これからの生活に合わせたリノベーション。
動線と仕切りの変更で居心地も、使い勝手も

ご夫妻ともに60代となり、2度目の自宅リノベーションを決意されたお施主さま。前回心残りとなった部分を解消しつつ、1階のみで生活できるようにすることが目的だったという。建築家の大類さんは、数ある断片的な要望の本質を見極めながら、快適に、安全に暮らせる「生活に合わせた家」に一新した。

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リノベーションで夫婦2人暮らしの空間に。
生活に合わせた家で、ストレスなく住まう

お施主さまのHご夫妻はともに60代。お子さまが独立されて久しく、また、定年を迎えられたなどいくつかのタイミングをきっかけに、ご自宅のリノベーションを決意された。

実はリノベーションは2回目で、前回は和室やLDKのリフォームに加えちょっとした土間を増築されたのだとか。ただ、暮らしてみてどこかしっくりこないというお悩みがあったのだという。加えて、家は2階建てだが、将来を考え1階のみで暮らせるようにしたいという希望もお持ちだった。

「納得した家で、ストレスなく暮らしたい」と依頼を請けたのは、hoku archidesign株式会社の大類真光さんだ。家づくりにおいて「家に生活を合わせるのではなく、生活に合わせた家を考えることが大切」をモットーとする大類さん。それはある程度間取りの可能性が狭まっているリノベーションでも変わらず、むしろリノベーションだからこそ、心を砕かなくてはならないと考えている。

プランニングは、2度目のリノベーションにあたりこんな雰囲気に、こんなものが欲しいとお施主さまが断片的に膨らませていらしたイメージから、どういう暮らしがしたいのかを見極めることから始まった。

本当に必要なものが見えてきたうえで、イメージを取り入れながらお施主さまの生活スタイルに合った家を提案。家具の雰囲気や、全体的なボリューム感においても、3D CADを利用し実物を見ているのと同じように確認できるため、完成時の「思っていたのとどこか違う」という違和感も防げる。これは、前回どこかしっくりこないと感じられていたお施主さまにとって、とてもありがたいポイントだっただろう。

「実はそんなに間取りとしては変わっていないんです」と話す大類さん。けれどもお施主さまは「とにかくとても満足できる家になった」と絶賛されている。要望の本質を見極め丁寧な対応を積み重ねることで、ライフスタイルに沿った、日常が充実する家に一新したのだ。
  • リフォーム前リビング、ヌック。ヌックは右半分がスキップフロアになっていたが、リフォーム後は取り払った

    リフォーム前リビング、ヌック。ヌックは右半分がスキップフロアになっていたが、リフォーム後は取り払った

  • ヌック側からLDKを見通す。ご要望から壁際の下部に収納付きのベンチを造作した。以前の壁はクロス張りだったが、クロスの上から漆喰を塗り自然素材の空気感に満ちた空間を実現。そのうえでベンチには「漆喰に背中を付けるのもあまりよくないので」と木材の背もたれも設置した

    ヌック側からLDKを見通す。ご要望から壁際の下部に収納付きのベンチを造作した。以前の壁はクロス張りだったが、クロスの上から漆喰を塗り自然素材の空気感に満ちた空間を実現。そのうえでベンチには「漆喰に背中を付けるのもあまりよくないので」と木材の背もたれも設置した

  • リフォーム前和室。画像奥、押し入れから納戸までを再構成し、ご夫婦それぞれの個室とした。正面の障子付きの窓が、奥さまの個室の窓にあたる

    リフォーム前和室。画像奥、押し入れから納戸までを再構成し、ご夫婦それぞれの個室とした。正面の障子付きの窓が、奥さまの個室の窓にあたる

  • 奥さまの個室。和室エリアは前回リフォームした和室1部屋は残し、もう1部屋と納戸部分を使いご夫婦それぞれの個室とした。L字型の棚は奥さまのご要望から造作。右側の壁面の裏にご主人の個室がある

    奥さまの個室。和室エリアは前回リフォームした和室1部屋は残し、もう1部屋と納戸部分を使いご夫婦それぞれの個室とした。L字型の棚は奥さまのご要望から造作。右側の壁面の裏にご主人の個室がある

