もったいないなんて言わせない。豊かさだ
アウトドアルームが心おどる場に
3社コンペで採用を勝ち取った秘策は
施主のことを考えた、あえてのセオリー破り
このイメージと裏腹に、この家を訪れた誰もが、この建物の反対側に伸びやかで開放的な空間が広がり、それを存分に享受した生活があることに驚くに違いない。内と外、閉鎖と開放という対照的な要素を1つの建物で実現した設計の妙がここにある。
この建物を設計したのは、「日常」に「心おどる空間」を。というテーマを掲げ活動する建築家Sデザインファームの鹿内さん。
鹿内さんがK邸を手掛けるきっかけは、家を建てたい施主と建築家を結びつけるマッチングサービスから、候補者の1人として「コンペへ参加しないか?」と打診があったことだという。
当初は大手ハウスメーカーも検討していたというKさんだったが、想像以上にコストが高く、「それならば建築家へ依頼するのはどうだろう?」ということで、このマッチングサービスを利用したのだという。
敷地は200㎡近くもある長方形の土地。前後で1mほどの高低差はあるものの、住宅地としては文句のつけようのないものだった。
Kさんの要望の1つ目は、この家にはKさんご家族4人の住戸だけでなく、近所に住むKさんのお父さんの事務所スペースを必要とすること。そしてその部分は、バリアフリーに対応し、将来的に貸し出すこともできるよう玄関を分ける設計であること。
2つめは、自分達の将来の海外赴任の可能性も踏まえ、貸し出すしやすい魅力ある物件であること。そして何より、家族や友人などが集まり居心地よく過ごせる、子供たちが良く遊び良く学べる快適な家であることだった。
Kさんの要望を聞き、敷地を見た鹿内さんは1つのことを考えた。それは閉鎖と開放。外からは閉じたように見えて、中には開放的な空間が広がるような構成だ。
この外に閉じ・中に開くというコンセプトを体現するのに用いる方法として、良く用いられるのが中庭を設けるという方法。敷地をぐるりと囲むように建物を配置し、中央に中庭を設けることで、明るさも開放感も得られる。
しかし鹿内さんは、あえて中庭というプランを捨てた。その理由について鹿内さんは「敷地を見たときに、隣家との庭が連続していたんです。桜や松などがあって、この良さを無くしてしまうのはもったいないなと思ったのです」と語る。
こうして鹿内さんは、セオリー破りともいえるプランでプレゼンに望み、見事に採用を勝ち取った。
同じ景色を見る程よい距離感と
開放感と自然を感じられるアウトドアルーム
前後で1mほどあった高低差のある土地の一部を掘り下げ、1階はRC造、2階・3階は木造という混構造にする。1階には、お父さんの事務所スペースと、Kさんの書斎。2階3階が、Kさん家族のスペース。もともと1mほど高かった南側には、人工芝を張った庭とした。
庭がちょうど1.5階にあたる高さにあるため、お父さんの仕事場からも、庭の樹々の様子や遊びまわるお孫さんの様子も感じられるし、Kさんご家族のリビングからも庭の様子が見える。家族が同じ景色を共有する形での緩やかな繋がりだ。
「孫と早くキャッチボールがしたくて、もうグローブも用意しているんです」と語られていたお父さんのその言葉を、鹿内さんは心にしっかりと刻んでいたのだ。この庭でならその夢が実現できると想像したに違いない。
この庭が1つの目玉だとしたら、もう1つの大きな目玉が、南に面した部分に広く設けたアウトドアルーム。屋根や上部にガラスはあり、室内のように見えるけれど屋外という空間だ。
部屋にしないなんてもったいない!と思うかもしれないが、屋外だからこそ得られる豊かさがあるのだ。
このアウトドアルームを提案したきっかけについて鹿内さんは「コロナ禍のときに、私も家族も室内にいる生活が続いていました。そのときにベランダにテーブルを置いて食事をしたら、とても楽しかったことを思い出したのです」と語る。
閉じこもる生活が続くと、どこか外が感じられる、自然が感じられる生活を求めるというのは、コロナ禍でキャンプブームが起こったように、人間の常なのかもしれない。
鹿内さんが取り組む、高気密・高断熱の家は、部屋の中はずっと快適な状態に保たれる。そうすると締め切った空間に閉じこもる時間も増える。そして外を感じたくなるのではないか?というロジックだ。
アウトドアルームは、外ではあるが屋根や窓でよほどのものでない限り雨風はしのげるし、日差しも適度に防いでくれる、中でもあり外でもある中間領域だ。
「一見するとムダやもったいないと思えるこの空間を、Kさん家族だったら『自由さ』『豊かさ』『ゆとり』といった前向きな捉え方をしていただき、使いこなしていただけるだろうと思って提案しました」と鹿内さん。
