コンパクトながら広々した空間を実現
静かな環境と視線の伸びを両立する「間」

読書とテレビ鑑賞という、ご夫妻で異なる趣味をお持ちのお施主さま。建築家の武本さんは、2人暮らしの家としてそれぞれが気兼ねなく集中して趣味が楽しめる空間づくりがしたいと考えた。疎外感なく、様子が伺え、しかしノイズはカットできる環境を叶えたのは、ダイニングとリビングに挟んだ小さな「間」だ。

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ノイズを排除しつつ、様子は伺える距離感
2つの居室に挟んだ絶妙な「間」

温暖な気候、美しい富士山の眺め、と魅力いっぱいの静岡県富士市で自宅の新築をお考えだったお施主さま。恵まれた環境の中で庭づくりや家庭菜園を楽しみたいと、約300坪という広大な土地を購入された。

設計を依頼したのは株式会社one designの武本博徳さん。他社とも検討しながら、KLASICにも掲載の作品「趣味と暮らす」を見学するなどしたうえで決めたという。

ご夫妻と猫で暮らす家として武本さんが提案したのは、玄関土間とそれに続くホールを中央に置き、右にキッチン・ダイニングを、左にリビングを配置した平屋だ。というのも、奥さまはテレビ鑑賞、ご主人は読書と、それぞれの趣味が楽しめる環境が少々異なっていた。ホールを間に挟むことで、お互いが気兼ねなく趣味に没頭できる空間をつくりたいという意図があった。

ただ、離れたことで疎外感が生まれてしまうのはよくない。そこで、間を挟んでもお互いの気配は感じられる距離感は確保した。ふと目を向ければ姿が見え、様子も分かるおかげで、ひとつの家の中にいるという感覚は常に得られる。つまり武本さんは、ご夫妻がそれぞれの趣味に集中してもらえるよう不要なノイズのみを排除したのだ。

他にもたくさんの趣味をお持ちのご夫妻のために、飾り棚など暮らしの中に趣味を取り入れられる仕掛けが数多く施されている。この土地を購入する大きな理由となった家庭菜園や庭仕事についても、庭に近い場所に勝手口を計画しキッチンへの動線を整えた。

また、猫ちゃんへの配慮も忘れていない。家の中で遊べるよう高い位置にちょっと登れるような場所をつくったり、窓台の奥行を深めにしたりしたという。さらに、土間床の素材に滑りにくい樹脂モルタルを採用。掃除もしやすく、ご夫妻が「ペットがいるお施主さまに必ずおすすめしたいほど」と喜んでくださったポイントのひとつなのだとか。

趣味や暮らしを大切にするお施主さま夫妻の意図を深くまで読み取り、想像以上の環境を用意した武本さん。家で過ごすことが何よりの楽しみになる。それがこの「緑と平屋」だ。
  • 外観。奥に前面道路が見える。目隠しを兼ね、道路に面する外構の内側に小高い丘をつくった。道路から見ると、外構の上に丘のてっぺんが覗く。「この道路は交通量も多いのですが、高いフェンスを立てるのは面白味がないと、外構工事の担当者や庭師と相談して決めました」と武本さん

    外観。奥に前面道路が見える。目隠しを兼ね、道路に面する外構の内側に小高い丘をつくった。道路から見ると、外構の上に丘のてっぺんが覗く。「この道路は交通量も多いのですが、高いフェンスを立てるのは面白味がないと、外構工事の担当者や庭師と相談して決めました」と武本さん

  • リビング。屋根の形状を生かした高い天井により開放感がある。天井は構造材を表しとし、方向を合わせて床のフローリングを貼った。おかげで深い奥行き感がある。リビング左はホール(手前)玄関(奥)。大きな右の窓から入る豊かな光が玄関まで届くよう、壁面の上部を開口した

    リビング。屋根の形状を生かした高い天井により開放感がある。天井は構造材を表しとし、方向を合わせて床のフローリングを貼った。おかげで深い奥行き感がある。リビング左はホール(手前)玄関(奥)。大きな右の窓から入る豊かな光が玄関まで届くよう、壁面の上部を開口した

