天然石×モダンデザインの美しさ。
年月を経ても色褪せない高級邸宅

年月を経ても魅力ある住宅を望んでいたNさまのために、モダニズムの名建築からヒントを得た建築家の森垣知晃さん。天然石材を使いながらも重さがなく、モダンで高級感あふれるN邸には、森垣さん持ち前のデザインセンスがいかんなく発揮されている。

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プランの足掛かりとなった、
フランク・ロイド・ライトの名建築

「海外の名建築のように、古くなっても色褪せることがない建築が好きなんです」

自邸建築にあたり、ハウスメーカーに提案を依頼したものの、好みのプランに出合えなかったというNさま。知人の方の紹介でrivet design officeの森垣知晃さんから提案を受けることになったとき、初めての打ち合わせでおっしゃった言葉だ。

森垣さんがヒアリングを進めると、Nさまは建築に造詣が深く、海外の建築家、とりわけフランク・ロイド・ライトがお好きだとわかった。

初回打ち合わせを経て森垣さんが向かったのは、兵庫県芦屋市にあるヨドコウ迎賓館。ライトが日本で設計した数少ない建築の1つで、現在も建築当初の姿を留めている。

「ライトは僕自身も好きな建築家の1人。提案を考える前に実物をじっくり見て、ヒントを得ようと思ったのです」と森垣さん。

そのとき着目したのが、大谷石(おおやいし)だった。大谷石は栃木県で採掘される歴史ある石材だが、ライトがヨドコウ迎賓館や旧帝国ホテルなど、日本国内での設計で多用したことで一気に知名度を上げた。白っぽいベージュに茶褐色の斑点が混じった温みのある肌面をもち、軽くて柔らかく、耐火・防湿性にすぐれ、外壁素材にも適している。

朽ちても何か美しさがあるところに魅力を感じた森垣さんは、外装・内装で効果的に取り入れることを決め、プランニングをスタートした。
  • 北から見る外観。写真中央が大谷石の壁。手前の目隠し塀が庵治石。天然石材が空や緑に見事に調和

    北から見る外観。写真中央が大谷石の壁。手前の目隠し塀が庵治石。天然石材が空や緑に見事に調和

  • 箱を積み重ねたような建築美が印象的。石を多用しているが2階デッキが跳ね出し、軽やかさも感じられる

    箱を積み重ねたような建築美が印象的。石を多用しているが2階デッキが跳ね出し、軽やかさも感じられる

天然石とモダンデザインの融合で生まれた、
上品で確かな存在感のある佇まい

完成したN邸は兵庫県西宮市の住宅街にある。緑豊かな並木道沿いの角地に立ち、閑静な街並みに馴染みながらも人目を引く独特の存在感を放つ。

人目を引く理由は、デザイン×素材で生まれる上品な高級感だろう。箱を積み重ねたようなシンプルで美しいフォルム。板を重ねたようにデザインされたモダンな屋根。こうした造形美に深みを与えるアクセントとして外壁の一部に用いられたのが、前述の大谷石だ。

外装では大谷石だけでなく、香川県の庵治石(あじいし)を使った目隠し塀も取り入れた。庵治石は「花崗岩のダイヤモンド」ともいわれる最高級石材だ。

大谷石、庵治石などの高級石材は自然との相性もいい。天然ならではの肌面・テクスチャーが空や緑といった自然の風景に調和し、N邸の「環境に馴染むけれど人目を引く」という静かで確かな存在感を生み出した。

そんなN邸を見ていると、プランの足掛かりとなったフランク・ロイド・ライトの建築がオーバーラップしてくる。

ライトといえばル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエと並ぶ近代建築3大巨匠の1人。しかし作風はほかの2人と少し異なり、環境やその国の文化、自然との融合を大切にしていることが特徴だ。それは国産の天然石材がモダンなデザインを豊かにし、環境に溶け込むフックにもなっているN邸と通じるものがあるように思えてならない。

「古くなっても色褪せることがない建築」。Nさまのこの一言から生まれたN邸は、流行に惑わされない普遍的な美しさをもっている。
  • 北の並木道からN邸を見る。2階北側は広いデッキで奥行きが生まれ、外部から邸内は見えずカーテンが不要に

    北の並木道からN邸を見る。2階北側は広いデッキで奥行きが生まれ、外部から邸内は見えずカーテンが不要に

  • 西の道路から敷地の奥に進むと玄関が。細い路地の奥に現れる隠れ家レストランのようなアプローチだ

    西の道路から敷地の奥に進むと玄関が。細い路地の奥に現れる隠れ家レストランのようなアプローチだ

重厚感と心地よさの絶妙なバランス。
並木道の緑が彩るくつろぎのLDK

邸内も、外観の期待を裏切らない魅力的な空間だ。森垣さんはいつも、環境を見て「いいな」と直感したポイントをプランに活かす。北西角地に立つN邸では、北側の並木道がそうだった。