この鹿内さんのKさんご家族を思った提案が刺さった。
あえて部屋にしないからこそ豊か
小さな子供から猫までが心おどる
天井に松材を用いた趣のあるアプローチを進んだ先にあるのが、お父さんの事務所スペース。段差のないバリアフリーで、室内にはトイレやミニキッチン、倉庫も完備。Kさんご家族のスペースと、室内からも行き来できる扉があるが、これは防音仕様。将来的にこの部分だけを貸し出すことも可能なつくりとなっている。
壁の一部にウォールナットを用い、落ち着きのある空間に仕上げた。L字型の机は移動可能で、部屋の中央にもってきて使うことも可能。
窓の先には庭の様子が見えるとともに、階段を半階分のぼるだけですぐに行くことができる。きっとお孫さんたちも、庭からこの事務所に遊びに来てくれることだろう。
1階のもう1つの玄関を入った先は、Kさんご家族のゾーン。広々した玄関は、ベビーカーも置ける広さ。隣には大容量のSIC。さらにその中に郵便ポストの取り出し口も設けた。
「高気密・高断熱の家なので、郵便ポストの隙間も効率を下げてしまいます。そこで郵便ポストに内窓をつけ、SICの中に収めました」と鹿内さん。
また1階には、Kさんの書斎も設けた。リモートワークなど集中できる環境だ。
階段を上った先にあるのが広々したLDK。チーク材の床に、塗装の壁、天井には木毛セメント版、メタリックの階段といった、自然素材と金属という違うマテリアルを上手く組み合わせ無機質感を演出している。鹿内さんが提案し採用されたカッシーナのソファーが差し色となって美しい。
キッチンはアイランド型。タッチレス水栓やステンレスの天板、壁には大きな収納をつくり、冷蔵庫はパントリーの中に収めるなど、生活感を出さずに利便性も満たしたつくりだ。
リビングの先、一段高くなった場所にあるのが、中でもない・外でもない、自然を感じられるアウトドアルームだ。
「リビングの延長というより、別なゾーンという意識をもたせるために、あえて高くして、床の色も変えてあります」と鹿内さん。
高気密・高断熱なこの家は、基本的には年中快適な温度だ。そこにずっといると、そのありがたみすら感じなくなり、いつしかいつもと違った空気感の場所を求めたくなる。このアウトドアルームは、雨や強い日差しを遮りながらも、暑さ・寒さを感じられる場所。人としての根源的な感覚を味わわせてくれる場かもしれない。
実際、保育園児のお子さんが「外で食べると気持ちがいい」と言って毎朝、朝食はアウトドアルームで食べるのだとか。また、奥様のお父さんも「ここでビールを飲むのが最高!」と良く訪れるようになったという。さらに、いろいろな人が集まったり、近所の猫がアウトドアルームに入ってきたりということもあったそう。老若男女、そして人に限らず動物までもが、居心地の良い場所だと感じているのだろう。
「なぜ部屋にしないのか?」と問いたくなるこのアウトドアルームを1度でも体験した人は、この部屋がもたらす豊かさに「心おどる」のだ。そんな場を提案できる鹿内さんの力には驚かされる。
この家での暮らしにKさんから「鹿内さんのおかげでこんなに素敵な家になった。ありがたい」と感謝されたという。それは、建築家冥利に尽きる言葉だったに違いない。
近年、ネット等による情報の多さからか「こんなテイストにしたい」「便利なこれを採用したい」といった、いくつもの要望を満たす家づくりが多くなってきている。それはそれでいいのかもしれないが、本質的に考えねばならないのは、新しい家で「どんな暮らしがしたいのか?」という点なのではないだろうか?
それをなかなかうまく伝えることはできないかもしれないが、鹿内さんは施主の要望をしっかりと受け止め、想像を上回る提案をしてくれる建築家だ。
建築家に家づくりを頼むなんて敷居が高い、予算的に厳しいだろうと尻込みせずに、鹿内さんにアプローチしてみるのが、理想の家づくりの第一歩なのかもしれない。
撮影:小島 康敬
間取り図
基本データ
| 作品名 | アウトドアルームのある家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
| 敷地面積 | 196.69㎡ |
| 延床面積 | 194.69㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 9000万円台 |
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設計者情報
この建築家が建てた家
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