
自然とともに、地域とともに、人とともに
現代の力で実現した、日本の家の新しいカタチ
屋根の勾配を周囲と合わせる
地域からも愛される家であってほしい
この家の外観は、純日本家屋といったものではない。隣にある納屋や土蔵とはあきらかに違い、最近出来た現代の家といった感じだ。しかしこの家は、ずっと前からこの場所に存在し続けていたかのようにすら感じる。言い換えると、どこからか別なものを持ってきてポンと置いたような異質感がない。それほどこの場所とマッチしているのだ。
ナカタさんには、家づくりのポリシーとして「地域からも愛される家であってほしい」という思いがあるのだという。
これには3つの意味があるのだろう。1つめは「家族」という意味での家。住まう家族が周囲の人々からも愛される、そんな人間関係を育める・続けられる家にしたいということ。
そして愛されること。2つめは、人々が集い、笑顔が生まれる「場」としての家。そして3つめは「建築物」としての家。
ナカタさんは、施主や家族が満足するだけでなく、ご近所さんや訪れる人が違和感なくすんなりと受け入れてくれ「素敵」と感じてくれる家にしたいと考えている。いわば地域との「調和」も大切にした家づくりだ。
「この家の屋根は、地域の他の家と勾配を合わせていて、北側は5寸勾配、南は2寸勾配としました」とナカタさん。
屋根の角度を合わせたのは、単なる見た目の調和だけではない。実は屋根の角度や軒の深さ、塀の有無といった地域傾向は、その土地の気候風土と密接に関わる。日射や落雪、風の通りなどを上手にコントロールする、先人の知恵が生かされている。それを利用することにもつながるのだ。
ナカタさんは、お客様の建物をつくるとき、たとえ遠方であっても必ず、設計に取り掛かる前に現地を訪れるのだという。その土地周辺の風景や建物を観察したり、風や光を自ら感じ取るのだ。
その手間隙を惜しまないからこそ、地域とマッチした家に仕上がるのだろう。
自宅がモデルハウス
寛ぎもおもてなしも
エントランスから玄関、リビング、屋外テラスは、大谷石でできた土間となっており、内と外がシームレスにつながる。玄関を入ると、波のうねりを感じさせる天井、空から降り注ぐ光の演出が出迎えてくれる。外の和を感じさせるテイストから一変、モダンなレストランに入ったかのようなワクワク感を与えてくれる仕掛け。
リビングに進むと、そこにはセンスのよい調度品の数々と壁に組み込まれた「薪ストーブ」が現れる。近年流行している「焚き火」が家に居ながらにして楽しめるのだ。
薪ストーブは、暖をもたらすだけでなく、炎の揺らめき、木の爆ぜる音、微かな煙の匂い、さらにはストーブ料理と、人々の五感を楽しませてくれる。心癒される、なんとも贅沢な空間だ。
「実はこの家の薪ストーブは、暖房のためというよりも、楽しむためのものなんです」とナカタさん。
この薪ストーブは、「炎のゆらめきに癒やされる」「ストーブ料理を愉しむ」「人が集い共に火を囲む」といった「生活の潤い」がメインであり、熱源としてはサブ的な役割なのだという。
リビングの先には、広々としたキッチンとダイニング。キッチンカウンターは、大きなアイランドとなっており、パン教室を開いたり、大勢の来客の料理を並べたりするのだとか。上部にはグラスを吊り下げられるようになっており、レストランバーさながらの雰囲気だ。
ダイニングも庭の緑を見られる抜群のビュースポット。ダイニングテーブルを楕円形、椅子の一部をベンチとすることで、人数に縛られずに使えるという、来客が多いことにも配慮した「おもてなし空間」なのだ。
このおもてなしの心は、ナカタさんの「人が好き」「人と人とのつながりを大切にしたい」との思いが根底にあるのだろう。
「家は一生モノ。お客様とも一生付き合っていく、設計者・施工者・施主はチームであるという気持ちで取り組んでいます」とナカタさん。
そのため、ヒアリングにもじっくりと時間をかけるのだ。
例えば、料理はシチュエーションやよく作るメニューの内容まで聞くのだという。それは、料理によってキッチンの収納の量や動線が変わってくるから。調理道具や調味料は多いのか、食材は買い溜めする派なのか、などなど。洗濯だってどこで洗濯し、干し、収納するのか。本も色別に分けたいかジャンル別なのか、などなど。
「そうやって聞いていくと、例えば収納の観点ではモノを溜め込みがちな家は、クローゼットをウォークインではなく、ウォークスルーにしてはどうか?と提案するなどしています」とナカタさん。
こういう細やかな配慮は、ナカタさん自身が働く女性として多くの仕事を抱えつつ日々「家事」「育児」「仕事」をこなすというリアルな体験をしているからこそなのだろう。
リアルな体験を踏まえた提案は、施主に安心感をもたらし、暮らし始めてからも「思い描いていたとおりの暮らし」を可能とするのだ。
ナカタさんはこの家が、「自分の建築のモデルハウス」であると語る。地域との調和、美しさ、そして使い勝手の良さ。この家は、ナカタさんそのものと言ってもいいのかもしれない。
薪の活用や高気密・高断熱
SDGsや地産地消にもつながる家づくり
その手段の1つに「薪」の活用がある。県土の約8割が森林といわれる長野では、薪ストーブの家も珍しくない。薪の入手のしやすさや保管場所などを考えても冬場の暖房として活用されることも多いのだろう。
先程ナカタさんは、薪ストーブは暖房のメインではないと言っていたが、では「薪」はどのような活用をされているのだろう? その秘密は家の一部につくられた「ボイラー室」にあった。ここに、「薪ボイラー」がある。詳細な説明は割愛するが、薪を燃やして得られた熱で湯を沸かし、その湯が家の中に張り巡らされたパイプを通り、家をじんわり暖め続けるのだという。湯の一部は、お風呂やキッチンの給湯としても利用できる。
さぞや、大量に薪を使うのだろうと思いきや、
「日中は、屋根にある太陽光の集熱パネルも働いてくれるので、薪は一度に20~30本入れておけば、3日くらいはもちます」とナカタさん。
1日に薪10本程度で、長野の寒い冬を快適に過ごせるのだ。
さらに夏は、お湯ではなくパイプに冷たい井戸水を流すことで、家の中を涼しくしてくれるのだというから驚きだ。
これを実現できたのも、この家が建物はおろか基礎までぐるっと断熱された、高気密・高断熱住宅だから。その性能は、メジャーな指標の1つ、UA値においては0.28と、省エネ住宅の代名詞であるZEH基準の0.6を大きく上回り、Heat20 G3相当。
日本人は古来より、家づくりにおいて、自然の力を上手に取り入れてきた。ナカタさんは、現代のテクノロジーで自然の力を上手に活用。省エネかつ快適な家を実現してみせた。
ナカタさんの家づくりで気づくことは、ナカタさんがこれまで取り組んできたことがSDGsや社会問題の解決にもつながっているということだ。薪の活用は、エネルギー問題解消にも役立つだろうし、「地産地消」にもつながるだろう。果ては日本の林業を守る、山を守るといったことにもつながるかもしれない。
そして、長く愛される家であることは、まさに持続可能な家ということ。
ナカタさんの家づくりは、新たな日本の家のカタチとなっていくことだろう。
基本データ
| 作品名 | 土間の家 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県中野市 |
| 敷地面積 | 1,114㎡ |
| 延床面積 | 133㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | H邸 |
撮影:堺健司
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

