建築家の自邸は、単なる生活の場ではない。建築家自身の力量や設計哲学を体現するモデルルームでもある。戸建て住宅の設計やリノベーションを手掛ける建築家、松田文男さんが自邸を構えたのは、住宅が密集する旗竿地でありながら、多摩川の河川敷に広がるパノラマが一望できる土地だった。制約の多い土地でどのようにして抜群の眺望と家族それぞれの居心地良い空間両立させたのか。模型やシミュレーションを駆使した松田さんの設計手法に迫る。
この建築家に多摩川の土手沿いに建つ松田邸。6連7mの横長窓が、抜群の眺望を実現した。
旗竿地の特徴を生かした長いアプローチには、アオダモなどの植物が訪れた人を出迎えてくれるかのよう。トマトなども植えられ、お子さんたちと収穫を楽しんでいるという。
夜になると隣家に囲まれたアプローチの先に、建物の灯りが漏れ、幻想的な雰囲気に。
扉を開けた先に広がる約9畳の土間空間。レンタルスペースとして会議やアトリエとして貸し出せるよう独立の洗面・トイレをもつ。左端の扉が、松田邸の真の玄関扉だ。
通常時は松田さんの仕事場として、クライアントとの打ち合わせなどにも使うほか、自転車のメンテナンスや子供の遊び場としても活用。春になると窓先に見える桜がキレイだという。
大きなワンルームへと向かう階段。視線の先に広がる窓が、来訪者を誘う。
階段を上ると思わず「おおーっ」と声が漏れる人が多いという多摩川の大パノラマ。こんなにも開放的なのに、車が通りすぎていくのがほとんどでプライバシーはあまり気にならないとのこと。
階段を上った先にあるのは家族がゆるやかにつながる大空間。DK、リビング、ライブラリー、スタディコーナーそれぞれ床や天井の高さが違うため、開放感も籠もる感じもあるいくつもの居場所ができた。
夜になると室内は落ち着きの空間に。窓側のランプは松田さんが手作りで仕上げたという。DKとリビングの段差は、椅子の高さを計算した絶妙な高低差であるとともに、床下エアコンの風の通り道にもなっている。
キッチンもあえて壁付けで見せる収納に。ステンレスの天板はオーダーしたオリジナル仕様。段差があるため、同じ空間でありながらもゾーン分けがなされている。
7mの横長窓に加え、角にも窓を設けることで更なる抜け感を演出。シミュレーションでみつかった南からの光を採り込める絶妙な角度にはルーフバルコニーを。窓を設けることで室内に南からの光を導いた。
横長窓にはロングレンジのカウンターを。キッチン側はハイチェア、リビング側は座椅子にちょうど良い高さ。抜群の景色を見ながら、勉強や仕事などができる。
撮影:石井雅義