  • ホール(手前)ダイニング(奥)天井の仕上げや高さの切り替えにより、表情豊かな空間を実現

    ホール(手前)ダイニング(奥)天井の仕上げや高さの切り替えにより、表情豊かな空間を実現

  • 玄関からキッチン方向を見る。画像左奥、キッチンの壁面に勝手口がある。庭に近く、家庭菜園で収穫した野菜の処理がしやすい。お施主さまがお持ちの家具などに細かなディテールを合わせ、全体的な雰囲気を統一。玄関、収納棚の取手は真鍮を取り入れた

    玄関からキッチン方向を見る。画像左奥、キッチンの壁面に勝手口がある。庭に近く、家庭菜園で収穫した野菜の処理がしやすい。お施主さまがお持ちの家具などに細かなディテールを合わせ、全体的な雰囲気を統一。玄関、収納棚の取手は真鍮を取り入れた

視線が長く伸びる空間づくりと、ミニマルな
家事動線のメリハリで暮らしやすさが向上

暮らしを丸ごと楽しむ家ともいえる「緑と平屋」は、もちろん、家事のしやすさや家の使いやすさも申し分ない。まず水回りは、家の右半分にあたるホールからキッチン・ダイニングエリアの裏にコンパクトにまとめ、配置した。ホールの真裏に出入口があり、左右のエリアどちらからも同じようにアクセスできる。

特徴的なのは、廊下を省き居室の一部を通路のように使用できる点だ。キッチンから水回りへは流れるような動線で自然に移動できるうえ、脱衣室に洗濯機があるおかげで洗濯が手間なくできる。さらにウォークインクローゼットが広々としたリビングに隣接しているため洗濯物を持った移動も楽々と、単にコンパクトというだけではない使いやすさが実現した。

リビングには、大きな窓の外に屋根付きの庭のようなファジーに使える空間がつながり、そこに洗濯物を干すこともあるという。その場合も、リビングを通路として使えるおかげで布団など大物の扱いも難なくできる。

また、廊下を省いたおかげで開放的な伸びやかな印象も得られるようになった。たとえばダイニングからはホールを抜けリビングに、さらにリビングの窓から外部の緑にまで視線が伸びる。ダイニングにも大きな開口があり、リビングからも同じような意識の広がりを感じることができるのが嬉しい。

屋根の形状が生かされ、天井が高いことも心地よさを高めている。「リビングは天井の梁と床のフローリングの方向を合わせ、さらに奥行きが感じられるようにしました」と武本さん。キッチンの天井は低めに、ダイニングエリアはリビング同様の勾配天井に、など天井を細かく切り替えその場その場にふさわしい雰囲気をつくりあげた。

玄関土間とホールの間をガラス戸で仕切ったことにも理由がある。猫ちゃん対策でどうしても仕切ることが必要だったが、パネルにすると玄関土間、ホールともに狭く感じられてしまう。ガラスであれば、仕切りながらも視線は抜ける。徹底的に居心地を追求した結果だ。

コンパクトにまとめることで更なる広さを確保。使いやすさとゆとりが両立した唯一無二の家ができた。
  • キッチン(手前)、ダイニング(奥)。キッチンは室内の雰囲気に合わせて造作した。シンクの下はゴミ箱がフィットする大きさで収納を計画。また、ダイニング側から見えない箇所は棚の扉を省くなど、細かなヒアリングを経て優れた使い勝手を実現した

    キッチン(手前)、ダイニング(奥)。キッチンは室内の雰囲気に合わせて造作した。シンクの下はゴミ箱がフィットする大きさで収納を計画。また、ダイニング側から見えない箇所は棚の扉を省くなど、細かなヒアリングを経て優れた使い勝手を実現した

  • ダイニング。壁面は石膏の左官仕上げとした。仕上げ材ではないが、調湿や脱臭機能に優れておりコストも抑えられるという。優しく日光を受け止めた表情には落ち着きがあり、インテリアとしても高いデザイン性が感じられる

