計として別に契約すると決心していただけたのは嬉しかったですね」と当時をふりかえる。
第一案のヒントになった情報は、ご主人は駅伝の選手もしていたほどのスポーツマン、奥さまのご要望は、ふとんを直射日光にあてたいということ。一度、会っただけでは情報も限られていたため、第一案を元に、よりOさんご夫婦に合ったものになるよう、プランを練りあげていった。

 最初の案では主寝室が建物の中の方の静かなところにあったが、Oさんご夫婦は日射しが届かないことと、ベランダにあがってふとんを干すのに1mほどの段差をのぼらなければならないことが気になっていた。「頭で考えると干せないことはないので、これでいいかなと思ってしまうかもしれませんが、そういう直感にはなるべく逆らわないようにしています。パッと受けた印象でやりにくそうだなと思った部分は、実際に生活してみるとやはり不便に感じてしまうんです」と樋口さん。そうした余計な生活ストレスをかけないよう、Oさんご夫婦が感じたことを大切にした。

 違和感と同時に、これがいいと思った感覚も見落とせない。最初に提案していたスキップフロアの案では、「違う部屋のカウンターに座っていても、ちょっとリビングの子どもの様子が見えたりして、どこにいても家族の気配が感じられるといいですよね」と話していた。主寝室の位置を変えてベランダへの段差をなくした案でも、家族の様子が伺える空間づくりを心がけた。ゆるやかに区切られたLDK、そして、LDKを見通せる階段室。

 ところが予算調整をしていくと、この階段が大きく予算を食っていることが分かった。「こちらの意図でご提案した部分だったので、階段をなくした場合のコスト削減案もお伝えしました。でも、ご主人が『そこは根幹ですから崩さないでください』とビシッと言ってくださって。ありがたかったですね」と樋口さん。Oさんご夫婦も樋口さんと話していくうちに、家族の気配が感じられる家にしたいという同じ目標へ気持ちが向かっていたようだ。
工事中にお子さんが生まれ、4人家族になった。遠くからでも子どもたちの様子が伺える家では賑やかな生活が繰り広げられている。
  • 左上に見えているのは木の柵で囲まれたところがベランダ。主寝室からすぐに出られる。1階の屋根の上も広いので、ここにも布団を干せるという話もあった

    左上に見えているのは木の柵で囲まれたところがベランダ。主寝室からすぐに出られる。1階の屋根の上も広いので、ここにも布団を干せるという話もあった

  • キッチン側からリビングを見て。家族の気配が感じられるという良さを残すため、リビングの入り口は開けっ放しにもできる引き戸に、戸の上もガラス窓にした。

    キッチン側からリビングを見て。家族の気配が感じられるという良さを残すため、リビングの入り口は開けっ放しにもできる引き戸に、戸の上もガラス窓にした。

サーフボードが置かれた玄関はお父さんの趣味の部屋

 茅ヶ崎といえば海。スポーツマンのご主人はサーフィンも楽しむ。ご主人が持っていたサーフボードをどこに置くかも、ちょうど良い距離感を吟味して決めた。「倉庫に入れてしまうと、夕飯を食べて『ちょっとボードでも磨こうかな』と思ったときに、ひとり倉庫にこもることになりますよね。ほかの家族からすると、『お父さん、またどっか行っちゃった』となるわけです。そうはしたくなかったので、すぐに行けるところに作業場をつくりました」と樋口さん。3m近くもあるロングボードは玄関の細長いスペースに平らに収納できるようにした。LDKを出てすぐの玄関スペースなら、家族の声も届く。

 玄関スペースにサーフボードを置いたのは、場所を有効活用する意味合いもあった。一般に玄関は通過するだけで、そこに滞在して何かするということはない。ただ通るだけの場所にスペースをさくのはもったいないと考える樋口さんは、玄関にお父さんの趣味の部屋としての機能も持たせたというわけだ。棟梁の一声で元々はタイルだった床にはデッキがしかれた。ボードのそばにはウェットスーツやビーチボールもまとめて置かれている。細長い玄関スペースは海の家のような一角になった。
  • 玄関スペースのサーフボード置き場。明るい玄関スペースは部屋といっても充分、通用する快適さ

    玄関スペースのサーフボード置き場。明るい玄関スペースは部屋といっても充分、通用する快適さ

基本データ

施主
O邸
所在地
神奈川県茅ヶ崎市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
351.50㎡
延床面積
117.3㎡