
和と洋の融合で自然と調和
人生の最終章を豊かにする夫婦の住まい
和と洋の絶妙な調和で
グッドデザイン賞を受賞
施主のIさんは、もともと家族でこの地に長く住まわれていたが、子どもたちが独立。夫婦2人だけの生活となり「老後の余生を2人にとって最適な暮らしができる家で暮らしたい」と考えるようになったという。いわば「終の棲家」への建て替えだ。
Iさんからの要望は、「足腰に負担のかかる階段は極力避けたい」「リビングや寝室からトイレへの動線を短く」といったものだったという。
その要望に応え、石川さんがとった方法は、広い土地を活かした勾配屋根の平屋とすること。また、使うことの多い居間、座敷、主寝室、トイレの4つのスペースは、田の字形に配置し、どこからでもアクセスしやすい動線とすること。
最も長い時間を過ごすであろうリビングには大きな水平連続窓とそれに続く縁側を設けた。窓を開け放てば、内と外がシームレスにつながる。その上部には、勾配屋根の軒を長くせり出させた。この軒は単なる雨除けではなく、夏の日差しを遮り、冬の低い太陽光を導くものとなっている。また、隣接した座敷の扉を開け放つと、こちらにも大開口があり、縁側、リビング、座敷が一体となった大空間となるのだ。
こんなに開放的だと道路を行き交う人から邸内が丸見えなのでは?と感じるかもしれないが、そこは抜かりない。南面道路には、花ブロックと縦格子でできた塀が設けられているほか、道路面と内部床の90センチの高低差と、前庭が生む絶妙な距離によって、道路からは見えにくくなっている。
一方リビングからは、庭先やその先の田んぼの様子、さらには、裏山の景色がしっかり見える設計となっている。木々の色の変化、稲の実りといった、季節によって移り変わる自然の様子を、リビングにいながらにして感じられる。家の中にいるのに、まるで自然の真ん中に佇んでいるかのように感じられるものに仕上がった。
室内に目を移そう。外の和風なイメージから一転、シンプルモダンの洋のテイストを感じさせる。白壁と木材を基調とした、すっきりとした空間。木材が多く使われたり、畳敷きの和室があるものの、ザ・和風建築とならないのは、天井の高さが生む開放感からなのだろう。石川さんが用いたのは勾配天井を生かした「垂木現し」という手法。和風建築では天井で塞いでしまうことの多い構造材の垂木を、あえて見せるようにした。これにより最高天井高4.7m、平均的な和風建築のおよそ2倍という高さを実現。垂直方向の開放感をもたらされることとなった。
夫婦の終の棲家という課題に、Iさんご夫妻や多くの日本人が心落ち着く和風テイストと、機能性やデザイン性、開放感をもたらす洋の要素を上手く調和させた。
調和といえば、この家は周囲の環境との調和も素晴らしい。「住む人、訪れる人、見る人全てにとってよいと思える家にすることを心がけています」と語る石川さん。家は、住む人のものだけでなく、訪れる人や周囲の人のものでもあるのだ。
石川さんは、この家で「和」と「洋」そしてこの土地との融合を実現、2019年グッドデザイン賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
施主に寄り添うことで実現した
「つながり」「結びつき」「絆」の家
石川さんの建築のポリシーは、「想いを汲み取り、それを美しい形で実現する」ということ。人生の中で最大の買い物といってもいい家造り。少しでも心残りがないように、徹底的に施主と寄り添うという。
「お施主さまの中には、実現したいことや想いを上手く伝えられない方も多くいらっしゃいます。そのため、『一緒に家を作り上げて行きましょう』というスタンスです」と石川さん。
ヒアリングに時間を費やし、いくつも、そして何度もプランをご提示することもあるという。また、素材や工法も顧客の要望に応じて、様々なケースに対応できるよう、知識の習得に勤しんでいるという。誰でもできるわけではない行為だが、石川さんにとっては、よりよい家を作るための当たり前の作業なのだという。
施主からの要望に応えるに留まらず、さらにその上に建築家としてのアイデアを載せていく。そして施主が思い描く理想を超えた家を実現してきたのが石川流なのだ。
実際この家においても、Iさんご夫妻から「木材の質感が落ち着いていい」「高い天井や大きな窓が開放感をもたらしている」など、期待を上回るうれしい驚きがあったと、お喜びのお言葉をいただいたという。
そして何より、一番の喜びは暮らし方が変わったということだろう。眼前の景色が日々移ろっていく様を見る楽しさもできた。また、たくさんの人が集っても、狭さを感じずに過ごせる心地よい空間ができたことで、子や孫が帰省し、親戚が集まることも増えた。まだ小さな孫たちはいずれ、夏には縁側でスイカ割りや花火をするかもしれない。庭を走り回り、遊び疲れて和室でうたた寝をしてしまうこともあるだろう。そんな孫の様子をリビングから眺め、相好を崩すIさんの顔が思い浮かぶようだ。この家は、夫婦2人の生活だけでなく、家族が思い出を作る家にもなるのだ。
石川さんはこの家を「Legame」と名付けた。
Legameにはイタリア語で「つながり」「結びつき」「絆」といった意味があるという。
この土地とのつながり、部屋と部屋、内と外のつながり、和と洋が結びつき、そして何より家族が絆で結ばれる家となるのだ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 福岡県筑紫野市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 538.33㎡ |
| 延床面積 | 113.43㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | I邸 |
撮影:ブリッツスタジオ 石井紀久
設計者情報
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