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ふたりで暮らしたNYの面影を鎌倉に。夫から妻へ贈る家づくり

 ラフに貼られた壁面の古レンガ、キッチンに吊るしたヴィンテージの照明、鉄骨の構造体をいかした天井や階段など、日本の一般的な新築住宅とは一線を画すA邸。この個性的なインテリアがうまれは背景には、アメリカで出会ったご夫妻ならではの価値観がありました

レンガ倉庫を改装したアパートメントをイメージ

 仕事の関係でアメリカ・ニューオリンズに住んでいたAさん。学生時代からニューヨークに10年以上暮らしていた奥さまとともに日本に帰国するにあたり、もっとも大切にしたのは奥さまの“気持ち”だった。

「自分の仕事の都合で半強制的に日本に連れて帰ってきたので、ニューヨークが恋しくならないにしたいという思いがありました。帰国した当初は普通の賃貸住宅に住んだんですが、実家の敷地に建っていた借家と貸店舗をうまく活用してほしいという実家の母からの願いもあり、妻がご機嫌に過ごせる家に建て替えることに決めました」とAさま。

 学生時代からニューヨークに暮らしていた奥さまは、レンガ造りの建物や高い天井、間仕切り壁のないスタジオタイプの間取りなど、ニューヨークのライフスタイルが体に染み込んでいた。そんなスタイルを前提に家づくりを始めてみると、イメージが共有できる相手が少ないことに気付く。

「何件かハウスメーカーなどにも相談したんですが、見せていただく家がどこかピンとこなくて。だったらいっそのこと、建築家に頼むという選択肢もあるかな、と。貸店舗兼自宅という計画だったので、細かな打ち合わせがたくさん必要になるだろうと思って、気軽に打ち合わせに来てもらえるように近場のエリアで感性が合いそうな建築家を探しているなかで出会ったのが石原さん。最初の打ち合わせのときにはすでに簡単な模型までできていて、“すごいイイ、これにしよう!”となって。石原さんの家族構成がうちと似ていて、暮らし方とか要望の意図をすぐに汲み取ってくれたことも決め手になり、迷いなく石原さんにお願いしました」と奥さま。

 鎌倉を拠点に活動する石原さんが全体計画を考えるなかでもっとも大切にしたのが、道路から建物に入るアプローチ。「前面の道路は細い道ながら人通り、車通りともに多い道。道路に建物全体が面するよりも、建物の中央に路地を作って自然と奥に人を導くようなアプローチを提案しました。路地の奥に住居用の門扉を設け、外階段を上って2階の住居エリアへ。貸店舗と住居の動線を自然に重ねてスペースも有効に使いながら、住居部分のプライバシーも確保できたと思います」と石原さん。このアプローチが「鎌倉に多い“切通し”に通じるものを感じた」とAさん。さり気なく土地の文脈を取り入れた提案は、ご夫妻の心にすんなりと入っていった。

 計画から竣工まで約3年。実際の建築開始時は思いがけず決まった海外転勤の最中という想定外のことが起こりながらも、思い描いていたイメージどおりに見事、完成。
「妻が思っていたレンガ倉庫のイメージが再現できて、気分よく過ごしてくれているのが一番うれしいです」とAさん。どこまでも奥さま思いのAさん、自然体でおおらかに過ごす奥さま、部屋、テラス、店舗部分をのびのびと走りまわる二人のお子さんの姿がすべて、家づくりの成功を物語っていた。
  • リビングの壁の一面をレンガに。ニューヨークの倉庫のイメージに近づけるため、レンガの質感を追求。オランダから取り寄せた古レンガをセレクトした

  • 前面道路側から見た外観。建物中央に路地を通し、道路から自然と人を誘導するアプローチ。奥に入ると住居エリアの入り口となるエントランス。道路側からは住居エリアの存在感は少なく、住居のプライバシーが守られている

子どもも遊べる大容量の収納で、スッキリ整頓

 奥さまの大きな要望のひとつが、収納を出来る限り設けること。モノが多いというより、部屋の中をすっきりさせることが目的だ。

「部屋のなかがごちゃごちゃしていると気持ちが落ち着かなくなってしまうので、おもちゃでも何でもいったん仕舞えるように収納は出来る限り作ってもらいました」

 注目すべきは、3階の窓の下に設けた蔵のような空間。子どもなら無理なく入れるうえ、適度なお籠り感が秘密基地のような感覚になり、第三の居場所として機能している。
【石原 潔さん コメント】
 収納の扉など、すべてオリジナルでデザインした建具もA邸の見どころ。自分ではこれまで黒い建具を作ったことがなかったのですが、A様のご要望でやってみました。レンガと鉄を使ったインダストリアルな空間を引き締め、うまくマッチしたと思います。

