モダンな佇まいと洗練の空間が人々を魅了。
地域に開かれた総合福祉施設

『リバービレッジ杉並』は、特別養護老人ホームやカフェなどが入った総合福祉施設。共同で設計を担当した角倉剛さんは店舗・住宅設計の知見を活かし、「地域に開かれた場」という同施設のコンセプトを具現化。緑豊かな環境も守る洗練された建築を生み出した。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

地域とのつながり、共生を目指した
総合福祉施設プロジェクト

東京・杉並にある妙正寺公園は、1.2ヘクタール以上もの広さを誇る自然豊かな公園。交差点を挟んでこの公園のはす向かいに立つ『リバービレッジ杉並』は、特別養護老人ホームや各種介護サービス施設のほか、地域交流スペース、カフェなどを備えた総合福祉施設である。

約3,500㎡の広大な敷地を計画地とした一大プロジェクトとあって、建物はもとよりランドスケープ、家具など複数領域のスペシャリストがそれぞれの設計を担当。友人の建築家とともに建物の建築設計を担ったのが、『角倉剛建築設計事務所』の角倉剛さんだ。

クライアントである運営事業者は、「施設の高齢者も地域の一員」との考えから、この施設を地域とつながる開かれた場にしたいとの要望をもっていた。同時に、住まいとしての豊かさや快適性も重視しており、角倉さんは店舗や住宅設計の経験を活かしてこれらの要望に応ようと考えた。

完成した施設は3階建てで、1階はデイサービスをベースとした小規模多機能型の居宅事業用施設、カフェ、地域交流スペース、オフィス、厨房など。2~3階にショートステイ用の居室と特別養護老人ホームの居室が入っている。

しかし初めて見た人は、ここが介護を中心とした施設だと思わないかもしれない。それほどまでに建築デザインが洗練されており、まとう雰囲気にもオープンな明るさがあるのだ。
  • 交差点から見た外観。屋上庭園の樹木には、道路からも緑が見える背の高い木々もある。外壁は緑が映えるレンガ色。建物全体が生き生きとした緑に彩られ、街の景観をよりよいものにしている

    交差点から見た外観。屋上庭園の樹木には、道路からも緑が見える背の高い木々もある。外壁は緑が映えるレンガ色。建物全体が生き生きとした緑に彩られ、街の景観をよりよいものにしている

  • 手前がカフェ、その奥が地域交流スペース。いずれも道路側がガラス張りで中の様子がわかり、立ち寄りやすい。夜間に照明をつけると柔らかな光が漏れ、ホテルやレストランのような雰囲気

    手前がカフェ、その奥が地域交流スペース。いずれも道路側がガラス張りで中の様子がわかり、立ち寄りやすい。夜間に照明をつけると柔らかな光が漏れ、ホテルやレストランのような雰囲気

豊かな緑で街の景観を良好に。
地域とつながるモダンな交流スペースも

設計にあたり、まず考えたことを角倉さんはこう振り返る。

「もともとここには木々が生い茂る科学館があり、交差点のはす向かいに広がる妙正寺公園とともに緑豊かな景観をつくり上げていました。そこで新施設でも、緑を身近に感じる地域の環境を引き継ぎたいと考えました」

その言葉通り、完成した『リバービレッジ杉並』は贅沢な緑を湛えた佇まい。敷地周囲につくられた歩道沿いには植栽のプランター。外壁にはツル植物が絡まる短冊状のネットがリズミカルに連なる。そして、少し視線を上げれば屋上庭園の緑の木々。

建物自体は2階、3階と徐々に高くなり、箱を重ねたような立体感のあるデザインで、外壁は緑が映えるレンガ色。緑に彩られた建築は妙正寺公園と見事に調和し、科学館の頃と同様に、自然豊かな景観に大きく貢献する存在となっている。

施設の主要なコンセプトであった地域とのつながりを最も具現化しているのは、カフェ『café VILLAGE#S』と地域交流スペースだろう。

一般の人も自由に利用できるカフェは交差点に面した場所にあり、開放感あふれるガラス張り。天井が高く、高窓からは空も見え、実に明るくてのびやか。ガラス戸を全開放すれば街との一体感が高まり、まさに地域とつながる空間になる。

内装もモダンで、天井や壁は色のばらつきで豊かな表情をつくり出すレッドシダー。床は大判の黒タイル。ユニークな曲線のテーブルや椅子、ペンダント照明は家具デザイナーが手がけており、インテリアも洒落ている。緑を眺め、光と風を感じてのんびりとくつろげて、こんなカフェが近所にある周辺住民の方々がうらやましくなってしまう。

カフェの隣には、地域のサークル活動や運営事業者が主催するスポーツセミナーなど、さまざまなイベントが行われる地域交流スペースも。こちらもカフェ同様にレッドシダーや黒タイルで仕上げられ、歩道に向けてフルオープン可能な大開口もある。

カフェ、地域交流スペースともに居心地がよく、光、風、緑をたっぷりと取り込んだオープンかつモダンな空間。道行く人を惹きつけ、地域とのつながりを豊かにする空間デザインには、店舗・住宅設計に長けた角倉さんの知見とセンスが大いに発揮されている。
  • カフェがあるのは、敷地の中で交差点に一番近い場所。客席スペースはガラス張りで街とのつながりを感じられる。木の温もりと、連続窓やハイサイド窓から入る明るい光に包まれて、空や緑を眺めながらお茶の時間を楽しめる

