大屋根の佇まいはまるでパワースポット。
朝日を浴び、活力が得られる住まい

東側に眺望が開けている土地を購入されたお施主さま。建築家の西本さんは、恵まれた立地環境を生かし、朝日を毎日浴びることができるようにと考えた。一面ガラス張りの壁面と、大屋根によって内部と外部がナチュラルに繋がる空間づくりのおかげで、自然からパワーをもらえる家ができた。

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一年中、朝日を家に迎え入れる大開口
光や風、空からパワーを受け取る家

山口県岩国市にある「山手の家」のお施主さまは、この家を設計した西本竜洋建築設計事務所の西本竜洋さんの同窓生。ご家族で暮らす自宅を新築するため、サッカー部の後輩にあたる西本さんのアドバイスを受けながら購入した土地は、昔ながらの開発分譲地の一角だ。東に向かって土地が低くなっており、街を一望できる見晴らしが素晴らしい場所にあった。

旧知の仲だからこそと、信頼や期待とともにほぼお任せで依頼を受けたという西本さん。プランニングを始めるにあたり指針のひとつにしたのは、お施主さまが仕事はもちろん、週末もサッカーの指導など精力的に活動されている方であるということ。そこで、家で過ごす時間を通して安らぎを得られることはもちろん、英気を養えるような家にしたいと考えた。

そのためには、自然がもつパワーや豊かさを享受できる家でなくてはならない。まず、家は西側に角が来るようなL字型に計画。敷地が東に向かって開けていることを生かし、夏至と冬至における日の出の角度を計算したうえで、朝日を毎日家に迎え入れられるよう家の東側を全面開口した。東側はL字の内側のラインをなぞるように壁面が2つ合わさっているため、かなりの大きさだ。

さらに寝室がある2階は電動ロールカーテンを設け、日の出とともにカーテンも開くように計画。寝室の東側の壁面は上部に空間があり、朝日が適度に寝室へ届く。誘われるように部屋から出てくれば、体いっぱいに朝日を浴びることができるのだ。

また、1階は窓から広々したテラスをフラットに続けた。そして、家とテラスを悠然と包み込んでいるのが大屋根だ。大屋根は完全に独立しており、入れ子のように家が収まっている。岩国市が誇る名勝である錦帯橋を思わせる見事なヒノキ張りの天井からも厳かな力が感じられ、まるでパワースポットのよう。さらに大屋根の頂部は開口しており、テラスから空を眺めることができる。枠があることによって切り取られた空は、より印象的に心に届くことだろう。
  • 外観。大屋根は道行く人も見るものであるため半公共のものとして捉え、佇まいにこだわった。整然と張られたヒノキ特有の重厚さが感じられるのはもちろん、陰影やエッジまですべてが美しい

    外観。大屋根は道行く人も見るものであるため半公共のものとして捉え、佇まいにこだわった。整然と張られたヒノキ特有の重厚さが感じられるのはもちろん、陰影やエッジまですべてが美しい

  • 外観。自然素材にこだわり、家の外壁は砂壁の仕上げを施した。内部の仕上げも一部を同シリーズで室内用につくられた素材を使用した砂壁仕上げとし、統一感を出している。大屋根は4本の柱で支え、家の屋根の上に被さる。家の屋根との間に隙間があることで音や風が抜ける

    外観。自然素材にこだわり、家の外壁は砂壁の仕上げを施した。内部の仕上げも一部を同シリーズで室内用につくられた素材を使用した砂壁仕上げとし、統一感を出している。大屋根は4本の柱で支え、家の屋根の上に被さる。家の屋根との間に隙間があることで音や風が抜ける

  • 東側から見た外観。「駐車場から玄関まで雨にぬれずに移動したい」との要望は、掘り込み車庫(シャッター部)を計画し、階段を上がって大屋根のあるテラスに出ることで実現した。テラスは高い塀に囲われているため、中を伺うことはできない

    東側から見た外観。「駐車場から玄関まで雨にぬれずに移動したい」との要望は、掘り込み車庫(シャッター部)を計画し、階段を上がって大屋根のあるテラスに出ることで実現した。テラスは高い塀に囲われているため、中を伺うことはできない