2階に配されたLDKは隣家のない北と西に窓やデッキや設けられ、並木道の緑がそこかしこで視界に入る。中でも並木道に面したダイニングは、壁一面の窓越しに大きなデッキと緑が広がる気持ちのよいスペース。北向きだが大開口のおかげで採光は十分。南と違って安定した光が入り、夏に暑すぎることもなく快適に過ごせる。

一方、リビングは床が一段低く、ゆったりとくつろげる落ち着いた雰囲気。リビングからよく見える壁に飾られているのは、美術品がお好きなNさまが選んだ大きな絵画。

洒落たインテリアと相まって、高級ホテルの客室やオーセンティックなバーのようだと感想を伝えると、「最近の家では珍しく、キッチンを囲っているんです」と森垣さん。いわれてみるとキッチンは壁で覆われ、リビングからは全く見えない。ホテルもそうだが、キッチンがない空間は雑多な生活感がいっさい消えるのだとあらためて実感する。

そして、黒タイルや木目をバランスよく取り入れた空間にさらなる高級感をプラスしているのが、この家のシンボルでもある大谷石だ。森垣さんは外壁のアクセントにした大谷石の壁をコの字型にして邸内に引き込み、2階の階段まわりにつくったギャラリースペースの袖壁としてデザイン。外壁とつながる建築の面白みが、空間をより豊かにしている。

総じて森垣さんがつくる家は、いい意味で「住宅っぽくない」。それは施主の好みに合わせてあるときはホテル風、あるときはカフェ風、ギャラリー風などさまざまに表現できるが、一貫しているのは森垣さんならではのモダンなテイストがあることだ。

森垣さんが設計するとN邸のように風格を備えた住宅でさえ、歴史的建築物のような重さはなく、普段着でくつろぎたくなる雰囲気があるから不思議だ。ひとつ上のデザイン性と居心地のよさを求める目の肥えた施主たちから引く手あまたの理由は、そんなところにあるのかもしれない。
  • 北の並木道に面した2階ダイニング。余計な壁を残さず美しくはめ込まれたガラス窓の向こうには、広いデッキと並木道の緑。デッキの軒天と同じ木材が室内天井まで張り出して外とのつながりが強調され、ダイニングそのものが大きなデッキのように思える気持ちのよい空間だ

    北の並木道に面した2階ダイニング。余計な壁を残さず美しくはめ込まれたガラス窓の向こうには、広いデッキと並木道の緑。デッキの軒天と同じ木材が室内天井まで張り出して外とのつながりが強調され、ダイニングそのものが大きなデッキのように思える気持ちのよい空間だ

  • 2階リビングからダイニングを見る。絵が飾られた壁の向こうがキッチン。右の壁にはアクセントとして大谷石が張られ、モダンながらも高級感のある空間となった。2階はスキップフロアでリビングが一段低く、ホッと落ち着ける雰囲気。左は大きな窓と吹抜けの階段で、抜群の開放感

    2階リビングからダイニングを見る。絵が飾られた壁の向こうがキッチン。右の壁にはアクセントとして大谷石が張られ、モダンながらも高級感のある空間となった。2階はスキップフロアでリビングが一段低く、ホッと落ち着ける雰囲気。左は大きな窓と吹抜けの階段で、抜群の開放感

  • ダイニングの窓越しに広がるデッキは、ブランチやバーベキューも楽しめそうな広々した空間。この広いデッキで外部の視線が遮られるため、カーテンは不要。邸内ではすっきりとデザインされた空間美をストレートに楽しめる

    ダイニングの窓越しに広がるデッキは、ブランチやバーベキューも楽しめそうな広々した空間。この広いデッキで外部の視線が遮られるため、カーテンは不要。邸内ではすっきりとデザインされた空間美をストレートに楽しめる

  • 階段で2階にのぼり、振り返るとダイニングまで見通せて、空間の心地よい広がりを感じられる

    階段で2階にのぼり、振り返るとダイニングまで見通せて、空間の心地よい広がりを感じられる

撮影:Nacasa & Partners Inc   Koji Fujii

基本データ

作品名
Scenery
施主
N邸
所在地
兵庫県西宮市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
257.01㎡
延床面積
157.95㎡
予 算
5000万円台