
施主の真の望みに寄り添い生み出した
大阪の密集地に光あふれる豊かな空間
移住先の大阪でも自然に開かれた住まいを
自作の図面は家づくりへの強い思いの現れ
子育て世代のSさんご一家は、金沢から奥様の実家近くへの移住を決断。土地探しと平行して、理想の住まいを実現してくれる会社を探していた。
Sさんには「デザイン性と構造の確かさの両立」という明確なビジョンがあった。候補の1社として見つけ出したのが、関西を中心に活動する建築家、中土居宏紀さんだった。中土居さんは、日本を代表する建築家、安藤忠雄氏のもとで研鑽を積んだ経歴と、実家が熟練職人の丁寧な仕事に定評ある工務店であるという、デザインと施工を両立した稀有な建築家だ。
雄大な北陸の自然に囲まれて育ったというSさん。当初は庭のある平屋を希望されていた。しかし大阪でその理想を叶えるには、かなり郊外でないと難しい。生活の利便性や子育て環境を考えた結果、2階建に切り替えたという。候補となる3か所を中土居さんに見てもらい、最終的に選ばれたのが、大阪狭山市の土地だったという。
「1つの土地は整形地だったものの価格が高く、もう1つは狭小というネックがありました。残る大阪狭山市の土地は、両隣を住宅に囲まれているものの、突き当りは狭山池の調整池があり、視界の抜けがあった。北陸育ちのSさんが望む、外部環境に開かれた家を実現できるのは、この土地しかないと感じました」と中土居さんは振り返る。
プラン作成に向けたヒアリングは、独自の2つのアプローチで行われた。1つはシートを用いて「リビングの位置」「部屋数」「キッチンのイメージ」といった約20の質問で、住宅の具体的な仕様を明確にするもの。2つ目は、「大切にしたいこと」「妥協したくない点」「現在の家の不満」など、どういった暮らしがしたいかを深く掘り下げるもの。工務店的な実務視点と、建築家的な暮らしの視点。この両輪で施主の本質的な要望を引き出していくのだ。
Sさんの要望は「コンパクトでも自然環境に開かれた住まい」「床座で家族団らんできる茶の間のようなLDK」「グレーを基調としたモダンな自然素材の家」というもの。
「実はSさん、ご自身で土地の使い方を図面化したものや、イメージ写真を集めたオリジナル資料を持参されたんです。家づくりにかける想いの強さが、ひしひしと伝わってきました」と中土居さんは語る。
4つのプラン比較で思考の整理と納得感を
想像を超える仕事ぶりが信頼へ
「そこで、南に開くというセオリーを一度捨て、あえて西側の調整池に大きく開きより光を享受できる構造を模索しました」と中土居さんは語る。
施主が描いてきたプランを実現可能な図面にすることは、さほど難しいことではない。おそらくこれが工務店やハウスメーカーなら、そのまま南に開くプランで進めたことだろう。しかし中土居さんはそうはしなかった。それは「施主の真の想いを叶えるプランと構造が別にあるならば、それを示すのが責務」という建築家としての矜持がそこにあった。
構造の枠組みを固めた中土居さんが次に取り組んだのは、内部空間のゾーニング。Sさんの要望を満たしながら、要素の配置の違う4つのパターンを提案した。各プランには、LDKの階数や位置の違いが明示され、それぞれ、内部空間の広がり、眺望、動線などについて、メリットやデメリットが記載されている。
こうすることで、施主は思考を整理できるとともに、自ら選択することで深い納得感も得られる。「建築家がつくった家」ではなく「一緒につくった家」という当事者意識こそ、満足度の高い家づくりにつながる。
さらに初期プランにはおおよそ実現可能な金額が明記されている。これは、施工する工務店と強いつながりがある中土居さんだからこそ為せる透明性の高さ。
初回の提案資料を見たSさんは「こんなに窓が大きいんですね」と驚きの声を上げたという。そして「具体的な構造やコスト・イメージパースなどの資料に感心していた様子だったという。きっとそれは、Sさんの想像を超える仕事ぶりだったに違いない。そして「この人に家づくりを任せたい」という信頼につながった。そしてほどなくして正式に受注に至ったという。
1つの空間にいくつもの居場所を創出
隣人も驚く広さと豊かな空間
通りを進んでいくと前方に片流れ屋根、奥に切妻屋根をもつL字型の建物が姿を現す。グレーのモルタルで仕上げられた静謐な佇まい。大きな庇の下の壁面には、耐候性塗装を施したグレーの杉板がアクセントを添えている。
玄関扉は既成品を使わず、壁と同じ杉板で造作することで外壁と一体化させた。
玄関は上り框を斜めにすることで広がりを生み出し、ベンチを設けた。靴の脱ぎ履きや荷物置きに重宝する。上部にはハンガーポールを設けコートなどが掛けられるようにした。
1階には水回りと2つの個室を集約。洗面は廊下と兼用とし、ゆとりを確保。グレーの杉板張の主寝室は、落ち着きある雰囲気。大きな窓の先には坪庭があり、内と外がつながるかのよう。外からの視線は、垂れ壁と玄関前にある壁がしっかりと遮ってくれる。
階段を上り2階に進むと約40㎡の大空間が広がる。LDKに学習コーナー、その奥には書斎があり、さらにロフトまである。ひとつながりの空間でありながら、天井高や仕上げが異なるいくつもの居場所が点在し、家族の気配を感じつつも、それぞれが自由に過ごすことができる。
「床座で過ごしたい」というSさんの要望に応え、キッチンとLD(茶の間)部分には段差を設けた。キッチンに立つ人と茶の間に座る人の視線がちょうど合うような絶妙な高さ。床材や造作家具は杉板を用い、漆喰と調和させた柔らかな内装は、Sさん家族の雰囲気を現しているかのようだ。
茶の間の先には、広々としたインナーテラスが続く。現しの屋根と室内から伸びるカウンターによって、その先の広い空へと視線が抜けていく。磨き漆喰仕上げの壁に陽光や外の景色が映り込み、季節や時間によって表情を変える。その移ろいもまた、この家の楽しみの1つとなっている。
こうして、北陸の自然を感じられ大らかな住環境で育ったSさんが憧れた住まいが、住宅密集地の大阪で見事に実現した。
Sさんもこの家の出来栄えに「愛着をもって日々暮らしている」と大満足の様子。家族や友人からも「良い家だ」「木の匂いがする」と好評だという。
また、オープンハウス時に訪れた隣家の住人が「同じくらいの敷地面積なのに、どうしてこんなに広いく感じるんだろう?」と驚いていたというエピソードも印象的だ。
そのことこそが、中土居さんの真骨頂といえるだろう。安藤忠雄氏の元で培った光の操り方、構造を読み解く力量が遺憾なく発揮されている。
今後も、施主の意見や要望を手掛かりに、想像を超えるアイデアで豊かな空間を生み出し、施主の真の願いを叶えることが出来れば嬉しく思います。と中土居さんは語る。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 狭山新池の住居 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大阪狭山市 |
| 敷地面積 | 105㎡ |
| 延床面積 | 85㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | S様 |
断熱 断熱等級5
設計者情報
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