明暗と空間にメリハリを
店舗のような落ち着きのある黒い家

奥様の実家の土地に親世帯・子世帯それぞれの家を同時に建てるという「究極の近居」を選んだYさんご家族。外観に統一感を持たせながらも、親世帯とは違った「自分達好みのテイスト」「自分達らしい生活」を実現した黒い家をつくったのは、空間づくりの匠空-KEN design officeの竹中さんでした。

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施主のリクエストは明るすぎなくてよい
店舗のような落ち着きのある空間を

吹田市の住宅街に、共有のエントランスを挟んで白と黒の家が2棟並んで建っている。四角いフォルムのソリッドな外観は統一感があり兄弟のようだ。この家たちは、代々この地に住んでいたNさんの白い家とその娘さんご家族の黒いY邸。

もともと2世帯住宅も検討してきたというNさん・Yさんご家族。好みのテイストやライフスタイル、家族の距離感など、様々な要素を検討した上で導き出した答えが究極の近居である親世帯・子世帯それぞれの家を2棟並びで新築するという計画。

このプロジェクトへの参画を、先輩建築家であるいぶし建築工房の岩村さんから打診されたのは、空-KEN design officeの竹中さん。学校の同級生建築家であるノトノートデザインワークスの野戸さんも加わり、3人がタッグを組み設計を行うこととなったという。

明るい家であることを望んでいたNさんご夫婦とは対照的に、Yさんご家族は「明るすぎなくてよい」とのことだった。それよりも「お店のような落ち着きのある空間」にしたいという要望があったのだ。こうした好みのテイストの違いが、親世帯であるN邸の「白」、子世帯であるY邸の「黒」というイメージカラーに繋がった。

竹中さんは、これまで様々な住宅や店舗の設計・空間づくりに携わってきた。とりわけ店舗づくりにおいてはナチュラルテイストからモダンテイスト、ラグジュアリーな空間など幅広いテイストで顧客のニーズに応えてきた実力者。Yさんの「お店のような」という願いを実現するのに、まさにうってつけの建築家だったのだ。
  • 2棟が兄弟のように並ぶ。白い家が親世帯のN邸。黒い家が子世帯のY邸。

    2棟が兄弟のように並ぶ。白い家が親世帯のN邸。黒い家が子世帯のY邸。

  • Y邸の玄関は共有のエントランスを進んだ手前にある。

    Y邸の玄関は共有のエントランスを進んだ手前にある。

提出したプランがほぼそのまま施工に
施主に寄り添い、想いを叶える

Yさんご家族の要望を受けた竹中さんたちは、それぞれ考えたプランを持ち寄り、Yさんに選んでもらうという方法をとった。

建築家は、プランを出す前段階であるヒアリングに時間と手間をかける人も多い。詳細なシートに記入をしてもらったり、趣味や好きな音楽や本などの話をしたり、時には食事を交え、「施主を知る」ことを重視するタイプだ。一方、ヒアリングではコンセプトや方向性の確認程度にして、まずは叩き台となるプランを図面や手書きイラストで提示し、施主と対話しながらブラッシュアップを図っていくタイプの建築家もいる。竹中さんは後者のタイプだという。

「一般の方にとって、自分達が想像している空間を、何もない状態でしっかりと伝えることは難しいと思います。であるならば、ふわっとしているイメージを早めに具現化させ、それに対して意見をもらうほうが施主の想いを掴めると思っています」と竹中さん。

まずはプランを提示するといっても、竹中さんは「自分のテイストはこれだ」というこだわりが強いタイプではない。施主の想いを叶えることを第一に考え、寄り添うことを大切にしている。もちろん提出したプランに大幅に手直しが入ることも厭わず、何度でも施主が納得するまでブラッシュアップを図る。

とはいえ、実際にファーストプランから大きな変更があることが少なく、多くの場合、ファーストプランをベースに建築されることが多いという。

「Yさん邸もファーストプランが採用され、ほぼ当初のベース案のまま施工されました」と竹中さん。

短い期間でありながらも、Yさんの想いをしっかりと汲み取り、その心をがっちりと掴むプランを考案する竹中さんの実力には驚かされる。
  • 玄関を入ると、植栽がお出迎え。吹き抜けの天井と差し込む光によって植栽はこの家とともに成長していく。

    玄関を入ると、植栽がお出迎え。吹き抜けの天井と差し込む光によって植栽はこの家とともに成長していく。

  • 夜になり、植栽がライトアップされた玄関はまさにお店のような雰囲気に。

    夜になり、植栽がライトアップされた玄関はまさにお店のような雰囲気に。

大空間の中にメリハリをつける
明暗分かれたいくつもの居場所

それでは、竹中さんが設計した黒い家Y邸を見ていこう。

Y邸の玄関は、共有のエントランス手前にある。玄関を入ると目の前には大きな植栽が。植栽が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるかのようで、店舗感をもたらす演出の1つだ。植栽の縁はベンチのようになっており、靴を履くときに腰掛けたり、外で遊んだお子さんがちょっと休憩するのにも役立つ。