大屋根がかかるテラスで自然と外部に繋がる
居場所も過ごし方も自由な生活空間

日の光や空、風などを家の中に存分に取り入れられる「山手の家」。それだけにとどまらず、テラスに水盤をダイナミックに配置し、水も組み入れた。家の完成後、「つくってよかった」とお施主さまの特にお気に入りとなったという水盤。家の中からでも水紋から雨を知ったり、波によって風の強さを伺うことができたりと、自然を近しい存在とすることに一役買っている。

プランをブラッシュアップしていくにつれ「家にいながら、外部に、自然にどう繋がるかを考えるようになりました」と西本さんは語る。それは、これまで述べてきた自然との関わり方を見てもよくわかるが、さらによく表現している部分が家とテラスの関係だ。全面開口した東側の壁面からフラットに続くテラスは、大屋根もあり室内との境界線があいまい。窓を開けていると知らずのうちに外と中を行き来していることがあるほどに、ナチュラルに続いている。

感覚的に空間がひとつに感じられるのは、室内でも同じだ。1階にLDK、2階にインナーテラスと個室があるが、建具も必要最低限のものしかなく、はっきりと仕切られてはいない。また、家の中に3か所吹き抜けがあり、1階と2階も緩やかなつながりを感じられるため家全体がひとつに感じられる。

室内からテラスまでがファジーな空間であるからこそ、住みながら居場所を見つけることができ、暮らしやすさが向上するのだという。リビングエリアで食事をしてもいいし、テラスで仕事をするのもいいかもしれない。プランニング時にはあまり固く決めずに、どのように暮らすかを住む人にゆだねたいのだと西本さんは言う。

「お施主さまご家族のご友人など、大人数が集まったところに参加させていただいたことがあるのですが、テラス、ダイニング、リビング、玄関の近くといろいろなところに人が集まって思い思いに過ごしていらっしゃいました。テラスでは頂部の開口からの光の入り方に合わせて日を浴びたい方、避けたい方それぞれで移動したりして、楽しく、とてもいい時間を過ごされているのがわかり嬉しかったですね」と西本さん。その様子こそが狙い通りの家ができたという証拠だろう。
  • テラスから家を見る。東側にあたるこの面は立地を生かし、朝日を毎日迎え入れられるよう、角度を計算したうえで全面開口した。ガラスはメンテナンスのしやすさも考慮し、既製品のROW-Eガラスを採用。大屋根の頂部の開口からは印象的に空が見える

    テラスから家を見る。東側にあたるこの面は立地を生かし、朝日を毎日迎え入れられるよう、角度を計算したうえで全面開口した。ガラスはメンテナンスのしやすさも考慮し、既製品のROW-Eガラスを採用。大屋根の頂部の開口からは印象的に空が見える

  • 玄関脇からテラスを見る。大屋根に覆われ半屋外的な雰囲気だ。画像右の空間を下ると車庫がある。要望もあり水盤はダイナミックに配置した。水紋や日に反射する水の表情を室内からも楽しめる。テラスの壁は木板を裏表でずらして計画。視線は遮り、風は通す

    玄関脇からテラスを見る。大屋根に覆われ半屋外的な雰囲気だ。画像右の空間を下ると車庫がある。要望もあり水盤はダイナミックに配置した。水紋や日に反射する水の表情を室内からも楽しめる。テラスの壁は木板を裏表でずらして計画。視線は遮り、風は通す

  • 1階、玄関からLDK方向を見る。テラスに向かっての開口と、2階とをつなぐ吹き抜けのおかげで広々と感じられる。長くとられた廊下の壁面にはすべて収納を計画した

    1階、玄関からLDK方向を見る。テラスに向かっての開口と、2階とをつなぐ吹き抜けのおかげで広々と感じられる。長くとられた廊下の壁面にはすべて収納を計画した

  • 1階、キッチンからダイニング、リビング、テラスを見る。画像右側に伸びる廊下の奥はテラス側に玄関がある。窓を開けると内部と外部の境界線が一層あいまいになり、テラスまでが一続きの居場所となる。LDKの仕切りも緩やかなため、思い思いの場所で自由に過ごすことができる

