コンクリート打ち放しを室内からも楽しめる
大きな箱に包まれた、入れ子構造の家

RC造がお好きで、コンクリートにガラスや木材を組み合わせた家にしたいとお考えだったお施主さま。そこで、設計を担当した藤原・室 建築設計事務所ではコンクリートの表情を室内からでも楽しめるよう、入れ子構造の家を提案。それは同時に、コンクリート打ち放しでも過ごしやすい機能性を確保するためでもあった。

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道路から2m上がった敷地。擁壁を掘り込み
出入りしやすいビルトインガレージを実現

事務仕事などちょっとした作業を会社だけでなく家でもできたら、とお考えだったお施主さま。自宅を新築するにあたり、事務所を兼ねる建物にしたいと希望された。

依頼を受けたのは、有限会社 藤原・室 建築設計事務所の藤原愼太郎さん、室喜夫さん。お施主さまはホームページや以前の作例を実際に見て気に入ってくださったとのこと。ホームページには美しいRC造の家が数多く紹介されており、お施主さまも当初よりコンクリートに木やガラスの表情が組み合わさったRC造の家を望まれていた。

お施主さまは室さんたちとともに検討したうえで、敷地が道路より2m程上がっている分譲地を購入。完成したのはRC造の利点を土地の特性に生かした地下1階、地上2階建ての建物だ。

地下は既存の擁壁を掘り込みつくったもので、ご希望だったビルトインガレージや、事務所を配置した。暮らしの空間は1階と2階。1階には家族それぞれの個室を集め、2階にLDKや水回りを計画した。

ビルトインガレージは法規上でいうと地下だが、道路からフラットに入ることができる。ガレージから直接室内に入ることもでき便利だ。また、ガレージの隣に配置した玄関から一番近い位置に事務所をつくったおかげで、住まいの動線と切り離すことができた。トイレも居住空間へ向かう廊下の手前に設けており、プライバシーが守れる。仕事関係の来客が生活空間に入ってくる心配がないのは、ご家族にとってなによりもの安心につながるだろう。
  • 外観。外側の箱と入れ子の間には外部通路を計画。家の奥まで光や風が届く

    外観。外側の箱と入れ子の間には外部通路を計画。家の奥まで光や風が届く

  • 西側外観。既存の擁壁を一部掘り込み地下を計画。ご要望から2台の車が置けるビルトインガレージ(左)は道路からフラットに出入りできるようにした。画像右、残した擁壁の裏側に事務所がある。擁壁とビルトインガレージの間に設けた玄関から近く、仕事の来客が暮らしに影響しない

    西側外観。既存の擁壁を一部掘り込み地下を計画。ご要望から2台の車が置けるビルトインガレージ(左)は道路からフラットに出入りできるようにした。画像右、残した擁壁の裏側に事務所がある。擁壁とビルトインガレージの間に設けた玄関から近く、仕事の来客が暮らしに影響しない

RC造らしさ美しさを極めつつ、機能性も。
浮遊感が感じられる入れ子構造

角地に建つ「北摂の事務所兼住宅ーRC住宅」は北面と西面が道路に接している。特に玄関のある北面は、地上部分が極限までシンプルに設えたコンクリート壁になっており、コンクリート打ち放しがこんなにも美しいものだったのかと再認識できる。

対して西面はコンクリートに木やガラスといった異なる素材を組み合わせ、高いデザイン性を持ってお施主さまお好みの雰囲気を表現した。

思わず目を止めてしまう佇まいなのには、他にも理由がある。RC造というと、どっしりとした建物というイメージがあるが、この家はなんとなく浮遊感も感じられるのだ。1階から上の住居部分は、既存の擁壁から張り出してつくられた大きなコンクリートの箱の中に入れ子のように入っている。加えて既存の擁壁と大きな箱の間に空間をつくり、このふわりとした軽さを印象付けた。「さらに、地下にあたるビルトインガレージにはアルミシャッターを取り入れるなど、上の階と地下の仕上げを分けて見え方を異ならせました」と2人。これらの工夫から地下と地上の建物が視覚的に切り離されたおかげで、より浮遊感が高まった。

生活空間を大きな箱で包むように計画した理由はいくつかある、と事務所の2人。

まずひとつは、お施主さまがお好きなRCの雰囲気を家の中からも楽しめるようにしたかったからだという。1階の4つの個室のうちの2つ、また2階のLDKの両側は外側のコンクリートの箱に向けての大きな開口がある。

「コンクリートを景色のように見せたかったのです」と室さん。箱と入れ子の間には天窓を設けた外部通路を設け、天窓や南側から入る日射による光と影など、移ろう時間から生まれる美しさなども一緒にコンクリートの表情が室内から眺められるようにした。通路は風が抜け、天窓から落ちた光は室内にも届く。プライバシーを守りながら外部と繋がり、さらにコンクリートも堪能できる。同時に全て叶えることなど無理と考えるのが普通だと思うが、こんな方法があったのか、と驚いてしまう。

また、この構造は家の機能性を高める役目も担っている。外部も内部もコンクリート打ち放しをそのまま生かしたいとなると、やはり外気の影響を考えなくてはならない。夏は暑く、冬は寒い家になってしまうのだ。そこで、入れ子状とした内側の部分にはしっかりと断熱材を入れた。さらに外部通路がバッファとなり、より室内を快適に保つことができるようになったという。

要望を叶えながら、暮らしのことまで見通したプランニング。洗練された、かつ大胆なデザインは確かな設計力、技術力の賜物なのだ。
  • 地下、ビルトインガレージ。画像奥の木材の扉から室内へ入ることができる。室内側、壁の石材はお施主さまが選ばれたもの

