居場所豊富な大空間に家族が集う
プライバシーと一体感を両立した木屋根の家
お施主さまの要望にこの敷地だからこその
心地よさをプラスした、大屋根の家
というのも、長い間、いつか自宅を新築したいとお考えだったお施主さま。家づくりのアイデアやイメージをかなり明確にお持ちだった。注目の建築家を紹介する書籍で西岡さんを発見し、ホームページも閲覧したところ、ご自分のイメージに近い作例を見つけたのだそうだ。
イメージされていたのは、大きな空間の中にいろいろな居場所がある家。休日には外出しなくても、家族3人一緒に、またはそれぞれが思い思いに楽しめる暮らしを描かれていた。また、木の温もりや本物の素材感が感じられることも重要だった。
もちろんこれらの要望をまとめ上げ、実現することが第一だ。「しかし、それらを叶えるだけでなく、この家だからこその心地よさをプラスアルファで提案しました」と西岡さん。そしてそのためには、敷地形状を生かすことが大切だと考えている。
敷地は角地にあり、北西から南東に若干広がりながら伸び、かつ、中央辺りから東の角が削り取られた形をしている。西岡さんはまず、西から南、東にかけて接道していることから、西の角に駐車場を計画。さらに日当たりのよい真南の角と、中央の削られた角に面する真北にも庭を配置した。文頭で「横長の」と紹介したが、残った敷地の形に添うように家は計画され、実はZ型をしている。家は大きな木屋根に覆われ、そのうちの一部が捲り上がるように斜めに伸び、そこに2階がある。
以前は2区画だったという広大な敷地いっぱいにつくられた家は、道路側から眺めるだけでも感嘆の声が上がってしまいそうなほど気持ちがいい佇まいだ。
視線の抜け、床や天井高の変化、配置……
要素を多数合わせつくり上げた豊富な居場所
西に配置した玄関に入り、北に進むと寝室や子ども室、水回りなどプライベート空間を集めたエリアがある。一方、東に進むと外観から得られる感覚そのままの大空間が広がっている。LDKだ。天井が高いのは、外観の捲り上がった屋根の部分がここに当たるから。ダイニングは吹き抜けになっており、リビングの上には2階に位置するロフトがある。さらに、LDKからは南の庭に面して細い通路が続いており、奥にはラウンジとシアタールームが設けられている。
面白いのは、北西から南東に伸びる空間に対して、北と南に庭があり、直角ではなくバイアスに視線が抜けるのだ。加えて西の玄関から東の2階のロフトまでという視線の伸びも用意されている。LDKにいるとまさに四方八方、そしてより長く、より遠くへ視線が伸び、意識が広がっていくのが実感できる。お施主さまの想像した「大きな空間」以上に立体的で、広々とした空間であることは間違いない。
ご要望だった「居場所がたくさんある空間」も想像以上の仕上がりだ。ダイニングは吹き抜けで天井が高く、ロフトにはひとつ離れたプライバシー性がある。ロフトの床が天井となり、さらに床が一段下がったリビングは籠り感があり、落ち着いている。
さらに南の庭との間には、申し分ない広さのデッキが室内から続く。庭へのアクセスがしやすいのはもちろんのこと、しっかりと軒を出したデッキは天候関係なく使える。対して北の庭へと続くのは室内につくられた暖炉テラスだ。南のデッキが外部ながら室内の一部のように感じられるエリアであるならば、こちらは室内にありながら外部のような居心地を得られる。
また、北の暖炉テラスに面してこちらにも庭との間にデッキがあり、浴室からもアクセスできる。一般家庭ではあまり例がないという本格的なサウナを取り入れたお施主さま。チラーシステムも備え、水風呂も楽しめる。そのまま北のデッキへ出て整うひとときは言わずもがな最高だ。
同じ面積でも、体育館のようなただの四角いがらんどうの空間と、この家のようにバリエーション豊かな居心地を得られ、外部の見え方も光の入り方も方向によって異なるつくりでは、広さの体感が異なる。自宅で仕事をすることも多いというお施主さま。ロフトにラウンジ、リビングなど気分や状況に合わせて今日はどこでパソコンを開こうか迷うのも楽しみになりそうだ。気分転換が家の中を少し移動するだけでできるのもうれしい。出かけなくても休日が楽しめる家、という要望があったが、この「木屋根の家」は、休日だけでなく毎日が楽しみに満ちた家となった。
モダンな雰囲気を維持する細い梁。
以前の生活を反映した暮らしやすい住まい
その秘訣は梁だという。一般的にこの家の広さからすると厚みも高さもある太い梁でなければ支えられない。それを特殊な加工をした強い素材を2枚組み合わせることで、細くて薄い梁によるモダンな雰囲気を実現したのだ。2枚の梁の間に照明のダクトレールを取り付け、明るさを確保しながら設えをシンプルに見せているのも心憎い。
LDKで殊更目を引くのが壁一面に計画された本棚だ。大量の本の収納は当初から課題のひとつだったという。ただ収納できればいいというものではない。「籠って集中して読みたい人もいれば、すぐ手に取れることが重要という人もいますよね。本との付き合い方は人それぞれですから」と西岡さんは語る。ヒアリングを踏まえ、家族皆が自由に手に取ることができるように、またインテリアとしても機能するようにこの見ごたえのある本棚を造作したそうだ。この場所にあれば、庭やデッキも含めて家のどこへもアクセスしやすく、ますます読書がはかどりそうだ。
収納も、お施主さまの暮らしを反映させたうえで提案するとのこと。容量が適切でも、収納の仕方が以前と変わってしまっては元も子もないからだ。プランニング前に、なにも片付けていない普段の状態で家を見せてもらうことにしているという西岡さん。吊るしているのか、畳んで棚に入れているのかなどまで確認し、計画に反映させる。新しい家でも流儀を変えずに、慣れ親しんだ方法で収納できるのは、よりよい生活の質に繋がるだろう。
「家族同士でプライバシーを守りながらも、一体感を感じています」というお施主さま。こんなときはここで、こんなふうに、と過ごし方をいくつもあげてくださるところからも、期待以上の家ができたのだなとわかる。環境や素材、高さや幅、ありとあらゆる要素を使いこなし、空間性を重視する西岡さんだからこそ、お施主さまの高い期待に十二分に答えることができたに違いない。
基本データ
| 作品名 | 木屋根の家 |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県成田市 |
| 敷地面積 | 543.29㎡㎡ |
| 延床面積 | 268.72㎡㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供1人 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

