施主に寄り添いじっくりと下ごしらえ
自然と人に生かされて暮らす、大人の住まい

長く都会に住み続けてきた施主が、自分らしく晩年を過ごす家を求め3年の歳月を過ごした中、出会ったのが市中山居の増木奈央子さん。施主とじっくりと寄り添い資金計画や土地探しという「下ごしらえ」から、対話を重ね出来上がった家は、施主が「不満に感じる点が1つもない」と言い切るほどの、大人の住まいでした。

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家づくりを託せる人にやっと出会った
「下ごしらえ」でじっくりサポート

映画「となりのトトロ」の舞台の1つとされている八国山緑地など、豊かな自然や公園を有しながらも、都心まで電車で30分ほどと利便性も兼ね備えたベッドタウン東京都東村山市の住宅街にその家はある。杉板の外壁や落ち着いた佇まいが、小さな旅館のようにも感じられ、訪れたご近所の方が「心が落ち着く家」と語るY邸だ。

これまで長く都会の賃貸物件に住み続けてきたという施主のYさん。織田流煎茶道の正教授としての顔ももち、お稽古をしたり、お茶会を開くこともあるものの、これまで住んできた家では、茶室を設けることも叶わなかった。自前の茶室を持ちたいという思いのもと、都内でマンションや中古住宅などを見て回るものの、思い通りの物件に巡り合わず3年の月日が流れていた。

そんな中たまたま参加したのが、市中山居が自邸で開催していた薪ストーブ体験会「大人の火遊びのすゝめ」。ここで市中山居の和を感じさせる上質な佇まいや、増木さんの人柄に触れ、すっかり魅了されたYさんは「やっと見つけた!」と感じ、その場で「私の家づくりをお願いしたい」と依頼をしたのだという。

こうしてYさんと市中山居の「下ごしらえ」が始まっていく。
「下ごしらえ」とは、設計に入る前段階の作業。増木さんご夫婦が自邸を建てたときに経験した苦労をもとにした、設計事務所には珍しいサービスだ。下ごしらえはおもに3つの項目からなるという。

1つめが、生涯の暮らしを思い描き、資金を考えること。将来に渡ってどんな暮らしがしたいのか、家族の状況などをしっかりイメージしてもらう。そして一生涯の収支・資金計画を立て、土地・建物の予算を見定められるようアドバイスするのだ。

2つめは、物件探しというより、環境探し。一般的に土地探しは、予算や広さ、駅からの距離などのスペックから探していくことが多いが、市中山居は、それだけでなく「自分が思い描く暮らしができるか」に重点を置き、町並みや景色、採光や騒音、地盤などの自然環境なども考慮し、増木さんが一緒に現地に足を運び、比較検討やアドバイスするという。

3つめは、信頼づくり。市中山居の家づくりは、建物という箱をつくる役割に留まらない。自分らしい暮らしを実現するパートナーとして、施主に寄り添うことをモットーとしている。そのため、実設計に入る前に、じっくりと対話を重ね信頼関係を築いていくのだ。

もともと、杉並から吉祥寺あたりを希望していたYさん。下ごしらえを通じて増木さんと共に10か所以上の土地を見て回った結果、自然環境に恵まれ、商店街もあるという利便性も兼ね備えた東村山にたどり着いた。

「ここであれば、念願だった茶室だけでなく庭も設けられるし、望んでいた暮らしができる環境だと感じました」とYさん。

増木さんがじっくりと下ごしらえをしたからこそ、Yさんが本当に叶えたかったことを的確に捉え、当初は思ってもみなかった土地での暮らしを選ぶこととなった。下ごしらえは、本当の自分に気づくことにもつながるのだ。
  • 杉板の壁が、小さな旅館のような大人の落ち着きを感じさせる外観。庭の内外を仕切る板塀は、屏風のようにあえて完全に閉ざさず、ご近所の方がふらっと入って来られるようにしている。

    杉板の壁が、小さな旅館のような大人の落ち着きを感じさせる外観。庭の内外を仕切る板塀は、屏風のようにあえて完全に閉ざさず、ご近所の方がふらっと入って来られるようにしている。

  • お茶会やお稽古の日は、増木さんがデザインし、プレゼントした「清風」の暖簾が玄関に。「清風(せいふう)」とは、煎茶を飲み清い風に吹かれるような心持ちを表す。煎茶道の祖といわれる売茶翁(ばいさおう)が、野外で茶席を設ける際に「清風」の旗を掲げたという故事にならったそうだ。

    お茶会やお稽古の日は、増木さんがデザインし、プレゼントした「清風」の暖簾が玄関に。「清風(せいふう)」とは、煎茶を飲み清い風に吹かれるような心持ちを表す。煎茶道の祖といわれる売茶翁(ばいさおう)が、野外で茶席を設ける際に「清風」の旗を掲げたという故事にならったそうだ。