    カフェがあるのは、敷地の中で交差点に一番近い場所。客席スペースはガラス張りで街とのつながりを感じられる。木の温もりと、連続窓やハイサイド窓から入る明るい光に包まれて、空や緑を眺めながらお茶の時間を楽しめる

  • レンタル可能な地域交流スペースは、必要に応じて会議用テーブルなどもセットできる。ここでは運営事業者が主催するスポーツセミナーなどを開催することも。木とタイルの洒落た空間は参加者にも好評

    レンタル可能な地域交流スペースは、必要に応じて会議用テーブルなどもセットできる。ここでは運営事業者が主催するスポーツセミナーなどを開催することも。木とタイルの洒落た空間は参加者にも好評

  • 特別養護老人ホームなどが入った建物は、中庭を囲むように配置。居室は全て中庭または外周部に面し、窓から開放的な眺めを得られる。中庭は出入り自由でランニングコースもあり、地域の人々も利用可能。ここで地域交流イベントが催されることも

    特別養護老人ホームなどが入った建物は、中庭を囲むように配置。居室は全て中庭または外周部に面し、窓から開放的な眺めを得られる。中庭は出入り自由でランニングコースもあり、地域の人々も利用可能。ここで地域交流イベントが催されることも

  • 2階の屋根を利用した屋上庭園。道路から屋上の緑が見えるよう、高さのある木々も植えている。眺めのよい遊歩道は、入居者の散歩コースにぴったり

    2階の屋根を利用した屋上庭園。道路から屋上の緑が見えるよう、高さのある木々も植えている。眺めのよい遊歩道は、入居者の散歩コースにぴったり

洒落たインテリアと快適な住み心地。
住まう人も、働く人も幸せな施設

カフェや地域交流スペースの奥は、介護サービス施設や特別養護老人ホームが入ったメイン棟。こちらの設計で角倉さんたちが大切にしたことは、大きく分けて2つある。

1つは入居者目線の「住み心地」。ショートステイと特別養護老人ホームはグループホームの考え方で計70室の居室が6ユニットに分けられ、ユニットごとに食事をするリビングダイニング(共同生活室)や談話スペースが配されている。

各ユニットには近隣の妙正寺川の橋にちなんだ名前とテーマカラーがあり、内装はテーマカラーに沿った明るく上品なデザイン。加えて角倉さんたちは、天然木、コンクリート打ち放し、間接照明など一般の住宅でも人気が高い要素を取り入れ、住まいとしてくつろげる空間に仕上げた。

明るさ・開放感にもこだわった。館内随所に吹抜けの光庭を配し、上方からの採光で自然光を行き渡らせ、どこにいても気持ちよく過ごせるように計画。また、敷地内には一般の人も自由に出入りできる中庭があるのだが、居室は全て中庭か外周部に面するようにレイアウト。窓越しの景色に開放感がある住み心地のよい居室をつくっている。

もう1つは、スタッフ目線の「仕事のしやすさ」だ。ケアスタッフの待機スペースはいずれも、2つのユニットの中間に配置。スタッフがどの居室にも迅速に行ける動線を確保することで、仕事の効率化と、スムーズにケアを受けられる入居者の快適性を両立させた。

ここは介護サービスを中心とした総合福祉施設だが、設計の全容を見ていくと、住まいとしての魅力にこだわり、地域とのつながり方にも心を砕いた角倉さんたちの温かな思いが伝わってくる。

さらには、「この建物を覆う植物が成長し、妙正寺公園とともに緑豊かな憩いの空間として地域の人々に愛されたらうれしいですね」との言葉からもわかるように、街の良好な環境への配慮も厚い。建築が担うさまざまな役割をしっかり受け止め、全てにパーフェクトに応える角倉さんたちの手腕には驚くばかりだ。
  • 施設のエントランスホール。ナチュラルな内装と温かみのあるデザイン家具がマッチし、柔らかな印象の空間となっている

    施設のエントランスホール。ナチュラルな内装と温かみのあるデザイン家具がマッチし、柔らかな印象の空間となっている

  • 居室の1つ。居室は全て中庭もしくは外周部に面した窓があり、窓越しの景色に開放感があって気持ちがいい。オリジナルのデザイン家具やアクセントカラーの壁も取り入れられ、住まいとして快適に暮らせる空間になっている

    居室の1つ。居室は全て中庭もしくは外周部に面した窓があり、窓越しの景色に開放感があって気持ちがいい。オリジナルのデザイン家具やアクセントカラーの壁も取り入れられ、住まいとして快適に暮らせる空間になっている

  • リビングダイニング(共同生活室)から光庭を見る。角倉さんたちは要所要所に吹抜けの光庭を配置。上方からそそぐ陽光が館内にたっぷり届き、どこにいても明るく快適

    リビングダイニング(共同生活室)から光庭を見る。角倉さんたちは要所要所に吹抜けの光庭を配置。上方からそそぐ陽光が館内にたっぷり届き、どこにいても明るく快適

撮影:吉田 誠

間取り図

  • 周辺図

  • 配置図

  • 平面図_1F

  • 平面図_2F

  • 平面図_3F

基本データ

作品名
リバービレッジ杉並
施主
社会福祉法人 真光会
所在地
東京都杉並区(用途:特別養護老人ホーム)
敷地面積
3,507㎡
延床面積
3,883㎡
予 算
5000万円台