2つのシンボルツリーが叶えた
家族の理想の暮らしと施主の夢

「木の家」、人は、この家をそう呼ぶかもしれない。あなたならどんな家を想像しますか? 
木の素材感を全面に出した家? 木の上にあるツリーハウス? 庭に樹齢何百年といった木がある家?
今回、OASis岡本さんが作ったのは、2つのシンボルツリーが特徴的な家でした。

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もみじというキーワードから大きく成長
機能性、物語性を実現させた匠の技

横浜市神奈川区、周囲を家々で囲まれた旗竿形の土地にI様邸がある。出迎えてくれるのは1本のもみじ。この家の1つめのシンボルツリーだ。目線を上に移すとその先端がバルコニーから出ているのに気づく。そう、このもみじはバルコニーを貫いているのだ。
 アウトドア好きというI様ご一家は、BBQができるほど広いバルコニーと大きな開口部を希望され、さらには庭にもみじを植えたいという意向もあったという。その2つをうまく叶えてみせたのが、岡本さんの「木がバルコニーを貫く」というアイデア。
 バルコニーには、一部に特殊な樹脂でできた半透明のグレーチングが設けられており、そこをもみじが貫いている。半透明のため、夜になると根元に設置された照明がもみじを浮かび上がらせるばかりでなく、バルコニーをも明るく照らすのだ。さらにはバルコニーの天井にグレーチングの影が美しく投影されるというオマケまでついてきた。
このアイデアにより、単なる庭木とバルコニーに過ぎなかったものが、部屋にいながらにして四季の自然ともみじの成長も感じられる場となった。

もう1つのシンボルツリーは室内にある。2階に上がり、広いリビングにたどり着くと、目線の先に木製の大きな木のオブジェがそびえ立っている。実はこの木、本棚となっており、数多くの本を収蔵することができる。このツリーは裏側にLED照明が内蔵されており、その存在を際立たせるだけでなく、リビングを明るく照らす間接照明としての役割をも果たしているという。

「リビングの壁をどうするか考えているときに、バルコニーを貫く木のアイデアが先にできていたので、これを生かして『木』をキーワードに何かできないかと思ったのがきっかけです」と語る岡本さん。そのヒントになったのが創世記のアダムとイブの話に登場する「生命の木」「知識の木」だという。
「バルコニーの床を貫き、さらにこれから成長し大きくなっていく外の木は、生命力の象徴と捉えることができる。一方、家の中で知識の象徴といえば本だろうということで、本棚を木のかたちにするというアイデアが生まれました」(岡本さん)
 こうしてI様邸に「生命の木」「知識の木」になぞらえた2つのシンボルツリーが誕生した。
 実際、本棚横のスペースは、子どもたちのスタディースペースにもなっており、知識の場となっているのだという。

 もみじの木を庭に植えたいという1つのキーワードを、いくつもの役割を持つアイデアとして形にし、また次のアイデアに結びつける。そして結果として一つの大きなストーリーに仕上げる岡本さんの発想力には感服するばかりだ。
  • 敷地に入るともみじがお出迎え。この家の2つのシンボルツリーのうちの1つ「生命の木」

    敷地に入るともみじがお出迎え。この家の2つのシンボルツリーのうちの1つ「生命の木」

  • 庭のような2階のバルコニー。木のすぐそばでBBQを楽しめるなど、アウトドア気分も満喫の家族の憩いの場

    庭のような2階のバルコニー。木のすぐそばでBBQを楽しめるなど、アウトドア気分も満喫の家族の憩いの場

  • 夜になると、もみじは下からライトアップ。光が透過しバルコニーが幻想的な雰囲気に

    夜になると、もみじは下からライトアップ。光が透過しバルコニーが幻想的な雰囲気に

曲線はあえてフリーハンドでやわらかさを追求
心地よさを追求した人の心に馴染むデザイン

実はこの家のシンボルツリーには後日談がある。家や建物好きに根強いファンを持つ長寿番組「渡辺篤史の建もの探訪」にこの家が取り上げられたのだ。
施主のI様は、元々この番組のファンで「この番組に取り上げられるような家を建てたい」という想いがあったという。
「家でもアウトドアライフを満喫できて、自然も感じられる希望通りの家となりました。また『渡辺篤史の建もの探訪』に出るという夢が叶い、家族にとってよい記念となりました」(I様)
奇抜な間取りや、シンボリックな装飾といった手法で見るものの目を引き、テレビ映えする建築作品をつくるのはそう難しいことではないのかもしれない。しかし、岡本さんはこのシンボルツリーで、「デザイン性」だけでなく、「機能性」「物語性」の三位一体を実現し、施主の理想の家をつくりあげた。そして施主が長年持ち続けていた密かな夢を見事に叶えてみせるというギフトまで手に入れてみせた。岡本さんの柔軟かつ大胆な発想が生んだ賜物。

岡本さんの建築のモットーに「コンフォート&サプライズ」という概念がある。気持ちよく快適に暮らせる家という土台に、ちょっとした驚きの要素を加えるということだろう。
この家にも見られる特徴だが、岡本さんの建築作品では、随所に有機的な曲線が感じられる。また、光も単に明るいだけでなく、間接照明を多用するなど、柔らかさを感じられる家が多い。
「柔らかさを意識しているので曲線を使うことが多いのですが、あえてフリーハンドで描いています。エッジが際立ってしまうと、陰影がはっきりしてしまう。人間の生活は白黒はっきりしているわけではない、だとしたら曖昧な陰影部分というか、グラデーションがあるほうが暮らしていて落ち着くのではないかと思うのです」(岡本さん)
 知識のシンボルツリーも、壁の曲線も全て岡本さんの手から生み出された造形だ。手仕事でつくられたものが、安心感やほっこりした感覚をもたらすように、岡本さんのデザインも、見る人、住まう人の感覚にしっくりと馴染むものになっている。
 
注文住宅という家づくりにおいては、施主の「こんなイメージの家にしたい」「こんな機能がほしい」といった要望を叶えるというのは大前提だ。それをクリアした上で「快適に暮らせる家」にするのが建築家の仕事だろう。
岡本さんは、その上にさらにデザイン性、ストーリー性をもたせるというサプライズを積み上げてくれる稀有な建築家の1人だ。
岡本さんはこれからも、施主とその家族にとって「快適に住まう場所としての家」というだけでなく、ちょっと驚きを秘めた「建築作品としての家」を共に作り上げていってくれることだろう。
  • リビング奥の壁には、第二のシンボルツリー「知識の木」のオブジェ。本が果実のように実る本棚は、間接照明の役割も担っている

    リビング奥の壁には、第二のシンボルツリー「知識の木」のオブジェ。本が果実のように実る本棚は、間接照明の役割も担っている

  • シンボルツリー横のスタディースペース。内と外2つのツリーに見守られながら、落ち着いた雰囲気の中で勉強や読書、創作活動ができる場に

    シンボルツリー横のスタディースペース。内と外2つのツリーに見守られながら、落ち着いた雰囲気の中で勉強や読書、創作活動ができる場に

  • バルコニー側の大開口がリビングを明るく開放的な空間に。ロフトスペースは、ご主人のI様お気に入りの男の隠れ家に

    バルコニー側の大開口がリビングを明るく開放的な空間に。ロフトスペースは、ご主人のI様お気に入りの男の隠れ家に

間取り図

  • 間取り図

  • 断面図

基本データ

作品名
ふたつの木の家
施主
I邸
所在地
神奈川県横浜市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
183.36㎡
延床面積
148.09㎡
予 算
3000万円台