動線を変更し、家の使いやすさを向上
デッドスペースを魅力あふれる場所に変える

大きな狙いのひとつが「1階だけで生活できるように」であるゆえ、リノベーションも1階のみ施された。以前の家は、玄関を入ると正面に2階の階段があり、その脇にトイレや浴室が配置されていた。玄関を真ん中にして右の扉を入るとLDK、左に進むと和室が2部屋と納戸があったとのこと。そしてリノベーション後も、大類さんが「間取りとしてはそんなに変わっていない」というように、和室の1部屋と納戸をご夫妻それぞれの個室につくり変えたほかは、居室の配置はほぼ維持している。

では何が変わったのだろうか。ひとつは動線だ。以前はLDKで過ごしているときでも、階段のある玄関ホールへ出て来なければトイレや浴室へ行けなかった。それを、仕切りを変更して来客も使用する可能性があるトイレ以外はLDKのエリアに取り込み、キッチンの前から洗面脱衣室、浴室、家事室へ進めるようにしたとのこと。動線が劇的に短縮され、効率よく洗濯などの家事ができるようになっただけでなく、洗面脱衣室と家事室の仕切りは建具を省きカーテンのみにしたおかげで、ゆとりある空間が生まれた。

さらに、キッチンカウンターの向きを変更。以前はリビングダイニングと対面する形で置かれていたが、キッチンとダイニングテーブルを横並びで計画した。流れるようにキッチンとダイニングを行き来できるほうが、食事の準備や片付けがしやすいからだ。

壁際には、一方はご要望だったベンチを、もう一方にはカウンターを設けた。カウンターの窓から見えるのは隣地の庭の借景だが、「この窓は以前活用されておらず、せっかくの美しい木々が楽しめるようサッシや窓の素材を変えました」と大類さん。生活するうえで心が華やぐような新しい発見を示してもらえるのも、建築家によるリノベーションのひとつの醍醐味といえるのではないだろうか。

ダイニングテーブルからさらに横へ移動すると、前回の増築部分、現在は「ヌック」と呼んでいる、床レベルが1段下がった土間エリアがある。以前はエリアの半分がスキップフロアのようになっており、うまく使用できていないようだったためそれは取り払ったという。そのうえで、以前リビングに置いていたソファを持ってきたり、ラグを敷いたり、植物を置いたりしてくつろぎの場に生まれ変わった。コンパクトな面積ながら、床が低く、さらにスキップフロアが取り入れられていたおかげで天井も高いヌック。LDKでの居心地と異なる居場所があるのはありがたい。さらには視線の高さが異なるため、同じ空間でも各々が干渉しすぎずに過ごせるようになった。

あらためて、ほぼ間取りは変わっていないということに驚いてしまう。暮らしぶりを見極めれば、以前の住まいを生かしながらデッドスペースを解消し、使い勝手よい家に生まれ変わらせることができるのだ。
  • ヌック側からLDKを見通す。ご要望から壁際の下部に収納付きのベンチを造作した。以前の壁はクロス張りだったが、クロスの上から漆喰を塗り自然素材の空気感に満ちた空間を実現。そのうえでベンチには「漆喰に背中を付けるのもあまりよくないので」と木材の背もたれも設置した

    ヌック側からLDKを見通す。ご要望から壁際の下部に収納付きのベンチを造作した。以前の壁はクロス張りだったが、クロスの上から漆喰を塗り自然素材の空気感に満ちた空間を実現。そのうえでベンチには「漆喰に背中を付けるのもあまりよくないので」と木材の背もたれも設置した

  • ヌック。以前は右半分がスキップフロアになっていたが、活用されていなかったため取り払った。天井が他の部分より高く、また床が低いおかげで、意識的に他のエリアと少し切り離されて感じられ、繋がっていながらも個室感ある場所となった。右のソファは以前リビングにあったもの

    ヌック。以前は右半分がスキップフロアになっていたが、活用されていなかったため取り払った。天井が他の部分より高く、また床が低いおかげで、意識的に他のエリアと少し切り離されて感じられ、繋がっていながらも個室感ある場所となった。右のソファは以前リビングにあったもの

  • LDK。以前はトイレと水回りへ行くには一度玄関まで出なければならなかったが、動線を変更し洗面脱衣室と浴室、家事室へは左奥の引き戸からアクセスできるようにした。洗濯にまつわる家事動線が劇的に短縮され、暮らしやすさが向上した

