リノベーションだからこそ叶えられた
安全、快適、立地すべてを満たした住まい

結婚を機に自宅をつくろうと考えた建築家の西本さん。選んだのは事務所のすぐそばで売りに出ていた倉庫をリノベーションすることだった。和歌山市内でも一等地で住まいを持てたのはリノベーションを選んだからこそという西本さん。安全性を高め、光や風にあふれる住まいをどのように実現したのだろうか。

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築50年の倉庫をリノベーション
安全性を高め、快適に暮らせる住まいに

以前の住まいから事務所までは車で30分。結婚を機に事務所の近くに家を持とうと考えたnha一級建築士事務所の西本寛史さん。選んだのは新築ではなく、事務所から徒歩2分の場所で兼ねてから売りに出ていた、2階建てのバイク倉庫をリノベーションすることだった。

和歌山市内の中でも市役所や県庁に近く、カフェやレストランも多く並ぶいわば一等地にあるのに、そのバイク倉庫が長い間売れなかったのには理由がある。およそ50年という築年数と、建物の見た目だ。外壁は錆びつき「ボロボロ」という表現がぴったりだったと西本さんは言う。ただ、中を見たところ鉄骨はしっかりしていたため、リノベーションできると判断したのだそうだ。

自宅に改築するにあたり、広さも十分だったことから1階は貸事務所として家賃収入を得ることに。西本さん夫妻は2階に住み、1階にはちょうど貸事務所を探していた西本さんのご友人が入ることが決まった。

では、どのように手を入れたのかを見てみよう。

この「東鍛冶屋町窓庫」は商業地域にあり、敷地の横幅いっぱいに建物が立っており、隣接するビルとの隙間がほとんどない。おかげで広さはあるが、光や風を家の中に取り込むことができず住居としては暮らしにくい状況だったのだという。

そこで西本さんは東西に伸びる建物のうち、南側の一部分を減築し、道路から自宅の玄関まで続くポーチとして計画した。構造体の鉄骨は残し、その部分には屋根として光を通すポリカーボネートを設置。いわば2階建ての建物の地面から屋根までの吹き抜けになっており、あたかも中庭のような開放感がある。また、この部分が空いたことで風も抜けるようになった。

こうして住居としての快適性を確保しながらも、西本さん夫妻がお住まいの2階部分の道路に面した側は壁に覆われ、内部がほぼ見えない。対して事務所である1階はガラスの引き戸を全面的に採用しているため、家というよりも商業施設のように見受けられる。

「家」という印象を薄くするというよりも、「倉庫をリノベーションした」という感覚を残したかったと語る西本さん。2階部分の外壁はリノベーション前と同素材である波板を使用し、倉庫の記憶を残した。さらに南側をあえて中途半端とも思えるような幅で減築し、この建物が新築ではなくリノベーションによって生まれ変わったのだと直感的に捉えられるようにした。

築年数がかなり経過している建物ゆえに耐久性も気になるところだが、元々の構造体は全てそのまま活用したうえ、新たに壁を設けた部分は柱を追加して補強した。加えて減築したことで床面積が減って建物が軽くなったおかげで、耐震性は依然と比べてかなり向上したという。
  • リノベーション後の外観。2階の住居部分は外壁に覆われ、一見すると家とはわからない仕上がり。外壁は以前と素材を変えず波板を選択、あえて減築部分を中途半端な位置で切るなど、倉庫の面影を残し、リノベーションしたという印象を持たれるように考慮した

    リノベーション後の外観。2階の住居部分は外壁に覆われ、一見すると家とはわからない仕上がり。外壁は以前と素材を変えず波板を選択、あえて減築部分を中途半端な位置で切るなど、倉庫の面影を残し、リノベーションしたという印象を持たれるように考慮した

  • 減築した部分はポーチとした。構造は隣のビルすれすれにある。風が抜け、光が入るようになった

    減築した部分はポーチとした。構造は隣のビルすれすれにある。風が抜け、光が入るようになった

  • 1階貸事務所。ガラス張りとすることで、開放すると駐車場まで空間が一続きになり、用途の可能性が広がる

    1階貸事務所。ガラス張りとすることで、開放すると駐車場まで空間が一続きになり、用途の可能性が広がる

一部を減築してできたポーチで光も風も
外部と繋がる開放的なLDK

室内に入ってまず驚くのは主な居住空間である2階、特にLDKの明るさだ。減築した南側の一面を開口し、ポリカーボネートの屋根から落ちた光がやわらかく室内に入るように計画。外壁には減築部分も含めすべてシルバーの波板を用いており、また隣のビルの壁面も白いことから、光が反射によって増幅するのだという。