  • そばを流れる小川を思い起こせるよう、庭には庵治石の水鉢を置いた。夏場には打水効果もあり、水のせせらぎは清涼感を与えてくれる。「八国山から野鳥が水浴びに来て、目を楽しませてくれることもあります」とYさん。

    そばを流れる小川を思い起こせるよう、庭には庵治石の水鉢を置いた。夏場には打水効果もあり、水のせせらぎは清涼感を与えてくれる。「八国山から野鳥が水浴びに来て、目を楽しませてくれることもあります」とYさん。

  • 建築家・山口文象設計の「宝庵」をモチーフにした和室。額縁のように切り取られた庭の景色が美しい。庭は玄関から続く土間となっており、庭でも茶席を設けることができる。

    建築家・山口文象設計の「宝庵」をモチーフにした和室。額縁のように切り取られた庭の景色が美しい。庭は玄関から続く土間となっており、庭でも茶席を設けることができる。

施主が夢見た、心がすなおで閑な家
北鎌倉の茶室をモチーフにした和室も

下ごしらえが終わっても、対話は続き「自分らしい暮らし」のイメージを掴んでいく。
あるときは、北鎌倉の茶室「宝庵」でYさんが開催したお茶会に増木さんが招待されたという。「和室は、この宝庵の茶室をモチーフにしてご提案しました」と増木さん。お茶会に招待されるほど関係性を深めたからこそできた提案。念願だった自邸でお茶会を開ける和室が、由緒ある茶室をモチーフにされているなんて、Yさんにとって誇らしくうれしい提案だったに違いない。

こうした対話は、時間も期間もかかるし、打合せの回数も増える。中には早く進めてしまいたい施主もいるというがYさんは「私の暮らしを理解してもらえ、私のために時間をかけてくれて嬉しかった。自分がうまく言語化できないところもくみ取ってもらえた」とコメント。

住宅や建物の建築では、最初にターゲットとなるスケジュールが決められ、そこに向けてバタバタと動くのが当たり前ともいえる業界だ。いかに「手離れ」を良くするかということが重視されがちでもある。

市中山居の家づくりは、打合せに多くの時間をとり、大きな縮尺の模型も自分達で手間をかけつくる。一般的な家づくりとは真逆の手離れの悪さだ。
しかし増木さんは、それを気にしない。自邸を設計したときのように手間暇を惜しまず、施主との関係性を深める、施主の真の思いをくみ取る。そのうえでしっかりとした提案をすることこそが、満足度の高い家となると信じているから。

「そんな丁寧な家づくりを、お施主さんも一緒に楽しんでもらえると、愛着がより一層深まる家になると思います」と増木さんは語る。

Yさんは、李白の漢詩の一文「心(こころ)自ら閑(かん)なり」のように、心が素直に 閑(しずか)になる暮らしをずっと夢見ていた。増木さんはその夢が叶うよう、この住まいをそう名付けた。
  • 土間を抜けるとLDがある。漆喰(押さえ)壁は新雪のようにきめ細かく、明と暗の陰影を美しく映してくれる。障子が閉まると落ち着いた雰囲気をもたらしてくれる。

    土間を抜けるとLDがある。漆喰(押さえ)壁は新雪のようにきめ細かく、明と暗の陰影を美しく映してくれる。障子が閉まると落ち着いた雰囲気をもたらしてくれる。

  • LDの障子を開け放つと庭や濡れ縁にもつながる。Yさんは濡れ縁でご近所の方とお茶を楽しんでいるという。

    LDの障子を開け放つと庭や濡れ縁にもつながる。Yさんは濡れ縁でご近所の方とお茶を楽しんでいるという。

景色、光、風、音など五感で自然を感じられる
熟成された上質な大人の空間

こうして出来上がった「心自ずから閑なり」を見ていこう。
杉板の外壁が落ち着いた雰囲気をもたせ、小さな旅館のような佇まいだ。お茶会やお稽古があるときには、玄関に暖簾が下げられるという。

暖簾をくぐり、玄関扉を開けると大谷石の土間が広がる。右方向の扉を開くと庭まで土間が続く。この土間では、野外で茶席を設けることもできる。視線を反対側に移すとそこは和室だ。和室から土間方向を眺めると切り取られた庭の景色の雰囲気は「宝庵」を連想させる。

この和室は、あえてお茶のこと以外ではあまり使わないようにしているという。延床79㎡(24坪)ほどの家にはもったいないような気もするが、お客様をお招きする場、公の場としてのみ使うことこそが大人の贅沢と言えるのかもしれない。

土間を進むとYさんの住居部分。LDKの落ち着いた空間が広がる。家づくりにおいては、とかくLDKは明るさや開放感ばかりが追求されがちだが、Yさんの好みに合わせて明るい部分と薄暗い部分いわゆる陰影をあえて作り、落ち着きのある空間としている。