    1階、キッチンからダイニング、リビング、テラスを見る。画像右側に伸びる廊下の奥はテラス側に玄関がある。窓を開けると内部と外部の境界線が一層あいまいになり、テラスまでが一続きの居場所となる。LDKの仕切りも緩やかなため、思い思いの場所で自由に過ごすことができる

家族のライフスタイルを反映し
開放的でありながら絶妙な落ち着きを実現

不思議なのは、「山手の家」がこれだけ開放的でオープンにつくられた家でありながら、閉じた雰囲気で得られるような落ち着きや安らぎも感じられるということだ。

その理由はお施主さまご一家のライフスタイルにある。ご主人は日々の出勤に加えて週末も外出が多いため、日中は基本的に奥さまが家でひとり過ごされる。また、お子さまも巣立ちが近い年齢とのことから、数年後には2人暮らしになる可能性も高い。そこで、窓を閉めれば「そこまで広くない」程度の面積に室内を抑えたのだという。

また、開口している東側は道路に面しているため壁をしっかりと立ち上げて視線を遮った。壁は迎えに立つマンションからの視線も避けられるようかなりの高さがあるが、木板を裏表でずらして張り合わせており、風は抜ける。さらに、全面開口した窓には全てROW-Eガラスを採用。素材が持つ特性によって景色を反射するおかげで、昼間はカーテンを閉めなくても外から室内はほぼ見えないという。

お施主さまからの唯一の要望は「車を降りてから、濡れずに家に入ること」。敷地にはもともと西側に駐車スペースがあったが、東側へ掘り込み式の車庫を新たに計画。車庫から階段で大屋根のあるテラスに上がり、玄関にアクセスする動線を設けてクリアした。

イタリアのデザイン賞、「A' Design Award and Competition」も受賞したという「山手の家」。「大胆なプランですが、先輩であるお施主さまに『やろう』とおっしゃっていただき、たくさんチャレンジもさせていただきました。お施主さまにも、工事を請け負ってくださった職人さんや工務店さんにも感謝しています」と西本さん。

自ら会社を経営されているご主人は朝から出社するのが日課だったが、この家に暮らすようになってから、家で仕事をすることも多くなったのだそうだ。
  • 2階、自由に使えるインナーテラスではご主人が仕事をされることも多い。画像奥の壁面の裏は寝室。大きな窓から取り入れた朝日は、壁面の上部の空きを抜けて寝室まで届く。壁面は外壁と同じ砂壁仕上げとした

    2階、自由に使えるインナーテラスではご主人が仕事をされることも多い。画像奥の壁面の裏は寝室。大きな窓から取り入れた朝日は、壁面の上部の空きを抜けて寝室まで届く。壁面は外壁と同じ砂壁仕上げとした

  • 夕景も美しい「山手の家」駐車場部分はRC造、大屋根は鉄骨造、人が暮らす家は木造と異なる構造を組み合わせ、安全性、快適性、暮らしやすさの全てを確保した

    夕景も美しい「山手の家」駐車場部分はRC造、大屋根は鉄骨造、人が暮らす家は木造と異なる構造を組み合わせ、安全性、快適性、暮らしやすさの全てを確保した

  • テラスから家を見る。家の屋根と大屋根の間に空間があり、それによってできた陰影も家を表情豊かに見せる。室内1階、右端には要望から暖炉を取り入れた。住宅街の中に家はあるため、煙突が必要ないエタノール暖炉を選んだ

    テラスから家を見る。家の屋根と大屋根の間に空間があり、それによってできた陰影も家を表情豊かに見せる。室内1階、右端には要望から暖炉を取り入れた。住宅街の中に家はあるため、煙突が必要ないエタノール暖炉を選んだ

  • 外観。敷地は東側から西側に向かって上がっている。傾斜を利用し、掘り込み式の車庫を計画した(家の左奥部分)。住宅街のなかで夜の大屋根の明るさは、歩行者をほっとさせることだろう

    外観。敷地は東側から西側に向かって上がっている。傾斜を利用し、掘り込み式の車庫を計画した(家の左奥部分)。住宅街のなかで夜の大屋根の明るさは、歩行者をほっとさせることだろう

撮影:益永 研司

基本データ

作品名
山手の家
所在地
山口県岩国市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
289㎡
延床面積
204㎡