この空間の魅力はそれだけではない。大きな開口だが道路からは見えない位置にあるおかげでカーテンを省いてもプライバシーが保たれ、開放的に過ごせる。減築部分の最奥にはバルコニーが設けられており、そこに椅子を出してお酒を飲んだり音楽を聞いたりとくつろぎの時間を持つこともあるのだとか。屋根があるため天候も気にすることなくいつでも外部と繋がることができ、暮らしがより豊かなものとなった。

居住空間の雰囲気づくりに対して、nhaでともに働く奥さまは「趣味や好みも同じですし、センスよくまとめてくれるだろうと信頼していました」と話す。たとえばLDKは白を基調とし、鉄や木材をアクセントに、植栽で温かみが加えられている。天井は鉄骨や野地板を現しにしているが、野地板には木目を見せながら白く塗装を施して全体に空間に柔らかく馴染むようにした。

キッチンは奥さまのこだわりが詰まっている。「このリノベーションの計画を平面から立体に起こす作業を担当したので、そのときに自分が使いやすいように詳細をつくり込みました」とのこと。家電などをすっきりと納めることはもちろん、作業台の高さも自身にフィットするように造作した。

このようにして、光も風も入らない倉庫から天井が高く開放的で、外の雰囲気も存分に味わえる贅沢な空間へと生まれ変わらせた西本さん夫妻。これぞ建築家の仕事だといえるだろう。
  • 2階。LDKから見えないよう、正面奥の壁の裏にプライベート空間を計画した。右奥の扉はトイレに続く

    2階。LDKから見えないよう、正面奥の壁の裏にプライベート空間を計画した。右奥の扉はトイレに続く

  • 2階キッチンは、奥さま自身で設計した。家電などがぴたりと収まるよう棚を調節したほか、作業台の高さも身長に合わせて計画。また、作業台のステンレスはシンクまでを一枚仕立てにするなど、こだわりが感じられる

    2階キッチンは、奥さま自身で設計した。家電などがぴたりと収まるよう棚を調節したほか、作業台の高さも身長に合わせて計画。また、作業台のステンレスはシンクまでを一枚仕立てにするなど、こだわりが感じられる

利便性、コスト、魅力が多いリノベーション
選択肢に加えれば、可能性が広がる

1階から階段を上がると、開放的なLDKにダイレクトに繋がる「東鍛冶屋町窓庫」。LDKの一角からつながるワークスペースから、階段の裏に回り込むように寝室とウォークインクローゼットを計画し、来客時のプライバシーを確保した。

また、天井の高さを生かして寝室の上部分にロフトを計画。布団を2枚敷くことができるくらいのゆとりもあるため、状況に合わせてさまざまな用途で使える。ウォークインクローゼットにロフトと、2階に収納をきちんと計画しているからこそリビングがすっきりと整えられ、また生活の質が上がるのだ。

1階の貸事務所は、借主であるご友人が西本さん夫妻と同じように「この地域の賑わいを取り戻したい」と考えられていることもあり、地域との繋がりも重視した。事務所の営業時間外、夜間に奥さまがいけばな教室を開くことや、週末にイベントを開催することなども視野に入れている。ガラスの引き戸を採用しているのは、中の様子が伺いやすいことや、引き戸を開けてしまえば駐車場まで一体で使えるからだという。

またこのエリアは夜まで人通りが多いことから防犯の意味も込め、事務所内にあるスポットライト1つを住居側からコントロールできるようにしている。「いずれはライトが当たるようにお花を生けて、道行く人に楽しんでもらいたいと考えています」とのこと。

西本さんは「最近は建築費用も高騰していますから、土地を購入して家を建てて、ということが現実的な選択肢に入らなくなる方も増えていくのではないでしょうか」とこれからを見通す。実際、ご自身もリノベーションで全体的なコストを下げなければこのような一等地に自宅を持つことは叶わなかったと話す。また、「東鍛冶屋町窓庫」もそうだったというが年月とともに法律も変わり、一度壊してしまったら同じ面積では家が建てられないという場合もある。

視野を広げてみると、理想の暮らしを実現するためにリノベーションが最善の策になることがきっとある。そんなとき、西本さんのように理想の自邸をリノベーションで叶えた建築家の存在は心強い味方になることだろう。
  • 2階LDKからテラスを見る。減築したおかげで、外部と自然に繋がる部分ができた。人目も気にならない

    2階LDKからテラスを見る。減築したおかげで、外部と自然に繋がる部分ができた。人目も気にならない

  • リノベーションの雰囲気に合わせ、自分たちでコンクリートブロックを積み上げた花壇を設けて目隠しとした

    リノベーションの雰囲気に合わせ、自分たちでコンクリートブロックを積み上げた花壇を設けて目隠しとした

撮影:今西 浩文

基本データ

作品名
東鍛冶屋町窓庫
施主
N邸
所在地
和歌山県和歌山市
家族構成
夫婦
敷地面積
93㎡
延床面積
90㎡
予 算
2000万円台