LDKには窓が設けられており、キッチンで作業しながら外の街並みが望めたり、障子を開け放つと庭の景色も眺められる。壁際の段差に腰掛け庭の様子を眺めるのもYさんの楽しみの1つとなっているという。

2階へと向かうとその途中には広々としたワークスペース。テレワークのスペースとして、蔵書を飾るスペースとして重宝しているという。

寝室の先には、3帖ほどのデッキテラスも設けられた。遠く八国山が見え、夏になると花火も見えるという。屋根の下なので、直射日光や雨も遮ってくれる。Yさんだけが愉しむことができる、贅沢空間だ。

日本の建築文化には「庭屋一如(ていおくいちにょ)」という言葉がある。庭と建物を一体のものと考え、自然と調和する空間を表す。
この家は、まさにそれを実現している。和室から、LDKから、さらにはデッキテラスや寝室からも庭の景色が楽しめる、遠くには八国山の自然が見える。八国山も自分の庭の延長だ。

さらに楽しめるのは、景色だけではない。漆喰壁に映る光と陰の移ろい、家を吹き抜ける風、木々や鳥のさえずる音、水鉢のせせらぎ、庭で味わう煎茶の香り、杉板の温もりまで。五感で楽しめる家となった。

この家の出来栄えにYさんも「期待していた以上に素敵で、毎日見惚れている」「こんなにストレスのない家が持てるなんて、夢にも思わなかった」「私にここまで寄り添っていただき、思いをくみ取っていただいた増木さんの仕事ぶりには感謝しかありません」と熱く語ってくれた。

市中山居の、施主に寄り添い二人三脚で時間をかけて行う丁寧な家づくりによって熟成された上質な大人の空間は、施主の夢を叶えたのだ。

「家は一生に一度の買い物」「家は3回建てないと理想のものにならない」とはよくある話。
市中山居は、一生に一度の買い物で、自分らしい暮らしを叶えてくれる。
  • LDの上は抜き抜けとなっており、家中に光や風を送り届けてくれる。階段手前の段差は、庭に向かって斜めに振れており、Yさんはこの段差に腰掛け、庭の木々や水鉢を眺めるのがお気に入りだとか。

    LDの上は抜き抜けとなっており、家中に光や風を送り届けてくれる。階段手前の段差は、庭に向かって斜めに振れており、Yさんはこの段差に腰掛け、庭の木々や水鉢を眺めるのがお気に入りだとか。

  • ダイニングのソファーはシナ材を使った大工さんによる造作でYさんの体に合わせた高さにし、布地は内装や本人に似合うよう色・柄・素材を150種以上のサンプルからYさんと3時間かけ選んだそうだ。

    ダイニングのソファーはシナ材を使った大工さんによる造作でYさんの体に合わせた高さにし、布地は内装や本人に似合うよう色・柄・素材を150種以上のサンプルからYさんと3時間かけ選んだそうだ。

  • 2階へ向かう途中に設けられたワークスペースは、落ち着きがありながら天井の高さからくる開放感がある。Yさんは窓の向こうの景色を眺めて一息つきながら毎日快適にテレワークできているという。

    2階へ向かう途中に設けられたワークスペースは、落ち着きがありながら天井の高さからくる開放感がある。Yさんは窓の向こうの景色を眺めて一息つきながら毎日快適にテレワークできているという。

  • 寝室とWICのそばにある水回りは、南向きで明るく、心地よい風が流れる。お風呂の窓先のバスコート越しに空も眺められ、露天風呂気分も味わえる。お湯に浸かりながらお月見も楽しめるのだとか。

    寝室とWICのそばにある水回りは、南向きで明るく、心地よい風が流れる。お風呂の窓先のバスコート越しに空も眺められ、露天風呂気分も味わえる。お湯に浸かりながらお月見も楽しめるのだとか。

  • 2階のデッキテラスは、屋根の下にあるため夏の日差しや雨も遮ってくれる。八国山の景色が楽しめるほか、夏には花火も見えるのだとか。
この家には定位置なんてない。いろんな場所で、それぞれ違った景色や雰囲気、時間を楽しめる場所がいくつも存在する。

    2階のデッキテラスは、屋根の下にあるため夏の日差しや雨も遮ってくれる。八国山の景色が楽しめるほか、夏には花火も見えるのだとか。
    この家には定位置なんてない。いろんな場所で、それぞれ違った景色や雰囲気、時間を楽しめる場所がいくつも存在する。

撮影:中村晃写真事務所(一部:市中山居、相羽建設)

Yさんの暮らしぶりを収めた動画は市中山居HPよりご覧いただけます

基本データ

作品名
心自ずから閑なり
施主
Y邸
所在地
東京都東村山市
敷地面積
118.05㎡
延床面積
79.9㎡
予 算
3000万円台