趣味も仕事も!「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
子どもたちも独立し、現在はふたり暮らしだというKさんご夫婦の住まいは、以前は奥さまの実家だった一軒家。建築家・秋山怜史さんはご夫婦の願いに真摯に向き合いながら、この家に詰まった大切な思い出は残しつつ、さまざまな工夫を凝らしてより住みやすい空間へとつくり替えた。

森を取り込む! お隣や森の木々へ別荘地ならではの配慮とは?
木々に囲まれ、最高にリフレッシュできる環境ではありながら、お隣がちょっと気になる別荘地。この場所でどう過ごしたら気持ちいいかを突きつめて考えていくと、新しい別荘のかたちが見えてきました。

円形シアターを思わせる、緑の庭と住空間。 経年で魅力を増す森林の別荘
伊藤寛さんが設計した『追分の山荘』は、ある経営者一家の軽井沢の別荘だ。魅力は何といっても、庭とLDKが円形シアターのように一体化する独創的で豊かな空間。理屈では語れない、伊藤さんのイマジネーションの奥行きをしみじみ感じる建築だ。

限られた予算の中、コストを抑えて叶えた 自然の素材に囲まれた暮らしができる家
以前設計した、自然の素材をふんだんに使った家のオープンハウスがきっかけで、新築一戸建ての依頼を受けた建築家の西本さん。お施主さまが考えられていた予算は潤沢ではなかったが、工夫を重ねてコストを削減。要望を叶えただけでなく、家族の絆も深まる家をつくり上げた。

お施主さま、職人、建築家は1つのチーム。 贅沢な環境で趣味を存分に楽しむ家
新築する自宅では、趣味を存分に楽しみたいと考えていたお施主さま。依頼を受けた建築家の武本さんは、敷地から見える富士山を生かしながら同時に暮らしやすさを考慮し、分棟を提案。武本さんによるお施主さまの好みに合った職人選びから生まれた相乗効果で、ディテールにも妥協しない最良の家ができた。

土間付き空間で周辺物件と差別化 収益×住み心地を両立させた洗練の集合住宅
東京都内を中心に、人気の集合住宅を多数設計している松浦荘太さん。築年数を経ても入居者に選ばれ、安定収益を期待できる賃貸物件はどんな魅力を備えているのだろうか? 東京・目黒で手がけた住宅を例に見ていこう。

《集合住宅》新しい神楽坂を象徴の佇まいと個性ある室内デザイン
「賃貸だからしかたない」とデザインも住み心地もあきらめていないでしょうか。そこに生活する人のことを考えて、ひと手間かければ、賃貸マンションにも個性が生まれます。神楽坂という場所に、建築家の小林さんはどんなマンションを考えたのでしょうか。

3つのテントを備えた、行き止まりない空間 キャンプを楽しむように住まう家
関東から岡山県へ移住、家を新築することにしたお施主さま。建築家の尾山さんはキャンプを通じてこの土地を気に入ったというお施主さまのために、まるで大きな樹の下にテントを張った風景のような空間を家の中につくり出した。雑多なものがしっくりと収まり、暮らしを楽しめる家はどのように叶えられたのだろうか。

光、風、音を感じながら、自然と共に暮らす森の中の別荘
暑い夏、涼しい場所で過ごしたいとの思いで別荘づくりを決断。 自然に囲まれ、光や風、音を感じながらの生活に魅了され、ついには移住を決断するまでに。 そんな別荘を設計したのは、TAWs DESIGN代表の田辺誠史さん。 田辺さんの自然を上手く取り込んだ家づくりに迫る。
