
「開いて閉じる」で光とプライバシーを解決
夫婦の願いを叶えた高性能で明るい平屋の暮らし
温度と光に不満がある自邸の建替えは
デザインも性能も妥協しない建築家へ依頼
50代のMさん夫妻は子供たちが独立し夫婦二人の生活となった今、築40年が経過していた自邸の建て替えを決意。老後も見据えた住まいづくりに取り組みたいと考えていた。
建て替え前の家への大きな不満は、「温度」と「光」の2つだったという。
中古で購入したこの家は断熱性能が低く、冬は底冷えに悩まされていた。さらに、南側には庭に面した大きな窓があるものの、隣家2階からの視線が気になる位置にあるため、プライバシーを守ろうと常にカーテンを閉め、暗い住空間となっていた。
しかし、建て替えを検討するなかで直面した問題が「性能と意匠の両立」の難しさ。高い耐震性や断熱性など、高機能住宅を手掛けるハウスメーカーの家は、どこも画一的で閉鎖的なつくりになりがち。一方、建築家に依頼をすればデザイン性の高い住宅はできるだろうが、性能面での不安が残るという。
そうした中で見つかったのが、隣町の東大阪に設計事務所を構える中土居宏紀さんだった。
中土居さんは50年以上にわたり職人技術で住宅をつくり続けてきた大工工務店の家系に生まれ、身近に大工さんの仕事を見て育ち、建築の道に進んだ。大学院卒業後、日本の建築界を代表する安藤忠雄氏のもとで、住宅から大学校舎まで多岐に渡るプロジェクトに携わり、経験を積んできた。
「安藤事務所時代は、7年にわたりコンクリートや鉄骨造など中大規模の様々な建築に関わらせて頂きました。今度は小さい規模でも自分なりの木造建築を追求していきたいと決心し、実家の工務店がある東大阪に設計事務所を構えました。」と中土居さんは語る。
中土居さんは大工工務店が得意とする木造住宅を主軸に据えながら、安藤氏のもとで鍛えられたデザイン性を兼ね備えた建築家だ。
実際に現地を視察した中土居さんが目にしたのは、290㎡という夫婦2人の住まいには十分すぎる広さをもつ敷地。裏手は大きな公園に隣接し、広い日本風の庭もある恵まれた環境。
「既存の庭はあまり手入れされていないようで、この好環境を活かしきれていないのが、もったいないと感じました。『開く』・『閉じる』を上手にコントロールし、既存の庭と公園を味方に出来れば、きっと素敵な家ができるだろうと感じました」と中土居さんは語る。
こうして理想の住まいを求めるMさん夫妻と、性能と意匠の両立を追求する中土居さんの家づくりプロジェクトがスタートした。
光や風、景色を取り込む開口で快適に
費用を的確に掴み「絵に描いた餅」にしない
次に、元の家での不満点でも挙がっていた光の問題。プライバシーを保ちつつ、明るい環境で過ごしたいという切実な思いがあった。
そして3つ目は老後も見据えたバリアフリー対応の平屋であること。
加えて、子供たちが帰省したときに泊まれるゲストルーム、雨に濡れずに自転車のメンテナンスができる作業スペース、奥様のガーデニングスペース、といった暮らしを豊かにする具体的なリクエストも寄せられた。
これらの要望を踏まえ、中土居さんは、まずは敷地の使い方から検討を始めた。
既存の建物は東側の道路に近い配置だったが、新しい建物は道路からセットバックした配置に。さらに玄関の位置を建物の奥に設けアプローチを長くとった。こうすることで、街の喧騒から守られるような落ち着いた配置を実現。同時に段差のない緩やかな動線によりバリアフリーにも対応した。セットバックによって生まれたスペースには、奥様のリクエストにもあったガーデニングスペースを広く確保。街行く人々に、奥様が育てる花々の美しい景色をおすそ分けする意味も込めた。
最も工夫を凝らしたのが、南の庭と西の公園に面する南西の出隅の部分。隣家の2階の窓や公園からの視線は遮りながらも、庭の樹々や公園の空に向かっては積極的に開く。そのために庭側には下半分、公園側には上半分の大開口を設け、垂れ壁と腰壁で視線をコントロール。「開いて閉じる」の絶妙なバランスを実現するというアイデア。
この壁に囲われた空間は、屋内でもあり屋外でもある中間領域のエントランスポーチ。玄関ポーチとしての利用はもちろん、リビングの延長としても、インナーテラスとしても、さらには作業スペースとしても使える多目的な場として提案された。
性能面については、高気密・高断熱、さらに高耐震という三拍子揃った仕様を目指した。夏冬1台のエアコンで家全体を快適に保てるほどの性能だ。太陽光発電に蓄電池を備えたZEHネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様とすることで補助金の活用も視野に入れた。
「高性能住宅は開口部が小さく、開閉も少ない、密閉されたつくりになりがちです。そこで、この住宅では壁引込みの木製建具を採用し、全面を開放できるようにしました。 こうして、室内と屋外がつながる一体感のある住空間が生まれています。この住宅に限らず、外部環境と呼応した住まいづくりを大切にしています。」と中土居さん。
中土居さんがもう1つ大切にしていることに「絵に描いた餅」にしないという信念がある。
住宅価格が高騰し続ける昨今、高性能な注文住宅となると手に届かない価格帯になりつつある。気に入ったプランでいざ見積をとってみると、予算を大幅に超えてしまい、中断やプラン変更がしばしば発生する。そうした現実を熟知する中土居さんは、プランを検討する前に、合理的な構造や施工性を最初に検討。施主の要望の核心部分は決して外さないという前提で、可能な限り予算に納まる提案を心掛けている。施工と近い関係にある中土居さんだからこそ、的確に費用感を掴むことができるのだ。