    LDK。以前はトイレと水回りへ行くには一度玄関まで出なければならなかったが、動線を変更し洗面脱衣室と浴室、家事室へは左奥の引き戸からアクセスできるようにした。洗濯にまつわる家事動線が劇的に短縮され、暮らしやすさが向上した

  • 洗面。お施主さまのイメージ通りの既製品のカウンターが見つかり、それに寸法を合わせ計画した

    洗面。お施主さまのイメージ通りの既製品のカウンターが見つかり、それに寸法を合わせ計画した

自然素材にこだわった気持ちのいい家を、
工夫や配慮でコストを抑え実現する

「生活に合わせた、ストレスのない家」を実現するため、住環境を整えることにも注力した。仕切り戸は引き戸を多用しバリアフリーを取り入れたほか、玄関の上がり框の高さも抑えたおかげで移動のしやすさが向上。さらに、床や壁に断熱材を入れたうえで気密性も高め、常に快適に過ごせるようにした。また、1階のみで生活という点を考慮し、玄関ホールから2階に上がる階段の前にも仕切り戸を取り付けた。暖気が2階に昇ることを防ぐことができ、ランニングコストが抑えられるとのこと。

「できるならば自然素材を提案したい」と語る大類さん。床には屋久島産の杉材を採用。断熱材が下に入っているおかげで温かいのに加え、素材そのものの触感も柔らかく気持ちがいい。天井もラワン合板を張ったり、梁が表しの部分をつくったりと木材の温もりが存分に感じられる空間を演出した。

壁は漆喰仕上げ。ただ、壁を剥がしてやり直したのではなく、以前のクロスの上から塗ったのだという。コストは抑えつつ、自然素材ならではの空気感を室内にもたらすことができたとのこと。

さらに、カーテンを開けておける窓が増えたことで自然光もより入るようになり、開放感も高まった。「自然素材が持つ機能性という点ももちろんあるのですが、もともと人は自然の中で暮らしているわけですから、そういう雰囲気が感じられる環境を整えたいと考えています」と語る。

定年を迎えられ、リノベーションを決意されたお施主さま。ご自宅が快適・安全で、適度な距離感を保ちながら暮らせる家に生まれ変わったことで、これからの夫婦2人暮らしがより楽しみになったのではないだろうか。この家を見ていると「家に生活を合わせるのではなく、生活に合わせた家をつくる」という意味がよくわかる。そしてこの満足感はきっと、大類さんが「暮らす人の生活」を長い目で捉え、細かな心配りを加えながら表現するからこそ得られるものなのだろう。




撮影:長岡信也
  • キッチン(左)、ダイニング(右)。キッチンは日々の暮らしからだんだん生活感がでてくることで、かえって魅力が増す佇まい。右の窓は以前片開きで、活用しきれていない印象だったが、現在は隣接する庭の緑が眺められる、生活を豊かにする窓に生まれ変わった

    キッチン(左)、ダイニング(右)。キッチンは日々の暮らしからだんだん生活感がでてくることで、かえって魅力が増す佇まい。右の窓は以前片開きで、活用しきれていない印象だったが、現在は隣接する庭の緑が眺められる、生活を豊かにする窓に生まれ変わった

  • 玄関からもLDKからも見える位置に奥さまのステンドグラスを取り入れた。LDK側の下部は収納棚

    玄関からもLDKからも見える位置に奥さまのステンドグラスを取り入れた。LDK側の下部は収納棚

  • 玄関。出入りがしやすいよう、上がり框の高さを抑えた。床は杉材。足触りが柔らかくお施主さまも気に入ってくださったそう。床下には断熱材を入れており、床そのものが温かい。左の引き戸はLDK、ヌック、浴室などに向かうもの

    玄関。出入りがしやすいよう、上がり框の高さを抑えた。床は杉材。足触りが柔らかくお施主さまも気に入ってくださったそう。床下には断熱材を入れており、床そのものが温かい。左の引き戸はLDK、ヌック、浴室などに向かうもの

基本データ

作品名
北町にある家(リノベーション)
所在地
山形県山形市
家族構成
夫婦
敷地面積
204.7㎡
延床面積
164.08(うちリノベーション面積:1階部分90.01㎡)㎡
予 算
〜2000万円台

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