また、玄関部分は吹き抜けとなっており、上部からの光や玄関脇のガラスからの光で植栽が成長できる設計だ。

廊下をLDKへと進むと、一気に視界が開ける。2階まで吹き抜けになっている大空間は、上下の大きな窓から光がたっぷり降り注ぐ。北西側であるため直射日光ではないものの、しっかりと明るさをもたらしている。眼前にスケルトン階段が鎮座している様は、白い家との共通点といえるだろう。

向かい合う白い家とは、窓が正対していないため、常に丸見えということにはならない。それでも、白い家に出入りする際にこの前を通ることになるので、家族の様子が伺えるという絶妙の窓配置だ。

ダイニングテーブルの先に眼をやると、そこは打って変わって薄暗く落ち着いたリビングが。ダイニングは2階までの高さがある薄いグレー色の天井であるのに対し、リビングの天井は1階分の高さで木の格子状。床もウォールナットのフローリングに対し、1段下がったタイル張りと、ゾーニングをしっかりと分けた。

竹中さんは、1つの空間でありながら、「明」と「暗」、「開放感」と「籠る感じ」という対比を演出することで、リクエストにあった店舗感を見事に演出してみせた。

また、リビングの奥には本棚で仕切られた畳コーナーを設けた。お店の小上がりといったところだろうか。地窓からは光が差し込み、お子さんが本を読んだり、おもちゃで遊んだりするのに絶好の空間。本棚で仕切られているので、多少散らかっていてもへっちゃらだ。来客時には、客間としても使用できる。

LDKの中心にはキッチン。目の前の開放的空間を見ながら料理ができるだけでなく、リビングにも畳コーナーにも目が届く、この家の司令塔だ。

逆サイドには、パントリー、手洗い場、WICなどが並び、それらは玄関からも回遊できる設計。抜群の家事動線を喜ばれているという。

1階が来客も想定するパブリックゾーンに対し、2階は個室を中心としたプライベートゾーン。

階段を上った先はスキップフロアのフリースペースを設けた。現在はお子様の遊び場として使われているが、将来的にはスタディースペースとなるという。もちろん、子供部屋はあるものの、ここで勉強することにより、LDKに居ながら子供の様子が伺えるという仕掛けだ。このスキップフロアには、道路側に大きな窓を設けた。この窓はスキップフロアや玄関に光を導くとともに、外の景色を感じられる役割も果たす。向かいの家の庭の木々が、四季の移ろいを感じさせてくれる。

2階には、吹き抜けを取り囲むように子供部屋、洗面浴室、夫婦の寝室というゾーニングとした。

施主の「明るすぎなくて良い」という要望は、そのまま受け取ると家全体が薄暗いものとなっていただろう。しかし竹中さんは、明るい部分と暗い部分、開放的な部分と籠る部分という、明暗と空間にメリハリをつけることで、1つの家の中にいくつもの居場所をつくってみせた。どんな気分のときも、どんなことをしたいときも、この家にはそれができる場所がある。また、家族がどの場所にいてもその存在を感じることができる。それこそが、Yさんご家族が望んでいたことだ。

施主の真の想いを感じ取り、それを形にする竹中さんの力がいかんなく発揮された。

「唯一のこだわりは、『施主の想像を超えたい』と思いながらプランを考えることです」と竹中さんは語る。

この家での暮らしは、きっとYさんたちの想像を上回っているに違いない。
  • 吹き抜けと大きな窓で開放感抜群のダイニングスペース。窓の先には白い家の玄関が。お互いのリビングの窓が正対しないため、丸見えになることはないが、行き来する際に家族の様子が伺える。

    吹き抜けと大きな窓で開放感抜群のダイニングスペース。窓の先には白い家の玄関が。お互いのリビングの窓が正対しないため、丸見えになることはないが、行き来する際に家族の様子が伺える。

  • 昼間は明るかったダイニングスペースが、夜には落ち着いた雰囲気になりダイニングバーのよう。

    昼間は明るかったダイニングスペースが、夜には落ち着いた雰囲気になりダイニングバーのよう。

  • 1つの大きな空間でありながらゾーニングがはっきりと分かれる。「明」と「暗」、「開放感」と「籠る感じ」の対比が面白い。

    1つの大きな空間でありながらゾーニングがはっきりと分かれる。「明」と「暗」、「開放感」と「籠る感じ」の対比が面白い。

  • お店の小上がりのような畳コーナーは、お子さんの読書や遊び場であるとともに、客間にも。
リビングの先の地窓からは、元の家の思い出の手水鉢が見えるとともに、白い家のリビングから黒い家の在宅がわかるのだとか。

    お店の小上がりのような畳コーナーは、お子さんの読書や遊び場であるとともに、客間にも。
    リビングの先の地窓からは、元の家の思い出の手水鉢が見えるとともに、白い家のリビングから黒い家の在宅がわかるのだとか。

  • リビングから伸びるスケルトン階段は、白い家同様に存在感抜群で、オブジェのよう。

    リビングから伸びるスケルトン階段は、白い家同様に存在感抜群で、オブジェのよう。

撮影:笹の倉舎 笹倉洋平

基本データ

作品名
二棟横並びの住宅 黒い家
施主
Y様
所在地
大阪府
敷地面積
175.09㎡
延床面積
125.53㎡
予 算
3000万円台