「家づくりに正解はない」という言葉がある。これは正しくは、施主の要望や土地環境、予算などの条件がまちまちで、そのベストな解決方法を1つに絞ることができないということだろう。唯一解がないとはいえ、このケースではこう解決するという常道、いわゆるセオリーは存在する。細長敷地では、中庭をつくるというのもその1つ。建築家の安部秀司さんは、施主のことを考え抜いた上で、あえてのセオリー破りで見事に理想の暮らしを実現してみせた。
この建築家にエントランスから続く長い中庭。デッキ部分をグレーチングとすることで上からの光が遮られることなく、壁に反射して1階を照らす。
玄関上部は3層分の吹き抜けで、開放感と光をもたらす。高さと角度を変えた棒状の照明は、真下から見ると放射状に見えるという、安部さんの遊び心も。
1階親世帯のリビングは、建物の中央部分に配置。暗くなりがちな配置だが、長い庭に面した大開口のおかげでこんなにも明るく。隣地とは大きな壁で隔てられているので、開放的に暮らせる。
階段は蹴込み板や側板を廃したスケルトンに。上からの光が白壁に反射し柔らかく室内を照らす。階段の桁や手すりは、デザイン性と実用性を備えた安部さんのオリジナル。
2階の子世帯のリビングは道路寄りに配すことで、階下への騒音を軽減。天井を現しにし、高さからくる開放感ももつ。
撮影:河田弘樹