    地下、ビルトインガレージ。画像奥の木材の扉から室内へ入ることができる。室内側、壁の石材はお施主さまが選ばれたもの

  • 1階西側、中央の居室。外部通路に向けて大きく開口され、コンクリートの表情が室内から存分に楽しめる

    1階西側、中央の居室。外部通路に向けて大きく開口され、コンクリートの表情が室内から存分に楽しめる

  • 1階、外部通路。画像左、窓は西側中央の居室のもの。奥の階段は2階のバルコニーへ続く。天窓やバルコニーからの光が感じられ、優しい雰囲気。風も抜けるおかげで、プライバシーを守りながら外部が感じられる。階段が室内と外部通路の2か所にあることで、生活の幅が広がった

    1階、外部通路。画像左、窓は西側中央の居室のもの。奥の階段は2階のバルコニーへ続く。天窓やバルコニーからの光が感じられ、優しい雰囲気。風も抜けるおかげで、プライバシーを守りながら外部が感じられる。階段が室内と外部通路の2か所にあることで、生活の幅が広がった

  • 2階LDKからバルコニーまでを見渡す。天井の素材を外部の木材パネルと同じチーク材で統一し、室内からバルコニーまで伸ばしたことで木材の塊が生活空間に入り込むイメージをつくり上げた。室内も拡張されたように感じられる

    2階LDKからバルコニーまでを見渡す。天井の素材を外部の木材パネルと同じチーク材で統一し、室内からバルコニーまで伸ばしたことで木材の塊が生活空間に入り込むイメージをつくり上げた。室内も拡張されたように感じられる

お施主さまのご要望に対して誠実に取り組み
イメージを具現化する家づくり

お施主さまが気に入られたこの敷地の魅力のひとつは、目の前に広がる景色だ。生活の場である2階LDKから満喫できるよう、借景に向けた南側は壁一面を開口した。窓の外にはベランダを計画。外側の大きな箱のおかげで日射もコントロールされ、ゆったりとした時間が過ごせる。

室内は、窓に向かって奥にダイニングキッチン、手前にリビングを配置し、キッチンからベランダまで徐々に床のレベルを下げた。キッチンに立っているときでも、遮るものなく景色が見えるように配慮したという。

景色の見え方にもこだわり、ブラインドは天井面のボックスに収納。スパッと切り取られた四季折々の景観は、まるで絵画のよう。また、室内からベランダの軒までがチーク材で統一され、気持ちよく視線が伸びていく。

以前より家づくりに興味があったというお施主さま。2人は木材のチークだけでなく、床面のタイルや石材、和紙畳など、選ばれた素材をバランスよく室内に取り入れ全体に調和をもたらした。コンクリートを基調とした空間の中に、ほどよく温もりがプラスされ、くつろぎの空間が実現。

素材だけでなく、洗面やキッチンなどにはお施主さまのアイデアもたくさん詰まっているという。ひとつひとつ丁寧にヒアリングし、図面を起こすことを繰り返しながら実現したそうだ。お施主さまにとって一番使いやすい、オリジナリティに満ちた空間が叶えられたことに、とても喜ばれているとのこと。

お施主さまの好みやご要望に対しこの上ない熱量で向き合い、ときに大胆さを持って実現する。藤原・室 建築設計事務所との家づくりは、こんな家がつくりたいというイメージをお持ちのお施主さまにとっても、とても楽しいものになりそうだ。



撮影者:平 桂弥(studio REM)
  • 2階、キッチンからの眺め。正面には窓いっぱいに美しい景色が切り取られ、とても気持ちがいい。リビングや、ベランダに人がいてもキッチンに立つ人と視線がぶつからないよう、キッチンを一番高い位置とし、リビングで一段、ベランダでもう一段と徐々に床レベルを下げた

    2階、キッチンからの眺め。正面には窓いっぱいに美しい景色が切り取られ、とても気持ちがいい。リビングや、ベランダに人がいてもキッチンに立つ人と視線がぶつからないよう、キッチンを一番高い位置とし、リビングで一段、ベランダでもう一段と徐々に床レベルを下げた

  • 2階LDK。画像奥の仕切り扉は家事室や浴室へ繋がる。洗濯まわりの動線をまとめ、家事のしやすさを高めた。画像左、外部通路を挟みRC造らしさをいつでも感じられるようにしたうえで、居住空間は断熱性を高め、望まれていた雰囲気の確保と高い家の機能性を両立させた

    2階LDK。画像奥の仕切り扉は家事室や浴室へ繋がる。洗濯まわりの動線をまとめ、家事のしやすさを高めた。画像左、外部通路を挟みRC造らしさをいつでも感じられるようにしたうえで、居住空間は断熱性を高め、望まれていた雰囲気の確保と高い家の機能性を両立させた

  • 2階ベランダ。大きく張り出した軒のおかげで暑い時期でも過ごしやすい。天井面と窓の上部をダイレクトに繋げ、室内とベランダの天井を連続させた。「段差に腰かけて過ごすのもよさそうです」と室さん

    2階ベランダ。大きく張り出した軒のおかげで暑い時期でも過ごしやすい。天井面と窓の上部をダイレクトに繋げ、室内とベランダの天井を連続させた。「段差に腰かけて過ごすのもよさそうです」と室さん

間取り図

  • BF 平面図

  • 1F 平面図

  • 2F 平面図

  • RF 平面図

基本データ

作品名
北摂の事務所兼住宅ーRC住宅
施主
K邸
所在地
大阪府
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
229.45㎡
延床面積
174.72㎡