木製ルーバーが暮らしを守る、
中庭でつながった二世帯住宅+アトリエ

笹野さんの自邸『猪高台の家』は、親の住まいと完全に機能を分離した二世帯住宅+建築事務所からなっている。制限の多い土地条件に対して、過剰な3つの空間を収めた間取りと、それでいて採光や通風といった快適さを損なわない住空間。難解なプランを明快な答えへと導いた、笹野さんのユニークかつ的確なアイデアや工夫を紹介します。

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限られた土地に過不足なく3つの空間を設計

木製のルーバーとガルバニウム鋼板の外壁に覆われた『猪高台の家』。実はこの家には「建築家の自邸+親の家+設計事務所」という3つの機能が盛り込まれている。「もともとは親が住まう普通の一軒家でした。私が家族を持ったため二世帯住宅にしたかったこと、同時に建築事務所を作りたかったこともあり、建て替えを決めました」と笹野さん。

住宅部分は親子各世帯の機能を完全に分離した二世帯住宅。笹野さんは子どもを含む家族で暮らす十分なスペースを、親世帯である母親は一人の暮らしながら近所に住まう姉家族が遊びに来ても泊まるのに困らない部屋数と、趣味であるピアノ室を、という希望があった。建築事務所には、笹野さん自身を含む最大5名が働けるワークスペースと打ち合わせルーム、資料室、トイレが必要。しかし、ここは敷地面積270㎡、第一種低層住居専用地域という建ぺい率や総床面積の制限が厳しい場所でもあった。「この土地条件に対して必要とされるボリュームはあまりに過大な印象で…。難解なパズルを解いているようで、何度もプランを組み立てては潰しての繰り返しでした」。

解決への糸口となったのは、駐車場だ。3台分の駐車場の屋根を諦め、道路に面した南面に配置したことで、住宅部分がシンプルな四角形になり、東側の台形となった土地を建築事務所とするプランにたどり着いた。「木造でも合理的な二間…、数字で言うと3640㎜という建築で一般的な寸法のグリッドでほとんどの設計ができ、明快なプランになりました」笹野さんはそう振り返る。

もう一つ、プランをより難解にしていたのは、道路より約1m高く造成されていた土地条件だった。笹野さんはその高さの違いを逆手に取り、道路に接する駐車場と建築事務所は土地を削って下げ、住宅部分は従来の高基礎のまま計画。プライベートな住居スペースとパブリックなワークスペースの高さレベルを変えることで、異なる用途の空間を明確に区切るとともに、建築に動きのあるユニークなプランを創り上げた。
  • 木製ルーバーの奥が住居スペース、ガルバニウム鋼板に覆われた場所が建築事務所。実験的にさまざまな窓が使用されている

    木製ルーバーの奥が住居スペース、ガルバニウム鋼板に覆われた場所が建築事務所。実験的にさまざまな窓が使用されている

  • 住宅の門扉はルーバーの中に。真ん中に軸を設けて回転ドアのように開く。クローザーと電子錠も付いているのでとても機能的

    住宅の門扉はルーバーの中に。真ん中に軸を設けて回転ドアのように開く。クローザーと電子錠も付いているのでとても機能的

  • 住居スペースと高さレベルが違うため、事務所は吹き抜けの階段を中心に半層ずつずらすようにワークスペースや資料室を配置

    住居スペースと高さレベルが違うため、事務所は吹き抜けの階段を中心に半層ずつずらすようにワークスペースや資料室を配置

中庭とスキップフロアが作る快適な住空間

笹野さんが住宅を設計する上で大切にしているのが、光と風。その考え方を体現し、大きな効果を発揮しているのが各世帯に設けられた2つの中庭だ。1階のリビングやダイニングキッチンには、中庭に面して吹き抜けが設けられ、1・2階の大きな窓から十分な光が注ぎ、爽やかな風が吹き抜ける。さらに、敷地の北側に位置する和室や寝室なども、南側に開口部ができるため明るく過ごしやすい空間に。「二世帯の機能は完全分離ですが、中庭を介してゆるやかにつながることで互いの気配を感じたり、窓を開ければおしゃべりもできます」そんな効果も期待したと話す。

この中庭の存在を、より快適なものにしてくれるポイントが、住宅部の前面を覆い隠すように設置された木製のルーバーだ。中庭を介して外の視線に晒されたであろう居住空間のプライバシーをしっかりと確保するとともに、冬の光は受け入れつつ夏の日差しは遮り、それでいて風は通すという機能を持ち合わせる。洗濯物を干すのはもちろん、中庭でBBQをしたり、子どもが小さな頃も安心して遊ばせることができたのだとか。中庭があることで凸凹とした間取りも、ルーバーの存在が一つの建築としてのまとまりを生み出している。

一方、住宅内は高さレベルの異なるスキップフロアを巧みに用いて、より使いやすく、家族が快適に過ごせる空間を実現。平面図とともに断面図で高さの検討も入念に行い、例えば、2階のダイニングキッチンは床のレベルを変え、ウェンジの一枚板を使いながらダイニングテーブルは65㎝、キッチンは85㎝と、双方の使いやすい高さとしている。さらに、1階のリビングと2階のダイニングキッチンの距離をなるべく近づけるため、キッチンの床を階下の納戸の天井高が許す限り下げつつ、リビングに畳の小上がりを設けることで、1~2階を結ぶ階段はわずか9段に。ここにも「住まいのなかの家族の一体感を大切にしたい」そんな笹野さんの思いが込められている。

中庭が光と風を呼び込み、スキップフロアが間取りに躍動感と床面積の以上の広がりを与える。3つの異なる空間とそれに付属する多くの要望を、限られた土地のなかでまとめ上げた猪高台の家。時々、オープンハウスとして公開されることもあるとのこと。機会があれば、ぜひ足を運んで話を伺いながら、じっくりと見学されてもらうのも良いだろう。
  • 2つの中庭を通して、二世帯の家が一つにつながる。1・2階ともに大きな窓が設けられ、光と風をたっぷり取り込んでいる

    2つの中庭を通して、二世帯の家が一つにつながる。1・2階ともに大きな窓が設けられ、光と風をたっぷり取り込んでいる

  • 2階ダイニング前のテラスより。空がキレイに抜けて開放的。気候のよいシーズンはテラスや中庭で過ごすのも気持ちい良い

    2階ダイニング前のテラスより。空がキレイに抜けて開放的。気候のよいシーズンはテラスや中庭で過ごすのも気持ちい良い

  • リビングは吹き抜けで、2階のダイニングキッチンと一体となった空間に。ホームシアターは2階から観ることもできる

    リビングは吹き抜けで、2階のダイニングキッチンと一体となった空間に。ホームシアターは2階から観ることもできる

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

施主
S邸
所在地
愛知県名古屋市
敷地面積
270㎡
延床面積
268㎡
予 算
4000万円台