「夢と現実が乖離しないよう、最初の段階からコストも含めて総合的に判断しています。その制約の中で、いかに施主の想像を超えるプランがご提示できるかが腕の見せ所だと感じています。」と中土居さん。
こうして練り上げられたM邸の模型を見たMさん夫妻は「素敵!」と反応。大きな変更なく、ほぼそのままの形で採用に至ったという。機能性と美しさ、そして現実感をもった提案が、施主の心を掴んだのだ。
光とプライバシーを両立させたポーチと
パッシブデザインが叶えた夫婦の理想の家
住宅街を進んでいくと、白いジョリパットの壁にガルバリウム鋼板屋根をもつ平屋が見えてくる。道路側には、奥様が育てる草花が並ぶガーデンがあり、左側には元の庭の樹々を活かした日本風の庭園がある。四季折々に人々の目を楽しませてくれる美しい景観だ。
実際、奥様が庭に出ていると、目の前を通る人が「この家素敵ね」「花がキレイね」という声が聞こえてきたという。この家が近隣住民にも憩いを与えているのだ。
庭の樹々に迎えられながら長いアプローチを進んでいくと1800㎜角の大きな檜板張りの扉が見えてくる。この扉はリビングの窓を守る雨戸であり、エントランスポーチの扉でもある。吊り戸とすることでバリアフリーにも対応した。
その先にあるのが、この家の大きな特徴の1つのエントランスポーチ。日中は先ほどの扉が開かれ、オープンなスペースとなるこのポーチは、西側上部に大きな開口があり24時間外と繋がっている。まさに内と外の中間領域だ。
南に開かれたポーチは、室内に光を導くとともに室内から庭の景色を見られる装置でもある。垂れ壁で南にある隣家の2階からの視線を遮っているため、プライバシーの心配もない。公園に面した西側は、腰壁でプライバシーを守りつつ、上部の大きな開口で光と抜け感をもたらしている。
これだけ大きな開口を設けると、夏の日射熱が不安になるが、事前に日射や熱のシミュレーションを綿密に行い、絶妙なバランスで配置と大きさを決定している。夏の高い日差しはポーチの庇と公園の落葉樹でなるべく遮り、冬の低い日の光は室内に届くという計算し尽された設計だ。
このエントランスポーチは、ご主人が自転車を雨に濡れずにメンテナンスする場として活用されているほか、憩いの場としても機能している。季節の良い時期には、ここにテーブルを置き、お茶を楽しむこともあるという。
「縁側的な使い方ですね。私も想定外の使い方でしたが、活用いただいて嬉しく思います」と中土居さんは語る。
ポーチを進み、扉を開けた先に広がるのが、天井の高いシンプルな玄関。大人2人の住まいということで、靴棚もオープンな造りとした。
邸内に入ると広がるのが、明るく温もりが感じられるリビングだ。珪藻土の白壁、カバザクラの無垢フローリング、ベイマツの構造材と針葉樹の構造合板が現しになった天井。木に包まれるような優しい空間だ。お2人が切に望んでいた空間がここに生まれた。
キッチンは、奥様のリクエストに応えたアイランド型。洗い物をしながら、庭の景色も楽しめる位置にある。このキッチンは、家のテイストとマッチさせつつ充実した機能と耐久性を両立するため、システムキッチンに造作を加えたハイブリッド型。こうすることで、アイランド部分がダイニングテーブルを兼ねたり、棚の一部にエアコンを仕込み目隠しをしたりといった工夫が随所にみられる。
リビングに隣接するのが多目的室。壁付けで本棚とベンチを設け、ちょっとしたお籠りスペースとなる。普段は扉を開けリビング一体化して広々と使うが、お子さん達が帰省したときなどは、この多目的室が寝室となる。この家になってから、お子さんもよく帰省するようになったという嬉しい変化も。
リビングから多目的室、そして洗面やお風呂場といった水回り、さらには夫婦それぞれの寝室が、いくつもの回遊動線で結ばれている。どこにでも最短ルートで行き来ができる合理的な構造だ。
中土居さんの見事な設計によって、これだけ明るく開放感のある建物ながら、高耐震・高気密・高断熱を実現。自然通風を活かした生活を主とし、エアコンは真夏と真冬の短い期間のみの稼働で済んでいるという。また、太陽光パネルと蓄電池の併用により、災害時も安心で、売電によって年間の光熱費収支がほぼ±0というおまけまでついた。
この家の出来栄えに、Mさんご夫妻も心から満足しているようだ。
「帰宅時に家が見えたとき、アプローチを歩くときに、我が家ながらうっとりする」「窓からの景色も素敵で、眺めながらお茶を飲んでいると時間を忘れる」とコメントを寄せてくれた。
古い家の課題だった温度と光を、中土居さんは「開く」と「閉じる」を巧みに操ることで解決してみせた。性能と意匠の両立を安易に妥協せず、中土居さんを見つけだしたMさん夫妻の慧眼と、それに応えた中土居さんの設計力。両者の出会いが生み出した家づくりの成功例といえるだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 光互の住居 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府 八尾市 |
| 敷地面積 | 290㎡ |
| 延床面積 | 91㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | M様 |
耐震性能 等級3
設計者情報
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