【夫婦+子ども2人】
 3階の壁面に洋服も布団もおもちゃもすべてしまっています。窓の下の収納は奥行きも高さもあり、子どもにとっては部屋のような空間。電気も付くので子どもたち自ら入って遊んでいます。
  • 窓の下の収納は奥行き1,4m、高さ0,8~1,0mと屋根裏部屋のような大空間。収納スペースとしてはもちろん、子どもたちの格好の遊び場にもなっている。

  • 窓のない壁面部分はすべて収納に。建具のデザインを統一し、すっきり仕上げている。

2階、3階ともに、間仕切壁のない大空間に

 ニューヨーク暮らしが長かった奥さまは、壁で細かく区切る日本的な住まい方が馴染まず、「壁はなるべくつくらないように」とオーダー。

「仕切ってしまうと部屋が狭く感じてしまうし、風通しも悪くなってしまう。気持ちよく過ごせる家にしたかったので2階も3階も壁は出来るだけ少なくしてもらいました」
2階はリビング、ダイニング、キッチンはもちろん、テラス、玄関、階段も一体に。

「子どもに目が届きやすいことや、見た目の開放感も正解でしたが、何より風が通り抜けて夏でも涼しいのが一番です」

 家族の共有スペースがオープンであることは珍しくないが、3階も壁のないワンルームにすることはあまりない。
「子どもの成長によって部屋の使い方は変わっていくので、その都度、使いやすいようにしたかった。ある程度、こんな風に使うようになるだろうな、というシミュレーションはしていますし、間仕切りは家具でもできますので」と奥さま。現在は寝室としてだけでなく、日中は子どもたちの遊び場としてフル活用されている。

【石原 潔さん コメント】
「nLDK」という日本的な間取りの概念は、建築家としてはやらなくていいならやりたくないというのが本音。その意味でもA様の家はとてもやりがいがありました。出来上がってオープンハウスをしたときに「玄関はどこですか?」と聞かれて、意図せずとはいえ、明らかな玄関がない家という大胆なことをしてしまったという思いは少しありましたが(笑)。

【夫婦+子ども2人】
 なるべく壁は作りたくないと思っていたら、いつの間にか玄関の壁も廊下もない家になっていて、お客様には驚かれることも。玄関側のテラスからリビングもダイニングもキッチンも丸見えですから(笑)。でも、すべてが一体になったこの空間がイメージどおり。1階に門扉があって誰でも上がってこられるわけではないので、丸見えでも気になりません。
  • リビングから階段を上ると、トイレ以外はすべてワンルーム。子どもの成長に従い、その都度、家具で間仕切りながら使う予定。

  • テラス側にはほぼ壁を設けず、ワイドサッシを採用。室内と室外の境界があいまいになり、互いの空間がさらに広く感じられる。

NYをほうふつとさせる、インダストリアルなマテリアル

ご夫妻のもっとも大きな要望だったのは、インダストリアルなインテリア。ニューヨークで体感してきた本物の質感を出すために、壁面のレンガ、キッチンカウンターの分厚い無垢材、キッチン壁面のステンレスタイル、工場で使われていたヴィンテージの照明など、あらゆるディテールに気を遣っている。

【石原 潔さん コメント】
 これまで手掛けたことにないテイストだったので、建築家としてもとてもいい経験でした。もともとフェイクものの材料は使わず、本物の素材感でまとめていくのが好みなのですが、今回はその方向性とA様の好みやアイデアがうまく掛け算できて、想像以上の空間が生まれたと思います。

【夫婦+子ども2人】
きれいにまとめるのではなく、ラフでゴツゴツした感じが好み。素材感にしても、経過年数が経ってきて味が出る感じが好きなので、作業台の無垢の板など時間が経つほど味が出る素材を選びました。
  • 直径60cm、高さ70cmのヴィンテージ照明はオランダの倉庫で使われていたもの。さすが本物、鉄骨の構造材との相性は抜群だ。

  • シンク・コンロの前に貼ったタイルは珍しいステンレス製。インダストリアルなデザインを追求し、奥さまが探し出したもの。

撮影:Mizuho Hasegawa

お家のデータ

所在地
神奈川県鎌倉市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
159.44㎡
延床面積
241.03㎡