新しいのに昔からあったような佇まい ずっとここでのんびりしていたくなる家
新しい建物のはずなのに、以前からそこに存在していたかのように周囲に溶け込んでいる 建物がある。ここは、とくら建築設計の松尾道生さんの自邸およびアトリエ。住まう家族も 訪れた人も「ここにずっといたい」と思わせる家づくりに迫る。

網戸から透けて見える中庭。 豊かに暮らす住まい手の魅力がにじみ出る家
区画整理によって生まれた、新しい住宅地。周辺に家がない状況で、要望を叶えつつ、将来どんなふうに近隣の家が建っても住環境に影響を受けないプランを考えなくてはならなかった。建築家の箕輪さんが出した答えは「中庭」。外からは想像できない、明るく開放的な庭が中心にある、豊かに暮らせる家ができた。

「45度回転」はメリット満載。多様な居場所と、のびやかな広がりを
家をつくるならぜひ欲しい、「広々としたLDK」。だがワンルームの大空間をどんなLDKにするかは、設計者のセンスやスキルで大きく変わる。では、建築家の片山正樹さんの場合はどうだったのだろう? 「大田区の家」から片山さんの設計の魅力を探る。

故郷に似た気候の札幌へ、東京から移住 2人の英国人が堪能する、坪庭のある家
札幌市の手稲区に、独創的な邸宅が誕生した。母国の気候に近い北海道へ、東京からの移住を決意した2人の英国人女性のための家だ。この地を選んだ決め手は、金山の雄大な眺望だった。一方で住宅街にあるため、隣家からの視線カットも必要となる。眺望とプライバシー確保の両立に成功した、この作品をご紹介しよう。

水と森のリゾートに立つハイグレード空間 友人と憩い、趣味を楽しむ山中湖の別邸
建築家の奥野公章さんが手がけた『山中湖の家』は、多趣味な施主さまのための高級感あふれるセカンドハウス。清涼な自然を満喫できる邸内はホテルライクな心地よさが魅力。豊かな居心地を生み出すメリハリの効いた空間設計にも注目だ。

施主の想いを理想的な形にした、自然とともに暮らす家
ミツバツツジが自生する高台に建つS邸。大きな開口部の向こうには山々が広がり、春山に萌える新緑、夏の深い緑、錦秋の山、そして雪景色と、四季の移ろいが楽しめます。多種多様な木々を植樹した広大な庭には鳥たちが集まり、そのさえずりで目を覚まし、高台を抜ける風と射し込む光を肌で感じ、虫たちの声のBGMに耳を傾ける……。そんな「自然とともに暮らしたい」というSさん夫妻の想いを形にしたのは、空間設計aunの宮崎 晋一さん。建築に造詣が深い施主とともに二人三脚で創り上げた理想の住まいをご紹介します。

配置の妙で叶えた、日射とプライバシー確保 優しい光に包まれて穏やかに暮らす家
漆喰の壁の美しさが青い空に映える家は、瓦屋根によって重厚感が加わりまるで蔵のよう。建築家の香山さんは、住宅街の中でプライバシーを確保しながら、いかに明るい家をつくるかと熟考し、道路側から奥に伸びる長細い家を提案。隣家が迫っていても、カーテンを開けて生活できる環境をどう実現したのだろうか。

家族がふれ合えるくつろぎ空間が豊富! オトナ家族の家づくり
Kさん一家は、50代のご夫婦と20代のお子さまの4人家族。子育て期を過ぎたご家族の家づくりに臨むことになった建築家の植松利郎さんは、一家そろって、あるいは一人ひとりで快適に趣味や暮らしを楽しめるスペースづくりを提案。将来も見据えたアイデア満載のK邸の魅力とは?

2世帯住宅でも非日常の空間を実現!ひとつ屋根の下で心地良く暮らせる住まいとは?
食事、睡眠、家族との会話…。それはまさに自宅における「日常の暮らし」そのものです。しかし、施主であるSさんご夫妻が住まいに求めたのは「非日常の空間での暮らし」。さらに、息子さんご夫婦との同居が決まり、S邸のプランは2世帯住宅へと変化していきます。ひとつ屋根の下で2つの家族が適度な距離感を保ちつつ、非日常空間が感じられる住まいを実現したのは、腰越耕太建築設計事務所代表の腰越耕太さん。今回は、相反する要素を見事に両立した家づくりをご紹介します。