    ダイニング。壁面は石膏の左官仕上げとした。仕上げ材ではないが、調湿や脱臭機能に優れておりコストも抑えられるという。優しく日光を受け止めた表情には落ち着きがあり、インテリアとしても高いデザイン性が感じられる

  • 左奥、キッチンの上部にはロフトを設置。おかげで天井高にバリエーションが生まれた

    左奥、キッチンの上部にはロフトを設置。おかげで天井高にバリエーションが生まれた

  • 道路側から見た外観。建物の一角を屋根付きのテラスのような、用途を決めない空間として計画した。大きな洗濯物干しなど、便利使用されている。小高い丘の途中に外構が埋まっているよう。見た目も楽しい丘は高さ1.5m程度あり、目隠しとしての役目を果たしている

    道路側から見た外観。建物の一角を屋根付きのテラスのような、用途を決めない空間として計画した。大きな洗濯物干しなど、便利使用されている。小高い丘の途中に外構が埋まっているよう。見た目も楽しい丘は高さ1.5m程度あり、目隠しとしての役目を果たしている

ワンストップで請け負うからこそ可能になる
高レベルな「デザイン」と「機能性」の両立

お施主さま夫妻が武本さんに依頼を決めた理由のひとつは、「デザインと機能性のバランスがよかった」点だという。この「緑と平屋」は文句なくデザイン性に優れた家だ。かつ、お施主さまはそのデザインひとつひとつにしっかりした理由が備わっている、と感じられたとのこと。

デザインと機能性を妥協なく両立できる理由を武本さんに聞くと「設計から施工までワンストップで承っているからでしょうか」との答え。コストから機能面、竣工後のアフターケアまで、全てに責任を持つからこそできることがある。

例えばこの家は費用対効果も考慮しコストが抑えられる長方形を基本としたが、同時に空間が単調にならない工夫も取り入れている。ホールからロフトに進むことができるのだ。平屋に上下の関係を加えたことで、家がまた豊かになった。さらに、そのロフトからの眺めが素晴らしい。横長の大きな開口に広がる美しい富士山の稜線。まるで絵葉書のような風景も、高い位置の窓だからこそ得られる。デザインに裏付けされた理由が、ひとつの角度からだけでないことも、武本さんのプランニングの魅力だろう。

壁面は石膏の左官仕上げに。実は仕上げ材ではないのだというが、色も室内の雰囲気にぴたりと合っており洗練された空間づくりの重要な一要素を担っている。低コストなだけでなく調湿、脱臭機能にも優れ一石二鳥だ。

さらに、地元ならではの視点も加わる。海に近い土地のため、塩害を考慮し屋根は瓦を提案。ただし、お施主さまの要望に合わせてスタイリッシュな雰囲気の瓦を選んだという。もちろん、長期優良住宅の資格もクリア。絶対的な安心感とともに暮らせるのはありがたい。

「家づくりにまつわることをひとつに繋げて考えられるので」と武本さんは語る。お施主さまの要望をデザイン、機能性、コスト、施工の方法などそれぞれの角度から捉え、最良の選択を重ねて完成した家。それが「緑と平屋」だ。
  • 玄関とホールはガラス戸で仕切り、視線の伸びを確保。上部に計画したロフトにより、さらに空間が広がった

    玄関とホールはガラス戸で仕切り、視線の伸びを確保。上部に計画したロフトにより、さらに空間が広がった

  • 屋根は洋瓦を採用。塩害を考慮しながら要望通りのスタイリッシュな外観を叶えた

    屋根は洋瓦を採用。塩害を考慮しながら要望通りのスタイリッシュな外観を叶えた

  • ロフトからの眺め。平屋ながらロフトを設け、高い位置に窓を計画したおかげで思いがけない贅沢空間ができた

    ロフトからの眺め。平屋ながらロフトを設け、高い位置に窓を計画したおかげで思いがけない贅沢空間ができた

間取り図

  • 1階 平面図

  • 小屋裏 平面図

基本データ

作品名
緑と平屋
施主
I邸
所在地
静岡県富士市
家族構成
夫婦
敷地面積
692.91㎡
延床面積
92.74㎡
予 算
2000万円台